「この紙の質……。もしかして」
しなやかな指が紅色の花を咲かせるように繊細に動くのを見るだけで祐樹の心の中にも春の色で染まっていくような気がした。
「多分、当たっていると思います」
最愛の人はお店を選ぶのが面倒だという理由と、社会的ポジションに相応しいから愛用しているフランスの老舗ブランド一点集中しているのは知っていた。
まあ、先程まで身に着けていた祐樹のスーツなどは「こちらの方が祐樹により一層映える」という最愛の人の心尽くしで異なったブランドのお店で買ってくれた。
最愛の人の言う通り、講演会の後のパーティでは「そのスーツは最高にクールだ」とか褒められたのも良い思い出だったが。
ただ、見る人が見ると直ぐに分かる独特のオレンジ色の紙袋とロゴをこれ見よがしに見せるのを嫌って、スタッフに黒色の袋とわざわざ替えて貰っている時の方が多いし、ただの付箋紙に5千円もの価格を付ける辺り――今現在販売しているかどうかは知らないし、興味もなかった――紙袋も凝っているので直ぐに分かったらしい。
「この大きさとか重さだとネクタイだろうか……」
開けて見れば良いのに、祐樹の顔を確認するように見てくるのも愛しすぎる。
何だかクリスマスプレゼントだとか誕生日などのイベントの時もそうだったが「開けて見るのが勿体ない」と言わんばかりの笑顔が無垢な煌めきを放っているような気がした。
先程までの唇とか咽喉への愛の行為の時の八重桜の濃艶さとはまた異なった彩りなのも祐樹まで笑みを浮かべてしまう。
「そうです。ネクタイで合っていますよ。ただ、それだと『初夜』には結びつかないでしょう?」
「披露宴」と「初夜」―-それは見事な和のテイストに満ちたスイートルームだったが――の部屋の中では殊更時間を掛けて脱がしていったが、「披露宴」の時は白にしか見えないスーツが印象的だった。
ただ、スーツ姿というのは、普段の出勤時でも当然着用しているので、祐樹が出したヒントとは若干ずれる。
「――それはそうだな……。『披露宴』と『初夜』がヒントと言っていたものな……。ネクタイは確定として……。分からないので開けて見ても良いか?」
白鳥のような――いや今の最愛の人の素肌の色は朱鷺というかフラミンゴのような趣きの方が強いかも知れない――長く細い首を傾げていた最愛の人の優美な姿に見入っていると、薄紅色の指が薄くて白い紙を綺麗に剥していく。
「え?この柄で、この色か……。
確かに『披露宴』の時に私が締めていたネクタイと同じ図柄だが、こういう色はむしろ、祐樹の方が似合うのに……」
言葉ではそんなことを紡ぎながらも、見開いた眼差しはネクタイに描かれた紅い薔薇のような趣きだった。
最愛の人が「披露宴」用に準備した青い薔薇の描かれたネクタイも――と言ってもジャケットのボタンをキチンと留めれば薔薇は見えなくなるというある意味贅沢なデザインだ――寒色系が似合う最愛の人には良く似合っていたが、祐樹が見つけたのは逆に真っ赤な薔薇が描かれたモノだった。一輪の真紅の薔薇と、そしてネクタイの縁には同じ赤いシルクの糸でさり気なくアクセントを添えているだけのシンプルかつ贅沢な品だった。
「私には赤とかオレンジが似合うとおっしゃって下さっていますが、貴方もそろそろ私の色に染まって欲しいのと、意外にも似合うかなと思ったので。
それに『披露宴』の時のネクタイはそうそう職場では使えないでしょう?
しかし、その色違いなら遠慮なく締めることが出来そうですし、執務室で仕事をしている時などに、私のシンボルカラーだと聡が決めてくださった色を見て私を想って下さればいいなとの思いを込めてこのネクタイにしました。
店舗に並んでいるのを見つけた時は奇跡かと思いました。
定番ではない柄ですよね、確か」
ネクタイらしくない――このブランドも大好きな長岡先生情報によると、ネクタイの柄に使われるよりもスカーフの方が頻度も高いらしい。ただ、そのスカーフですらそうそう店舗に並ばないとか聞いていた――感じではあるものの、最愛の人が「披露宴」の時に「何か青いモノ」というジンクスにあの青い薔薇のネクタイを選んだのも「初夜」の一度目の愛の交歓が終わった時に聞いていた。
サムシング・ブルーは割と有名なので、それほど、いや全く結婚と言うモノに興味がない祐樹ですら知っていた。
ただ、青いモノであれば何でも良いらしいので、別にネクタイに拘らなくても良かったハズだし、しかも未だ人の手では作りだせないとされている青い薔薇を選んだのは最愛の人の単なる好みと、そして希望が詰まっているような気がした。実際「青い薔薇」として商品化されている花も有るが、あれは青ではなくて紫色に近いと正直思っていたし。
それにネクタイを青にしようと思えばいくらでも最愛の人が好む「無難」な柄は売っている。
それを敢えてあの青い薔薇とその花弁に宿った雫の意匠を選んだのは最愛の人の切実な祈りと愛の結晶のような気がしてならない。
単に好みに合致したということも有ったのだろうが。
そして出会った頃から言ってくれている祐樹の色は太陽を彷彿とさせる色らしいので、この紅い薔薇もそのカテゴリーには入るだろう。
そういう、祐樹の色で最愛の人を飾りたいと思ってしまうのはワガママだろうか。
「祐樹、有難う。大切にする」
ネクタイを花束のように抱えて嬉しそうな笑みを浮かべているのに、素肌には色香以外何も纏ってないというアンバランスさもこういう時でないと見られないので格別な、そして甘い時間だった。
「貴方の場合は、私の差し上げたモノは何でも大切にして下さるでしょう。だからその点についても全然心配していません。
アメリカで実感したのですが、パワーネクタイというのが有るのですよね?
私向けに選んで下さったネクタイもそう分類されるのですよね。買って頂いた時には派手だな……と正直思ったのですが、あの団体の中に入ればそう思わなくなるのも一種の集団心理でしょうかね。
まあ、そういう類いの色ではないですが、貴方のパワーネクタイにして頂ければと思います。
私は赤といえば、こちらの方が惹かれますけど」
ルビーよりも綺麗な胸の尖りをツンと弾く。
薄紅色のしなやかな肢体が若木のように反った。
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