「いや……私が付けて良いか?」
欲しいなと思っていたが、なかなか買う機会がなかったアップルウオッチだった。
相変わらず最愛の人のプレゼントは祐樹が欲しいと思っている物をピタリと当ててくる点も愛情を感じる。
「勿論です。有難う御座います」
上着を脱いでワイシャツのボタンを外し、そして、彼に手を差し伸べた。
「病院でこの時計を付けて働いてくれると、別の場所に居ても同じ時を刻んでいるというのが分かって……、ベルリンの時のお土産の時計も大切に使ってくれているだろう?
アナログとデジタルの両方で祐樹と共に時を刻んで生きていくと実感出来る品物が良いなと思ってこれに決めた」
話しながら黒いベルトを時計本体に水が流れるような動きで付けていってくれた。
「同じ時間の共有ですか……。それをこれでより一層実感出来ますよね。有難う御座います。
アップルウオッチ、欲しかったので本当に本当に嬉しいです」
最愛の人は生気に満ちた薔薇色の笑みを浮かべている。
「実は知っていたというか、察していた。
私のネクタイを買いに店舗に一緒に行っただろう。その時に祐樹が店員さんと熱心に話し込んでいた。
欲しいのかなと思って見ていて、祐樹が真剣な眼差しを浮かべてくれていたのでこれに決めたのだけれども……」
ネクタイのエリアに居た彼が、そこまで見ていてくれたのかと思うととても嬉しい。
集中力を何分割にも出来るのは優れた外科医としてある意味当然だったが、死角に入っていたと記憶している。
「とても嬉しいです。
私の立場からすると、こちらの時計の方が有能な医師に見えそうなので、とても嬉しいです」
彼は極上の鮮やかな笑みを浮かべている。
「祐樹はそんな物を付けていなくても既に有能な医師として病院内で認知されているだろう?
ボーナスも病院長が破格の金額を決めたと聞いているし……。
そのお蔭様でこんな綺麗な指輪を貰ってとても嬉しい」
薄紅色の指が、まるで芸能人の婚約発表の時のような感じで翳された。
「その指輪も貴方の指を飾るためだけに作られたみたいに似合っています、よ?
それはそうと、あの薔薇のツリーをバックに撮影するには良い時間ですね……」
聖なる夜の愛の交歓はその後にしようと下心を押し殺して笑みを浮かべた。
「そうだな……。あの薔薇のツリーをバッグに画像を撮って祐樹のお母様にも送りたいな……。
ああ、指輪は気を悪くなさるかな?」
そういう配慮深さも彼の美点だ。
「母は貴方が幸せそうに笑っている画像の方が喜ぶのでそのお気遣いだけで充分ですよ。
……そもそもダイヤモンドをリフォームして下さった時も喜んでいましたし。
あれも私の国際公開手術の祈りのためにリフォームして下さっていたのですよね……。色々考えて下さったのを後から伺って愛の深さを感じました。
今年は貴方の愛情を再確認した年でした、ね……」
ジャケットを羽織り直して部屋の外に行く準備をしながらも、真摯な口調で告げた。
「今年は、祐樹の外科医としての飛躍の年だったからな。
結果が良かったから全て良し、なのだが……」
懐かしそうな笑みを浮かべている最愛の人もしなやかな動作で立ち上がっている、左手の薬指を艶やかな薔薇のような笑みを浮かべて見詰めながら。
「やはりこの時間だと人が居なくなるな……」
一階に降りていくと暖炉の火と静謐な薔薇のツリーが存在感を放っていた。何だかクリスマスディナーが終わった貴族の屋敷のような雰囲気だった。
「そうですね。このホテルは正面玄関にはドアマンが居ますよね?ですからフラッと入って来る人が居ないのでしょう……」
最愛の人が納得した感じで頷いている。
「確かに……」
薔薇のツリーを背後に佇んだ最愛の人は、生花の薔薇の瑞々しい魅惑を湛えている。
「来年もどんなツリーになるか必ず一緒に見に参りましょうね」
嬉しそうな笑みを浮かべる最愛の人にスマホを向けると、右手を翳してくれた。
その姿を永遠に残すためにタップしてカシャっという音を静謐な空間に響かせる。
「ツーショットが欲しいな……。あ!あの人たちに頼むというのはどうだろう?」
円安のせいなのか、明らかに外国人と思しき雰囲気の男性の二人連れに最愛の人が弾んだ視線を向けていた。
祐樹の勘だけれども、そういうカップルだろう。彼はそういう裏事情には疎いので何も気付いていないだろうが。
「良いと思います。頼んでみましょうか?」
近付いて英語で頼めば、全てを了解した雰囲気で快諾してくれた。
「愛していますよ、永遠に」
若干華奢な肩を抱いて囁いたら、極上の笑みを浮かべた顔が祐樹の方へと鮮やかに咲き誇った。
<了>
--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが劇的に上がりますので、どうか宜しくお願い致します!!
にほんブログ村
小説(BL)ランキング
2ポチ有難うございました<m(__)m>
本記事下にはアフィリエイト広告が含まれております。