「流石ですね。その通りです。
 それはそうとお父様と斉藤病院長は元同級生で、今でも親友として仲良くしていらっしゃるのですよね。教授選や病院長選挙でも助け合った仲だと思いますが、具体的にはどのようになさったのですか?」
 清水研修医はピンと来た感じで頷いている。自分の教授職は病院始まって以来の外部からの招聘だったが、それまではまさに政治家の選挙と同じような手順で、当然斉藤病院長もその熾烈な争いに身を投じて勝利を掴んだようだった。ただ、今教授職に就いているので自分が聞きたいことは病院長選挙のことだということくらい、清水研修医ほどの逸材でなくとも容易に見当が付くだろうが。
「ああ、その件ですか……。味方になってくれそうな人間は――主に教授職ですが、上司に反感を持っている准教授とかあるいは医局のキーパーソンなど様々です――とことん懐柔して、中立派にはこちらに付くとこういう良いことが有りますよといった好条件でこちらに寄せて――接待の席でも設けて色々と説得したり歓心を買ったりですね――敵となりうる、もしくは実際に病院長選挙に出そうな人間には早い段階で弱味を握って野望を潰すとかですかね」
 コーヒーの湯気を頬に満足そうに当てながら淡々と語られる内容は一々尤もなことではあったが、実践は難しそうだ。
「味方になってくれそうな人は分かります。しかしその他の敵に回りそうな人間とか各医局の勢力分布図みたいなものはまるっきり分かりません」
 そもそも今まで他科のことなど――共同オペなどの業務で関わりあった程度の付き合いだ――関心を持ったことはなかったし、そもそも他科のことに干渉するのは病院の不文律でもある「内政干渉」に当たるので務めて避けてきた。
「ああ、斉藤病院長の時代にはなかったので、ウチの父も泥臭い選挙戦しか出来なかったようですけれど、今はPCが普通に使えますよね。
 そのPCで『多次元尺度構成法』を使って人物相関図を作れば良いと個人的には思います。教授・准教授・センター長などに『誰のことをどう思っているのか』を10段階でヒアリングするのです。例えばですけれど、白河教授が香川教授に対して好きが10で嫌いがゼロというアンケートですね。まあ、白河教授の場合、香川教授には10と答えるでしょうが、だったら真殿教授に対しては……まあ、仮に5と答えるとしますよね。で、他の5と答えた人はどういう人なのかとか、ゼロと答えた人はどんな人かでだいたいの親近感とか嫌悪感とかは分かります。
 全く関係のない産婦人科などの教授の場合でも、どの教授と親しくしているのかとか、香川教授のことをどう思っているのかも分かるという計算になります。
 あ、すみません説明が下手なので……。分からない点が有りましたら遠慮なく仰って下さい」
 息継ぎのようにコーヒーを飲んだ清水研修医がこちらを心配そうに見ていた。
「いえ、大丈夫です。分かりますよ。つまり、私に10を付けた人間は敵に回ることが少ない上に、その人が影響力を持つ人までこちらの味方になってくれるということですよね」
 弱味を握って……というのは、祐樹が得意とする分野だし、それはそれで最も威力を発揮することも分かっている。
 しかし、清水研修医の提示してくれた方法は――少なくとも自分にとっては――斬新だったし、それに何より「弱味を握って言うことをきかせる」という最終兵器を使わなくてもその人に影響力を持つ人間からの説得を先にして、それでも駄目な場合にのみ最終兵器を使用するという方法の方が後々のためにもなりそうだ。
「その『多次元尺度構成法』は簡単に作成出来るものなのですか?PCのシステム上の問題として」
 まずは技術面から聞いていこうという気になった。清水研修医とはまだまだ浅い縁ではあったが、外科医としての才能以上にそういう「政治家」というか大物の器を感じさせる。
 多分、京都一の私立総合病院の後継者に相応しいように英才教育だか帝王学だかは正確には知らないがそういうモノを学んでいるのだろう。
「ソフトが有れば簡単ですし、入力の手間とかを総合的に考えれば友達に頼むことも出来ます。いえ、医学部ではなくて工学部で実際にそういう研究をしている人です。
 ウチの大学はそういう分野は遅れているとかで、わざわざ岡山大学に行ったのですが。
 ただ、個人名が入っている機微情報といえばそうなりますよね?だったらウチの大学よりも岡山大学の工学部の院生に頼んだ方がリスクは低くなります」
 なるほどなと感心しながら聞いていた。確かに医学部の、しかもウチの大学と関係のある人だったら漏洩する可能性は高くなる。
「その方は秘密厳守でして下さいますか?そもそも良くそういう人と友達……ああ、高校とかの同級生ですか」
 清水研修医の経歴とか学歴は詳しくは聞いていない。ただ、京都生まれの京都育ちだし、しかも京都では誰もが知っているであろう私立病院の経営者の御子息なだけにそれなりの小学校――場合によっては幼稚園からかもしれない――から高校までを出ているに違いない。
 清水研修医が年齢相応のはにかんだ笑みを浮かべた。
「中学からずっと親友です。ま、普段は京都と岡山なので滅多に会えませんがお盆とお正月には毎年会っています。それに今はスカイプとか色々な手段で話せますし。お互い職人気質な点が似ているので気も合うし……気の置けない友達なので秘密厳守でしてくれます。
 私はデータを送るだけですね。アンケート用紙をPDFファイルか何かにして」
 清水研修医は事もなげに言い切った。もともと細部まで目配りの出来る人間だということや、批判めいたことも遠慮なく言うタイプだと地震の時に分かっていたので、その彼が言うのだから大丈夫だろう。
「そのアンケートを実施する方法というか、口実が必要ですよね。技術面はクリア出来たとしても……」
 教授にも色々居て、例えば北教授のような人は自分の研究と救急救命医療以外には興味のない人間だって存在する。そういう人が好感度のアンケート用紙に記入して提出してくれるかどうか、はなはだ覚束ないのも事実だった。自分なら期日までに確実に提出しそうな気はするが。





______________________________________

宜しければ文字をクリック(タップ)お願い致します~!励みになります!




2クリック有難うございました!!






 

 
 

◆◆◆お知らせ◆◆◆

時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。

「エブリスタ」さんというサイトで、もちろん無料です!!
リンク先です。
↓ ↓ ↓


メカ音痴なのでリンクが違った場合は、お手数ですが「エブリスタ 神殿の月 こうやまみか」で検索して頂けたらと(泣)
◆◆◆宜しくです◆◆◆


◇◆◇◆

更新出来るだけ頑張りますが、家族の入院とそれに関係するリアバタでネットに上がれない日も有ると思います。
その点ご容赦とご理解を賜りますようにお願い致します。

        こうやま みか拝