祐樹の丹精込めて育てた魔性の花園だけでも祐樹には充分過ぎるほどの快楽を与えてくれる。
しかし、更にその奥の祐樹だけの小さな泉は熱いゼリー、いや最愛の人が大好きなタピオカの感触で極みへと導いてくれる天国への門だ、文字通りの。
「ゆうっ……きっ……、繋がった……奥のっ……奥からっ、脊髄を……伝って……頭の中……までっ……蒼い稲妻が、絶え間なくっ……奔って……とてもっ……悦っ……」
恐らく無意識だろうが、祐樹を更に奥処に迎え入れようと紅色に染まった脚が開いていくのも、そして腰を上下に細かく淫らに動かしているのも触覚だけでなく視覚も聴覚も表現出来ないほどの快楽をもたらしてくれる。
「聡の……奥処が……気持ち良すぎて……もう、長くは保ちそうに……ないです……」
臨界点を少しでも引き延ばしたくて100までの数字の中で25個ある素数を順番に考えようとした。
中学レベルの数学なのは忸怩たる思いだったが、切羽詰まっている今はこれ以上の数式を考え出す心の余裕が全くない。
2・3・5・7までカウントした時に山おろしのような強い風の音が最愛の人の紅色の歔欷の声と繋がった場所から奏でられる二人の肌の音に混じっている。
次の瞬間、その風で舞い乱れた雪が最愛の人と祐樹の素肌に白い嵐のように降りかかった。
「あっ……。冷たいのがっ……逆に……気持ち悦っ」
艶やかで熱い声が庭の雪を紅色に染めて、そして溶かしていくような錯覚を抱かせる。
「もう……限界です……」
9が素数かどうかを考えながら紅色の耳朶に熱く荒い息を吹きかけた、腕の中に居る人にも絶頂を唆すように。
「祐樹っ……私もっ……もうっ……」
感極まったような小さな声が雪を濃い紅色に染めて煌めいているような気がしたのと同時に真珠の迸りが弾けた。
胸の尖りをキュっと摘まんでいた右手を必死の思いで汗の雫を纏った平坦な腹部に滑らせると彼の花芯も白い蜜をしとどに放っているのを確認して、快い弛緩に身を委ねた。
「愛する聡、とても良かったです」
縁側の温かい床に倒した祐樹の身体に凭れ掛かった最愛の人に治まらない息のまま告げた。
「祐樹、私もとても悦かった……。愛する祐樹とこうしている時が……私にとって……至福の時間なので……」
咲き匂う花のような風情の声が甘く小さく紡がれた。
「私もです。聡の愛情を全く疑ってはいないのですが、こうしてしなやかな肢体の外側と内側の両方とも繋がって抱き合っていると殊更実感します。
それはそうと寒くないですか……?私は床暖房で温かいですが、聡は違うでしょう」
汗の雫を纏っている最愛の人の紅色の肢体は甘く香り立つようでいつまでもこうしていたいと思ってしまう。
しかし、発汗作用は体温を急速に奪っていくものだということも当然知っているので気になった。
若干華奢な身体にも関わらず体力も免疫力も持っている人だけれど、風邪を引かせてしまうのは恋人としての沽券に関わる由々しき事態だ。
「まだ寒さは感じない、な。祐樹の肌の熱さを分けて貰っているし……。それに何より祐樹とこうして愛の行為を存分にしたので、気持ちまで充分満たされているからだろう……」
紅色の素肌に風に舞っている雪が、束の間宿っては溶けていく眺めは最高だったのだけれども、体温を奪っている点に留意しなければと理性は告げている。
「そうですか。こうして繋がったまま庭の雪を見るのは最高ですが……万が一にも風邪を引かないようにほどほどで切り上げましょうね……」
最愛の人の細く長い紅色の首がゆうるりと動いて至近距離で視線が絡み合う。切れ長の目を縁取った長い睫毛にも涙の雫が宿っている。
そして艶やかに潤んだ眼差しに惹かれるように口づけを交わした。愛の交歓の余韻を纏ったキスは甘やかさが匂い立つような感触だった。
「先ほどは絶頂を少しでも長引かせようと……素数をカウントしていたのですが、聡の天国のような花園とその奥処の気持ち良さに9が素数かどうかも分からないという情けない有様でした」
苦笑しながら花よりも瑞々しい唇にもう一度唇を重ねた。次第に深く絡み合わせた舌を引くと、艶やかに濡れた唇が銀の糸で祐樹の唇と束の間の架け橋を作っている。
「素数?……1とその数字でしか割ることが出来ない数字だろう……。9は3の二乗だから当然素数ではないのだけれども……?
ただ、方程式を解いて絶頂を我慢するとかフィボナッチ数列を検算してみて確かめるとかで……必死に限界を堪えようとするのは一緒だな……」
紅色の濡れた唇が極上の笑みを浮かべている。
……同じだろうか?数学という点では共通しているが、祐樹の場合は中学レベルで最愛の人が考えていたというフィボナッチ数列は高校二年の数学Bの応用問題だ。しかも最愛の人の場合、どんどん計算していって黄金比である1.618まで到達しそうだ。
そんなことを考えていると風に乗って雪の欠片が紅色の唇に宿った。
その紅色と純白の泡沫のコントラストを惚れ惚れと見入ってしまう。
「数学という点ではそうですね……。
それはそうと、そろそろ室内に戻りませんか?いつまでも聡とこうして雪見をしていたいですけれども、これ以上身体を冷やすのも……」
断腸の思いで繋がりを解いて最愛の人の肢体を抱き上げた。
「ここも良い宿だな……。雪の季節ではなくてもまた来たい、祐樹と」
首に回された細く長い指が縋るような力を二重に込めているような気がする。至近距離で絡み合う眼差しにも真率な光が宿っていた。
言うまでもなく祐樹の腕への負担を和らげるためと、もう片方はこの宿に再び訪れたいという思いからだろう、きっと。
「またご一緒に参りましょうね。聡が望むならば何度でも……」
約束の口づけを交わした。
<了>
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厳しい残暑というか酷暑が続いていますが、読者様はいかがお過ごしでしょうか?
少しでも暑さしのぎになれば!と書いていたお話しもやっと<了>の文字を打てました。
最後まで読んで頂き有難うございます。
次は「離宮デート」を終わらせるように頑張ります。
こうやまみか 拝
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