腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します 申し訳ありませんが書く時間を最優先にしたいのでリコメは基本的に致しません。 要望・お礼などは「日記」記事でお応えしますが、タイムラグがあることも多いです。

気分は下剋上 香川教授の煩悶 <夏休み>の後

気分は下剋上 香川教授の小さな煩悶 6

 後輩でもある久米先生に対して割と辛辣(しんらつ)な口調ながらも丁寧に教えているのは知っていた。

 それに以前は職員専用の喫煙所で――今はさらに不便な場所に移動されている――ナースの愚痴を聞きつつ病院内のウワサを収集していたということも。ただ、その時もナースの愚痴を聞いてアドバイスをする程度しかしていなかったと聞いている。今は仕事が忙しくてウワサの収集は止めているみたいだが。 

 恋人同士になってからは、親密な夜を共に過ごしている。経験値の差が圧倒的に開いているせいもあって、祐樹の方がイニシアティブを執ることの方が多いのは確かだ。

 ただ、退屈なフランス映画に有りがちな――祐樹の居ない夜は家事をしながらテレビ番組や映画を流していることが多い――「女性家庭教師と教え子の夜のレッスン」めいた感じは全くないような気がする。

 全てを教えるというのではなくて、お互いの感じる場所を一緒に探していくというスタンスと言ったら良いだろうか。

 自分の場合、祐樹の前に経験したのは、絶対に日本に帰ることはないと思っていたので、祐樹に何となく似たアメリカ育ちの日系人と一度だけ関係を持った。その時は淡々とコトが進んで(何だ、こんなモノか)と思った。

 祐樹との愛の行為は全くそういう想いを抱いたことはなかったし、愛の手管に甘く紅い海に溺れていくような感じだった。ただ、教えて貰ったわけでもないし、唇と喉で愛する行為については「聡ほど上手く出来ませんが……」と何度も言われた覚えがある。

 祐樹には恋人に教えるのが楽しくて仕方ないという感じは全くないなと思う。

 一人暮らしの時は全く料理を作っていなかった祐樹の初めて作ってくれた料理の味はともかくとして、その気持ちが嬉しかった。包丁(?)も思いっきりメスの持ち方だったし。

 その後一緒に住むようになって自分が料理しているのを見て祐樹も作ってくれるようになった。コツのような物は教えたけれど、祐樹はほぼ独学で料理を作ってくれるようになった。

 お互い相手に教えるというのが余りないような気がして、この例には当てはまらないなと思っていると、ドアのノック音が控えめに響いた。

「長岡様にお届けに参りました。お待たせして申し訳ありません」

 コーヒーが届いたのだろう。長岡先生は床に無造作に置いた愛用のバックの中身をひっかきまわしている。

 ホテルの宿泊した時にはレストランで食事をした場合、部屋にツケておいてチェックアウト時に清算出来るシステムだが、配達の場合はそういうシステムではなさそうだ。

「こちらがお話を伺っている立場ですのでお支払いします」

 普段から財布は常に持って歩いている。手術の時はロッカーに入れて施錠しているが。

 長岡先生が返事をする前に立ち上がってドアを開けて会計を済ませた。

「何だか申し訳ないですわ。

 大したお話もしておりませんのに……」

 正直祐樹の件については参考にならなかったのだが、自分の知らない世界を教えて貰えたし、貴重な時間を割いてくれたのも事実だったので。

「そのバック……大きすぎませんか?男性も持てるようにとか旅行用に使う大きさですよね?」

 コーヒーとケーキ、そして砂糖とかミルクとかが載ったトレイを持って机に並べながら言ってみた。

 たまたま一人で服を買いに行った時に、壁だと思っていた場所が魔法のように開き、そちらに招き入れられた覚えが有る。その時は内心驚いたが、スタッフ曰く「特別なお客様だけを通す客室で、良い物が入荷しましたので」とのことだった。確かに部屋は暖炉の炎を思わせるブランドカラーを基調にした壁とかソファーやクッションも同じブランドで統一されているリビングルームのような部屋だった。

 そして、スタッフが捧げ持つように持って来たのが、色は違えども大きさは同じ大きさのバッグだった。全く買う積りなどないので固辞した覚えがある。「女性がパートナーと兼用でお持ちになることが多いです」とのセールス文句だったが、祐樹は「雨に濡れたらダメなバックって……持つ意味有るのですか?」と呆れた口調で言っていたし、そんな大きなバック、しかも祐樹曰くブランド物に目ざといナースの視線を集めるような代物は持ちたくないし、持つ必要も全く感じなかった。

「いえ、京都の百貨店にたまたま寄ったら、ゲストルームに呼ばれまして……。レアな色だからと勧められてついつい買ってしまいましたの」

 長岡先生の今日のスーツは水色で、カバンの取っ手とベルト部分も水色、そして本体は桜色だった。

「それに、今は需要と供給のバランスが崩れていまして、毎日入荷しているかを確かめにいらっしゃる方が多いらしいですの。エルパトと俗に言われているようですが」

 そう言えば自分が店内に居た時も「バーキンかケリーの入荷は有りますか?」とだけ聞いて帰って行った女性が8人居たなと思い出した。スタッフは「見て参りますので暫くお待ちください」と言ってバックヤードと思しき場所に入って引き返し「申し訳ございません」と頭を下げて言っていた。スーパーでたくさん売っている野菜などの場合は売り場で品切れだったとしても、店員さんに言えば出して貰えることが多い。しかし、バックの入荷数くらいは把握出来るだろうと内心思っていたのだが、今思うとあれは客を不快にさせないためのような気がする。

「エルパトとは何ですか?」

 聞き慣れない単語だったのでつい聞いてしまった。コーヒーカップの湯気を唇に当てながら。

「エルメスパトロールの略らしいですわ。毎日行って在庫が有るかをパトロールするという意味です。

 私の場合ゲストルームに入ってしまうと、何だか買わなくては申し訳なく思いまして……つい買ってしまいましたの」

 ああ、あの部屋にはそういう心理にさせる効果が有ったのだなと思ってしまう。

 ケーキを口に運んだら、大阪の同系列のホテルのよりは美味しかった。

 長岡先生は可笑しそうに微笑んで自分を見ていた。

「田中先生に関する教授の悩み事を解決する手助けになりましたでしょうか?」

 意外な言葉に内心で驚いた。この部屋に来てから祐樹のことは一切言っていないし匂わせもしていない。

 男性心理について聞いただけなのにどうして分かってしまったのだろう?


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気分は下剋上 香川教授の小さな煩悶 5

「そうなのですか?是非教えてください」

 自分の場合は、恋愛対象が同性というだけでトランスジェンダーではないと自己分析している。女装をしたいなど一切思ったことはない。

「そういうパーティにいらっしゃる方はいわゆる富裕層ですよね。IT企業の創設者といった新興の方もちらほら混じっています。岩松のように明治時代からずっと招かれているような、いわゆる居着(いつ)きと呼ばれる人もたくさんいらっしゃいますけれど……」

 婚約者の岩松氏は代々日本一有名な私立病院を経営している一族なので、そうだろうなとは思う。そして長岡先生の口調も患者さんの容態を説明する時と同じ感じで、つまり奢ったところが微塵もない。

 祐樹が心の底から驚いていた4,000万円ほどのバックは――ゴミ袋に入れていたのはいただけないものの――彼女にとってごくごく自然なお出かけ用のバックなのだろう。

 そういう彼女だからこそ、富裕層が集まるパーティも「日常」の延長線上に位置しているに違いない。

「入れ替わりも激しそうですからね……。教科書や雑誌で読んだだけの浅い知識ですが、バブル期では土地成金と呼ばれていた人達はバブルが弾けて数億とか数十億の規模の借金だけが残ったということは知っています。

 そういう人は居着(いつ)きとは呼ばれないのでしょうね……」

 ちなみに自分の自宅にも招待状は送られて来る。ただ、そんな場所に行って見知らぬ人と過ごすよりも、祐樹と一緒に家で一緒に食事を摂ったりリビングで隣り合って座って頭を撫でられながらテレビや録画した映画を観たりする時間の(ほう)が貴重なので全て断っている。

「そうですわね……。男性に2パターン有ると申し上げましたでしょ?

 パートナーはあくまで対等な知識レベルを求める人と――こちらの(ほう)が少数派のような感触を受けました。詳しく伺ったわけではないので、あくまで私のイメージですが――例えばオペラ歌手、といっても本場で修業したものの、ちっとも有名にならずに帰国した女性とかのような殿方とは全く異なる分野には精通しているものの、他のことは全く知らないとか、賢くないという女性を好む人も多いですわね。

 ただ、その傾向は居着(いつ)きではない人に多いような気が致します。

 IT企業とか怪しげな通信販売ビジネスで成功なさった方などは決して高学歴ではない方も混ざっていまして……それがコンプレックスになっているような感じですわね。

 ですから学歴の低めな女性をパートナーに選ぶ傾向が強いように感じました」

 学歴コンプレックス――ではないような気がする、祐樹の場合は。

 何しろ同じ大学卒なので劣等感が芽生えようもない。

 出会って最初の頃は――自分にとっては再会だった――怒ったような雰囲気を纏っていた時も有ったが、あれは研修医と教授職という立場の違いのせいだった。

 その誤解というかお互いの生い立ちなどを話したり、なかなか言えなかった自分の気持ちを吐露したりした後は全くそういう気配がなくなった。

「学歴コンプレックス以外に……男性が優位に立ちたいと思うことは有るのでしょうか?」

 長岡先生は綺麗な目を不思議そうな感じで瞬かせている。

 そういう話は――祐樹が一緒に居てくれる時などは世間話もするが――二人きりでは短い会話しかしないし、本題が済むとあっさり話を終えることの方が多かったのだから

「ああ、パーティでの話ではなくて、教授が紹介してくださった、京都で今一番美味しいというカウンター割烹のお店に二人で参りました時に、奥さんではない人を岩松の知り合いが連れて参りましてね。

 まあ、男同士の暗黙の了解みたいな感じで苦笑いを交わしていたら、席がお隣でしたの」

 そのカウンター割烹は祐樹もお気に入りの店で割と良く足を運んでいて、元は有名な料亭で板前を務めた主人とその妻の二人で経営している。味の落ちるのを防ぐために店の規模を大きくする気もないと以前聞いた覚えがある。

 味は文句なしに美味だったが、店内は狭いし、予約の電話を入れても希望の日時は塞がっていることもある。

「あそこのお店ではそういうことも有るかもしれませんね……。ご不快ではなかったのですか?」

 多分、その男性の奥さんを長岡先生は知っているハズで、その男性が他の女性と共に予約の取れない店に来て会ってしまったら何かしら思うことがあるような気がする。

「そんなこといちいち気にしていたら、あんなパーティにとても出られませんわ。

 私も幸いなことに香川教授に誘って頂いて、この病院に参りましたでしょ?

 東京に居るとそういうパーティには出ないといけないのですけれど……。『あの香川教授の元で内科医として働いている』ということで面子(めんつ)は保てますし、体のいい断り文句にもなります」

 長岡先生が頭を下げてくれた。個室を出る時には黒いゴムで縛っている髪がさらりと動く。髪の質が良いのか、マメにケアしているのかシャンプーのCMに出ている女優さんのような髪が綺麗な光を放っている。

「いえ、優秀な内科医ですから。内科の内田教授からも教授会の度ごとに『長岡先生をウチにスカウトしたい』と言われています。仕事さえ完璧であれば、それで良いと考えていますので」

 あとは、冗談の言えない自分が祐樹と話す時、祐樹の屈託のない笑った表情とか声も大好きなので、ついつい長岡先生の珍エピソードを話しているというのは流石に口には出せない。

「有難うございます。そう言って頂けて光栄です。

 奥様の前では控えめな印象しかなかったのですが、その女性には『(はも)にそんな梅肉を付けたらダメだよ』とか、『こんなに新鮮な鯛のお造りなのに、山葵(わさび)を醤油に粘度が出るまで溶かすのは止めなさい。こういう魚は何も付けなくても美味しいのだから、山葵も醤油も少しだけ付けなさい、それも目立たない場所に』とかいろいろとアドバイスというかレクチャーをしていました。

 女性も、内心は分かりませんが……綺麗な笑みを浮かべて素直に聞いていました」

 教えるのが好きな男性もいるのか……と新しい知識を得た。

 祐樹の場合はどうだろう……?


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気分は下剋上 香川教授の小さな煩悶 4

「あら?有りませんでした?申し訳ないですわ。お手数をお掛けしますが……予備の豆が教授の足元の棚の中と、コーヒーカップが並んでいる食器棚の引き出しの一番上、そしてコーヒーメーカーの上の棚の引き出しに入っているハズですから、探してくださいませんか?」

 申し訳なさそうに頭を下げる長岡先生だったが、予備の物を買い置きするというのはまだ普通だけれども、それを色々なところに分散して保管する意図が分からない。

 どれも高価なコーヒーカップとマグカップを丁寧に洗っていく。底に付いたコーヒーの汚れがなかなか取れなくて、今日飲んだ物ではなさそうな気がした。飲み終わった後、直ぐに洗えばスポンジと洗剤だけで奇麗になるのは経験上知っている。しかし、カップの底の頑固な染みについては指の力を使ってもなかなか取れなかった。

 その後、長岡先生の言った場所を三か所とも探す。いろいろなものがごちゃごちゃに、そして容量オーバーに詰まった食器棚の引き出しの中にそれらしいパッケージを見つけて取り上げる。なんだか中身が詰まっていない感触だったが、開けてみるとその通りだった。その虚しい作業を終えると、見なかったことにして全部閉めた。

 普段の自分だったら、三ケ所とも整理整頓をしようと無意識に手が動く。

 ただ、今日は自分にとって最重要な相談があるのだから、そちらを優先したくて。

「三か所とも空でしたよ?

 どうしますか?やはり今からでも執務室にご足労頂くのが最も良いと思うのですが?」

 長岡先生は思いっきり首を傾げている。多分三か所のどこかにコーヒー豆のストックがあるとでも思いこんでいたのだろう。

 いずれは岩松氏と結婚して家庭を持つ人だが、メイドという言いつけられた仕事しかしない――漠然としか知らないが――を雇うよりも執事を一人置いた方が絶対にいい。アメリカ時代の自分も手術が成功して快癒した元患者さん所有の豪華客船だったり、アメリカの別邸などに招かれたりした経験があった。

 主人の意向を汲んで先回りする執事という存在は、長岡先生には多分欠かせない。

「いえいえ、コーヒー豆を切らしてしまっていたのはこちらのミスです。今メールでコーヒーを二つとケーキをリッツから配送してもらうように頼みましたのでしばらくお待ちくださいね。

 大阪にもあるそのホテルは祐樹と初めて結ばれた神聖な場所だったし、その後もしげしげと足を運んでいる、もちろん二人だけで。だから定宿というか、祐樹(いわ)く「第二の愛の巣」だったが、そういうサービスがあったとは知らなかった。

 ただ、婚約者の岩松氏みたいなVIP中のVIPには特別扱いがあるのかもしれない。祐樹と自分は単に宿泊するだけの一般客なので、お金もそれほど遣っていない。しかし、岩松氏や長岡先生の場合は、宴会場と数室貸し切りとかを何度もしそうなのでホテル側としてもそれだけのサービスをしてくれるのかも知れない。

「ケーキですか?そこまでご馳走になるのは申し訳ないですが……。ご厚意に甘えます」

 大阪のホテルのケーキは「本場パリの味」を(うた)っていて一度期待に満ちて食べた覚えはある。あるが、正直二回目を食べてみたいとは全く思わなかった。

 ただ、そう言うのも憚られる雰囲気だった。

「すみません、到着するまでお水で良いですか?」

 長岡先生がヒールを鳴らして立ち上がって小さな冷蔵庫を開けた。何気なく見たのだが、色々なものが無秩序に並べられていて、卵などをこの部屋に置いていてどうする積りなのだろう?と本気で心配してしまった。自分の執務室もそうだが、病院内の個室では料理をすることを想定して作られてはいない。

「ええ、お水で結構です」

 卵と異なって水は賞味期限が切れていてもお腹を壊すことはないだろう、多分。

「で、あまり賢くない女性とお付き合いする男性の心理ですか……教授がお聞きになりたいのは……?」

 不審そうに――それはそうだろう、長岡先生は祐樹と自分の真の関係を最初から見守ってくれた人で。そして自分が異性に性的な意味では全く惹かれないことも知っている――ただ、親身さを滲ませて長岡先生が本題を切り出した。あまり詮索をしない点が有難い。

「そうです。美しい人はもちろん世の男性は好きですよね。それは頭では理解している積りです。

 しかし、美しくても頭の中が空なのではないかという感じのタレントさんも人気が有りますよね?

 下手をすれば才色兼備な女優さんよりも世の男性に人気がある場合も多いですよね……。あれは一体どういう心理なのでしょうか?」

 祐樹がそう言っていたということは伏せて一般論として聞いてみた。

 ただ、祐樹との仲を知っている人――長岡先生とか呉先生とか――に相談しようと思えるようになったのは自分にとっては大進歩だった。

 世界規模で有名なアメリカの富豪が自分たちに言わせれば、たかが狭心症のために来日した時、その秘書兼ボディガードが「祐樹好み」ではないかと思い込んで――何せ、かつてゲイバーで祐樹と語り合っているのを見た蠱惑的な男性よりも、同じタイプながらももっと綺麗で賢そうだった――事故に見せかけた自殺を真剣に考えた。その同時は誰にも相談出来なかったことを考えれば進歩したのかもしれない。

「男性は自分よりも勝った女性に対して多少ながらも(ひる)む気持ちが有るのかも知れませんわね。

 岩松とパーティなどに参りますでしょう?その場合、パートナーの女性も必ず同伴することといったルールがありまして……その女性達は二つのパターンに分かれると思っていましたの……。

 そしてその女性を連れてくる男性の心理状態というか、無意識下での望みも分かるようになりました」

 興味深い話に思わず身を乗り出した。


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気分は下剋上 香川教授の小さな煩悶 3

 あの人は――祐樹に聞いたら名前も覚えていないと言っていた――祐樹を口説いていた。

 当時は祐樹が口説いていたと壮大な勘違いをして一方的にショックを受けて逃げるようにアメリカに行ってしまったが、あの人は確かに賢そうには見えなかった。人間は見た目で判断出来ないが理性よりも感情が勝るタイプに見えたような気がする。

 ああいう人の方が、やはり祐樹は好みなのだろうか……。

 もしそうだったら、自分は祐樹の好みではないということなのかと思うと親から貰ったこの容姿も何だか呪いたくなってくる。

 大学時代に女性同士の話を聞いてしまった覚えがある。

「同じ大学でならともかく『クラブに行って大学どこ?』って話を振られるとドン引きされるからK都女子大とかって言ってる~」

「あ~それ凄い分かる。バカのフリは簡単だよね~。だってさ、え?何それ知らない~!分からない~って言っていれば良いもんね。私らさ、ミクロ経済もマクロ経済も習うから、株とかの投資方法も何となく分かるよね~。でさ、銀行員に声かけられたことが有って、二回個別で飲みに誘われて……」

「ナミってモテるから~」

「ううん、そんなことはないけどね~!投資信託勧めて来たんだよ。だからクラブで声掛けて営業の一環だと思うよ~。でさ、お母さんにその話したら『こちらの個人情報は何一つ開示しなくて、相手の話だけ聞いて来なさい』とか()われて……。『投資信託?それ何?美味しいの』的に話を聞いたんだ~。そしてね、そのお勧めファンドをしっかり記憶して帰って、ネット証券で調べたら、手数料無料だったんだ。銀行はしっかり手数料取って儲けようとしているのが嫌だよね~!それか、ノルマでも有ったんじゃないかなって思う。ま、私らも銀行に就職したらああなるのかな~!社会に出るって厳しいよね。K大卒だと上司とかは知っているわけだし、ウチの大学出ててそんなことも知らないのかって言われちゃうだろうし……」

 学食で耳に挟んだ言葉だった。今の今まで脳の奥底に眠っていた会話の断片だったが。

 そして二度と再生する機会がないと思っていたシロモノだった。

 祐樹は自分の知識や経歴も勿論知っているわけで、今更バカな振りは出来ない。

 どうしたら良いのだろうか?あの場に居た久米先生に詳しい経緯(いきさつ)を聞いてみようかとも思ったが、患者さんの容態のことならともかく祐樹と患者さんの雑談内容などを聞き出すのは、少なくとも自分にとっては至難の業で……。頭まで痛くなって来た。

 久米先生がダメなら祐樹に直接聞くという手もあるが、どうやって切り出せば良いのか分からない。

 頭痛薬を飲みながら文字通り奈落の底に落ちていく気分を味わって……真っ暗な闇に身体ごと溶けていくような気分だった。

 こういった問題を相談出来る人は?と考えて真っ先に不定愁訴外来の呉先生だ。

 優秀な精神科医でもあり、同性の恋人とケンカしながらも仲睦まじく暮らしている。自分にとって、祐樹は最高の恋人であり、生涯を共にしようと約束した仲でもあるけれども、祐樹の本当の好みが「バカ」だったとしたら……そのうち破綻してしまうのかもしれない。そう思うと居ても経っても居られなくなる。

 PCの前で不定愁訴外来の予約状況を見る前に祐樹の勤務シフトを再び確認してしまう。つい先ほども見たばかりだったけれども。やはり祐樹は二日後の夜にしか帰宅しないと画面が無情に告げている。ちなみに教授職であるアカウントなので、割と色々な科のことも表示されるし、自分の医局員のシフトなどは常時把握出来る。

 不定愁訴外来はあいにく予約した患者さんで埋まっていた。呉先生のラインに「可及的速やかにご相談したいことがあるので、都合の良い日時を指定してください」とだけ送信した。

 中々既読が付かないのは、患者さんと話しているからだろう。

 長岡先生はどうだろうか?女性の意見も聞きたいと思った。

 先ほど部屋に居た秘書も女性だけれど、雑談めいたことは全くしないしお互いの私生活について――同性の恋人という存在は、社会的な認知度とは異なってこの病院では隠してかなければならない極めてデリケートな問題だ――話したこともない。

「もしもし、長岡先生ですよね。少しプライベートなことで相談に乗って頂きたいことが有りまして……。はい。では直ぐに伺います。いえいえ、こちらから足を運びますので」

 長岡先生は経歴だけを見ればK応幼稚舎から高校までを卒業し大学は日本で最も偏差値の高い医学部だ。祐樹や自分がこの大学を選んだ理由は地理的なことと経済的なことだけだったが。

 K応にも医学部は有るのだけれど、高校の担任に「成績はともかくその不器用さではねえ……」と断られたと聞いている。T大の試験はペーパーテストのみなので本人(いわ)く良かったとのことで。

 仕事面では有能過ぎる人なのだが、私生活は色々な意味で破天荒だった。ただ、祐樹がそれを面白がっているフシもあるし、何より肉親の縁の薄い自分にとっては少し困ったところのある妹みたいな感じだった。それに婚約者が日本で一番有名な私立病院の御曹司なので、色々と社交(?)めいた交際は多いだろうし。

「香川教授、どうなさいました?お顔の色が優れませんけれど?」

 いつもなら片付けたくなるような乱雑さに満ちた部屋だった――どうしてコーヒーカップとマグカップがデスクの上に計5つも並んでいるのだろう?とは思ったが――今日はそれどころではない。

「あのう、バ……あまり……賢くない女性とお付き合いしたがる男性の心理についてご存知のことが有ればお教えください」

 困ったように笑う長岡先生だったが、彼女も優秀な内科医だ。内科の内田教授が本気で引き抜こうとしているほど。

「コーヒーですか?私が淹れますので聞かせてください」

 何かしていれば少しくらい気が紛れるだろうと思って、マイセンとウエッジウッドのカップ類を机から取り上げてコーヒーメーカーの前に立った。

「コーヒー豆がないのですが……」

 困惑して後ろを振り返った。




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気分は下剋上 香川教授の小さな煩悶 2

「見てくれだけのバカ……ああ、それは大好きですね。もう、愛しているといっても過言ではないです」

 部屋の最も奥で数人と話しているらしい。患者さんの声高な声や笑いで祐樹の会話全てが聞き取れたわけではない。

「え?田中先生ってそうなのですか?それは意外でした……」

 久米先生の声も聞こえる。

 見てくれだけのバカが好き?愛している……?

「あ、香川……教授。田中先生がフォローに入ってくれているようですので、一旦は外に出ましょう」

 祐樹の言葉に頭に脳が詰まってないような気がして来た。

 いや、気を確かに持とう。

祐樹が自分のことを好きと言ってくれたことや生涯に亘るパートナーとして一緒に居てくれることは既定路線のハズで、今の今まで露ほど疑ったことはなかった。

「ああ、もうこんな時間だ。病院長から呼ばれているので、今から行かなければならないので……。用事が有ったら、呼んでください」

 柏木先生にそう言うのがやっとの有様だった。

 病院長のアポイントメントなどはなくて、単に一人になりたかっただけだ。

 祐樹の衝撃の告白(?)を聞いたのが手術前でなくて本当に良かったと思った。

 病院内のエレベーターの遅さも――車いすの患者さんが乗ることも想定して設計されたのだから当たり前だ――今の自分にとっては苛立ちのタネになっている。

 外科医としては気の長い性格だと自負していたのだが、祐樹絡みになるとこの体たらくだ。

 エレベーターに乗り込むと教授執務階のボタンを何回も叩いてしまう。

「すみません、急ぎの仕事は有りますか?」

 事務処理能力抜群の秘書に声を掛けたのは殆ど条件反射というか無意識で行っているような類いだろう。

「いえ、特にはないです。コーヒーでもお淹れ致しましょうか?」

 テキパキとPCを操作しながらそう聞かれた。

「いえ、大丈夫です。

 少し熟慮を要することが出来まして……。一時間ほど一人にして頂けませんか?」

 停年間近の彼女は、何だか変な表情を浮かべて自分を見ている。

 いや、頭が真っ白な今の自分は充分ヘンだと自覚しているけれども。

「教授、一時間後はもう勤務時間が終了している時間ですよ……」

 ああ、そうだったなと今更ながらに気付いた。

 午後の手術も無事に終わり、その後執務室での事務仕事を――たいていは秘書が作ってくれた文書にサインか印鑑を押すだけだ――こなしてから医局エリアに下りていったのだから。

「ではお言葉に甘えて、早退させて頂きます」

 そこまで甘えるわけにはいかないだろう。

「いえ、私の都合ですから。そうですね……。適当にどこかで時間を潰して、定時になったら戻って来て下さい」

 教授秘書としてとても優秀な彼女は勤務歴も長いので病院内のあちこちに知り合いがいるらしい。その知り合いが忙しかったとしても図書室とか外の喫茶店などで時間潰しは出来るだろう。

「ではお言葉に甘えます」

 気がかりそうな目を向けられた。

 一人になりたいと言った自分は多分表情が変わっていて「よほどのこと」があったように見えたのだろう。

 よほどのことが祐樹に関わるということは(多分)気付かれていないと思うが。

 患者さんからの差し入れのランチを最も一緒に摂ることが多い医局の人間が祐樹だということは彼女も弁えている。

 しかし、特別な関係だとは思われていないだろう。特に祐樹の態度とか巧みな弁明で。

 彼女が出て行った後に、PCを開いてメールや予定をチェックした。

 特に問題はなかったので、執務用のデスクに肘をついて、頭を抱えた。

 祐樹の好みが「見てくれだけのバカ」……。

 日頃から「面食いです」とは言われている。そして「その面食いの私が好きになった貴方なので、当然好みの顔をしていますよ」とも。

 自分では良く分からないものの、祐樹好みの容姿をしていることは確かだと思う。

 しかし、バカとは……。

 祐樹は記憶力の良さをいつも褒めてくれているし、バカ扱いされたことは祐樹含め誰も居ない。

 大学時代に「香川は医学バカだから」と小耳に挟んだことは有るけれど、それは「医学以外に興味を持たない」という意味だと思う。

 実際、朝から夕方、もしくは夜にかけて講義とか臨床をこなして、その後救急救命室にボランティアに行っていた。つまり朝から夜までずっと医療に専念していたので、そう言われても仕方なかったと思う。

 当時は医師免許を持っていなかったために救急救命室では補助的な仕事しか出来なかったが、それでも良い経験になったと思っている。

 ただ、単純に「バカ」と言われた記憶は生まれてから今まで一回もない。

 とすれば、祐樹の好みとは全く異なるわけで……。

 あの衝撃のシーンがフラッシュバックのように襲ってきた。

 祐樹が綺麗な人とゲイバーで楽しそうに話している場面。




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