腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します 申し訳ありませんが書く時間を最優先にしたいのでリコメは基本的に致しません。 要望・お礼などは「日記」記事でお応えしますが、タイムラグがあることも多いです。

気分は~ とある金曜日の日常

気分は下剋上 とある金曜日の出来事 61

「『つみたて投資枠』はその名の通り毎月決まった金額でコツコツと積み立てる(ほう)が長期的に見て得だ。方程式で説明することも出来るが、このバーでの祐樹の質問は全病院関係者に向けてのアナウンスの練習という意味も有るのだろう?だったら方程式を使わない方法で説明した方が良いかも知れない、な」
 怜悧で涼し気な声が重厚な雰囲気の室内に溶けていく。
「そうですね。医師はともかく専門学校卒業の看護師とか文系学部出身の事務局の女性に方程式を示すだけでアレルギーを起こす人がたくさん居そうです」
 最近は大学の看護学科を卒業した看護師も多いのである程度方程式に馴染んだ人も多いだろうが、事務局の女性の大半は私立文系卒で数学などは高校入試までしかみっちりと学んでいない人が居ることも知っていた。私立文系の場合は、大学入試に数学を選択しないか、そもそも数学が受験科目にないと聞いた覚えがある。医学部の場合はしっかりと勉強しなければ合格は覚束ないのだが。
「祐樹がそう言うなら文系モードで解説してみる、な。例えば時価が1万円の投資信託が有ったとする。積み立て金額は3万円とする。それを四か月分を纏めて買ったら12万円になるだろう?」
 掛け算を祐樹に振ってこないのは小学生レベルのことで会話を中断させないという配慮に違いない。
「あ、祐樹。グラスが空になっているな、何か頼むか?」
 長居してもスタッフは気に留めない鷹揚な雰囲気だが、空になったグラスを前に席に居続けるのは何となく憚られる。
「そうですね」
 文句の付けようがないほど美味しかった「太陽のタマゴ」というマンゴーの名前を教えてくれた女性スタッフに視線で合図した。
「私は『山崎』の水割りを、貴方は何にしますか?」
 飲み物のメニューを楽しそうに見ている最愛の人の革に添えた薄紅色の指がとても綺麗だ。職業柄、短く切り揃えられた桜貝のような爪も。
「苺のカクテルをお願いします。ここのお店のカクテルはとても美味しいですね」
 革張りのメニューパタンと閉じてスタッフに渡している。
「お褒め頂いて有難うございます。畏まりました」
 一礼して去って行く女性を見送った彼は薄紅色の唇を開いた。
「そして、一か月に一度3万円で同じ投資信託を買い続けた場合、値段も変動する。安い時にはたくさん買うことが出来て、高い時は逆になる。積み立て金額3万円だったら一月目に1万円だったとしたら30,000口買うことが出来るだろう?そして次の月には値段が6千円の時は50,000口買えて、三か月後、1万7千円の時に17,648口買える。四か月後に7千円だったとしたら42,858口購入出来ることになるだろう。合計140,506口購入した計算になる。支払ったお金は12万円なので、平均購入価格は8,541円になるだろう?あ、有難うございます」
 新しく運ばれて来たイチゴのカクテルを美味しそうに吞みながら満足そうな笑みの花を咲かせている。
「確かにそうなりますね。前者の一括購入の場合は平均1万円×3ですから、平均取得単価も1万円ですよね。取得単価が低い(ほう)が嬉しいですから、そういうふうに(なら)して購入するのが良いのですね」
 良いことを聞いたと思いつつ「山崎」の水割りを口にした。
「その通りだ。こういう買い方をドルコスト平均法と呼ぶのだけれど、(ゴールド)でも投資信託でも何でも通用する投資方法だな。だから、
『つみたて枠』の投資信託は長期投資に向いている物を一月に10万円ずつ買った方が結局は得をする」彼は懇切丁寧に説明してくれているのだけれどもどこか他人事(ひとごと)なのはPB(プライベートバンク)で億以上の資産運用をしているからだろう。
「ちなみに、金投資はNISA枠で出来ないですよね?」
 今、金が高いというのは祐樹でも知っている。千切れたネックレスだったとしても高い値段で買ってもらえてホクホクしたという話は聞いた。それにインフレが進んだ場合は現金よりも物にして持っている方が良いことも最愛の人が教えてくれた。換金性の高い物となるとやはり金かプラチナだろう。
「残念ながら金や金価格に連動したものは対象外だ」
 有ったら良いなと思っていたが残念だ。
「そうですか。教えて下さって有難う御座います。銀行も万が一破綻したら一定額しか返って来ないですよね?潰れるとは思いませんが」
 具体的に幾らだったのか良く覚えていない。
「普通預金と定期預金だったら、一銀行につき一千万円までしか保護されないな。それ以上の金額は返金されない可能性が高い」
 え?と思った、祐樹が漠然と考えていたことと乖離していたので。
「一銀行につき一千万円ですか?例えば三菱UFJ銀行の京都支店と、舞鶴支店に分けてあった場合、京都支店で一千万、舞鶴支店で一千万ではなくて、ですか?」
 京都支店は給料が振り込まれていて、舞鶴支店は母からの仕送りを学生時代に受け取るための口座だ。後者にはそれほど残っていないのだけれども。




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気分は下剋上 とある金曜日の出来事 60

 名前は忘れてしまったが、記憶容量が目の前で大輪の花の笑みを浮かべている最愛の人ほどないので不要な情報は全て破棄している。
「ああ、なるほどです。他にも不動産などを持っていたら、あっという間に相続税対象者になりますよね?税務署にしては珍しい温情ですが。鬼のように取り立てるというイメージしか持っていませんでした」
 祐樹が研修医の頃先輩に「俺たちは確定申告の必要なしとされている給与所得者だけれども、それでも騙されたと思って確定申告だけはするんだぞ!絶対に後悔するから!」と言われて内心面倒くさいなと思いつつ税務署に赴いた。税務署では「還付金があります。二か月以内に振り込まれますので、銀行の口座を教えてください」とか言って祐樹の一か月分の給料とほぼ同額の金額が用紙に記入されていた。確定申告をしなければきっとこのお金も戻って来てはいないのだろうと思うと、随分ぼったくられた上に泣き寝入りだったかと思うと悔しくて、以降は欠かさず確定申告に行っている。そういうマイナスのイメージしか持っていないので税務署が納税者に歩み寄りの姿勢を見せるというのは意外だった。
「そうなのですね。では死者の持っている、つまり売却してしまった株式に儲けを出しているのか何故分かるのですか?」
 素朴な疑問だった。死亡した場合に売却されるのだからそれ以降の記録はないわけで。
「証券会社には過去のデータが残っているだろう?どういう投資をしたら最も儲けが出るかを調査した時に故人も含んだらしい。そして、そういう結果が出たらしい」
 ということは多少の値下がりを気にしないで持っていた方が良いのだろう。
「ではNTT株を千株ほど買います。150円になったら買うという意思表示は出来ないのですか?」
 最愛の人のアドバイス通りにしたいのも山々だった。
「ああ、祐樹が証券口座を開設した後の話になるけれども、確か『注文画面』だったかな?そういう所に指値(さしね)、ちなみに、指に値段の値だ、一応……」
 耳に心地よい怜悧な声が真剣な感じで教えてくれる。グラスを薄紅色の指で持って唇に運ぶ仕草も流麗さに満ちている。
「株式投資では特別な用語が多いですよね?これって私が非常識なだけですか?指値とだけ書かれたらそこから調べなければならないです。お恥ずかしながら……」
 医師の世界が特殊なことは良く知っている。もしかしたら世間では常識なのかも知れないなと思う。最愛の人は切れ長の濡れた瞳に綺麗な光を宿しているのが印象的だった。酔いも程よく回っているのか(つや)やかさも増していた口調は明晰だが。
「いや、投資をしている人間ならば常識だろうが、貯蓄は銀行の預金だけという人は知らないだろうな……。祐樹の言う通り専門用語は多いかも知れない。それはそうと、注文画面に指値で買うという所をチェックして任意の金額を入力すればその値段まで落ちて来た時に約定(やくじょう)と言って売買が成立する仕組みだ。あ!約定とは約束の約に定まると書く。ただNTT株の場合150円から160円までの間で買った方が良いと思うのだが……。それ以上はお勧め出来ないな。割高水準に入ってしまうので」
 美味しそうに桜のカクテルを呑みながら教えてくれた。
「そうなのですね。証券会社はネット証券の方が良いと教えて頂きましたが具体的にどの会社が良いのでしょう?」
 彼はPB(プライベートバンク)を通した資産運用しかしていないのは知っている。しかし、経済紙とかそれに類した雑誌を読んでいると聞いているので祐樹より知識は豊富そうだ。
「色々言われているが、お勧めの声が多いのは楽天証券とかSBI証券だな」
 山崎を口に含むとコクのある味が口腔内に広がった。
「ちなみに何故その二社なのですか?他のネット証券会社よりも手数料が安いとかでしょうか?」
 それくらいしか思いつくことはない。彼は細く長い首を優美に横に振っている。
「この二社は投資信託を買った時などにポイントが還元されるメリットが有って、楽天だったら楽天のクレジットカードで決済した場合証券会社と同時にクレジットカードにもポイントが貯まるので、そういうメリットに惹かれた人が多いな」
 祐樹はフルーツの盛り合わせの中のサクランボを手に取って口へと運んだ。
「いわゆるポイ活というものでしょうか?支払った半分ほどのポイントが返ってくるなら考えますが……財布の中に入っているカード類も飽和状態なので正直面倒くさいですね。手間のかからない会社とか気になったことを親切に教えてくれる所が良いです」
 彼はスマホを鮮やかな指捌きで操っている。
「比較サイトだ。お客様の声という欄を見るのが最も良いだろうな」
 こちらへとスマホをかざしてくれた。
「『どんな些細なことでも快く教えてくれる上にオペレーターの人が親身だった』と書いてありますね。こういう会社の方が個人的には良いですね。口座開設はこのボタンを押せばいいのですか?」
 松井証券と書かれた場所をタップしてみた。本人確認も免許証やマイナンバーカードをスマホで撮って添付ファイルで送れば良いみたいだ。もっと難しいのかと思っていたのだけれども意外と簡単らしい。
「それで、つみたて枠は年間120万円まで投資信託を買うことが出来るみたいですけれども、一括して買ったらダメなのですか?」
 ちまちま買うよりもその方が手っ取り早い気がしたが、最愛の人の反応を見るとどうやら違うらしい。




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気分は下剋上 とある金曜日の出来事 59

「世界恐慌は当然知っています。『鬼退治アニメ』の先行公開の劇場版と『遊郭編』の最後の二話が劇場で先行放映された時にデートでご一緒しましたよね。あの時に観に行った『タイタニック』でも世界恐慌で婚約者が自殺したとヒロインは言っていました。しかし、私は新NISA口座、と言っても未だ口座開設していませんが……、それでも保有している株式が有ったとしても資産がなくなることよりも貴方の方が大事です。そもそも比較しようとは全く思いません。生涯に亘るパートナーの貴方がこうして笑って下さる(ほう)が私にとって遥かに重要なコトですから、ね……」
 まあ、豪華客船の一等客船に三部屋もキープするほどの財力を持っていたから(こうむ)った損害が大きすぎて、その持っていた資産が全てなくなった場合は取り乱すだろう。それにそんな財産を再び築くとなると目の前が真っ暗になるのは祐樹でも分かる。しかし、祐樹なりの預金残高と最愛の人、どちらを選ぶかなんて自明のコトだ。目の前で薄紅色の笑みの花を咲かせている彼は最高に魅力的だった。
「そうか……。それは嬉しいな……。私もPB(プライベートバンク)の金融資産などよりも祐樹の方が余程大事だ。それにその程度のお金はまた稼ぐことが出来るだろうし、無くなっても良いお金で株式投資をするのが基本だ……」
 匂いやかな笑みの花を満開に咲かせた最愛の人の顔は最高に綺麗だ。
「そうですね。無くなっても良いお金で株式に投資するべきだと教えて下さったのも貴方ですから。その点は気を付けたいと思っています」
 山崎の芳醇な香りを楽しみながら最愛の人に教えを乞う時間は宝石のようだ。
「祐樹は事情が異なるだろうけれども、基本的に生活防衛資金として給料の三か月分を銀行口座に入れておくことだな……。それ以外は投資に回せばいいと思う」
 事情が異なる……というのは、激務の甲斐有って一般的な人からすれば高収入だからだろうか?祐樹なら中身も見ずに捨てる不動産屋からの手紙が医局に来ているのも医師=高収入というのが世間一般の人の常識だからかも知れない。
「NTT株なんて良さげですが、過去にそんなに高い株価をつけたのですよね?安く買って高く売るのが良いと貴方は教えて下さいましたが、幾らくらいになったら買い時とかあるのでしょうか?」
 彼はスマホを見るまでもなく花のような唇を即座に開いた、花よりも綺麗に。きっと先ほど見たのですっかり覚えていたに違いない。
「出来れば150円で仕込めたら良いと思う」
 スマホの画面をしげしげと見た。
「ああ、過去に150円まで下がっているからですね。もっと下がっている期間も有りますけれども。善は急げとも言いますよね?だから今買ったらダメなのでしょうか……」
 彼の話を聞いてきて俄然やる気になったのは確かな知識に基づいた明晰な話し方のせいだろう。
「今でも大丈夫だと思うのだけれども、ただ、自分の持っている株の値動きは物凄く気になるので150円を切ってしまって証券口座に-4,000円と出ていたら弱気になってしまうと思う。株式を保有するということはリスクでもあるから。ただし、最も儲けているのは死者の口座だったという格言めいた言葉は有るな。つまり、亡くなったら売買は出来ないので、値が下がっても売ることは出来ないから結局は儲かるということになるということらしい」
 あくまでも慎重な彼はきっとそういうリスクを先に考慮したのだろう。どちらかと言えば積極的な性格の祐樹はチャンスの神は前髪を掴めというヨーロッパの(ことわざ)の方がしっくり来る。
「チャンスの神様は前髪しかないので、それを掴むべきだとかヨーロッパでは言われていますよね。前髪だけの神様を想像したら笑えます。実際にそんな間抜けな神様が居たらきっと有難みが全くなくて、笑ってしまうでしょうが」
 具体的に想像したのか、最愛の人が純銀の鈴を振ったような小さな笑い声を立てている。そんな彼の声を聴くと心が弾む。
「それはそうと死者の口座って凍結されないのですか?亡くなった場合はお金に換えて相続になると思っていました」
 その程度は患者さんとの雑談で知っていた。
「祐樹の言う通りだ。証券会社に死亡を知らせたら、期間内で最も安い値段で売ってくれて現金が遺族に支払われるシステムだ」
 安い値段?
「高い値段で売り払ってくれた(ほう)が亡くなった人も報われると思いますが……」
 まだ株式も買っていないのだけれども、なんだか釈然としない。
「それは相続財産を低く見積もった方が良いという税務署の善意だろう。今はNISAで株式投資をする人が増えて来たと新聞などで報道されているけれども、一昔前はお金に余裕が有る人しか手を出さなかったので、そういう人は他の財産も持っているだろう?だから合算しても問題ないようにという配慮らしい、な」
 そういえば森技官の要請というか無茶振りで亡くなった人が本当に殺人だったかを二人で捜査したことが有った。結局は「未必(みひつ)の故意」まで立証出来ないまでも一応は犯人を割り出すことは出来た。その資産家も不動産もたくさん持っていたなと思い出した。名前はすっかり失念してしまったが。




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気分は下剋上 とある金曜日の出来事 58

「いや、業績が悪いというわけでもないな……」
 薄紅色のしなやかな指がグラスを持っているだけで絵になる。グラスを傾けている彼は最適解を導き出しているような感じで少し考えに耽っている表情だ。そんな彼の怜悧な様子は病院でも見て来たけれども、そちらは数秒で答えを出している。それに何よりアルコールが入って少し上気した頬や普段以上に笑みを浮かべる彼は祐樹にだけ見ることが許された高嶺の艶やかで希少な花といった感じで特別感がひとしおだ。
「株をケーキに例えたとする。同じ苺のケーキでもホールケーキを買った場合はまとまった値段になるだろう?そしてショートケーキを二切れだけ買った場合は安くなる。大雑把な説明だけれども」
 祐樹の顔を探るように見ているのはこの説明で分かるかと不安なのだろう。
「ああ、なるほど。要するに多くの株式を発行しているのがこの旧電電公社なのですか?」
 ホールケーキを切り分けて何分割にしているかまでは知らないけれども言いたいことはそういうコトだろう程度は分かる。彼は何だか可笑しそうな、祐樹にとって極上の表情でこちらを見ている。
「そういうことだ。そもそも去年の今頃は25分割していなかったので、こんなお手頃価格ではなかった、な。多くの新NISAで始めた人がこの株を買っている。しかし、旧電電公社とは……」
 薄紅色の笑みの花を浮かべた彼が小さな声で笑っている。そういう表情を見ているのも楽しい。
「ウチの母がそう言っていました。と言っても今も電電公社と呼んでいると思われます。昔の人間ですからそう覚えてしまった後に改めて知識の更新はしないといった感じでしょうか……。別に知識の更新が必要だと判断するコトでもないでしょうし」
 「ウチの母」と声に出したら彼の背筋が更に凛と伸びた。実の息子以上に心配して貰っていると自覚しているので自然とそういった表情になるのだろう。
「そうだな。民営化以前はそういう呼び方をしていたので祐樹のお母さまがそう仰る点も御尤もだと思う。それまでは国営の会社だったので。あ、そうそう、民営化の時はバブル期真っ最中だったので『政府が推している会社ならば間違いはないだろう』と皆の期待が膨らんだそうだ」
 確かにそうなのだろう。ふと気になって聞いてみた。
「それまでは国営だったということは株式の上場もなかったわけですよね?ちなみに幾らで売り出されたのですか」
 彼は紅色の笑みを浮かべている。
「119万7千円だったかな」
 え?と大きく目を開いてしまった。
「それって100株単位で購入しないとならないのですよね?だったら億単位のお金が必要となりますが……」
 バブルの頃は日本中にお金が溢れていたということだが、今では想像もつかない良い世の中だったのだろう。なと思える。そういえば黒木准教授がバブルの頃の世の中は日本中が躁状態だったとか言っていた。何でも一介の医局員に過ぎない医師の接待に製薬会社の営業さんが合コンのノリで厳選された女子大生までも動員したらしい。それに「アンケートにご協力ください」と言ってイエスかノーかをチェックするだけの簡単なモノに記入しただけで「ご協力有難う御座います。これはお礼です」と10万円が入った封筒が渡されたと聞いている。
「いや、一株から購入出来る仕組みだった。しかし、上場初日は買いが殺到しすぎて値が付かずに終わった。売買の場合は買いたい人と売りたい人の合意が必要だろう?それなのに皆が買いの状態だったので……。そして、値段の合意が行われたのは160万円だった。それでも買いの圧力が凄すぎて二か月ほどで318万円になったな」
 160万円で買った株式が二か月で約二倍になったということはそこで売却したら、158万円の儲けになったということだろう。彼が教えてくれた税金は当然かかっただろうから税抜き後でも126万4千円の儲けでそれでもまだ美味しい。
「ああ、当然新聞やニュースでもこれだけ騰がっていると連日報道されましたよね?だったら皆が買おうとしますよね。三か月で約二倍にお金が増えるとか考えたら他の会社ではなくてNTT株に殺到しますし、目の色を変えて買いたいという人が増えたり、毎日のように報道されたりしたら当然皆は買いに行くでしょう。しかし、今はこんなに(ささ)やかな値段なのですから、当然株価下落が起こったのですよね。ああ、バブル崩壊で一斉に株価も下がったでしょうし……その関係ですか?」
 今の株価は158円と表示されているので百株買っても1万5800円なのだから祐樹でも千株くらいは余裕で買うことが出来る。
「それがそうでもない。ブラックマンデーと呼ばれる米国株の急落が起こった余波で225万円まで暴落した。世界恐慌という言葉は祐樹も知っているだろう?そういう恐慌が起こったら株価は絶対に下がると予測しているのが株式投資家なのでそれほど狼狽(うろた)えている人は居ないけれども、やはり値が下がったと素人はパニック売りを起こしてしまう。特に株式投資を『儲かっているから』とか『皆が買うから』とかという評価で買っていた投資初心者の場合は暴落したら狼狽売りをしてしまう傾向にあるな……」
 そういえば彼と映画館まで観に行った『タイタニック』でもヒロインのセリフでいけ好かない婚約者が世界恐慌のショックで自殺したと分かった。ヒロインが大好きで堪らなかったみたいだが、財産を失えば簡単に自殺出来るのかと何だか婚約者の行動が浅ましく見えたことも事実だった。それほど多くはないけれども祐樹だって銀行口座にはまとまったお金が存在する。それを無くしたとしても、自殺などは考えない。それよりも重要なのが最愛の人が祐樹の傍でこのように笑ってくれることだ。




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気分は下剋上 とある金曜日の出来事 57

 オレンジ色の照明は落としてあるとはいえ、スマホの画面は充分に見える。
「え?100株保有していれば500円サービス券が4枚貰えて200株だと10枚、つまり5千円分が実質無料で食べることが出来るのですか?呉先生が泣いて喜びそうですね」
 呉先生は可憐な野のスミレといった風情だが牛丼屋や宅配ピザ屋さんが大好きで家では食事を作らないらしい。かく言う祐樹も最愛の人と同居する前は「時間がない」と思い込んで自炊の習慣など無かった。今の(ほう)が仕事量は多いのに最愛の恋人に感化されて休日には夕食を一緒に作ったり早く目覚めた時は朝食を用意したりするのが楽しいと思えるのだから気の持ちようなのだろう。
「『わが社の株を買ってくれて有難う御座います』という会社側の意図だな。ただし、会社の業績が悪くなると株主優待券は廃止される。また、配当金を増やすことの出来る財務体制の企業は増配(ぞうはい)といってお金で株主還元がある。こちらも業績が悪くなれば配当金を減らす減配(げんぱい)や、無くしてしまう無配(むはい)ということにもなり得るリスクはあるな……」
 薄紅色の指がスマホをタップして牛丼屋さんのチャートに戻った。
「サービス券は株式を保有している人しか使えないのですか?」
 呉先生は通称薔薇(ばら)屋敷に森技官と住んでいる。初めて行った時には薔薇が良く似合う由緒の有りそうな洋館は呉先生らしいと思ったものだったが、よくよく聞いてみると固定資産税とか維持費で大変らしい。敷地も無駄に広いので最愛の人が梅干しとか干し柿を作るためにスペースを借りているくらいだ。彼が作ってくれる梅干しも干し柿も最高に美味だ。
「建前上は譲渡禁止だけれども、金券ショップなどで売る人もかなりの数で居るらしい。祐樹と行った神戸三ノ宮の駅前の金券ショップでは阪急・阪神の株主優待乗車券が売られていたので普通のことなのだろうな。企業に魅力を感じていても電車には乗らない人も一定数居るだろうから」
 冷静な声が凛として豪奢な空間に溶けていく。祐樹も同じ金券ショップの前を恋人と通り過ぎたのだろうが、全く興味がないために微塵も記憶に残っていない。
「でしたら、この株を買って呉先生にチケットを譲るということも出来ますよね?」
 最愛の人は驚いたような表情を浮かべている。
「そういう発想は全くなかったな。呉先生には色々とお世話になっているのでお返しがしたいとは思っていたのだけれども」
 彼は卓越した記憶力を持っているし、頭の回転も物凄く早い。しかし、総合力というか点と点を繋げる能力は祐樹の得意とするところだ。恋人同士、足りない点を補い合うことが出来るのは祐樹にとって喜ばしいのだが。
「先ほど買い時ではないと仰っていましたよね。それは分かります。スマホを貸してくださいませんか?」
 普段は白皙の顔がごく薄い紅色に染まっている。その端整な艶っぽさに満ちた顔が「どうぞ」と告げている。テーブルの中間に彼が載せていた物を祐樹の方へ近づけた。
「このチャートを見ると高値圏ですよね。一株2,300円くらいになったら買い時だと思うのですが?」
 彼の長い睫毛に(ふち)どられた目が感心したような光を放っている。
「そうだな。ただ、今の状況ではそこまで落ちないような気がする。決算が大幅に悪くなった場合にはあり得るかも知れないのだが……」
 フルーツの盛り合わせの彩りとして入っていたブルーベリーを薄紅色の指が銀色のフォークを持っているのも瑞々しい色香に溢れている。
「年間240万円までNISA口座で買うことが出来るのですよね。ちなみに上限は有るのでしょう?一般的に税金が優遇されているモノの場合『これ以上はダメです』と言われることが有りますよね?」
 祐樹の病院の看護師はフルタイム勤務が普通だが、結婚して退職した看護師は近くのクリニックなどで短時間だけ働いて税金を控除してもらうシステムが有ったハズだ。そういう話を看護師から聞いた覚えがある。正確に覚えていないが配偶者控除とか言ったような……?ご主人が働いている場合、給料の総額を103万円だったか130万円以内にすると税金が掛からないとかそういうシステムだったような気がする。祐樹には一生縁のないことなので今まで思い出しもしなかった。その総額を超えると税金が掛かって働いているのに税金が引かれて損をするとか聞いた記憶が朧げに浮かび上がってくる。
「株式も買うことの出来る成長投資枠だと、総額1,200万円までだな」
 彩りとして入っていたブルーベリーを薄紅色の唇に運びながら説明してくれた。
「5年で埋まる計算になりますね。ちなみに出来高(できだか)って何ですか?」
 スマホを操作する指が滑ってページが動いた。出来高と読むのが正しいのか分からないけれども、違っていたら指摘してくれるだろう。
「この場合は今日中に売買が成立した株式の数量だな」
 どうやら合っていたらしくて安心した。職務以外の祐樹の間違いに対して寛容過ぎる恋人でも間違っていたらやはり気恥ずかしいので。出来高トップの企業はかつて一つしかなかった電話会社だ。何気なくタップしてみた。
「え?こんなに安いのですか……?業績が悪いのですか?」
 祐樹の漠然としたイメージだと牛丼屋さんよりも電話会社の方が高いと思っていたのに、20分の1程度の値段なのは驚きだ。




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