「病院長命令ということにしては?
 円滑な組織運営のために是非必要だとか、病院一丸となって――事務局主導ではなくて教授を始めとする本来の指揮系統で――経営を見直すためにとか色々と口実はあるでしょう。
 事務局に不満を抱いている先生達って意外と多いのです」
 清水研修医が事もなげに言った、ごく平静な口調で。
 祐樹も医局の慰安旅行の時に色々と言われたようで――具体的なことは聞いていない、言う必要があれば絶対に告げてくれると信じているので――確かに不満を持っている。
「それは救急救命室のメンバーだけのことですか?」
 だとすれば、万年赤字の――これは病院のため、医療のためにはある意味仕方ない。例えば救急車や消防車、そして警察官とパトカーみたいに普段は必要がないが無ければ困るという存在で、後者の場合は国家公務員として働いているし、市民の理解は得られているので問題ないが、国立病院という税金で運営されていたモノが独立行政法人となって採算というものを考えるようになった今となっては赤字イコール悪という風潮だ――象徴でもある救急救命室の「皆」が思っていることでも、他の科は異なるといったことも充分考えられる。
「いえ、確かに救急救命室でもそんな話は出ますが、精神科の先生達もお薬の処方などで色々と干渉されると聞いています。たとえば点滴と錠剤だったらコストパフォーマンスの良し悪しで決めろとか、そういう専門家が決めたことを事務局から煩く言って来るようなので……」
 外科から遠く離れた――少なくとも自分の医局は短期入院がメインなので、元々精神病を患っている人以外では発症もないため交流のしようがない――精神科でもそういう愚痴が出ているなら、きっと他の科からも同じような反感は抱かれている可能性が高い。
 教授職本来の――自覚し出したのは最近で、それまでは自分の科のこと以外はほとんどスルーして来た――物事の見方というかそれ以上の視点で認識出来る研修医というのも、ある意味新鮮だった。
 それに今でこそ外科という本来居るべき場所で輝いている彼がベテランナースに叱責されながら、しかも地震の時には「居ても居なくても同じ」という扱いだったとは。
 多分、真殿教授も気付いていないのだろう、この研修医の只者で無さ加減というものに。研修医は――実際問題、ベテランナースの方が経験も豊富なことは認めるが――目先の仕事を覚えるのが精一杯だし、なかなかそういう大局的に立った視点を持ち辛いのに、良くもこんなに見ているなと感心してしまう。
「病院長にはどうやって説得を?確かにその大義名分的な命令が出れば個性豊かな教授陣も従うでしょうが……」
 祐樹や――そして内心は祐樹も多分尊敬している――森技官が使いそうな手段ではなくて、例えばそのアンケートで自分に10の評価を付けた人間からより点数の低い人間に説得して貰うという方が極めて穏当のような気がする。
 ただ、問題は斉藤病院長も――病院改革には燃えているが――説得しなければならないという点だ。
「私の父の寄付が救急救命室だけだと思いますか……」
 愛息の授業料という名目で億単位の寄付をしてくれた太っ腹な人なので、斉藤病院長も「親友」として援助を受けていることは想像に難くない。
「なるほど……。具体的なことは結構ですが、つまりは影の発言力を多大に持つということですよね」
 攻撃的な――という言い方は祐樹には失礼だろうが――対人関係を作って潰していくという方法よりも自分にとって親和性が高いのは清水研修医の提示してくれた方法であることは確かだった。それに、祐樹の場合は敢えて矢面に立つことによって自分を守ろうとしてくれている、有り難いことに。だから祐樹には時が満ちた時に清水研修医の親友が作成した多次元尺度構成法の表を――話を聞いてのざっくりとしたイメージだが、入試で使ったような日本の戦国時代の人間関係図とか姻戚関係、そして同盟の有無を記した各大名家の勢力分布図のような感じなのだろう――見せれば、それはそれで祐樹的にも貴重なデータとして使えるハズだし。
「そうですね。ウチの病院でも科同士の軋轢と言いますか、そういう不協和音が実際に有ります。この病院と比べると些細な問題かもしれませんが、当事者にとっては重大です。
 そういう人間関係のややこしさを少しでも解消して、より良い組織作りをする上で充分以上の効果を発揮した――いえ、事実なのです――という点を父から切り出すように頼んでみます。
 これで御礼になりましたか?」
 清水研修医の話が示唆に富んでいてとても興味深かったので、本来の目的である清水研修医の来意が「御礼」だとすっかり忘れてしまっていた。
「充分過ぎるほどです……。こんなに有益な話を聞かせて下さって有難う御座います。
 ただ、病院長は確実にアンケートを実施して下さって、そして貴方の友達に渡るでしょうか……」
 清水研修医はふと思いついた感じでコーヒーカップを大切そうにテーブルの上に置いた。




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