「そうそう、そんな感じです。医師が言うには少し軽薄な感じがしますがキャラクターになり切って頂かないといけませんので……」
浜田教授も満足そうな笑みを満面に浮かべている。最愛の人も感心したような笑みを向けていてくれていたし、即席のアドリブにしては上手く演じきれたのだろう。
「では、その感じで病棟を回って頂けますか?具体的な部屋は柏木先生が把握なさっていますので。柏木先生お願いします」
浜田教授が呼ぶと変わったサングラス状のモノを装着したスーツ姿の――病院では不文律めいたスーツのコードが有るので真っ青なワイシャツとか黄色と黒のネクタイは許されないだろうが、これはコスプレとかいうモノだ。かく言う祐樹だって白い髪に青いカラーコンタクトとラフな格好をしている――柏木先生が近づいて来た。
「田中先生、良く似合っているな……。その最強感とか不遜な感じは『天上天下唯我独尊』って感じだ。流石は小児科のナースが満場一致で選んだだけのことは有るな……」
感嘆の声に苦笑してしまう。天上天下唯我独尊……そこまで言われるとは思ってもみなかった
「瞬きする度に睫毛が重く感じます。それに視界にも白い毛が入って何だか不快な感じです……。ただ、目の周りの細工は香川教授にして頂きました。外科医にとって目は命ですから……」
最愛の人を含めた三人の教授の輪から遠ざかったせいか、頭が火山のような呪霊も近寄って来たし、その他人ならざるモノもわらわらと寄って来た。中にはムカデみたいなものとかジンベエザメっぽいモノを手にして動かしている人まで居て、この連中と歩くとまさに百鬼夜行といった感じだろう。
「へえ……香川…教授がね。確かに病院一の器用さだから、適任だと思うぞ。良かったな。ま、そういう不満・文句はアニメ会社か作者に言ってくれ……。『小児科病棟・百鬼夜行』に行って来ます!!
内田教授のような芝居っけは柏木先生には無さそうだ。ごく一般的な報告という感じだったが、こちらもキャラクターに似せているのか普段よりも低いし渋い声を出している。
現代風の百鬼夜行の――百人は居ないが多分その半数は居るだろうし、ムカデ状のモノを引っ張っている呪霊も居るので――面々は皆楽しそうだった。
ちなみにエントランスは吹き抜けになっているので、二階部分は病院関係者で鈴なり状態だった。男女問わず皆がスマホやカメラで撮影をしているようだったし。
「行ってらっしゃい。医療用具などに当たって壊さないように気を付けてください」
浜田教授が満面の笑みを浮かべながらも注意を忘れないのは流石だった。
「任せなさい」
親指を立ててそれっぽく言うと、最愛の人が一瞬だけ花の咲いたような笑みを浮かべて祐樹を見た後に怜悧な表情に戻った。
「ハロウィンはもともと、あの世に居る霊がこの世に帰ってくるという西洋の迷信から生まれたものですから、あの世の亡者がそんな恰好をしていても全くおかしなことではないです。
その呪霊が悪さをした時には『無量空処』で祓ってやるのも良いでしょう」
最愛の人が祐樹の傍に歩み寄って来た。確か「無量空処」は祐樹が扮したキャラクターだけの得意技なので祐樹に言っているのだろう。
「祓われるのはキャラの設定上仕方ないです……。『領域展開・無量空処』を食らって『何も見えん、いや何もかも見える……何時まで経っても情報が完結しない。故に何も出来ない』って渋い声で言う方が難しいので、食らわないように善良に振る舞います」
活火山のような頭とか鉄漿を塗った――多分、歯に黒いモノを塗っただけだろうが――久米先生の声が聞こえて来た。慌てると何もない所で転倒するという特技(?)を持っているのを知っているせいか、それとも元々のキャラクターに寄せたのか「杖」を持っているところはなかなか気が利いている。
「何もかも見えるから何時まで経っても情報が完結しない」という状況がどういうモノなのかサッパリ分からないが、それは祐樹がアニメや単行本を読んでいないからだろう。
最愛の人の目を見つめて、親指を立てたジェスチャーをすると、口角を上げた薄紅色の笑みが返ってきた。浜田教授も内田教授も頑張れというような眼差しを返してくれたが、この際そちらは正直どうでも良い。
小児科の病室に入ると、患者さんが飛び跳ねるように迎えてくれた。高度な医療を施すこの病院に入院するからにはそれなりに重篤な子供が多いにも関わらずこんなに元気なのだから喜んでくれているのだろう。
「先生に任せなさい!
そう言ってみると「はーい!」とか「『無量空処』をして欲しい」とか言われて、リクエストに応えると歓声が上がった。子供達からも、そして病棟に詰めていたナースからも。
「何も見えん、いや何もかも見える。情報が完結しない。故に何も出来ない」
久米先生扮する活火山頭の呪霊のリアクションには「全然似てないー!」「声も演技も下手―!!」というブーイングが患者さんから上がっている。子供はある意味正直かつ残酷だ。
そんな厳しい(?)環境でも祐樹の恰好とか演技は好評で「わー!五・条先生そっくりぃ!!」「その目綺麗っ!!」とか女の子からも三々五々に声が掛かった。
「大丈夫、僕最強だから」
言い放つと周りの子供だけでなく人の心を持っていない――原作を読んでいないのでもしかしたら違うのかも知れないが――呪霊までもが感心したような声を上げた後に、我に返ったようにおどろおどろしい演技へと戻っていくのが何となく可笑しい。普段ならそんなことで笑わないのだが、このキャラクターは常に笑っている感じなので、せいぜい人を馬鹿にしたような笑みをグロスとやらを塗り直して貰った唇に浮かべる。
「ハロウィンの日はお菓子を持って来ますから、楽しみにしていてくださいね。イタドリ君はもう患者様なのですから」
妙なサングラスをかけた柏木先生が訳の分からないことを言って回っているが、多分内田教授か浜田教授からの指示が有ったのだろう。
病室で子供達から大歓迎を受けていると、こんな格好までして良かったなと思ってしまう。
ハロウィンの日はもっと演技の精度を上げようと内心思いながら無菌室まで行って、多分完璧な「領域展開・無量空処」の演技をすると、ハードな治療を受けている子供が拍手してくれたことが喜ばしかった。
<了>
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