「……湯で濡らしたタオルをここに持って来るから、その時に……裕樹が拭って欲しい。顔を洗って、前髪も下ろした後に」
何度か唇が空回りしそうな感じだったが、最後まで言い切ってしまうと随分気が楽になった。
「それは構いません。というよりも、少しでも私を休ませようとしてくださっていますよね?
触れ合う人全てに向けられる貴方の優しさは今日一日ずっと拝見していましたが、今は私だけに向けられてとても嬉しいです。こういう黄金色の蜜のような時間を最愛の聡と過ごすことが出来るのも、不幸中の幸いですよね」
微かな衣擦れの音を立ててネクタイが巧みに解かれてから、唇が重ね合わされた。
ほぼ乱れのないスーツ姿の裕樹ーースラックスなどには自分が迂闊にもばら撒いてしまった白い雫が滴っているのは居た堪れない気分を助長してしまったがーーと何も身に着けていない自分の素肌にも羞恥を覚えてしまっていたものの、逆にその羞恥心が一時は収まったハズの身体の奥の炎が再燃させそうな慄きを感じて慌てて左腕には触れないように注意しながら裕樹の身体にさらに寄り添った。そうするだけでかなり落ち着くのは経験から良く知っていたので。
身動ぐたびに太ももを伝う熱い感触も裕樹の愛情の確かな証しだと思うと恥ずかしさよりも歓びの方がより勝っているのも事実だったし。
裕樹の左腕が動く気配を感じて、慌ててベットから降りてバスルームへと向かった。その後ろ姿を裕樹の太陽のような眼差しがずっと追ってきているのを背中全体で感じて、甘美な悦びの余り唇が自然と綻んでしまっていたが、裕樹には見えていないハズなので良いだろう。
「やはり何時もと異なりますね。普段なら紅に素肌全体が染まっている頃合いなのに、触れた部分しか紅くなっていません。もしかして体調が優れないとか?」
バスルームの扉に手を掛けた時に裕樹の心配そうは声がしたので、上半身だけ振り返って裕樹と視線を絡ませた。
「貧血などの自覚症状はないし、多分精神的なものだろう。もっと時間を掛けて愛の行為をしてくれれば、普段通りになるかと思うが」
人並み以上のメンタルは持っている自信は有ったが、裕樹に比べると若干弱いことも分かっている。地震のショックに加えて信号機の電気さえ消えた上にアスファルトがデタラメに隆起していた歩きにくい道を裕樹の安否だけを確認したくて歩いた記憶が一気に蘇って来て、唇を噛み締めた。それに比べれば裕樹の確かな存在を身体だけでなく魂まで刻み込んだような愛の交歓の後の微かな羞恥心など他愛のないものにも思えて、自然と笑みの形に口角が上がるのはむしろ当然かもしれない。
「それは是非ご要望にお応えしなくてはなりませんね。最愛の聡を悦ばせるのは愛する者の務めですから。三日間かけてじっくりと私の愛を教えて差し上げます」
強く揺るぎない真摯な眼差しとは裏腹に裕樹の男らしく整った唇は極上の笑みを浮かべていて、ずっと視線を絡めたい甘酸っぱい幸福な疼きが身体と心に沁み渡るようだった。
バスルームの大きな鏡に映った自分の素肌は確かに裕樹の言った通りーー紅く染まった胸の粒などは別にしてーー出勤前に慌ただしく身支度を整えるためにだけ見る「いつもの」自分の肌の色だった。汗の雫は纏っているものの。
裕樹の心配も心の底から嬉しかったが、体調に変化はないので多分一時的なショックが気を抜いてしまった今になって出てきただけのような気がする。
それに紅く色付いた素肌は裕樹にしか見せたくないので、却って良いのではと思えてくる。
正直シャワーを浴びたかったがそれでは甘すぎるペナルティーにならないので顔だけを洗って愛の行為でかなり湿った前髪を手早く下ろしてタオルを持って寝室へとなるべく音を立てないように戻った。
案の定、裕樹は目を瞑っていて、起こさないようにそっと慌てて床に脱ぎ捨てたジャケットから黒木准教授から分けて貰ったシロモノをクローゼットの中に移動させてからーーワイシャツだけでは隠しきれないほどに裕樹の愛で熟してしまった胸の粒は多分裕樹はジャケットで隠して欲しいと言うだろうからーー寝室へと再び戻った。
「裕樹……」
小さな声で呼びかけてみた。これで起きないようならリビングに備え付けてあったPCでもチェックしようかと思いながら。カメラマンからメールが来ているかも知れなかったので。
「ああ、すみません。つい微睡んでしまっていました」
そのまま休めば良いと口にする前に裕樹の長い腕や指が湯で濡らしたタオルに伸びた。
「なさることはお分かりですね?」
頷きで返して裕樹の手の届く場所までさらに歩み寄ってから予感と余韻に震える指を後ろへろ回した。









何だか長くお休みを頂いている間にYahoo!さんにも日本ぶろぐ村にも仕様変更が有ったらしく、メカ音痴な私はサッパリ分かりません(泣)

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◇◇◇
都合により、一日二話しか更新出来ないーーもしくは全く更新出来ないかもーーことをお詫びすると共に、ご理解とご寛恕をお願いいたします。
やっとリアバタがー段落ついたので、次回更新分からは毎日更新を目指します!(目指すだけかも……(泣)
早く「夏」も再開させないといけないですし。自業自得とはいえ宿題は山積みです。