「ヤバい……。
想像してたのよりも、凄くそそられる。リアムのそんな綺麗過ぎて、しかも艶っぽい表情……。
そういうのは、俺だけにしか見せないで欲しい、な……」
シャーロックの熱を帯びた声が、そして二人の舌で湿った唇にかかる甘い苦い息が思考と理性をさらに溶かしていくようだった。
「そう……ですか?自分では分からないので……。
ただ……シャーロックさんも、とても魅惑的です……」
広い背中に腕を絡めながら心に浮かんだことをそのまま言葉にした。
普段のウイリィアムならば、発言一つ一つを頭の中で吟味していたが、今はそんな余裕もなかった、熱に浮かされたように。
「良かったら、いや絶対にシャーリーと呼んで欲しい。
今となってはクソ忌々しい兄貴が呼ぶだけだが……、昔は母が愛情と慈しみを込めてそう呼んでくれていたので……。
この船室に居る間だけでも良いから」
了解の意味を込めて、シャーロックの唇に唇を重ねた。
「ベッドに……行きましょう」
震えそうになる唇を必死で耐えて言葉を紡いだ。
一応、そういう類いの本は読んで来たものの、未知の体験への恐怖心はどうしても募ってしまう。
「お!それは物凄く嬉しいお誘いだな。
……だが、初めてだろう?」
シャーロックが眉間を寄せながらも甘い笑みを浮かべている。
「初めて……だと、どうして分かりましたか?なんてシャーリーに聞くのは野暮ですよね。
大丈夫だと……思います」
ウイリィアムは自分でも何を言っているのか分からなかった上に、最後の方はどうしても声が小さく、そして震えてしまっていた。
「シャーリー」と聞いた途端にシャーロックの表情が朝日を浴びたように輝いた。とても嬉しそうに。
お兄さんとは上手く行っていないと――というか、一方的にシャーリーが嫌っている――アルバートお兄様から聞いた覚えが有ったが、きっとお母さんの記憶の方が勝ったのだろうと思う。
シャーロックの手がウィリアムの腕に回される、まるでレディをエスコートする貴公子のように。
その丁重さとか優雅な動きはどんな貴公子よりも魅惑に富んでいるようにウィリアムには思えて来て、頬が上気してしまう。
「僕は貴婦人でもない……。生まれもそもそも……労働階級よりも下っ……」
そう言葉を紡ぐ唇がシャーロックの唇で塞がれた。
「リアムには、自分を卑下する言葉は似合わない……。
それに俺が知る限りでは最も貴族らしい立ち居振る舞いと、そしてどの貴公子よりも貴公子らしい容貌の持ち主だ。
ま、考えていることは抜きにして、な」
真顔で囁いた後に、意味有り気なウインクをするシャーロックの男性的で多彩な魅力に富んだ顔をマジマジと眺めてしまった。
「シャーリーにそう言って頂けるのは、単純に嬉しいです。
しかし、僕はレディではないので、一人で歩けます」
持ち前の勝気さが、つい出てしまったウィリアムに、苦笑を浮かべたシャーロックは腕ではなくて指を絡めた。
「これならレディ扱いじゃないだろ?」
指の付け根までしっかりと繋いだ手の強さと熱さに眩暈がしそうになる。そしてシャーリーのさり気ない優しさにも。
「ところで、寝室はどっちだ?そこまでは調べてないっ!!」
先ほどまで余裕綽々といった感じを浮かべていたのに、急に焦ったシャーロックが何だか可愛く思えて来た。
普段のペースを取り戻したウィリアムは、絡めた指の力を強くしながら笑みを浮かべた。
「一等客室の間取りは大体似通っていますから、多分こちらでしょう」
その部屋で何をするかを考えると紅く染まった頬が更に彩りを加えてしまいそうで、敢えて考えないようにした。
「あ、そっかあ。リアムは例の『劇』で調べたんだろ?
だが、とても助かる……」
絡めた指を微細に動かしては強く握られる。そして立ち止まっては口づけを交わしながら広くて豪華な空間を歩んだ。
「このドアが……多分、寝室です……」
咽喉の渇きを自覚しつつウィリアムは告げた。
「そっか……有難う。リアムの知識が俺の役に立った、な」
ウインクをしながらシャーロックは愛おしそうにウィリアムの顔を見詰めていた。
男らしく節張った大きな手が重厚な樫の木で出来たドアを開ける。
案の定、そこにはベッドが鎮座していた。
「リアム……愛している……」
大きいベッドのシーツに身体を縫いつけられた感じで横たわったウィリアムに口づけの雨を降らせながらシャーロックが熱くて真率な言葉を吐息と共に囁いていた。
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