「見事な借景になっている、な……」
愛の交歓の甘い残り香と余韻を余すところなく纏った薄紅色の肢体に純白のシルクが映える最愛の人も祐樹の傍らに立って潤んだ目を瞠っている。
「そうですね。見事な日本式のお庭の灯篭の間に『五山送り火』の一つの『大』の字の山が見えますね。
尤も、今日は当然火こそ焚かれていませんが、あんなにも綺麗に見えるのですね……。
ああ、このバルコニーいや露台と表現するのが相応しい場所なので、やんごとなき人が『送り火』の日にご覧になることを想定してこの精妙な位置に椅子と机を置いたのでしょうね。火は入ってないのが残念ですが……」
最愛の人が祐樹の指の付け根まで細く長い指を絡ませてくれた。
「寒くないのでしたら、少しだけ夜風に当たって『大』の字と共に庭園を眺めませんか?」
……それに愛の交歓の後の戯れをしていない。
「全く寒くはない、な」
夜の闇に鮮やかで瑞々しい声が蛍のように飛んでいる気がした。
椅子は四脚用意されていたが、当然のように一脚に二人で腰を下ろした。
この場所が出来た時に文字通り舶来品として運ばれて来たのだろう、二人で座ってもまだ余裕の有る大きさだった。
「祐樹……」
紅く染まった唇がキスを強請るような角度に上げられているのも愛らし過ぎる。
「愛していますよ……」
熱く告げて接吻を交わす。そしてシルクのトロントした布を可憐に押し上げている尖りを指で辿った。
「あっ……」
微かな嬌声が紅い唇から零れ落ちるのも最高だ。
唇から紅色に染まった耳朶、そして細く長い首とくっきりと浮き出た鎖骨へと唇の刻印を捺していく、指の付け根を強く弱く握りながら。
「激しく愛し合うのも当然大好きですが、愛の交歓の後の匂いやかな聡の肢体を……もう一度情欲の火が燃えないように配慮しながら愛する時間も宝石のように貴重です……。
それに……シルクのナイトウエアも良くお似合いですよね……。こうして指が滑るところが特に良いです……」
祐樹の指を固く押し戻している小さな尖りも愛おしい。
「私も、愛する祐樹とこうしている時間が何よりも好きだ……」
無垢で無邪気な言葉を紡ぐ紅い唇に唇を重ねた。
「借景とは、この庭だけでなくて、『大』の字……送り火で焚く山までも庭の一部みたいに見せること、ですよね?」
多分合っているとは思うが知識の宮殿のような最愛の人に聞いておこう。
「そうだ。ただ、隣接している大庭園を借景にしているお寺などは多いらしいけれども、こうして山を切り取ったように眺めることが出来るのは珍しいのではないかと思う。
それはそうと『五山の送り火』の日に『大』の字でも『舟』でも何でも良いのだけれどもその火を盃に映して呑むと無病息災のお呪いになると言われているな……」
大学入学を機に京都に来て驚いたのはお盆を家で行うのではなくて街全体でご先祖様の霊だか魂だかを送り出すということだった。
ちなみに観光客も物凄く多いので日常生活に支障をきたす。
「無病息災ですか?ここでは充分に盃に映せそうですが……、送り火の日に借りたいとは言えないですね、残念ながら。
送り火って8月16日でしたっけ?その日に見ることが出来るホテルなどを調べて取りましょうか?」
桂離宮やこの御所宿泊の便宜を図って下さった山科さんは京都で絶大な力を持っているらしいけれども、大抵の国民があまり宜しくない感情を持っている宮家と太い繋がりがあるらしい。
そして山科さんの属する「白足袋族」に関連する人物を実名で公表するYouTube配信者がいると知ったからには尚更だ。
そんな祐樹の危惧懸念を感じ取ったのか祐樹の肩に凭れ掛かっていた彼の首が白魚のように動いた。
「8月16日……か……。
その日もこうして穏やかに、そして晴れやかな気分で祐樹と過せたら良いなと切実に願う……。
どこに居ようとも……」
イエスともノーとも言わない最愛の人に一瞬怪訝な気持ちを抱いたが、彼からの情熱的なキスで雲散霧消してしまった。
「そうですね。どこに居ても、聡と一緒ならば私は充分に幸せですよ」
至近距離で絡ませた視線の先の最愛の人の眼差しが多彩な煌めきに満ちていた、火のように紅く蒼く。
<了>
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