腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します 申し訳ありませんが書く時間を最優先にしたいのでリコメは基本的に致しません。 要望・お礼などは「日記」記事でお応えしますが、タイムラグがあることも多いです。

気分は~学会準備編の少し前

気分は下剋上 香川教授の陰謀 1

このお話は時系列的には折鶴勝負からサイン会前後の本筋から少し外れたエピソードになります


「では、定時になりましたのでお先に失礼致します」
 余計なことは何も言わない点も気に入っている秘書が控え目な感じで声を掛けてきた。
「お疲れ様です。また明日宜しくお願い致します」
 一礼した後に備え付けの固定電話が鳴った。反射的に出ようとする秘書を目で制してから電話に出ると意外な声が受話器越しに聞こえて来た。
「研修医の清水です。折鶴勝負の時の特訓有難う御座いました。御礼を兼ねて教授執務室に伺いたいのですが、具体的なお時間を教えて頂ければ幸いです」
 誠実そうな響きながらも一歩も引かない感じを受けるのは、きっと彼が覚悟を決めた上で――しかも彼の場合はお父様が斉藤病院長の「親友」であり、京都一の私立病院の御曹司という出自に相応しくイザと言う時の度胸の据わり方が折鶴勝負の時にほの見えた――電話をしてきたに違いない。
「ご存知かと思いますが、私の場合定時上がりです。先生の都合で決めた方が合理的ですよ」
 電話の向こうで絶句している感じだった。自分の科の研修医でもある久米先生は折鶴勝負の時に場の雰囲気にのまれたというのに――それでも、久米先生は祐樹が密かにライバル視する程度の素質は充分持っている――それでも旧態依然のヒエラルキーは未だに根強く生きているのを体感した。
「では……急で申し訳ないのですが、ご厚意に甘えまして今からでも宜しいですか」
 どうせというか、今日も祐樹の帰りは遅い。書店でのサイン会の日程こそ決まったが、まだまだ本の出版による非常事態は継続中で、そのしわ寄せが普段から多忙な祐樹にどっと押しかけているという感じだった。
 「はい」と答えて電話を切った後に、祐樹には未だ内緒にしている将来の病院長選挙について――清水研修医のお父様は斉藤病院長の同級生かつ支援者だった――何かしら話が聴けるかもしれないなと思いついた。
 それに、研修医の立場で呼び出しを食らったわけではなくこの執務室にやって来るのは祐樹以外に居なかったなと懐かしく思い出す。
 ただ、祐樹の時は教授職に就いた自分が祐樹に会うために帰国したようなものだったので、自分からもかなり――今思えば失笑モノの幼稚さで――色々と考えていたので、まだ敷居が少しくらいは低かったと思ってしまうが。
 育ちの良さかそれとも生来の素質なのかは分からないものの、清水研修医は久米先生どころか祐樹に匹敵する程度の度胸の持ち主のようだった。
 精神科の真殿教授が運悪く通りかからなければ良いなと彼自身のために願いながら、将来に必ず来る病院長選挙の根回しの一環を考え続けていたところだった。
 そして、これ以上祐樹の負担になってはいけないので――些細な隠し事なら今なら何とか露見せずに済んでいたものの、百貨店に毛糸を買いに行くなどと異なって――病院内で動くのは祐樹の広い人脈のどこかに必ず引っ掛かりそうで細心の注意を払わないとならないのは言うまでもない。
 自分に今出来ることはしておこうと思った。
 今なら祐樹も出版に伴うサイン会とか「披露宴」とかテレビ出演などの、本来の職務ではないことに気を取られていて病院内政治のことまで手が回っていないのも知っている。久米先生の特訓という――自分にとってはそう重要ではないものの――自分の科に愛着を持ってくれるがゆえのことだろうが、勝ち負けにはかなり拘る祐樹にしては珍しい――外科にしか通用しない「重要事項」の丸投げという事態を引き起こしていた。
 患者さんの迷惑にならなければそれで良いので、たかだか外科の親睦会の催し物に過ぎないことを蒸し返す積りも毛頭なかったが。
 だからこの時期を逸してしまうと祐樹のアンテナに引っかかる可能性が高くなることも分かっているので動ける時には動いておきたい。
 実家が医師という点では自分の科の久米先生だって同じだが、彼に話した場合は絶対に祐樹に抜けてしまうことくらいは分かる。
 その点清水研修医は救急救命室では一緒に働いているが、キチンと口止めさえしておけば大丈夫ではないかという安心感もあった。黒木准教授には既に話はしておいたが、今のところその程度で、後は第一回の外科親睦会――ちなみに祐樹と自分が鉗子と攝子で作った折鶴の収益が莫大なものになりそうな勢いで数字が伸びている最中だったし、二回目以降も同じ路線で行くらしい――の時に桜木先生という手術職人に話した程度だった。
「清水です。お呼びにより参上し致しました」
 落ち着いた感じが、当時の研修医だった祐樹を彷彿とさせる。
 ただ、黒木准教授のように教授執務室に来慣れている人だったら話は別だが、清水研修医の本来の所属先の精神科、真殿教授は割と温和な呉先生と大喧嘩をするほどの人だったし、そんなに後進の指導に熱心だとも聞いたことがない。
「どうぞ」
 清水研修医はドアの前に立って深々とお辞儀をしてから――真殿教授が通りかからないかとこちらが不安に思うほど長く――ドアを閉めた。
「あの節は誠にお世話になりました。教授と田中先生の、まさに世界レベルの凄さを目の当たりに出来たことで、外科医として一から修業する決意を新たに致しました。
 また、オーク○の出版記念パーティに、他の先生方を差し置いてまさかのテーブル席を用意して下さったことも併せて御礼申し上げます。
 正直なところ、こちらは親の七光りだろうな……とは思っておりますが……。しかし子は親を選べないですし、その点では非常に幸運だったと思っております」
 御曹司らしい鷹揚さは岩松氏を彷彿とさせるし、礼儀正しさという点や率直な点、そして大胆さなども――精神科でも充分に生きていけるだろうが――外科向きの人材だろう。
 手先の器用さは折り紙付きだったし。
「どうぞ、お掛けになってお待ちください。秘書が定時で帰宅してしまったので、コーヒーを淹れますので」
 当たり前のようにそう言うと、清水研修医は先程とはまるっきり異なった反応を見せた。
 鳩が豆鉄砲を食らったような顔というのはきっとこんな表情だろうと思えるような感じの。
 ただ、何故そんなに驚いたのかは分からないが。












 
【お詫び】
 リアル生活が多忙を極めておりまして、不定期更新になります。
 更新を気長にお待ち下さると幸いです。
 本当に申し訳ありません。
 お休みしてしまって申し訳ありませんでした。なるべく毎日更新したいのですが、なかなか時間が取れずにいます……。
 目指せ!二話更新なのですが、一話も更新出来ずに終わる可能性も……。
 なるべく頑張りますので気長にお付き合い下されば嬉しいです。
 




        こうやま みか拝













 
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気分は下剋上 学会準備編 173

「何だかドキドキしますね」
 日曜日の朝早くなので道路もまだ空いていると判断してタクシーに書店の名前を告げた。
「祐樹でもドキドキすることが有るのか……」
 いかなることにも動じなさそうな祐樹の意外な一面を垣間見た思いでとても嬉しかった。
「それはしますよ。まさか誰も来てくれないということはないでしょうが、あれだけの動員令が病院長から出ていますからね。
 しかし、本職ではないですし、そもそもサイン会などは一応前途多望な人生設計の中でも想定していなかった事態ですから。今日まであまり実感がなかったのですが、書店の名前を貴方のお口から聞いた瞬間に俄然と現実味が出て来まして。
 本職と言えば、プロの作家とか漫画家さんは本当に人が来なかったらどうしようと恐怖で慄く感じですよね。生活がかかっているのですから。
 まあ、プロ作家と呼んでも良いのか良く分かりませんが、センターの方の草分け的な存在の同業者の場合は最悪の場合、本が売れなくとも生活は充分成り立ちそうですが……」
 タクシーの運転手さんの耳を憚ったのだろうか、祐樹がセンター長に抜擢されたAiセンターの先駆者とも言える先生の固有名詞は出していない点は流石だった。
「ああ、あの方の信念を貫く姿勢や、この業界を良くして行こうという意気込みは素晴らしいと思うが、あの裁判沙汰の元になったブログ記事は駄目だろう。
 負けるのも尤もだし、ああまでして敵を作るようなことをしてはならないだろうな……。訴訟だって当然お金がかかるので、莫大な印税のごく一部分はそれに消えたに違いない」
 サイン会という人生で初の――といっても祐樹と恋人関係になってからは色々な人生初の経験を、しかも見事な彩りを心に残して積ませて貰っていることにも祐樹には感謝したい。
「ああ、実名を出した点がまずかったのでしたっけ……?」
 祐樹の場合は患者さんとのコミュニュケーションの一環として週刊誌などは救急救命室の通称、凪の時間などに読んでいるようだが多くの医師がそうであるように法律には疎い方だった。もちろん、医師法など業務に関係することは別だが。
「実名プラス社会的評判を落とすような書き込みをブログという不特定多数の人が閲覧出来る場所に発表したのがまずかったな。あれでは名誉棄損罪の構成要件を満たしてしまうので。
 どうせなら著作が多数あるのだから『完全にフィクションです』という形にして、読む人が読めば分かるけれども、知らない人には全く分からないというふうに発表すれば良かったのにな……と内心とても残念には思った」
 祐樹が数時間後には始まるサイン会に――ちなみにハンコは待ち合わせをしている高木氏が大急ぎで作らせてくれて持って来てくれる予定だ――珍しくも緊張しているようだったので、敢えて関係ない――と思われる――話しを続けた。
「つまりは、タヌキの大ばか野郎とかを匿名で書く分には法的問題がないということですか?いやバカとは思っていませんが、あくまで例えです」
 タヌキとは斉藤病院長の病院内でのあだ名であることは病院関係者なら誰だって知っている。
「それだけなら大丈夫だろうが、特定されるような固有名詞と共に書き込みに行くとマズいだろうな……。ただ、バカ程度だと社会的信用を落としたことにはならないので、せいぜい侮辱罪に触れるか触れないかというところだろう」
 一見すると黒に見える濃い紺のスーツは祐樹の男らしく凛々しい顔を更に引き立ててくれている。
 一般的なタクシーの後部座席に座って車窓を見るフリをしながら祐樹の濃紺のスーツや淡い青色のネクタイや白いワイシャツなどを惚れ惚れと眺めながら素人法律知識を披露していた。街路樹もすっかり葉を落としていてもう少しすればすっかり冬になる。
 その時は自分が編んだマフラーを身に着けてくれるだろうから、内心ではその日を楽しみに待っている。
「この辺りで停めて下さいますか?」
 書店の隣のスター○ックスが待ち合わせ場所だったが、大きな建物を運転手に告げた方が良いのは良く分かっていたので。
「更に緊張してきました。上手く字が書けるかどうか心配です……。
 ほら、視線恐怖症とでも言うのでしょうか……。そういう症状が出たらどうしようかと……」
 祐樹の男らしく長い指は「今は」震えていないのを自分の指で確かめた。
「大丈夫だ。全然震えていないし、会場で万が一震えるようなことがあったら私が何とかする。
 ちなみに対人恐怖症の一種で『ふるえ恐怖症』と呼ばれる類いの症状だ、正確には。
 気にすると更に症状が悪化するので、気を紛らわすことをした方が良い」
 サイン会の吉兆を告げるかのような晴天の朝の陽ざしの下ではいつまでも指を触れ合せているわけにもいかないので、そっと指を離した。
 祐樹が精神科の知識に疎いことは――高度に細分化した大学病院では専門外のことはサッパリという医師の方が多いのも事実だった――知っていたので補足ついでに実践的なアドバイスをした。
 呉先生が――どの書店に来てくれるかは北海道に出張中の森技官の帰り次第ということなので未だ分からない――いてくれたらもっと専門的なアドバイスをしただろうと思うと少し歯がゆい思いを笑顔で誤魔化した。
「気を紛らわすというと、列に並んで下さった人に話しかけるとか?」
 祐樹が至って真面目かつ神妙な表情で会話を継続させている。もっと落ち着いて――少なくとも自分よりは――対処しそうに思えたのに意外だった。
「そうそう、話すことと書くことに神経が分断されるので効果的だろうな……。
 それに祐樹得意の場を和ます冗談を言って笑いを共にするともっと良い。
 あ、あの人だろう」
 注文するよりも先に挨拶を済ませた方が良いと思って、PCの画面越しでしか見たことのない高木氏の姿を視線で探していると、恰幅の良い感じの中年男性が如才ない笑顔とセカセカした歩き方でこちらに近付いて来ている。そして目立たない感じの黒のスーツを着た若い女性も。
「初めまして。高木と申します。こちらは今日一日編集者の役を務めさせて頂く弊社社員の平井です。こういうイベントには慣れておりますのでどうかご安心を」
 素早く名刺入れを取り出す仕草が手慣れている感じだった、自分が良く知る医療機器の営業マンよりも遥かに洗練されていて、この人に任せておけば大丈夫という気になった。
 名刺交換をした後に隣に佇む祐樹に視線を流すと最愛の恋人も同じような感想を抱いたらしく、普段の怜悧かつ落ち着いた感じに戻って名刺入れを「震えることなく」出しているので一安心だったが。











 
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気分は下剋上 学会準備編 172

「それはもちろん構わない。ああ、高木氏といえば、ゆ…田中先生が病院長を釣った餌で、日本経○新聞の『ワタシの履歴書』が有っただろう?物凄い勢いで食いついてきたが。あれの新書版が出る時も病院内に総動員が掛かること請け合いですね。
 真殿教授は病院長にそこそこ信頼されているようですが、そのグループ・ライ○の皆様方に先に教えておいて別個に動くと効果的なのかも知れません」
 先程見た画面に23という数字と小さなアイコンが同じ数だけ並んでいたので真殿教授に反感を持つ精神科の医師達の数は多分23名だ。呉先生は教授とケンカしても不定愁訴外来というブランチを持つだけの実力を病院長からも認められていたようだったが全てがそうだとは限らないので、もしかしたら他の病院に去ってしまったか若しくは外科に比べると安価に独立開業が出来るので一国一城の主となっているのかも知れないが。
「情報は早く入手した者勝ちだと同居人も常々言っていますので、さっそく……。
 それはそうと清水研修医も物凄く活き活きと働いているようですね。それにパーティにも研修医枠ではなくてお父様と同じテーブルに座ることが出来ることも親子共々、光栄の極みとまで言っているようです。
 今日の外科親睦会も香川教授とか田中先生の秀逸過ぎる手捌きに見惚れそうになりながらも必死で自分を律していたらしいですよ」
 スマホに文字を――意外にもといったら怒られるかも知れないが――手早く打ち込みながらスミレ色の笑みを浮かべている呉先生は、電話ではなくてラ○ンで連絡を取っているのだろう。
「そのグループ○インには清水研修医も参加しているのですか?」
 使ったことはなかったが、ビジネス誌にも「今さら聞けないビジネスマンのライ○活用術」などの特集が組まれていたので大まかなことは知っている。
「はい。イエスマンを除いてほとんどの精神科医が教授に不満を抱いているのが現状ですので。といっても、准教授は真殿教授の腰巾着とか幇間とまで言われている人なので、担ぐべき御輿が居ないのが皆の悩みです。対抗するような人間が居れば良いのでしょうけれども……。その点清水研修医は救急救命室に活路を見いだせたようで何よりです。
 ……私には活路どころか地獄でしかありませんが」
 救急救命室の野戦病院さながらの様子をまざまざと想像したのだろうか、スミレよりも蒼褪めた呉先生が気を取り直すように華奢な首を大きく振った。
「ウチの大学からアメリカの大学に留学した人などは居ないのですか?精神科の本場は何と言ってもアメリカですし、病名すらアメリカ至上主義的に決まりますよね」
 呉先生に対して気分を変えるべくあまり考えることなく口にした。
 祐樹と付き合うようになってからもかなりの長い時間、自分の考えを口にすることがどうしても出来なかったが、最近は割と誤解を招くこともないような発言が出来ているような気がする。
「ああ、なるほど……。その手がありましたね。私の同級生では居ないのですが、皆に聞いてみたいと思います。それはそうと『ワタシの履歴書』ですか……斉藤病院長が月夜に踊り出しそうな極上の餌ですね。ウチの大学でも同居人の大学でもノーベル賞を取らない限りは医学部長ではなくて学長レベルしか執筆依頼が来ないことでも有名ですから」
 呉先生がスマホをずっと弄っているのも、この時間が最も皆との連絡が取りやすい時間帯だからだろう。
「実はパーティの日は友引なのです。それで縁起を担ぐというほどのものではありませんが、呉先生に初心者向けのメンタルヘルスの本を書いて貰うとか、何だったら森技官がゴーストライターでも何でも用意してくれそうですよね……。そう病院長に進言しようと思ったら、ゆ…田中先生が『ワタシの履歴書』の件を言い出したので機会を逸してしまいましたが」
 呉先生には「披露宴用に」と森技官から初めて貰った指輪というとても大切な物を借りているのでせめてもの恩返しがしたかったのだが。
 それに祐樹と仕事帰りに待ち合わせをする大型書店の傍のスターバッ○ス――サイン会の当日も高木氏と待ち合わせをしている場所だ――で時間が中途半端に余った時などに本屋に入るが、弁護士さんの書いた法律相談の本と精神科医の書いたメンタルヘルスの本は平積みにされているので、自分の専門分野よりも需要は確実に有るだろうから。
「その手が有りましたね。貴方が仰るまでは気が付きませんでしたが。呉先生は学会などにも良く招かれて講演者になっていますよね、確か。
 日本の精神医学会で認められている上にバックは厚労省の将来の事務次官が漏れなく付いているのですから、院内政治ではなくて精神医学会での出世を目指すべきです。そうすれば、病院長の覚えは更に良くなりますし真殿教授を追い落とすチャンスも生まれるのでは?
 本も大衆受けしそうな感じを高木氏からレクチャーして貰って上梓したら更に病院長の覚えはうなぎ上りでしょうし」
 祐樹が感心したように瞳を輝かせながら滑舌の良い――ただ誠実な医師というよりは何だか辣腕の営業マンのようだったが――声を室内の空気に活気を与えている感じだった。
「え?私が御輿ですか……そんなことは考えたこともなかったです。
 それに学会といっても日本国内で開催されるのしか行っていませんし……。田中先生のように日本の医師なら外科医ではなくとも知っている学会に招待されたわけでもないですし」
 途方に暮れた感じのスミレ色の声が細かな泡のようにコーヒーの湯気と共に立ち昇っていくようだった。
「分かりました。向こうに行ったついでに高名な精神科医の知り合いも絶対に作って帰りますので。
 貴方はそういう知り合いは居ませんよ、ね?」
 祐樹の確かめる感じの眼差しに黙って首を横に振った。ついでに少しおどけた笑みを浮かべながら両手を大きく広げて降参のジェスチャーをしたのはずっと続いている薔薇色の多幸感のせいだろう。











 
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気分は下剋上 学会準備編 171

「ではご本にサインをお願いしますね」
 呉先生のデスクを貸して貰って二十冊の本の表紙カバーの次のページに署名をしては隣に座った祐樹へと手渡す。
 その姿を何故か呉先生がスマホで撮影している。
「その画像をどうするのですか?」
 祐樹の名前と自分の名前が並ぶという喜びに弾んだ気持ちで聞いてみた。別に写真を撮られて困るような場面ではなかったが、呉先生の意図が分からなかったので。
「斉藤病院長にお願いして、院内LAN――こちらは私でも編集可能なのですが――だけでなく病院の公式サイトにも載せて貰おうかなと。
 ほら、ウチの病院も外部に向けて色々とイベントを企画していますよね?今までは入院しようとする患者さんしか閲覧しなかったサイトでしたが、そういうイベントに参加してみようという人からのアクセス数が伸びたと聞いていますので、そちらからも宣伝して貰おうかなと」
 呉先生の爽やかな声が耳に心地よく響いた。
「なるほど、それは良い案ですね。確かに旧大学病院時代では考えられなかったようなイベントを事務局中心で考えて企画していますから。
 それにウチの出版科から出す本なので、病院長も否とは言わないでしょう。一般出版社から出さなくて良かったですね」
 ひとしきり撮影を終えた呉先生がサインしたての本を大切そうに見て細い首を傾げている。
「どうしました?何か間違いでも……」
 祐樹も自分も名前を書いただけなので誤字脱字が有る方がおかしい。
「いえ、お二人とも綺麗な字をお書きになるのですね。それはともかくサイン本にしては何か足りないような気がします……。何だろう……」
 「足りない」と言われても、自分は著名な作家のサイン会に行き合わせたことはあってもサインをして貰ったことは一度もなかったし、祐樹も怪訝そうな表情を浮かべて自分を見詰めてくるのでどうやら同じらしいが。
「こういう時は詳しい人間に聞くのが一番です」
 スマホでサイン部分を撮影してから文字を入力しているようだった。
「それは何ですか?」
 サイン会もパーティも自分や祐樹にとっては一生の思い出になるほどの一大イベントなので――といっても本当はアメリカでの学会での祐樹の講演の準備とか、防衛大学での自分の講演に平日の有給休暇を病院に認めて貰いたかっただけが本音だったが、事態は思わぬ方に好転していって人生の一大イベントが派生したのも事実だ――少しでも悔いのないものにしたいと思うのは自分だけではなくて今や祐樹も同じなのは薔薇色の雲に乗っているような心の弾みをより深く感じてしまっているが。
「反真殿教授の同志が集っている精神科の仲間とのグループラインです。
 今は別に真殿教授の悪口を書いたわけではないのですが、精神科の人間って読書も好みますし小説好きも多いので、ここで聞くのが一番早いかなと思いまして」
 ガラケーの自分達には縁がなかったものの、ラインとチャットのようなアプリが存在していることは知っている。
「こんな感じです」
 呉先生がスマホを祐樹や自分の方へとかざして見やすいようにしてくれた。
 「香川聡 田中祐樹」と並んだだけの画像に「香川教授と田中先生のサイン本が遂に出来上がりました。ただご存知のように大手出版社の編集さんが付くわけでもなくウチの弱小出版科の作った本なので、何かが足りないと思われますが気付いた人教えて下さい」というメッセージの横に小さく「既読」という文字があり瞬く間に――人数だろう、多分――数が増えていく。
「香川教授田中先生おめでとうございます」などの文字が並んでいく中に「作家のサイン会では赤い朱肉のハンコ(?)が押されます。それがないのでは?」との文字が躍っている。しばらくしてそのアカウントから画像が投稿された。
「ああ、なるほど、落款というかハンコが欠けていたわけですよね。どこで買えばいいのでしょうか?」
 祐樹が広い肩を竦めて誰に言うという感じでもなく途方に暮れた声を出した。最愛の恋人がこんな声を出すのは珍しいので、何とか正解をと焦るものの自分だって分からない。
「高木氏に聞いてみるしかないな……。あの人なら女優さんなどの文筆業ではない人のサイン会も主催した経験が有るようなので、入手先も知っているかと。
 もし知らなくても出版社の社員とも親しいようなので、聞いて貰えるだろうし……」
 思いつきを口にしたら、祐樹がパチリと指を鳴らした。
「それが良いですね。この落款……。スマホをお借りしても?ああ、有難う御座います。
 画像を大きくしてと。作家のフルネームが入っていますね。
 しかし、私達の場合は共著ですので二人の大きなハンコが必要かと思います。サイン会に間に合うように作って貰えるようなお店を高木氏に紹介して下さるようにお願いしても宜しいでしょうか」
 二人の名前が刻まれた大きなハンコ……。何だか嬉しすぎて薔薇色の雲に乗った気持ちが空高く舞い上がっていくような錯覚を抱いた。











 
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気分は下剋上 学会準備編 169

「ええ、貴方の『芸術作品』の入札履歴はほぼ外科医が占めていますね。
 外科所属かつ医師の番号がずらりと。今の最高入札者の番号はこれなのですが、何と斉藤病院長です」
 次のアポイントメントが有るからと病院長執務室で言われたのだが、こんな院内LANまでチェックしているのは意外だったものの政治力も実務能力も高い斉藤病院長の凄味の一端を垣間見た思いだった。
「このシステムは検索でも有名な大手オークション運営サイトと同じようなプログラムのようですね。この値段の上がりかたとかを見ると。斉藤病院長は上限金額いくらまで設定しているのか考えるのが怖いです。ほら、数人が競っているでしょう。それなのに直ぐに上に来るということは予め上限までは自動入札しておいて、後は締切日まで様子見といったところでしょうか。
 お、8万円になりましたね」
 呉先生がスミレ色の吐息を零している。祐樹の「芸術品」を全て買い取りたい気持ちは確かに存在したものの、これはある意味公の場なので個人的な感慨を挟むべきではないと逸る心を戒めた。
「ああ、野球場だかを持っている会社ですか?その検索とかのネットオークションをしている……。
 こんな高値が付くものを、タダで頂けるのは何だか勿体ない気がします」
 ネットオークションは利用したことがないので知らなかったが「何とか鑑定団」とかいうテレビ番組は興味も有ったので時々観ている。
「マニアックな物とか入手が困難な物にはそれなりの値段が付きますからね。
 それに今回のは偽物という可能性がゼロなので欲しい人は欲しいのでしょう……。
 ただ、呉先生や森技官が宜しければこんな物は直ぐに作りますし差し上げます。大した手間でもないですし」
 8万円という金額が妥当かどうかは自分では分からないものの、欲しい人にとってはこの値段以上であっても入手したいのだろう。
 しかも明日の朝には外科のどこかに現物が飾られるので――今のような画像では細かい点まで見ることは出来ない。小ささは祐樹も吸っているタバコの箱が隣に置いてあったので比較すれば直ぐに分かる仕組みだったが――細部の美しさとか今にも飛び立ちそうな感じも受ける見事さに惹かれて入札人数も増えるだろうが。
「それに比べて、私のはナースからの入札が5割、そして事務方が1割でその他が外科の先生達ですね。
 つまりバレンタインと同じようにナースや女性事務の人が人気投票のノリで参加して下さっているだけで、玄人好みの貴方の『芸術作品』とは客層が異なる感じです。
 この次の機会がもし有るようでしたら、同じ土俵で勝負したいのですが、今回のは客層から異なるので単純に金額だけで比較出来ないのが残念です」
 わざわざ呉先生のPCを借りてまで――と言ってもこれは多分病院の備品なのだろうが、自分の執務室に有るのと同じく――祐樹が分析したがっていたのはどういう客層が入札しているのかなのだろう。
「まあ、予想はだいたいついていましたが」
 祐樹が白衣に包まれた広い肩を優雅に竦めた。
「いや、今はまだ懇親会が続いている時間だろう?だったら、実物を見た人間が入札に参加するのはもっと後になるはずで。決めつけるのは早いと思うのだが……」
 今PCの前に居ない人達こそ――懇親会の会場は自分達が居た会議室の隣らしいので、患者さんの情報も入っているセキュリティの厳しい院内LANの使えるPCはその部屋にはないのは知っている――実物の美しさとか見事さをその目で見ているハズなのでどう値段が動くのかは未だ分からない。
「あれ?斉藤病院長が私のにも入札して来ました……」
 驚いた感じの祐樹の声に、なるべくさり気なく白衣の肩に手を置いた。いくら本当の関係を知っている呉先生の前とはいえ、友人の前で「恋人同士」的な行動を起こす趣味は持ち合わせていない。あくまでも「普通」のボディランゲージの感じで。
「病院長はあの会場に表彰式のみとはいえ入室して来ただろう。当然ゆ……田中先生や私の作品も見ているわけで、その後本のことで私達を呼ぶ前に取り敢えず先に私のを入札して、その後一人の時間が取れたからPCに本格的に向かい合っているのではないだろうか。
 元とはいえ、あの人も名を馳せた外科医なので見る目は確かだと思う。これからの推移次第はまだ分からないだろう」
 広い肩に手を置いて力付けるように祐樹の確かな感触を心の中ではとても嬉しく感じつつ動かした。
「病院長のお眼鏡に適うとは内心驚きました。
 貴方と同格の外科医だと認められたようで何だか嬉しいです。
 ところで、サイン会とパーティの日時をもお知らせがてらに参ったのです。
 特にパーティではウチの母がご迷惑をお掛けするかと思いますが、何卒宜しくお願い致します……」
 祐樹がおもむろに立ち上がって呉先生へと深々とお辞儀をした。
 却って呉先生のほうが恐縮した感じの笑みを浮かべている。
「いえ、田中先生のお母様程度の年齢層の女性の相手は同居人の方がむしろ得意だと思いますので私は適当に相槌を打つ程度で大丈夫かと。ああ、重大なことを伺うのを忘れていましたけれど、田中先生とお母様は似ていらっしゃいますか?そしてお招きしていることを皆が知っているのでしょうか?」
 祐樹が困った感じで自分に視線を絡めてきた。
「似ているのでしょうか。性格は似ていると常々思っていたのですが、外見的にはそれほどでもないような気もしますが、こればっかりは貴方の感想をお聞きするしかないですね」











 
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