そういうことかと微笑ましく思いながら薄紅色の唇に唇を重ねた。
職場で――と言っても祐樹はこのセンターに常駐してはいないが――交わすキスは禁断の味がして普段以上に気持ちが良かった。
標準的より薄めの唇もひんやりとしているのも――愛の交歓の時には体温も上がっているのでそうでもなかったが、平熱は標準よりも少し低めだからだろうか――祐樹の熱を与えるのと共に最愛の人の少し冷たい唇を味わうのもベッドの有る部屋で交わすキスよりも非日常的な感じがする。
愛の交歓といえば、センター長室で……という約束をしていた。
そのためには検診衣に――シャツのコットンなどよりも織り目が粗いので大丈夫だろうが――着替えた最愛の人の胸の尖りが布地をツンと可憐に押し上げている必要があった。
少し煽っておこうかという下心が働いて、唇を甘く噛みながら、ジャケットのボタンを外して、水色のワイシャツの上からしなやかな上半身に手を這わせた。
その部分は「未だ」存在を主張していなかったけれども、祐樹の指は最愛の人の肢体を本人よりも良く知っているので、的確に見つけ出して軽く叩いた。両方の感じやすい箇所を。
「あっ……」
息継ぎをスマートにするために完全に重なった唇を少し離すと最愛の人の唇が甘く熱く声を紡いでくれた。
そして、祐樹の指で少し硬度を増した二つの尖りが水色のシャツをしっかりと押し上げていたし。
「そう言えば、三つ揃いのスーツを着ていらっしゃるのを拝見したことがないのですが『こういうコト』を期待しているわけではないですよね」
違うと分かってはいたが――何しろ病院内での愛の交歓をすることすら最近になってやっと許して貰えるようになったばかりだったし、人一倍羞恥心の強い人がそんな目的でベストを着ていないわけでは絶対にないだろう――そういう会話そのものが最愛の人の感じやすい肢体に火を注ぐのは知っていた――胸の尖りから程よく引き締まった腹部や肋骨の輪郭を指で確かめるように撫でまわしながら聞いてみた。
こういう際どい言葉を祐樹が紡いでいるのは先ほどまで完全に仕事モード――専門ではないものの――から愛の交歓モードに速やかに移行して欲しかったせいもある。
「それは、違うな……。三つ揃いは確かにスーツよりも格の高い仕事着だが、私のような若輩者が着用していて、病院長とかそういうお偉いさんが着ていなかったら却って失礼に当たるし、何だか自分は偉いのだ!というアピールをしているような感じなので憚られるというか……」
そういうさり気ない気遣いが出来る人だとは知っていた。それに教授職の上は病院長くらいしか居ないのが大学病院なので職階こそ上級職ではあるものの、旧国立大学附属病院しかも元帝国大学という出自を持つ全国の病院の中で最も歳の若い教授職に就いているのが祐樹最愛の人なので、そういうお偉いさんアピールは却って反感を買う面も言われてみれば確かにある。
「ああ、なるほど。ドラマの中でも官僚とか会社の社長とか大臣とかしか着ていませんからね……。
貴方も偉いとはいえ、最年少の教授職なのでそういう配慮は必要かも知れませんね。
ただ、三つ揃いのスーツだからこそ、脱がす愉しみとか、中途半端に乱れて、肝心な場所は全て空気に晒した姿とかを拝見したい気も致しますが。
ほら、いつぞやのドライブデートの時にボタンが通常の倍以上もある服を着て下さいましたよね。あの時も逸る気持ちとは裏腹に脱がす手間が掛かる服が期待を持続させてもらえましたし……。
一度、三つ揃いのスーツでこういうコトを致しませんか」
水色のワイシャツをツンと押し上げている二つの尖りを弾きながら扇情的な声を紅色に上気した耳朶へと注ぎ込んだ。
「ゆ……祐樹っ……。それ以上したら、直ぐにセンター長室に行きたく……なるのでっ……。
検査は先にした方が良いだろう?
あれって、検査時刻も印字されて病院長とかしかるべき人のアカウントでは閲覧が可能……なのだから……。あまり遅い時間になったら怪しまれる……かもっ……」
甘く熱い息と艶っぽい声でそう紡ぐ唇もほんのりと熱を帯びていた。
しかも、最愛の人がつけているシトラスの香りも濃くなっているのは体温が上昇している証しだろう。
「そういえば時刻もキチンと記録には残りますね。
ただ、そこまで細かく見ている人なんていないと思いますよ。病院長などは一度このAiセンターにいらしたことが有るのですがCTを写した時に『何故何も映らない?壊れているのではないか』とか平気で言っていましたから。
ほら、画像となって出て来るタイムラグが病院長のような古手の外科医には分からなかったのでしょうね。
だから機械のミスで……とかウソを言っても軽く納得しそうですし。
ただ、前の戯れはこの程度にして撮影をしますか。
ではこちらにいらして下さい。
そしてこれが『例の』検診衣です」
カーテンの仕切りなどというモノはこのセンターにはない。そもそもご遺体の画像検索を行う場所なのだから患者様のプライバシーなどに配慮して作られてはいない。普通の診察室とは異なって。
「有難う。ここで着替えれば良いのだろう?」
予め誰も居ないと言っていたし、実際に人の気配も皆無なだけに最愛の人は祐樹がボタンを外したジャケットを脱ぎながら聞いてきた。
最愛の人がこのセンターに来ることもほとんどないのだが、病院内の建物の設計図とか勤務形態なども悉く記憶している彼は思い切り良くジャケットを脱いでワイシャツのボタンをしなやかな長い指で器用に外している。
「そうですね。衣服はこの戸棚の空いているところに置いて下さい。指輪は預かっておきますね。小さな物ですし、当たり前ですが丸いのでどこかに転がっていったら大変です。
私が贈った物を無くすのは貴方の本意でもないでしょうし……」
無くした時のことを考えると、最愛の人がどんなふうになるのか痛いほど分かったので予め受け取っておいた方が良いだろう。
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最後まで読んで下さいまして誠に有難うございます。
何とか自分に課していたノルマ以上は更新致しました。
何だか大雨が続いているようですが、お外に出る方はお気をつけ下さいね。
私は銀行の支店長とのアポが有るので外出しなくてはいけませんが。
明日も読みに来て下されば嬉しいです。
こうやま みか拝




