最愛の人も男性器は見慣れているはずだ。といっても大学の講義の一環や医学部生の時にボランティアとして参加していた救急救命室での経験に限られていただろう。身体を重ねた相手は祐樹が二人目で祐樹のソレはともかく初めての相手のはそうまじまじと見ていないような気がする。そして、極端にデフォルメされて色もどぎつい「それ」が実際の物を模しているとは、想像すら及ばなかったのだろう。祐樹が冷静に説明すると、彼は火の点いたダイナマイトを握っていたことに気付いた人のように慌てて遠くに放り投げた。羞恥に火照った顔もとても美しかったが。
 最愛の人は祐樹が行う愛の行為にはむしろ積極的に応じてくれる。しかし、「道具を使うのは嫌だ」ときっぱりと言っていたのを今でも鮮明に覚えている。そんな彼が「おとなのおもちゃ」を見たのはきっと初めてだったのだろう。その「おとなのおもちゃ」は触るのも嫌らしく、わざわざ祐樹に頼んで杉田弁護士に送り返させた。家の中の細々したことは最愛の人が率先して片付けていたにも関わらず。祐樹はその箱の中に彼がどう反応したかを記した手紙を忍ばせたのは言うまでもない。
 そんなお茶目な点もある杉田弁護士だが、愛に真剣な者に対して、彼は常に少しだけ手荒で、しかしとことん優しいのだ。
「あ、ナツキ君」
 杉田弁護士が手慣れた動作でジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出した。
「そこにはLINEのQRコードも書いてあるからね。この店で会えない時に、相談したいことがあったら、よかったらLINEか電話をして欲しい」
 杉田弁護士は保護者欲に目覚めたのだろう。ナツキにビジネスマナーのお手本といった感じで名刺を差し出した。
「あ、ありがとうございます……!」
 ナツキは一瞬動きが固まったが、すぐに両手を添えて名刺を受け取った。どこかぎこちない手つきだったが、真剣なまなざしからこれは「ちゃんとした名刺」だと理解していることが伝わってくる。
「……ありがとうございます!!こんなちゃんとした名刺、初めてです。名前、いやそれが本名かどうかも怪しいんですが……名前だけじゃなくて『弁護士』って肩書とか、住所まで載ってて……、なんか、責任の重さとか、自分の立場に誇りを持ってる人の名刺なんだって、伝わってきて……。すごく背筋が伸びました。僕も、いつか『美容師』って書かれても恥ずかしくないような、ちゃんとしたプロになります!!」
 最愛の人はしなやかな動作でエルメスの名刺入れを取り出していた。
「私はナツキさんの相談に乗れるほどの経験はないのですが」
 淡い笑みを浮かべた最愛の人は流れるような動作で名刺を取り出している。大学病院から与えられる名刺はいたってシンプルだ。上質な紙に「京都大学病院 心臓外科教授 香川聡」そして住所と電話番号、メールアドレスが小さく添えられている。
 先ほどよりは慣れた仕草で受け取ったナツキは、五秒ほど固まっていた。名前を付けるなら「驚き」という絵画のようだった。ナツキは最愛の人を香川先生とだけ呼んでいた。杉田弁護士は「教授」と言っていたが、聞き漏らしたのかあだ名とでも認識していたのかもしれない。
「えっ……教授……?香川先生って、教授なんですか……!?」
 目を見開いたナツキはまるで息を呑むようにもう一度名刺を見つめた。
「いや、なんか……すごすぎて……ちょっと現実味がなくて……。先生って、お医者さんだとは思ってましたけど…・・・教授って……。それに心臓の、なんかすごい手術で有名なんですよね?一回、家で父がそんなことを言ってた気がします……けど……」
 最愛の人の表情を窺うように見たのは、もし違っていたらどうしようと心配したのだろう。
「そうです。私の最愛の人は心臓バイパス術で有名ですね。お父様も『日本の外科医ランキング五位』などの特集記事をお読みになったのか、うわさでお聞きになったのだと思います」
 祐樹が補足説明をした。ナツキの父母は美容室を展開する社長と副社長だと言っていた。今では多分現場には立っていないだろうけれど、美容室はお客さんのうわさが集まる場所だと聞いたことがある。だから21店舗のどこかの店長が口にしたのかもしれない。
「今では、教授職に相応しくありたいと思っています。しかし、アメリカにいた私に大学病院からオファーが来たとき、真っ先に確かめたのは祐樹が在籍しているかどうかでした。医学部を卒業して、家業を継ぐとか他の病院に就職を決める人が多いのも知っていましたから。心臓バイパス術ならアメリカでも日本でも出来ます。在籍しているという返答をもらった時、帰国を決めました。教授職などは二の次で、祐樹に会いたいと思ったのです。その頃は祐樹が私と同じ性的嗜好だと知っていました。しかし、それだけで何かが約束されるわけではありません。好きになることと、選ばれることは、まったく別の話ですよね。それは分かっていたのですが、告白して両想いになれたら……という一縷の望みにすがる思いでしたが、どう告白していいのかさっぱり分からなくて。しかし、あの晩……祐樹がこの店に駆けつけてきてくれて、ホテルに誘われた時、一回でもいい、祐樹と関係を持ちたいとそれしか考えていませんでした」


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