「あ!オレ、いや私までも真殿教授は、とても不本意そうな顔で、『なぜFacebookをしないのか』と言ってきたことがあります。まだ医局にいた頃です。大喧嘩をする前も一触即発といった感じが漂っていたのですが、それでも誘ってくるのですから、イエスマンばかりの医局員は皆Facebookのアカウントを持っていると思います」
呉先生が棘のあるスミレといった笑みを浮かべている。
「――これは非常に興味深いですね」
スマホの画面を一度タップし、わざとらしく光の角度を変えると、まるで鑑定中の美術品でも扱うように目を細めた。過剰な芝居にはなんだか既に慣れた気がする。そろそろ耐性がついてきた気がする。薬剤耐性と同様に最初が一番効くというのと一緒なのだろうか。
「どのような発見をされたのですか?」
律儀で真面目な最愛の人が何だか義務のように聞いている。
「Facebookの友達一覧ですが、精神医学会の錚々たる重鎮方のお名前がずらりと並んでいます……が」
一拍、わざと息を飲むような間を置き、口角だけをわずかに吊り上げる。
「おやおや、『友達』なのはどうやら一方的なようですね。『フォローバック』――Facebookでは『相互承認』でしたか?……見事にゼロ。……これではさながら、招かれざるサロンの客といった風情です。形式だけの付き合いも、相互性を欠けば、ただの哀れな独演会ですからね」
アルマーニに包まれた広い肩を大仰に竦めてさらに口角を上げている。無駄に整った男らしい顔だけにその酷薄さはまるで、毒を含ませた万年筆のペン先が笑っているようだった。
「ということは、精神医学会からスルーされているということですか?曲がりなりにも『教授職』なのに?」
祐樹は思わず耳を疑った。最愛の人も、そして呉先生も、にわか雨に打たれた花のように、戸惑いを隠せずにいた。森技官はというと、まるで「ワトソン君、いい線だ」とでも言いたげに祐樹に向かって重々しく頷いてみせた。今にもパイプでも咥えそうな雰囲気の笑みだった。コカインではないだけマシだと思うことにしよう。
「何だか深掘りしたら面白そうだな。オレは、真殿教授の全ての投稿に『いいね』だっけか?それが付いているかを見ることにする!」
最愛の人は先ほどのA4の紙の備考欄の上に「精神医学会から認められていない教授」と書き込んでいる。
「わっ!!」
呉先生がスマホを床に落としたのを祐樹が拾い上げた。
「大丈夫ですか、画面割れていないですか?」
何気なくスワイプすると、初期設定そのままの画面が切り替わり森技官の、絵画のように端整な寝顔が現れた。
「え?」
小さく呟いただけなのに、最愛の人が顔を上げて祐樹の手元を見た。彼も森技官の寝顔――頬にかかる漆黒の髪とわずかに緩んだ口元。最愛の人はそれを見て、まるで春の陽だまりに咲いた花のような笑みを浮かべている。「――いい写真ですね」声に出すことなく、そう言っているのが分かるようだった。呉先生は祐樹と最愛の人の表情を見て察したのだろう。まるで、晴天の霹靂に打たれ、慌てふためいたスミレのようだった。
「いったい何があったのですか?」
森技官の男らしく整った眉間にシワを寄せてテーブルを回り込んできた。手にスマホを持ったままなのがきっとプロ意識なのだろう。普段から問題のある病院に派遣の皮膚科の医師として潜入捜査をしているだけに、証拠品は手放さない習慣がしみついているに違いない。
「いや!何でもなくて……」
森技官は唇をふっと弛めた。
「何でもない人がそんなに慌てないでしょう。田中先生、即座にスマートフォンを渡しなさい!!」
森技官の声音には一切の余地がなかった。祐樹は、有無を言わせぬ圧に気圧され、条件反射のように手を差し出してしまった。
「その、それは、そのう」
何だか動詞の活用形かと思うほどの語彙しか口に出していない呉先生を横目に、その画面を見た森技官はCMに出てくる俳優さんのような満面の笑みを浮かべている。
「いつ撮ったのですか?……もっとアングルを決めて『男前』に撮ってくださればよかったのに」
口では不満そうに言いながらも、その眼差しは明らかに愛情に満ちていて、呉先生をまっすぐに見つめていた。
「だってさ、どこかの大学病院長から依頼を受けてハケンの皮膚科医として潜入したり、徹夜してまで法案作成の仕事をしてたりするだろ?そういう時にさ、電話なんてできないから、このスマホを見て眠りにつくんだよ!悪いか!?」
呉先生は、まるで窮鼠猫を噛む勢いで叫んだ。それは自白というには切実過ぎて、もはや愛の告白だと祐樹には思えた。そして最愛の人も祝福するかのような笑みで二人を見ていた。
「愛されているのはとっくに存じていましたが、まさかこれほどまでとは思いませんでした。嬉しすぎて声も出ないです。あの真殿教授の精神医学会の隔離っぷりを見たでしょう?やはり真殿教授ではダメなのです。ね!スイートハニー」
「嬉しすぎて声も出ない」とか言いながら、よくもまあペラペラと話せるなと森技官の矛盾に可笑しくなった。
「わっ!!ここは香川教授と田中先生の家なんだぞ!!そういうことは二人きりになってからしろよ!!」
抱きしめようとした森技官は呉先生の必死の抵抗に遭っている。華奢な肘が森技官の手を思いっきり弾くとその勢いでスマホが綺麗な放物線を描いて床へと飛んだ。
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