「他ならぬ貴方からのプレゼントですので大切に着ます。本当に有難うございます。
さて、困りましたね……。こんなに意外でかつ高価な物を頂いてしまっては、次のデートプランを想定し直したほうが良いのかも知れません」
祐樹の輝く瞳がさらに眩しさを増して自分の瞳を釘付けにしてくるようだった。
「いや、祐樹の誘いならばどんな場所だってとても嬉しい。だから考えていた通りの場所で構わない」
どんなに疲労困憊していても滅多に顔色にも表情にも出ない祐樹の笑みが少しだけ影を帯びているのは昼夜を問わない激務のせいだろう。普段でも病院一の激務を誇る祐樹の時間を――次のステージへと飛翔するためとはいえ――さらに奪ってしまっていることに微かな罪悪感を覚えながらも相変わらず眩しい笑みを浮かべる祐樹へと微笑みを返した。
二人きりで街を逍遥するだけで薔薇色のシャンパンの泡が心の中に甘く弾けるような幸せを感じつつ、普段よりもことさらゆっくりと歩みを進めた。
「先ほどあの店でいきなり英語に切り替えたのはどういう意図があってのことだ?」
祐樹の歩みも病院内の速足モードではなくて、自分に合わせてくれているのも胸が炭酸色の泡立っては弾けていくような気がした。
「ああ、そのことですか。試着室から出てきた時以降、貴方は呼び名を間違えていらしたので……。あのような高級ブランドの店長クラスとなると英語も堪能な人が多いと思いますし、客も日本人ばかりではない――まあ、ほとんどが日本人でしょうが、例外も多そうです――と咄嗟に判断致しまして。店とはいえ公共の場所ですし、あまり目立ったことはしないほうが良いかと」
そういえば、正装した祐樹の水際立った凛々しさと生気に満ちた佇まいに見惚れてしまっていて、他のことへの配慮が不可能になっていたことを甘く淡く思い出して頬を染めてしまう。
「そういえば、そうだったな。配慮不足で済まない……」
無意識下に刷り込まれてしまった「永遠の恋人」の名前をつい呼んでしまった些細な失態を取り繕ってくれた祐樹の優しさに、甘い笑みを浮かべてしまう。
「地下鉄に乗っても良いですか?」
帰宅ラッシュの時間帯なので――といっても大阪のような人工物ばかりではなく、木々にはスズメがびっしりと並んで夜の支度をしているのが京都らしい、鳴き声が耳に心地よく響く――道路も地下鉄も混んでいるだろうが、隣に祐樹が居てくれさえすればどこでも自分にとっては天国だ。
「それは構わないが、どこに行くのだ」
購入した衣類や靴は既に自宅へと送付済みなので二人とも普段の通勤鞄を下げているだけだったので勤め帰りのサラリーマンの波の中に居てもさほど目立たないだろう、多分。
「出町柳ですが……。四条大橋からではなくてあちらの橋から見る賀茂川の流れも素敵らしいですよ」
祐樹が唇をいたずらっ子のように弛めて輝く笑みを零している。何が何だかよく分からないが、こうして何気ない場面で言葉を交わしながら散策するのも自分にとっては蜜のような甘い極上の時間だったのでこの時間が少しでも長く続けばいいと思いながら大きく頷いた。
「そうか、それは楽しみだ…」
案の定地下鉄は混んでいたものの、奇跡的に二人して並んで座れたことにも――ラッシュ時の混雑のせいで距離感が近くても誰も気には留めないだろうから――薔薇色の泡が心の中にふうわりと溶けていくようだった。
「すみません、少しだけ肩を貸してください。直ぐ起きますので」
隣に座った祐樹がそう告げると直ぐに肩へと心地よい重みが掛かって、その多幸感に酩酊したようになる。
常に睡眠不足なのは職業上仕方ないことではあったが、休める時には休んでいると祐樹は常々言っていたものの、誰かに寄り掛かって眠るということはしないと聞いていた。
それだけ気を許してくれるのだと思うとそれだけで心が甘く熱く蕩けていきそうで。
それに自分と過ごすプライベートな時間でも祐樹の方が起きている時間は明らかに長かったし、こうして安らかな呼吸を肩の上、耳の下で聞いているとそれだけで何だか祐樹の特別な存在――言葉では散々聞かされていたし、今となっては全く疑う余地すら持っていなかったが――に成れたような確かな重みを感じて唇に浮かべた淡い笑みを他人に見せないように慌てて下を向いた。
普通の――といってもドラマの中でしか知らないが――会社勤めの人間が酒食を済ませないで帰る時間帯なので地下鉄の車内には酔った人間の姿はなかったものの、皆がどこか疲労を滲ませている感じだったので肩に凭れかかって眠る祐樹の姿もそれほど奇異には映っていないのだろう。
「ゆ……」
車内アナウンスの声が祐樹の伝えた駅名を知らせたので控えめに声をかけようとしたら、パチリといった感じで祐樹の瞳が明るく輝いて自分だけを見つめてきた。
「ああ、お陰様ですっきりしました。久しぶりに充分熟睡した気分です。疲れも取れましたし……。その分ご不便をお掛けしたようですが」
他人の目と耳がある――といっても殆どの乗客がスマホを操作していたりヘッドフォンを付けていたりしていたが――ので祐樹の言葉のどこまでが本当なのかは分からなかったが、先ほどまでの微かな影のようなものは確かに消えていた。
「降りましょう。ああ、あそこにコンビニがありますので必要なものを買って参ります。何かリクエストはありますか?」
祐樹の言う「必要なもの」が何なのかさっぱり分からなかったが、別に止める理由もなかった。
「いつもの紅茶が強いて言えば飲みたいかな……」
自宅でも二人だけのお祝いの準備は考え付く限りではしてあったし、夕食は家で摂ることも祐樹には告げてあるのでそうそう長居はしないだろう。
ただ、どこであっても二人だけで過ごす時間は宝石よりも貴重だったが。
「了解です。少し待っていて下さいね」
速足で歩く祐樹の後姿――少なくとも自分を同行させる気がないことくらいは分かる――の広い背中に見惚れていると、少しの時間しか要せずにコンビニの店内から出てきた祐樹は悪戯っ子の瞳の輝きが一際眩しく瞳を射抜く。
ただ、コンビニのビニール袋から手渡されたモノが意外過ぎて思わず目を見開いてしまったが。
「これは……」
何故、この時間にこのようなモノを殊更購入したのか意味不明で、ただ祐樹の生気に満ちた笑みに釣られて手に取ってしまったが。
「そのうち、そうですね、5分以内に意味が分かるかと思いますよ。
その時までのお楽しみです。紅茶はもう片方の手でお持ちになった方が良いですよ」
祐樹の意外と柔らかな唇が意味有り気な言葉を紡ぐ。
自分の判断よりも祐樹の方が勝っていることは充分承知していたので、祐樹が手渡してくれたモノを手に持って恋人と肩を並べて歩き出した。
四条大橋の眺めよりも何となく古都らしい古びた情緒が漂う橋の方へと。
祐樹が手渡してくれたモノの意図はまだまだ不明だが、きっと五分以内には判明するだろうし、ただ本当に何故こんなシロモノを購入したのか頭の中で色々考えたが、多分正解には辿り着けそうにないのも、束の間の恋人同士のそぞろ歩きには相応しい気がした。
さて、困りましたね……。こんなに意外でかつ高価な物を頂いてしまっては、次のデートプランを想定し直したほうが良いのかも知れません」
祐樹の輝く瞳がさらに眩しさを増して自分の瞳を釘付けにしてくるようだった。
「いや、祐樹の誘いならばどんな場所だってとても嬉しい。だから考えていた通りの場所で構わない」
どんなに疲労困憊していても滅多に顔色にも表情にも出ない祐樹の笑みが少しだけ影を帯びているのは昼夜を問わない激務のせいだろう。普段でも病院一の激務を誇る祐樹の時間を――次のステージへと飛翔するためとはいえ――さらに奪ってしまっていることに微かな罪悪感を覚えながらも相変わらず眩しい笑みを浮かべる祐樹へと微笑みを返した。
二人きりで街を逍遥するだけで薔薇色のシャンパンの泡が心の中に甘く弾けるような幸せを感じつつ、普段よりもことさらゆっくりと歩みを進めた。
「先ほどあの店でいきなり英語に切り替えたのはどういう意図があってのことだ?」
祐樹の歩みも病院内の速足モードではなくて、自分に合わせてくれているのも胸が炭酸色の泡立っては弾けていくような気がした。
「ああ、そのことですか。試着室から出てきた時以降、貴方は呼び名を間違えていらしたので……。あのような高級ブランドの店長クラスとなると英語も堪能な人が多いと思いますし、客も日本人ばかりではない――まあ、ほとんどが日本人でしょうが、例外も多そうです――と咄嗟に判断致しまして。店とはいえ公共の場所ですし、あまり目立ったことはしないほうが良いかと」
そういえば、正装した祐樹の水際立った凛々しさと生気に満ちた佇まいに見惚れてしまっていて、他のことへの配慮が不可能になっていたことを甘く淡く思い出して頬を染めてしまう。
「そういえば、そうだったな。配慮不足で済まない……」
無意識下に刷り込まれてしまった「永遠の恋人」の名前をつい呼んでしまった些細な失態を取り繕ってくれた祐樹の優しさに、甘い笑みを浮かべてしまう。
「地下鉄に乗っても良いですか?」
帰宅ラッシュの時間帯なので――といっても大阪のような人工物ばかりではなく、木々にはスズメがびっしりと並んで夜の支度をしているのが京都らしい、鳴き声が耳に心地よく響く――道路も地下鉄も混んでいるだろうが、隣に祐樹が居てくれさえすればどこでも自分にとっては天国だ。
「それは構わないが、どこに行くのだ」
購入した衣類や靴は既に自宅へと送付済みなので二人とも普段の通勤鞄を下げているだけだったので勤め帰りのサラリーマンの波の中に居てもさほど目立たないだろう、多分。
「出町柳ですが……。四条大橋からではなくてあちらの橋から見る賀茂川の流れも素敵らしいですよ」
祐樹が唇をいたずらっ子のように弛めて輝く笑みを零している。何が何だかよく分からないが、こうして何気ない場面で言葉を交わしながら散策するのも自分にとっては蜜のような甘い極上の時間だったのでこの時間が少しでも長く続けばいいと思いながら大きく頷いた。
「そうか、それは楽しみだ…」
案の定地下鉄は混んでいたものの、奇跡的に二人して並んで座れたことにも――ラッシュ時の混雑のせいで距離感が近くても誰も気には留めないだろうから――薔薇色の泡が心の中にふうわりと溶けていくようだった。
「すみません、少しだけ肩を貸してください。直ぐ起きますので」
隣に座った祐樹がそう告げると直ぐに肩へと心地よい重みが掛かって、その多幸感に酩酊したようになる。
常に睡眠不足なのは職業上仕方ないことではあったが、休める時には休んでいると祐樹は常々言っていたものの、誰かに寄り掛かって眠るということはしないと聞いていた。
それだけ気を許してくれるのだと思うとそれだけで心が甘く熱く蕩けていきそうで。
それに自分と過ごすプライベートな時間でも祐樹の方が起きている時間は明らかに長かったし、こうして安らかな呼吸を肩の上、耳の下で聞いているとそれだけで何だか祐樹の特別な存在――言葉では散々聞かされていたし、今となっては全く疑う余地すら持っていなかったが――に成れたような確かな重みを感じて唇に浮かべた淡い笑みを他人に見せないように慌てて下を向いた。
普通の――といってもドラマの中でしか知らないが――会社勤めの人間が酒食を済ませないで帰る時間帯なので地下鉄の車内には酔った人間の姿はなかったものの、皆がどこか疲労を滲ませている感じだったので肩に凭れかかって眠る祐樹の姿もそれほど奇異には映っていないのだろう。
「ゆ……」
車内アナウンスの声が祐樹の伝えた駅名を知らせたので控えめに声をかけようとしたら、パチリといった感じで祐樹の瞳が明るく輝いて自分だけを見つめてきた。
「ああ、お陰様ですっきりしました。久しぶりに充分熟睡した気分です。疲れも取れましたし……。その分ご不便をお掛けしたようですが」
他人の目と耳がある――といっても殆どの乗客がスマホを操作していたりヘッドフォンを付けていたりしていたが――ので祐樹の言葉のどこまでが本当なのかは分からなかったが、先ほどまでの微かな影のようなものは確かに消えていた。
「降りましょう。ああ、あそこにコンビニがありますので必要なものを買って参ります。何かリクエストはありますか?」
祐樹の言う「必要なもの」が何なのかさっぱり分からなかったが、別に止める理由もなかった。
「いつもの紅茶が強いて言えば飲みたいかな……」
自宅でも二人だけのお祝いの準備は考え付く限りではしてあったし、夕食は家で摂ることも祐樹には告げてあるのでそうそう長居はしないだろう。
ただ、どこであっても二人だけで過ごす時間は宝石よりも貴重だったが。
「了解です。少し待っていて下さいね」
速足で歩く祐樹の後姿――少なくとも自分を同行させる気がないことくらいは分かる――の広い背中に見惚れていると、少しの時間しか要せずにコンビニの店内から出てきた祐樹は悪戯っ子の瞳の輝きが一際眩しく瞳を射抜く。
ただ、コンビニのビニール袋から手渡されたモノが意外過ぎて思わず目を見開いてしまったが。
「これは……」
何故、この時間にこのようなモノを殊更購入したのか意味不明で、ただ祐樹の生気に満ちた笑みに釣られて手に取ってしまったが。
「そのうち、そうですね、5分以内に意味が分かるかと思いますよ。
その時までのお楽しみです。紅茶はもう片方の手でお持ちになった方が良いですよ」
祐樹の意外と柔らかな唇が意味有り気な言葉を紡ぐ。
自分の判断よりも祐樹の方が勝っていることは充分承知していたので、祐樹が手渡してくれたモノを手に持って恋人と肩を並べて歩き出した。
四条大橋の眺めよりも何となく古都らしい古びた情緒が漂う橋の方へと。
祐樹が手渡してくれたモノの意図はまだまだ不明だが、きっと五分以内には判明するだろうし、ただ本当に何故こんなシロモノを購入したのか頭の中で色々考えたが、多分正解には辿り着けそうにないのも、束の間の恋人同士のそぞろ歩きには相応しい気がした。
リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
【お詫び】
リアル生活が多忙を極めておりまして、不定期更新になります。
更新を気長にお待ち下さると幸いです。
本当に申し訳ありません。
【お詫び】
リアル生活が多忙を極めておりまして、不定期更新になります。
更新を気長にお待ち下さると幸いです。
本当に申し訳ありません。
◆私信◆
ここを知っているリア友さんへ。
お願いした件、どうなっているか教えて下さい。
明日が確か締切だったので、宜しくお願い致します。
連絡お待ちしています。
ここを知っているリア友さんへ。
お願いした件、どうなっているか教えて下さい。
明日が確か締切だったので、宜しくお願い致します。
連絡お待ちしています。
こうやま みか拝