『貴方の器用さは良く存じていた積もりですが、注射もそこらの内科医よりも手際が良いのかちっとも痛くないですね。老後はやはり外科のクリニックを二人で経営しましょう。赤字にならない程度にのんびりと運営すればそれで充分ですから。私の退職金は全部それに費やしても大丈夫なくらいには出世します』
救急救命室からメインロビーへと向かう道すがら裕樹はとても楽しそうに老後のプランを口にした。
そんな、他人が聞いたら緊急時に不謹慎だと怒りそうな話題でも、心は薔薇色に弾んでしまう。それにリラックスする時はとことん休むのは鉄則で、裕樹はそれを心得ているからに違いない。学生時代にボランティアで救急救命室に入り浸っていた自分とは異なり、裕樹の場合は医師として研修医時代から働いているのだから背負う責任の重さは自ずと異なるのも当たり前だった。
『あ、自衛隊のヘリの着陸音だ』
裕樹は左手を確かめるように触った後に微笑みを浮かべた。
『痛みは皆無です。やはり愛する貴方が選んで下さった鎮痛剤の方が森技官のよりも私には効果があるようです。
急ぎましょうか?』
真顔に戻った裕樹は自信に満ちた表情と歩き方に変わっている。男らしい凛とした表情も自分を惹きつけてやまない裕樹の活き活きとしたオーラもよりいっそう強まったように思えるのは、きっとあの神懸かり的な手技を成功させたことによるのだろう。
『そちらから行くのか?』
人の気配のない場所では肩を並べて歩く習慣が出来上がっているが、病院の人間の目の触れそうな場所ではやはり自分が先に歩くことになる。
『指揮台からでは分からないことも有るかと思いまして。玄関から入ってみませんか?』
裕樹の判断もあながち間違ってはいない気がして、正面玄関の方へと足を早めた。
メンズナースが慌ただしくストレッチャーを押して怪我人を搬送している。多分慣れたせいで手際が良くなって、患者様は二人同時というハイスピードだった。ただ藤宮さんならこの程度では動じないだろうが。
正面玄関先にはボランティアの学生や看護師が安否確認ボードに名前と年齢などを記した紙を貼ったり、電源に繋ぎっぱなしのタブレットに一心不乱に情報を打ち込んだりしている姿が目につく。ただ、通路などは充分過ぎるほど確保してあるのは藤宮さんの的確過ぎるほど素晴らしい判断力の賜物だろうが。
『この患者さん、ブラックはおかしいのではないですか?まだ息をしています』
山崎医師が藤宮さんに詰め寄っているのを見て、さらに足を早めた。山崎医師の判断には全く信頼に値しないが、藤宮さんが実は病院内部の人間ではなく厚労省にも許可を得ていない森技官の好意の賜物なのを暴露されたくはなかったので。医局が異なる以上は配慮しなければ後々どんな形でしっぺ返しが来るか分からないのも事実だった。
手早くバイタルチェックを施す自分とは異なって裕樹は佇んだまま患者さんの容態を診ているだけだった。
『ブラックが正しいです。内臓に多量の出血、しかも源発は多数。自発呼吸は辛うじて有りますが、二分後には止まるでしょう。残念ながら対処は不可能です』
裕樹が有無を言わさない冷徹さを含んだ声で断言した。
脈拍も徐々に弱まっていくのを手で確認しながら裕樹のーーそして藤宮さんのーー判断が正しいことを実感した。
『二分後だと?どうしてそんな……』
山崎医師が言いがかりめいた感じで裕樹に詰め寄った。ユニットから外された恨みを晴らす積もりかもしれない。
『私の判断が正しいかどうか、先生ご自身で確かめられたら宜しいかと思います。あと1分ですよね』
自分や藤宮さんですら患者様のバイタルチェックは触診で確かめているハズで、裕樹は診ただけの判断だ。それなのに正確無比な判断が可能になったのも、救急救命室勤務が伊達でなかった証拠だろう。
キッカリ1分後に心肺が停止した。
『ブラックの搬送を例の場所にお願いします』
メンズナースにそう告げてーー霊安室は一杯になることが予め分かっていたので実は会議室の一室をご遺体安置所と決めてあったーー藤宮さんに感謝の目配せを送った。ごく事務的な表情で頷き返された後に、患者様の個人情報をボランティアの女性に告げている。
山崎医師は呆然と立ったままだったが、力量の差を見せつけられたせいか何も言い返すことはなかった。
裕樹がこれほどまでに医師として成長してくれたことに心の底から喜びを感じながらも、気を引き締めないと追い抜かれる日が近いような気がして手技を磨こうと心に決めた。ただ、手技のスキルが並び立つ日が来ても裕樹の愛情は変わらないことは確信出来たが。








何だか長くお休みを頂いている間にYahoo!さんにも日本ぶろぐ村にも仕様変更が有ったらしく、メカ音痴な私はサッパリ分かりません(泣)

どのバナーが効くかも分からないのですが(泣)貼っておきます。気が向いたらポチッとお願いします!!

一番下の『ぶろぐ村のランキング表示』はPV専用のようで(泣)せっかくクリックして下さってもポイントは入らないようです。一番確実なのは『文字をクリック』のようですので、ポチっても良いよ!と思われた方はそちらから是非お願い致します!!更新の励みになります!!


リアル生活にちと変化が有りまして、更新時間も日付けが変わる頃が一番投稿しやすいので、その頃に覗いて頂ければと思います。誠に申し訳ありませんが、1日何話かは更新します。iPad更新に泣く泣く切り替えたので、文頭の余白を空けると、レイアウトが崩れます(泣)
以前より読みにくいかと思いますが、どう弄っても改善されないのでお休みを頂いている時にちまちま書いたストックがiPadにまだあるので、当分は二話、ドライブデートはなるべく毎日新しく書こうと目論見中です!!

読んで下されば嬉しいです。