以前は医局の皆とも必要最低限しか話さなかったが、今では割と気さくに話しかけたり、相談に乗ったりしている流れで雑談として「彼女はいますか」などのプライベートな話題を振られた時のために祐樹が贈ったシンプルなデザインのプラチナリングは左手の薬指にしっかりとつけてくれていた。

 医局員とかそういう職階が最愛の人よりも下の人間には「居ないこともないのですが、色々と事情がありまして。ただ、これは約束の印です」と言っておけばそれ以上の追及はなくなると祐樹が判断した通りだった。

 「色々な事情」と言う時に悲しそうな顔をして下さいともアドバイスをしたので「なるほど」とかしか相槌は打たれなかったと聞いている。

 ただ、最愛の人は祐樹が贈った物を殊更大切にしてくれるのは心底嬉しかったが、無くすことを極端に恐れていることは知っていた。

「ああ、有難う。あ、時計と財布そしてスマホもお願いして良いか?」

 金属類とかカード類がNGなことくらい最愛の人程度の知識量ではなくとも常識だった。

 ただ、祐樹にそれら一式を渡してくれる最愛の人はワイシャツのボタンを全部外していて身じろぎに従って絹よりも滑らかな素肌が見えてしまう。

 思わず固唾を呑んで見入ってしまった。祐樹の視線に気付いた最愛の人は思い当たることがなかったのか怪訝そうな表情を浮かべていたが、それでもある一点に釘付けになってしまうほどの吸引力だった。

 先ほどの祐樹の指で弾いたり摘まんだりしたせいで清楚な紅色ながらもツンと硬くなった尖りが上品な感じの水色のワイシャツからチラリと覗いている。

 何も着けていないしなやかな肢体も物凄く魅惑的だったが、週刊誌か何かで読んだ「背徳のチラリズム」という感じがして思わず心拍数も上がってしまった。

 ここでは出来ない検査だが、今の祐樹の心電図を撮るときっと異常値が出てしまいそうなほどに。

 祐樹の視線の熱に煽られたのか、最愛の人の尖りが更に硬度と紅を増しているような気がした。

「――その状態で検診衣を着たら擦れてかなり痛いと思いますが――」

 生唾を飲み込むか咳払いをして誤魔化すかの二択のうちの後者を選んでからそう告げると、最愛の人はわずかに紅く染まった頬や、口づけの余韻で口紅を薄く塗ったような唇が瑞々しく花開く。

「確かにこの荒い感触だとそうかも知れないな。

 しかし、CTMRIを撮ったら祐樹が愛してくれるのだろう?

 それを思うと少しくらいは――といっても一時間くらいは掛かるだろうが――我慢する。

 甘い疼きもMRIの中に入ったらあの騒音に気を取られてしまって忘れ果てそうな気もするし……」

 愛の交歓の期待に満ちた艶っぽい口調とは裏腹に細く長い指が器用かつ事務的に動いて着衣を脱いでいく。

 多分、手術の前に着替える時にはこういうふうに身に着けている物を無造作に脱いでいくのだろうなと思ってしまった。

 ただ、硬く尖った薄紅色の二つの粒は手術前にこういう状態になっていないだろうけれども。

「そういう『日常的』に服を脱ぐ姿を拝見するのは新鮮ですね。

 まあ、私が夜勤などで居ない夜とかは浴室とかパジャマに着替えるとかでそうなさっているのでしょうが。

 私と居る時にはもっと切羽詰まった感じで衣服を落として行きますよね?

 なんだか覗き見を――古式ゆかしく垣間見と表現したほうが良いかもしれないです、その露を乗せた薄紅色の素肌の瑞々しさには――している感じの後ろめたさもあって逆に興奮してしまいます。

「垣間見とは……あれは十二単とかの平安時代の貴族の女性を貴公子が見に行くモノだろう?

 そんなたいそうなものではないが……。

 ああ、そういえば今で言う覗きが平安時代に許されたのか知っているか?」

 淡々とした感じで全ての衣類を脱ぎながらそんなことを薄紅色の唇が紡ぐのは、多分何も言わないでおくと変な……空気が流れるからかも知れなかった。

 そして検査に臨む前だったので出来るだけ――といっても今回の検査はCTMRIだけなので体の中の異常しか分からないが――普通の精神状態で居たかったからだろうなと。

「貴方に指摘されるまでそんなことは考えたこともなかったですね。寝殿造りの貴族のお屋敷にはお仕えする人間もたくさん居たでしょうし、侍という言葉の原型になっていたボディガードも当然抱えているハズですから」

 古文なんてセンター入試で満点を取ればそれで良かった科目なので読解とか文法はキチンと学んだものの、背景まで考えていないし興味もなかった。

「男性の貴族の服は今の値段で換算すると一千万円とからしい。もちろん諸説はあるが。

 そんな物を身に着けられる人は限られていて、しかも平民というか庶民は紙で出来たボロボロの服くらいしか身に着けていなかったらしい。つまり服装で身分とか財力とか地位が直ぐに分かるようになっていたので、姫君がいるお屋敷に貴族の男が入って行ってもお付きの人は止めなかったらしい。少なくとも上級貴族は絹の直衣も良い物を着ているので、そういう人はフリーパスだったらしい。

 そういえば、先程祐樹が見てくれていた、ココだが……。

 平安時代にも透ける絹で作ったのを夏はただ羽織っているだけという感じだったらしいな」

 怜悧な声でそう紡いでいる最愛の人の言葉を聞いていて、そういえば忘却の彼方に追いやったハズの知識が蘇ってきた。

「ああ、藤原道長でしたっけ?天皇だか皇太子だかのお妃様になった義理の妹がその人以外の子供を懐妊した疑いが有ったとかで親や兄弟しか入れない几帳だか御簾だかの中に入って、妊娠しているのが分かる体つきと胸の張りを見て、思わず吸ったそうですね。

 そうしたら、母乳が出たとかいう話は高校の時に読んだ覚えがあります。

 こんなコトをしたのでしょうね、きっと」

 緑色の検診衣を着た最愛の人に近づいて、背中に手を回しながら目的の場所に唇を近づけた。検診衣をツンと可憐に押し上げている場所に。




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   こうやま みか拝








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