「え……?
 Aiセンターにはあまり入ったことがなくて、勝手が良く分かっていないのだが祐樹が一人になれるというか……二人きりになれる場所が有るのか……?」
 コーヒーの香り高い湯気を薄紅色に染まった滑らかな頬に当てているのも、そして無意識だろうが、ごく淡い紅色の唇を紅い舌が辿っているのも花よりも綺麗だった。
「常駐はしていないとはいえ、一応センター長ですから、個室が有ります。
 まあ、教授執務室に比べれば重厚感には欠けますが、貴方もご存知のように新築なので、機能的な感じの部屋になっています。
 まあ、貴方ほどのマメさはないので、CTやMRIの画像から推測されるレポートの類いなどがあちこち散らばっていますし、お世辞にも整頓された部屋ではないのですが……。
 ただ、鍵もキチンと付いていますし、完全に二人きりになれますよ。
 ご存知とは思いますがMRIやCTの場合、事故ると大変なことになりますので、その防護のためにも頑丈な作りになっている建物なので、防音もばっちりです。
 愛し合っている時にどんなに甘く溶けた声を出しても私以外の誰にも聞こえません。
 如何ですか?
 貴方の手術着での愛の行為などは出来ないと諦めていますが、せめてもの代わりに検診衣姿で……と強く願ってしまいますね」
 手術室は新館にある上に、手術スタッフも多いのは当たり前だ。しかも手術では――最愛の人の華麗で水が流れるように清々しさを感じる秀逸な手技ではほとんどなかったが――血や体液が飛び散ることもままあるので、消毒液とかシャワーは当たり前になっている。
 しかも、旧態依然の病院内ヒエラルキーのせいで教授職の最愛の人は個室のシャワーと更衣室だし、祐樹の場合は一介の医局員なので、皆と一緒のシャワールームとロッカーが並んだ更衣室だった。
 だから手術が終わって最愛の人が部屋を出て行ってからは手術着姿の彼を見ることは出来ない。
 まあ、その後スマホのラインで――以前はガラケーだったのでメールだったが――「昼食を一緒にどうだ?少しの時間でも一緒に居たいので」という、以前の素っ気なさがウソのような文面が祐樹のスマホに届くこともかなりの頻度で有ったが。
「誰も居ないなら、大歓迎だが……」
 満開の薔薇の艶やかさと瑞々しさを彷彿とさせる笑みが最愛の人の顔や雰囲気から漂って来て、お誘いして良かったと見ている祐樹までもが幸せになった。
「ついでと言ったら何ですが、貴方がいらっしゃる時間までに例のミイラの画像も撮っておきますよ。見解をざっくりで良いのでお聞かせ願えると幸いです」
 最愛の人は大空に向かって咲く凛とした大輪の薔薇のような感じに表情を改めた。
 二人で密会という「秘め事」を話している時はあんなにも艶っぽかったのに、話題を変えると即座に雰囲気が変わるのも外科医に相応しい精神の切り替えの早さゆえだろうが。
 そういう点も大好きだったが。
「私は唯物論者ではあるが、敢えて観念論者の視点に立てば、古代エジプト人がミイラにならなければ来世でも生きられないと信じていたから、現代の私達なら――まあ、亡くなってしまえば痛みなどは感じないというのはこの際置いておいて――絶対に嫌だろうと思われる内臓とか脳などを取り出されるのはむしろ本望だろうとは思う。
 ただ、約3千年前の人間があんな機械に入ったらさぞかし驚くだろうなとは思う。
 それにMRIはバケツをガンガン叩くような音がするだろう?
 ミイラは物質だからというのも置いておいて、物凄い恐怖だろうな……」
 想像力がさほど豊かでないと最愛の人本人は言っているが、祐樹的にはそんなことを考えたこともなかったので、そう言えばそうだなと納得してしまった。
「確かにそうですよね。ま、物質になってしまっているので当然思考とかは不可能ですが、もし、意識が有ったら恐怖そのものでしょうね。
 私にとっては、ご遺体と同じで解析するためのモノとしか思っていませんでしたが、そういう見方も有るのですね。
 というか、貴方はご自分で仰っていらっしゃった以上に想像力がおありなのではないでしょうか?」
 切れ長の目が驚いたように丸くなって無垢な光を宿しているのも綺麗だった。
「そうなのか?だったら、それは多分、想像力も豊富な祐樹と一緒に過ごした時間が長いので……その影響だろう?
 ほら、一緒に過ごす時間が多いほど思考パターンも似てくるとか心理学のレポートでも読んだことがあるので……」
 淡い薄紅色の唇が晴れやかな笑みの花を咲かせているのもとても綺麗だった。
「では、定時で仕事を切り上げてAiセンターの方にいらして下さいね。
 容態急変などの突発的なことが起こったら連絡をくださいね。
 まあ、私はその間、ミイラの画像を解析しておくことにします」
 病院の職員用の門が見えて来たのでそう言った。
「それは勿論。ただ、祐樹と違って私は放射線科の各種資格は持ち合わせていないのだが、良いのか?」
 少し心配そうな声でそう告げる最愛の人の白皙で
 医師免許さえ持っていれば診断は出来る。極端な話、森技官などは臨床経験皆無のペーパードライバーならぬペーパードクターだ。
 しかし、大学病院などの大きな病院に所属しようとすれば、各科には必要な資格が必要となる。祐樹もAiセンター長になる前提として画像診断専門医の資格を取った。
 まあ、勉強をするのもそれほど苦ではないし、同僚を見回しても要領は良い方だと思っている。その上、准教授に次ぐポジションなだけに役職手当が付くので、モチベーションアップにもなったし。


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最後まで読んで下さいまして誠に有難う御座います。
更新お休みして誠に申し訳ありません。実は去年亡くなった父のことを出身地の岡山の親戚(絶縁したのに)の耳にも入ってしまって「遺産を少しでも分けてくれんじゃろか?」と。
父の法定相続人は(当時存命だった)配偶者と私達子供でそれ以外は権利です。遺言書が有ったなら話は違って来ますが、それもなかったので。
そういうことを縷々説明しても「あんなに仲良かったのに」とか父が絶縁したのも忘れているらしく感情論でウダウダと……。
精神的に疲れ果ててブロク更新が出来ませんでした。。。
しかも、新しい原稿書く精神状態でもなかったので、ストックしてあったのを更新しました。
しかも、体調不良でして。
少し休んで体調が良くなったらいつものペースに戻りたいと思っていますが。。。
勝手を申してすみません。


   こうやま みか拝