「ああ、そういう名前ではなくて、単なる『冬の遠足』のような催し物は確かに有りましたね……。ただ、寒いのも苦手ですし布団の中が恋しいお年頃でしたので『風邪を引いて熱がある』と全部パスした覚えがあります。
実際は熱発などしていなかったのですが、ウチには昔ながらの水銀の温度計しかなかったのが幸いしまして、摩擦熱で温めてそれらしい体温をでっち上げました。
一度、何を思ったのか――若気の至りの無知さでしょうが――ストーブの上の沸騰したヤカンの中に体温計を入れてしまって、壊したこともありました。ガラスの中の水銀が100℃に耐えられなかったのか、まだら状になってしまってですね……」
最愛の人が唇に淡く楽しげな笑みを浮かべて聞いてくれているので気を良くして話を続けた。
「寒さに弱かったのか?そんな感じにも見えないが?救急救命室から帰宅するのは午前三時頃で、一日の内でも最も寒い時間帯だろう……。真冬でもその時間になると部屋に帰って来てくれるので……。
病院内は患者さんのことも考慮して暖かさと湿度を保っているのだから、そんなに寒いのが苦手なら仮眠室で休めば良いのに」
呉先生はスミレ色の笑みをさらに可憐に花開かせた感じで口を開いた。
「田中先生は『苦手な』寒さに晒されてでも、教授のお顔を見て心を暖められる方を選んだのですよね?」
その通りだった。ただ、寒いのが「かったるい」とか思っていたのは最愛の人と巡り合う前の話で、それ以降は寒さよりも、この人と共に過ごす時間の心温まる上に最高に幸せを感じる時間の貴重さの方が祐樹にとって大切になったのは言うまでもない。
「そうなのです。寒さといっても病院からマンションまでは急ぎ足で歩けば徒歩三分程度ですので、そう気になりません。しかもその上、最愛の人が待っていてくれる部屋の方が病院の常春のような暖かさよりもさらに心を惹かれるので……。
最愛の人の待つマンションには雪が降ろうと槍が降ろうと帰りますよ。それだけの価値は充分過ぎるほど有りますので……」
最愛の人の淡い笑みが薄紅色の大輪の薔薇に似た感じで咲いているのを目で確かめて――といっても、少し水分が足りていない薔薇のような弱弱しさも同時に醸し出している――気分が浮上した、ごく僅かではあったものの。
「このお握りも最高に美味しいですが。それにこの梅干しの味は祖母が作ってくれた梅干しよりも美味ですし。
しかし、耐寒訓練で思い出しましたが、ウチの高校は文武両道、しかも両方ともトップを狙え!みたいな校風でして。そんな意気込みにも関わらず、選抜高校野球では『地区大会一回戦突破』が悲願という点も笑えます。
耐寒訓練もバスを仕立てて新潟などに泊りがけで行くという本格派でした。まさに『長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった』の世界です。スキーならまだしも、そういう場所でまさに『八甲田山死の彷徨』を彷彿とさせる雪中歩行訓練でしたよ。
要領の良い田中先生でも、多分ウチの高校の厳正な検査は潜り抜けられなかったでしょうね。何しろ、事前の健康診断で電子体温計を使って計ったり医師による問診を受けたりした上での参加でしたから。
雪の中でも歩いていれば寒さも忘れますが、二年生の時にはホワイトアウト状態に巻き込まれて、寒さの余り死ぬかと思いました。『死の彷徨』という異名に恥じない行事でした。
昼食を摂る予定の山小屋に辿り着いて……その時に食べた味噌をつけた焼きおにぎりの美味しさとかトン汁の美味しさは生涯忘れないだろうと思うほど美味しかったです」
呉先生の心理学のうんちくの――ちなみに医学的なアプローチをする精神科と、患者さんのカウンセリングなどを主な業務にする臨床心理士は文系に相応しいアプローチだ――正しさを裏付けるように、味の記憶が昔を想起させるのは本当らしい。
「うわあ、それは寒すぎて地獄ですね……。良く生きて帰れましたね……」
医師立ち会いの検査をするだけのことはある過酷な訓練が森技官の高校では課せられているようで、そういう場合は仮病で逃げることも出来ないだろう。
ただ、初対面の時はともかく、森技官をそんな耐寒訓練で失ってしまえば「国家的損失」のような気がする。性格的には多分に問題がある人ではあるものの、国のこととか国民の税金の使い道を本当に親身に考えていることは一連の事件を通して知って知ったので。
「流石に、死者を出すような不祥事が起こってしまえば高校側もマズいと判断していたのでしょう。事前の準備はもちろんのこと、ホワイトアウトに巻き込まれた場合のことまで想定済みでしたし、私自身体力は有る方なので皆を誘導して山小屋に辿り着けました、どのグループよりも早くに。そのために焼きおにぎりもトン汁もたくさん食することが出来ました」
森技官の戦闘能力の高さは祐樹もこの目で見ていたので、納得してしまったが。
「耐寒訓練もそうですが寒い所で食べる暖かいモノは普段の味よりもさらに美味しく感じますよね」
祐樹の言葉に全員が頷いている。「普通」の幼少期を過ごしてこなかった最愛の人にもどうやらそういう経験が有るらしい。
恵まれない境遇に居た最愛の人の過去のことは、自発的に話し出さない限り聞かないようにしていたが、今回ばかりは知りたいような気がした。
それにそういう他愛のない話しを交わしている方が精神衛生上も良いに決まっている。しかも無邪気で活気溢れる子供の楽しそうな声や、芝生を渡る薔薇の香りの風、そして燦々と降り注ぐ太陽の光りも、最愛の人だけでなくて祐樹の傷付いた精神を少しでも癒してくれるだろうから。
実際は熱発などしていなかったのですが、ウチには昔ながらの水銀の温度計しかなかったのが幸いしまして、摩擦熱で温めてそれらしい体温をでっち上げました。
一度、何を思ったのか――若気の至りの無知さでしょうが――ストーブの上の沸騰したヤカンの中に体温計を入れてしまって、壊したこともありました。ガラスの中の水銀が100℃に耐えられなかったのか、まだら状になってしまってですね……」
最愛の人が唇に淡く楽しげな笑みを浮かべて聞いてくれているので気を良くして話を続けた。
「寒さに弱かったのか?そんな感じにも見えないが?救急救命室から帰宅するのは午前三時頃で、一日の内でも最も寒い時間帯だろう……。真冬でもその時間になると部屋に帰って来てくれるので……。
病院内は患者さんのことも考慮して暖かさと湿度を保っているのだから、そんなに寒いのが苦手なら仮眠室で休めば良いのに」
呉先生はスミレ色の笑みをさらに可憐に花開かせた感じで口を開いた。
「田中先生は『苦手な』寒さに晒されてでも、教授のお顔を見て心を暖められる方を選んだのですよね?」
その通りだった。ただ、寒いのが「かったるい」とか思っていたのは最愛の人と巡り合う前の話で、それ以降は寒さよりも、この人と共に過ごす時間の心温まる上に最高に幸せを感じる時間の貴重さの方が祐樹にとって大切になったのは言うまでもない。
「そうなのです。寒さといっても病院からマンションまでは急ぎ足で歩けば徒歩三分程度ですので、そう気になりません。しかもその上、最愛の人が待っていてくれる部屋の方が病院の常春のような暖かさよりもさらに心を惹かれるので……。
最愛の人の待つマンションには雪が降ろうと槍が降ろうと帰りますよ。それだけの価値は充分過ぎるほど有りますので……」
最愛の人の淡い笑みが薄紅色の大輪の薔薇に似た感じで咲いているのを目で確かめて――といっても、少し水分が足りていない薔薇のような弱弱しさも同時に醸し出している――気分が浮上した、ごく僅かではあったものの。
「このお握りも最高に美味しいですが。それにこの梅干しの味は祖母が作ってくれた梅干しよりも美味ですし。
しかし、耐寒訓練で思い出しましたが、ウチの高校は文武両道、しかも両方ともトップを狙え!みたいな校風でして。そんな意気込みにも関わらず、選抜高校野球では『地区大会一回戦突破』が悲願という点も笑えます。
耐寒訓練もバスを仕立てて新潟などに泊りがけで行くという本格派でした。まさに『長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった』の世界です。スキーならまだしも、そういう場所でまさに『八甲田山死の彷徨』を彷彿とさせる雪中歩行訓練でしたよ。
要領の良い田中先生でも、多分ウチの高校の厳正な検査は潜り抜けられなかったでしょうね。何しろ、事前の健康診断で電子体温計を使って計ったり医師による問診を受けたりした上での参加でしたから。
雪の中でも歩いていれば寒さも忘れますが、二年生の時にはホワイトアウト状態に巻き込まれて、寒さの余り死ぬかと思いました。『死の彷徨』という異名に恥じない行事でした。
昼食を摂る予定の山小屋に辿り着いて……その時に食べた味噌をつけた焼きおにぎりの美味しさとかトン汁の美味しさは生涯忘れないだろうと思うほど美味しかったです」
呉先生の心理学のうんちくの――ちなみに医学的なアプローチをする精神科と、患者さんのカウンセリングなどを主な業務にする臨床心理士は文系に相応しいアプローチだ――正しさを裏付けるように、味の記憶が昔を想起させるのは本当らしい。
「うわあ、それは寒すぎて地獄ですね……。良く生きて帰れましたね……」
医師立ち会いの検査をするだけのことはある過酷な訓練が森技官の高校では課せられているようで、そういう場合は仮病で逃げることも出来ないだろう。
ただ、初対面の時はともかく、森技官をそんな耐寒訓練で失ってしまえば「国家的損失」のような気がする。性格的には多分に問題がある人ではあるものの、国のこととか国民の税金の使い道を本当に親身に考えていることは一連の事件を通して知って知ったので。
「流石に、死者を出すような不祥事が起こってしまえば高校側もマズいと判断していたのでしょう。事前の準備はもちろんのこと、ホワイトアウトに巻き込まれた場合のことまで想定済みでしたし、私自身体力は有る方なので皆を誘導して山小屋に辿り着けました、どのグループよりも早くに。そのために焼きおにぎりもトン汁もたくさん食することが出来ました」
森技官の戦闘能力の高さは祐樹もこの目で見ていたので、納得してしまったが。
「耐寒訓練もそうですが寒い所で食べる暖かいモノは普段の味よりもさらに美味しく感じますよね」
祐樹の言葉に全員が頷いている。「普通」の幼少期を過ごしてこなかった最愛の人にもどうやらそういう経験が有るらしい。
恵まれない境遇に居た最愛の人の過去のことは、自発的に話し出さない限り聞かないようにしていたが、今回ばかりは知りたいような気がした。
それにそういう他愛のない話しを交わしている方が精神衛生上も良いに決まっている。しかも無邪気で活気溢れる子供の楽しそうな声や、芝生を渡る薔薇の香りの風、そして燦々と降り注ぐ太陽の光りも、最愛の人だけでなくて祐樹の傷付いた精神を少しでも癒してくれるだろうから。
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時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
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「エブリスタ」さんというサイトで、もちろん無料です!!
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他、前ブログで連載していた「洋館の堕天使」も移しています。「作品一覧」をクリックかタップで見られますので、良かったら♪
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更新時間が本当にバラバラになってしまうので、ヤフーブログの更新を呟いているだけのアカですが、ぶろぐ村や人気ブログランキングよりも先に反映しますので「いち早く知りたい」という方(いらっしゃるのか……???)はフォローお願い致します。
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最近はブログ村の新着に載らなかったり、更新時間も滅茶苦茶になっているので、ツイッターアカウントをお持ちの方は無言フォローで大丈夫なので、登録して下されば見逃さずに済むかと思います!!宜しくお願いします。
◇◇◇お詫び◇◇◇
実は家族が余命宣告を受けてしまいまして。それに伴い更新の目途も自分自身すら分からない状況です。
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。
◇◇◇お知らせ◇◇◇
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。
◇◇◇お知らせ◇◇◇
エブリスタ様に投稿してみて、痛感したのですがヤフーブログは「ルビが打てない!!」という仕様なのは仕方ないのです。しかし、このブログで連載中(現在は休止中です、すみません)の「蓮花の雫」はルビが打てないのは(個人的に)物凄く辛いので、全部エブリスタ様に持って行った上で、再開したいと思います。
楽しみにして下さっている方がいらっしゃるのかどうか分かりませんが、【蓮花の雫】のみ、続きはエブリスタ様単独で書きたいのでご了承とご理解を頂けたらと思います。
【追記】
取り敢えず、このブログで書いていた分を再掲という形でゆっくり移して行きます。
隙間時間に作業しています。エブリスタ様の方がやはり使い勝手も良いので(加筆修正も加えています)全ての記事を向こうに移した後はこちらのブログからは削除したいと考えて居ます。
https://estar.jp/_novel_view?w=25307809
楽しみにして下さっている方がいらっしゃるのかどうか分かりませんが、【蓮花の雫】のみ、続きはエブリスタ様単独で書きたいのでご了承とご理解を頂けたらと思います。
【追記】
取り敢えず、このブログで書いていた分を再掲という形でゆっくり移して行きます。
隙間時間に作業しています。エブリスタ様の方がやはり使い勝手も良いので(加筆修正も加えています)全ての記事を向こうに移した後はこちらのブログからは削除したいと考えて居ます。
https://estar.jp/_novel_view?w=25307809
良かったら覗いて下さいませ。
あと、BL小説以外も(ごく稀にですが……)書きたくなってしまうようになりました。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。
こちらでそういった作品を公開していきたいと思っています。
こんなお話も投稿していますので、興味を持った方……いらっしゃるのか??はスマホで読んで頂ければ泣いて喜びます!!
興味が有る方は是非!スマホの方が読み易いので、オススメはスマホ経由です。
風邪が長引いていて、家族の入院している病院にも行けない今日この頃なのですが、やふーブログの更新は出来れば二話!最低でも一話を目標に頑張ります。
ただ、お医者様から「急変も覚悟しておいて下さい」と言われているので、綱渡りな更新になりますがご了承ください。
私の都合で更新時間がバラバラになってしまっている上に、「にほんブログ村」はシステムの移行とかで新着記事が反映されたり、されなかったりです(泣)
基本毎日更新しますので「人気ブログランキング」でチェック頂くか、まめにこちらをご覧いただければと思います。
寒い上にインフルや風邪が流行っていますので読者様もお身体ご自愛ください。
◆更新がお休み頂いたり飛び飛びになってしまったりして申し訳ありません。◆
基本毎日更新しますので「人気ブログランキング」でチェック頂くか、まめにこちらをご覧いただければと思います。
寒い上にインフルや風邪が流行っていますので読者様もお身体ご自愛ください。
◆更新がお休み頂いたり飛び飛びになってしまったりして申し訳ありません。◆
余命宣告を受けた家族の容態が急変したりで、動員が掛かるもので……。
当分はこんな感じでしか更新出来ないことをお詫び申し上げます。
当分はこんな感じでしか更新出来ないことをお詫び申し上げます。
こうやま みか拝











