「ツタンカーメンのミイラをCTで解析したら骨折の跡が多数見つかったので一人乗りの馬車から落ちたという説が有力になりましたよね。
 また、マラリアにも罹っていたらしくて、骨折の痛さと発熱で苦しんで亡くなったのかと思うと王様として君臨しても死に際は悲惨だったようですね。骨折は――幸い私は経験がないのですが――かなり痛いらしいですし……。
 そういう死に方は真っ平ご免こうむりたいのですが……。
 まあ、それは置いておいて、今の歴史学は医学の力を借りることに積極的です。DNA鑑定とか病気の有無などで定説が覆されることもあるとかで。
 で、ウチにもAiセンターが有るので是非とも解析した上で専門医のご意見を聞かせて欲しいというアメリカの高名な歴史学者の依頼だったのですが、そのチームにあいにく日本人が居ないのです。
 私はご存知の通り医学用語と日常会話レベルの英語は一人でこなすことも出来るようになりましたが、歴史学などは思いっきり門外漢なもので……。
 だから『文学部英文学科の教授にでも通訳をお願いしたい』という旨を先方にお伝えしたところ『そちらの文学部には歴史学科も有るので、論文を書くまでは機密情報だから協力は困る』と拒否られてしまいました。
 まあ、確かに論文発表前のネタを同業者に知られたくないという気持ちは分かりますが。
 『だったら、医学部教授という畑違いの人間ならば大丈夫か?』と聞いてみたらOKが出ました。
 貴方がツタンカーメンの死因についての論文を英語で読んでいらっしゃったのは存じていましたから、歴史用語にも造詣が深くていらっしゃるのでしょう?」
 最愛の人は長くて細い首を優雅に傾げて祐樹の言葉を聞いていた。
「造詣が深いというレベルではないが、論文を読む程度は出来るし専門用語もそれなりには知っている。
 アメリカの研究チームはウチの病院のAiセンターに足を運んで来るのか?それとも、CTやMRIの画像だけを送ってそれに報告書を付けるだけなのだろうか?」
 書面にするのと言葉で説明するのはやはり違うので気になったのだろう。
「書面だと伝わりにくいこととか、素朴な疑問とかが出て来た時に困るので京都までいらして下さるそうですよ。
 CTやMRIの結果については私が話しますので、貴方は歴史的な言葉を翻訳して下されば大変助かります」
 朝食を一通り食べ終わって「ご馳走様」と手を合わせた最愛の人はコーヒーを淹れるために燕のような身軽さで立ち上がっている。
「その程度ならお安い御用だが……果たして私で大丈夫なのだろうか?そんなに詳しいわけではないので……」
 謙遜する彼だったが、語学力も知的探求心も持ち合わせている人だけに居て貰えると心強い。
「大丈夫ですよ。いざとなれば筆談という手もありますし、その間に分からない単語はグーグル先生に聞いてみることにしますから」
 ただ、大学は「象牙の塔」とも呼ばれているだけあって、ネットで検索するよりも人間が発する言葉の方に重きを置かれるのも事実だった。
「ああ、コーヒーの良い香りがキッチンに流れると、やる気が出てきますね。
 やる気といえば、貴方の健康診断の一環のCTとMRIは本人の希望を尊重した結果、Aiセンターで行うと放射線科に言っても良いですか?唯物論者とか無神論者が多い病院でもご遺体という物質を置いたというそれだけで精神的なモノに優位を置く観念論にコロリと変わってしまう人間が多いですからね、希望者が極端に少ないのが現状なのです。
 だから貴方がAiセンターにいらして下さるのなら大歓迎ですよ」
 唯物論というのはマルクスが提唱した考え方で、物質に優位を置くというものだ。
 だから精神的なことを――例えば祐樹の目の前でコーヒーを飲んでいる人をこよなく愛してはいるが、そういったファクターは精神的、つまり観念論に過ぎないとバッサリ切って捨てられる類いの感情だ――顧慮しない。
 だからご遺体の載った機械だから気味が悪いとかいう「感情」は唯物論とは相容れない思想なのだが、日頃から唯物論で生きている医師の中にも「これはこれ、あれはあれ」という考えの人間が多い。
「ああ、お着換えとかは大丈夫ですよ。放射線科から貫頭衣みたいな検診衣をパク……いや、分けて貰っていますから。
 ご存知だとは思いますが、あの検診衣って手術着の色によく似ていますよね。
 それに割とゴワっとした着心地なので、貴方の敏感な場所が尖ってしまうかもですね。
 ほら、写りやすくするために色々無理な体勢とかも取って貰うでしょう?
 その時に布地も擦れてしまうので。
 流石に手術室でコトに及ぶことは出来ませんが、手術着に似た、しかも脱がせやすい服、そして胸の尖りが視認出来たら……センター長室で愛を交わしませんか?
 両の尖りって愛の行為の最中でなくても、その気になっていない時でもピンと立つことが有りますよね?
 手術室でそうなっているのをチラリと一瞥して職務に集中しないとならない哀れな私を救済すると思って……。
 ダメ……ですか?」
 燦燦と朝陽が射し込むキッチンでそんな話を振ってしまったのは間違いだったかも知れない。
 厚労省の肝いりで設置が決まったAiセンター長の座は、以前祐樹が術中死としか思えない患者さんの死因を調べるために放射線科に掛け合ったという「功績」が認められて――というか消去法で選ばれただけかも知れないが――祐樹の手中に舞い込んで来た。
 ただ、それほど人手が要るわけでもなくて、死因を調べて欲しいという依頼が舞い込んだら対応している感じだった。
 だから貫頭衣状の検診衣を着た最愛の人が粗めに織った布地に擦れてツンと押し上げているところをなし崩しに押し倒してしまったほうが良かったのかも知れないと反省をした。



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今日は大雨の中、メインバンクの支店長さんと話し合いに行って来ました。
メインバンクといっても地元の信用金庫なのですが。
信金でも支店長は数年周期で変わるので、母が懇意にしていた人から新しい人に替わっていました。
私は一応法学部法律学科を出ていて、株とかもしています。FXもちょこっと。
そういうパーソナルデータを知らない(前の支店長さんは知っていた)方だったので「連帯保証人と連帯債務者って違うんですよ」的な話を延々と語って下さいました。
「遥か昔に大学で習った程度のことは知っています。法務とかには携わってないですけど」と言ったら物凄く驚いていました。法学部卒の女性って確かに割合としては多くないので、仕方ないのですがね。

そんなこんなでバタバタしています。
気長に更新をお待ち下されば嬉しいです。


    こうやま みか拝




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