「大丈夫だ……立てる……。一体、私は何をすれば……?」

 涙の雫を纏った睫毛が不安そうな青い憂いを湛えている。その瞳も艶めきながらも戸惑いに揺れているのが物凄く綺麗だった。ペナルティという言葉に反応したのだろうが。

 そのままベッドから下りて、窓に近付いて……ガラスに向って立って下さい」

 敢えて冷たい感じで言葉を掛けた。

「分かった」

 ベッドから降りた最愛の人が愛の交歓の後の気怠い色香だけを纏って重厚な豪華さに満ちた部屋を横切っていく。

 紅色に濡れたしなやかな肢体とか、育ち切って雫を零す花の芯めいたものまでが紅色に煌めいている。

 祐樹もベッドから降りて「安楽椅子」という表現がぴったりな椅子に腰を掛けた。

 軽井沢の別荘では――岩松氏が最愛の人に言って来たということは二人で泊まりに来ても良いというほどの意味なのは間違いない――祐樹は着衣を一切乱すことなく最愛の人を産まれたままの姿にさせて、こういうコトをさせてみたいな……と思ってしまう。

 服を着ているという優位性が堪らなく良いだろうから。

 それに最愛の人の素肌とかしなやかな肢体は何も着けていない時の方が更に魅惑に満ちているし。

 しかも、ペルシャ絨毯の上で――岩松氏のことだから、有名なインテリアデザイナーに「華族の別荘」を完璧に再現させたに違いない――螺旋階段とかが有る場所で、最愛の人の、祐樹にしか見せない甘く乱れた姿を堪能出来るのは目も心も愛情と欲情が昂ぶるに違いないし。

 最愛の人が窓に近付いたのを確かめて部屋の灯りを消した。

 すると、観覧車の青い灯りに照らされた祐樹最愛の人の姿が深海に居ると西洋で信じられて人魚のような艶やかさで浮かび上がった。

 いや、人魚よりも見る人を惑わして蠱惑の海に沈める綺麗さに溢れているような気がした。

「そのまま、足を開いて下さい。胸の尖りを散々口と手で愛しましたよね。

 ああしたら、聡の極上の花園の中の凝った秘密の場所が更に硬くなって存在を主張するでしょう?

 双丘を開いて、ご自分の手でソコを弄ってみて下さい。

 それがペナルティです」

 そう重々しさを装って告げると、白魚のような指が自らの双丘を割り割いて花園のしどけなく開いた門の中へと吸い込まれていく。

 育ち切った前ではなくて、桃のような双丘の奥に密やかに息づく場所を手で開いて指を二本挿れている姿も絶品中の絶品だった。

「あっ……」

 指の挿り具合からして凝った場所に当たったらしい。しなやかに反る背中が汗の雫を落としているのも綺麗だった。

 そして、歩いている時に祐樹の放った真珠の放埓が奥処から下へと移動していたのだろう。

 長く細い指が微細に動く度にねっとりとした音を立てているのも最高に素敵で、鼓膜までが愛情の色に染まっていくような気がした。

「顔か肩をガラスに預けて下さい。そのままだと流石に危険ですので……。

 それはそうと、何だか切羽詰まった欲求を解消する相手が居なくて……、ひっそりとご自分で慰めている麗人を偶然覗き見てしまったような背徳感に満たされます。

 とても良いですよ。もっと指を大胆に動かしてみて下さい」

 普段の生活でも――といっても私的な時間というか、二人きりの時間が主だったが――祐樹の言うことに唯々諾々として従うのが殊更愛おしい人だが、愛の交歓の時はよりいっそう祐樹の言うことを聞いてくれるのも愛されて、そして信頼されているようで嬉しい。

「ああっ……ゆ……祐樹っ……」

 ガラスに肩を預けた最愛の人の肢体が悩ましく震えた、割と大きな動作で。

「どうしました?凝った場所と胸の尖りを――若しくはその一個だけでも――触れると乾いた絶頂を迎えることも有りますよね?それはそれでとても素敵な眺めですが。

 それとも、前が弾けそうなのですか?」

 乾いた頂点を迎えたのなら、最愛の人の肢体は制御不能になってしまう。

 愛の交歓の時にはどれだけ奔放に振る舞っても祐樹的には嬉しい限りだが、怪我をさせることだけは避けたいと思う。

 ホテルの密室に二人で居る時は祐樹だけの大切な人だ。しかし、勤務先には最愛の人の秀逸過ぎる手技を慕って集まって来た患者さんが数多く存在する。

 まあ、そのことは本人も自覚していて、指とか腕に過度の負担を掛けないように気を配っている気配は有ったが。

 ただ、愛する者の務めとして、怪我をさせないようにとか熱く甘く乱れた心と身体を保護しようという気持ちよりも、情動と衝動のままに動いてしまわないように注意を払おうとはしていた。

――時々、滅茶苦茶にしてしまいたくなったり、注意力よりももっと別の本能のままに振る舞おうとしてしまったりしたが、それも祐樹だけのせいではなくて、最愛の人が全霊全身で甘く誘うからのような気がする。責任転嫁のそしりを免れないだろうが――

「それはまだでっ……。

 ただ、祐樹が放ってくれた真珠が門から溢れて肌を滴っていく……。その熱さと感触が堪らなく悦くて……」

 そういえば細く長い指が奏でる粘度の高い愛の音が大きくなったとは思ってはいた。

 祐樹の放った放埓が指の動きと、そしておそらく花園の中の精緻な動きも本格的に息づいているだろうからそのせいだろう。

「そんなモノは、後からまた差し上げます、よ。だからご自分の指あ触れている場所がどんなに硬くぷっくりと膨れているのかを教えて下さい。

 聡のソコって、指などを跳ね返す弾力も魅力的で堪らないので……」

 孤閨を一人で慰めているといった風情も堪らなく良い。

 観覧車の静謐な青い光りに照らされた最愛の人の肢体は、深海の中でひっそりと息づく綺麗な魚のような趣きだった。

 それに、はっきりとは見えないものの、紅い門から溢れ出て、肌を滴り落ちて行く祐樹の真珠の放埓も海の泡のように綺麗なのだろう。

「ゆ……祐樹っ……。指で……凝った場所に触れるとっ……。

 胸の……尖りとかっ……、そして、指だけでは……物足りなく……て……。

 祐樹の熱くて硬いモノで凝った場所とかっ……もっと奥まで……貫かれたいっ……。

 甘く蕩けた言葉だけでなくて、最愛の人の全身がそう訴えているようで、指二本が挿って小刻みに動いている所を誇示するように突き出してきた。

 海から陸に初めて上がった人魚姫よりも艶やかで蠱惑に満ちた肢体が汗の雫を空中に撒くように震えていた。

 祐樹だけを欲して甘く震える肢体を見ていると、昼間の苛立ちが――完全に八つ当たりだとは自覚している――雲散霧消して完全にどこかへ飛んで行ってしまった。

 安楽椅子からゆっくりと立ち上がる。

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