その理由を聞く前に、画面は新幹線の中に入った弥助の目前に二十個以上の真っ赤なダルマが出現した。構図的にも、そして赤いダルマが炎を連想させる点も「鬼退治アニメの劇場版」と思っていたら、配信者も「鬼退治アニメっぽくないか?そのアニメリスペクト、もしかして…」と言っている。
 最愛の人が先ほど驚いたのはこの動画を先に見て、配信者さんがそう言うのを知っていたからだろう。
「祐樹はやはり直観力もすごいのだな。私は、この配信者さんが言及するまで全く分からなかった…」
 祐樹の推察が当たっていることを知って、何だか嬉しくなった祐樹は絡めた指を微細に動かす。指の交わりだけで愛を語っているような気がする。
 YouTube画面では何故か巨大なカニが弥助を攻撃してくるというおかしいのか、シュールなのか分からない場面に突入していた。
「何故、カニなのですか…?視覚的に笑いを誘っているだけなのでしょうか…?」
 最愛の人が首をもたげたのを香りで感じる。この別荘に備え付けのシャンプー類を使ったため、祐樹の髪も同じ香りのはずだが、彼の髪から漂ってくるとまさに芳香といった感じだ。
「これは私の推察でしかないが、平家ガニと呼ばれるカニがいる。そして真偽不明とはいえ、織田家は源氏の血を引くという家系図があって…」
 最愛の人の解説になるほど思った。
「つまり、源平の戦いを想起させる意図が込められているのですね。貴方のおっしゃっり通りです」
 最愛の人はやわらかな笑みの中にどこか苦さを感じさせた。
「ただ、武田家も系図上は源氏の末裔なので、あくまでも一個人の意見だ」
 最愛の人の笑みに滲んだ苦さは、源氏の末裔を自称する織田家の「侍」弥助が、同じく源氏を祖にすると系図に書かれている武田家と同じという矛盾を桜色の唇で紡ぐことをためらったのだろう。平家ガニという弥助の敵(?)は武田家にも敵であることになるのだから。最愛の人の歴史に忠実であろうとする真摯な姿勢も大好きだ。ただ、それはあながち間違っていないような気がした。
「このゲームは…新幹線やバイクなど考えるまでもなく戦国時代になかっただろうと海外の人でも分かる部分と、日本人でも調べないと分からない部分に分離できると思います。『何故カニなのか?』と考える日本人と、この配信者のように『面白ければそれでいい』と考えている人それぞれにメッセージを送っているのだと思います。Yが「屮(さ)」だと気付く人がいれば嬉しい。しかし、そんなことまで考えなくてもこのゲームを楽しんで欲しいというのが開発者の本音ではないでしょうか…?ゲームは娯楽ですよね。その人なりに楽しめばいいと思います。貴方が教えて下さった『仮名手本忠臣蔵』だって寺子屋で学んだ庶民ならピンとくる内容でしょうが、藩校や昌平坂学問所で儒学を学んだ武士には分からないように…」
 祐樹の言葉が途切れたのは、最愛の人の指がふいに唇に触れたからだった。押し黙らせるというより、話すことより大切な何かを聞いてほしいとでも言うような静かな動作だった。最愛の人の指の封印を唇に感じながら横を見ると、彼の瞳は画面のほうを向いている。それでも、どこか祐樹の感情を撫でていた。「聞いて」ではなく、「一緒に感じよう」と言われた気がした。唇に触れる指先が、いつの間にか名もない言葉を語っていた。
 「どちらかって言うとね、このゲーム、アスレチックの(ほう)(むず)いっていうゲームになっているんやろね」ゲーム配信者の声だけが広いリビングに響いている。
「先ほど、ヤスケではなくて、テレビ番組のサスケではないかという推論をしていただろう?」
 最愛の人の少し高い声が知的な興奮を含んでいる。最愛の人はこの動画を見ていたので配信者の言葉を覚えていて、そして言葉の重みを祐樹と共有したかったに違いない。
「はい。スポーツ・アスレチック競技番組、でしたっけ?戦国時代の合戦や戦いを元にしたゲームならアスレチックではなく武将を討ち取ったほうが絶対にポイントが稼げるはずですよね。開発者はアスレチックに重きを置いていて……ヤスケではなくサスケだよ、という意味を暗に示しているということです……」
 祐樹の唇の上に置かれた指先も、祐樹と同じく興奮の震えを帯びているようだった。
「そうだな。この配信者がこう言っていたなと、ついさっき思い出して、祐樹とこの感動を分かち合いたかった…。私達がたてた仮説が正しいという証言でもあるだろう」
 静謐な興奮が最愛の人の声に滲んでいるようだった。そんな感慨に二人して身を浸しているうちにYouTube画面が変わっている。そのミッションを聞いて思わず吹き出してしまった。
「いつ聞いても可笑しいな…。これを考えた人はきっと天才的な思考の持ち主なのだろう」
 祐樹の肩に頭を預けた最愛の人も、小さな笑みを言葉に混ぜていた。ライトセーバーのように光る刀には慣れたが、この言葉の破壊力は腹筋を直撃して…笑いが止まらなくなった。




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