「ご存知の通り、私は自炊派で……。それにそれほど経済的に恵まれた家でもありませんでした。だから学校行事などでお金がかかるようなことには参加を見送っていたのです。
 しかし、あれは高1の時の冬にスケートリンクに行くという行事がありまして、それには辛うじて参加したのですが」
 高校生の時に、全国レベルの成績の良さを見込まれて――さらにハッキリ言ってしまえば、K大医学部に合格して国家試験まで合格してバカ令嬢と結婚した後に後継者となるという条件で――割と大きな総合病院の院長先生に生活費を含む援助を受けたことは聞いていた。大相撲とかそういう伝統的なスポーツでも有名力士の子供が父親を凌駕する実力を持って生まれる保証はないので、ご令嬢の結婚相手として弟子の中から選んだ方が効果的だ。
 それは医師の世界でも同じで、開業医の息子がどうしても医学部に受からず獣医師になり――獣医だってなるのは難しいが、医師よりはまだマシだ――人間相手のクリニックから犬や猫相手に切り替えたという話をウワサで聞いたこともあった。
「スケートですか。それは良いですね。スケートで最も良いと思う点は、スキーのゲレンデだと斜面を滑り下りるので『止まらない』と内心パニくることもなく、失敗しても転倒するだけです。臀部などは痛いですが……」
 森技官が何だかしみじみとした感じと不本意そうな眉の上げ方から判断すると、スキーでも、持ち前の勝気さとかプライドの高さで初心者用のコースをすっとばして中・上級者用のゲレンデに挑んだ忌まわしい記憶があるようだ。
 身体能力に充分恵まれていることは祐樹も知っていたが、絶叫系の乗り物を苦手らしかったし、自動車すら高級車の後部座席しか乗ることが出来ないのもスピードに対する恐怖感を持っているからだろう。
 彼は東京育ちなので、名だたるスキー場は関西よりも近くに多数存在する。高校生だと見栄を張りたいお年頃な上に森技官の勝気すぎる性格も相俟って初心者用は鼻で笑って拒否して急滑降――ジェットコースターも苦手な人間は多数存在しているがこちらは「乗り物」なので、ある程度の安心感はある――を死ぬ気で挑んだのかもしれない。しかも当たり前だが一人で下りるという心許なさとか、途中で転倒したら最悪骨折の憂き目に遭うし、上級者向けのゲレンデの場合「コケたら死ぬかもしれない」とか「雪だるまの人間バージョンになるかも」といった恐怖が付きまとう。
 祐樹はそういうリスクに燃えるタイプだが、森技官は異なるらしい。
 スキーなら大人になった今はパス出来るが、飛行機とか自動車などは職務上でも必要なので、そういう時は内心の恐怖をおくびにも出さずに、平然とした表情で取り繕っているのだろう。
 そう考えれば生き辛い人生を歩んでいるな……と祐樹などは思ってしまう。
 ただ、仕事面でこれだけ役に立つ人間も居ないので、弱点を克服して欲しいと密かに思ってしまう。
「そうですね。スケートリンクは平面ですから。それに滑っている間はとても面白かったですし、楽しかったです」
 最愛の人が懐かしそうな眼差しを浮かべて仄かな笑みを浮かべている。芝生を渡る風の薔薇の香りよりも綺麗だった。
 最愛の人の場合身体能力も優れているし、自動車も普通に乗ってドライブを楽しんでいるので、そういった乗り物恐怖症とか高所恐怖症はない感じだ。少なくとも祐樹が知っている限り。
「しかし、若気の至りというか……。私の滑りを見たクラスメイト達が『ジャンプに挑戦してみろ!』と熱心な感じで促して来て、テレビでたまたま見た覚えのある二回転ジャンプを試みてしまって、見事に失敗しました」
 最愛の人が、手技を「見た」だけで寸分違わず再現出来るのは知っていた。
「ジャンプって……。スケートの経験は何度か有ったのですか?」
 思わず確かめてしまった。最愛の人は気さくに友達と遊びに行くような性格でもない。
 高校の頃のことは当たり前だが伝聞でしか知らないが、恵まれた容姿と卓抜した成績が却ってクラスでは「敬して遠ざける」という結果になってしまっていたのだろうなと漠然と想像していた。
「いや、生まれて初めてだった。ただ、テレビの選手の身体の動かし方は暗記していたので、あの通りすれば良いのかと思って実際に試みてみたのだが……。結果は見事に失敗して派手に転倒してしまったな」
 初めてでジャンプを試みるというのも驚きだったが、それだけ娯楽の少ない生活をしていたので場の雰囲気に流されたのだろうか。
「お怪我はなかったのですか?」
 気になって聞いてみた。祐樹が知る限り最愛の人は身体に不自由な点はない。ただ、骨折が完治した場合――よほど酷い複雑骨折とかではなければ――分からないことも多いのも事実だ。
「それは怪我というほどのことはない。ただ今思えば尾てい骨にヒビが入っていた可能性があるが。一週間は痛かったので」
 ろっ骨や尾てい骨の場合は外科的処置も難しいので、ヒビ程度だと鎮痛剤を処方して自然治癒を待つしかない。ただ、救急救命室も兼務している祐樹からすれば一週間の痛みだとヒビというよりも打撲だけのような気もした。
「それは良かったです。ジャンプに失敗して腕を複雑骨折した場合は、完治したら日常生活にはそれほど支障はきたしませんが、ミリ以下の緻密な業務に差し障りが出てくるので。
 若気の至りというかノリで、貴方のこの神の手が損なわれてしまわなかったことに『も』神様に祈りたい気持ちです」
 薄紅色の指や半袖から露出しているしなやかな腕を確かめるように、そして愛おしむように辿った。
 最愛の人の頬が白薔薇からベビーピンクに染まっていく。
 呉先生と森技官はさり気なく視線を外して、芝生で走り回っている子供達の方へと向けてくれていた。
 ただ、呉先生はお握りを、そして森技官はコロッケサンドを口に運びながらだったが。
「……祐樹有難う。ただあんな無茶は金輪際しないと約束するので。
 それはそうと、転倒したら当然濡れますよね。それに会場内は解凍を防ぐために温度調節がしてあります。実際のところとても寒かったのですが、あの場所で食べたカップヌードルの味とか暖かさは一生忘れられない、セピア色の想い出です」
 いつだったか最愛の人は「モノクロの青春を過ごした」と言っていた。それは事実だろうが、鮮やかでなくても良いので彩りを感じたイベントが有って良かったと思う。
「スケートやスキー場にご一緒したいのもやまやまなのですが、病院の至宝と呼ばれている教授に万が一のことが有れば、大変な事態になりますので止めておきます。それこそ斉藤病院長が烈火のごとく怒るでしょうから」
 呉先生が華奢な肩を残念そうに竦めている。
「いや、かちかち山のタヌキのように火だるまになって激怒するでしょう。
 そして、誘った張本人が判明すれば、不定愁訴外来まで閉鎖の憂き目に遭う可能性も高いので」
 森技官の必死な感じで言い募っているのも可笑しかった。
 多分、スキーとかのイベントには自分も巻き込まれることを全力で避けたがっているのがアリアリと分かってしまって。



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時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
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だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。
◇◇◇お知らせ◇◇◇

エブリスタ様に投稿してみて、痛感したのですがヤフーブログは「ルビが打てない!!」という仕様なのは仕方ないのです。しかし、このブログで連載中(現在は休止中です、すみません)の「蓮花の雫」はルビが打てないのは(個人的に)物凄く辛いので、全部エブリスタ様に持って行った上で、再開したいと思います。
楽しみにして下さっている方がいらっしゃるのかどうか分かりませんが、【蓮花の雫】のみ、続きはエブリスタ様単独で書きたいのでご了承とご理解を頂けたらと思います。
【追記】
取り敢えず、このブログで書いていた分を再掲という形でゆっくり移して行きます。
隙間時間に作業しています。エブリスタ様の方がやはり使い勝手も良いので(加筆修正も加えています)全ての記事を向こうに移した後はこちらのブログからは削除したいと考えて居ます。
https://estar.jp/_novel_view?w=25307809

良かったら覗いて下さいませ。

あと、BL小説以外も(ごく稀にですが……)書きたくなってしまうようになりました。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。

こちらでそういった作品を公開していきたいと思っています。



こんなお話も投稿していますので、興味を持った方……いらっしゃるのか??はスマホで読んで頂ければ泣いて喜びます!!

興味が有る方は是非!スマホの方が読み易いので、オススメはスマホ経由です。

風邪が長引いていて、家族の入院している病院にも行けない今日この頃なのですが、やふーブログの更新は出来れば二話!最低でも一話を目標に頑張ります。

ただ、お医者様から「急変も覚悟しておいて下さい」と言われているので、綱渡りな更新になりますがご了承ください。

私の都合で更新時間がバラバラになってしまっている上に、「にほんブログ村」はシステムの移行とかで新着記事が反映されたり、されなかったりです(泣)
基本毎日更新しますので「人気ブログランキング」でチェック頂くか、まめにこちらをご覧いただければと思います。
寒い上にインフルや風邪が流行っていますので読者様もお身体ご自愛ください。
 
◆更新がお休み頂いたり飛び飛びになってしまったりして申し訳ありません。◆

余命宣告を受けた家族の容態が急変したりで、動員が掛かるもので……。
当分はこんな感じでしか更新出来ないことをお詫び申し上げます。


しかも、パソの調子まで悪くなって……。ワードが「応答していません」のエラー表示頻発……。

更新遅くなってすみません!!

今日は時間が比較的開いているいるので、もしかしたら、いや万が一かもですが「白衣の王子様」を更新出来るかもしれません。あまり期待しないでお待ちください。
       こうやま みか拝