「その通りです。ごゆっくりお過ごしください」
 二人してカウンターを離れると最愛の人が無垢で無邪気な表情を祐樹に向けてくれた。
「ポテトチップスとかのお菓子類や文房具とか爪切りなんかも置いてあった。あれは別料金を支払って買うのだろうな……」
 何だか祐樹が学生時代に行ったネカフェとは全く様変わりしていて、時代を感じた。きっと緑色に光っているのがセンサーなのだろうと
QRを翳すと鍵が外れる音がした。
「ホテルの客室でもカードキーは主流だけれども、こういう場所でもそうなのだな……」
 感心したような笑みが清らかな眼差しに宿っていて、ネカフェ探索に一緒に来て良かった。
「カップラーメンも売っていましたよね?あ!これがドリンクバーですね。コカコーラとかのソフトドリンクだけで、コーヒーは別にあります」
 呉先生を迎えに来たのでなければ、「無料」のドリンク全制覇をしてみたい。きっとお腹がタプタプになるだろうが。無料という文字や飲み放題にはついつい反応してしまうのが祐樹で、恬淡としているのが最愛の人だ。
「あ!シャワールームがある!本当にコンパクトに纏まっているのだな……。こういう言い方は良くないのだろうけれども、ホームレスの人が暖を取ることが出来て良いなと思う。プライバシーの問題はともかくとして必要最低限の暮らしは出来そうだ。カップラーメンは店内で売っていたが、食べ物持ち込み可と書いてあったので、コンビニエンスストアで買ったお弁当とかも食べることが出来るのだな」
 この共用部分は私語を交わしても迷惑にならないだろうと珍しい彼の滑舌の良い饒舌さに頷くことにした。普段は祐樹が主に話しているので彼の楽しそうな声を聞き続けられるのは嬉しい限りだ。
「貴方が淹れてくださる世界一美味しいコーヒーとは比べ物にならないとは思いますが、モノは試しですので飲んでみませんか?」
 春の日差しのような笑みを浮かべた彼は用意されているコーヒーカップを二客、弾む指先で取っている。
「ホットコーヒーにしますか?それともカフェオレですか?」
 彼はコーヒーマシーン(?)に興味津々といった視線を向けている。
「カフェオレにしてみる!あ!熱湯まで出るのだな……。カップラーメンを入り口付近に陳列してあったが、内心お湯はどうするのだろうと思っていた……。ラーメンやカップ焼きそばを食べる人はここでお湯を入れるのだな」
 朗らかな笑みと弾む声に一緒に来て良かったとしみじみ思う。今日は自宅マンションでまったり過ごす予定だったがそれだと薄紅色が主体の万華鏡のような表情の変化は見ることは出来ないだろうから。祐樹はカフェオレと書かれたタッチパネルを押すとコーヒーが抽出された後にミルクが勢いよく出てくる。
「何だか本格的だな。シロップはここか。あ!ソフトクリームも食べ放題みたいだ!」
 感嘆したような響きの声も相変わらず弾んでいる。
「ソフトクリーム、召し上がりますか?」
 食べ放題・飲み放題の店ではモトを取るのが信条の祐樹だが、甘い物は苦手なので残念ながらパスしよう。
「いや、朝ご飯を食べたばかりなので今回『は』遠慮する。環境に配慮して木のマドラーなのだな……」
 切長の澄んだ瞳に感嘆めいた光を宿している。確かに「環境に配慮してプラスチックのスプーンは廃止しました」と書いてあるけれどもコストの問題かもしれないと勘繰ってしまう。祐樹はコーヒーを淹れて一口飲んでみた。最愛の人が淹れてくれるコーヒーの足元に及ばないのは当たり前だが、医局の不味いコーヒーよりは美味しかった。
「こちらはマンガがたくさんあるな。こんなに大量にマンガが発行されているのか……」
 彼は本棚を感心したように見ながらカフェオレを薄紅色の唇に運んでいる。マンガは内科の内田教授や小児科の浜田教授に勧められた作品を電子書籍で買っているだけに図書館かと思うほどの本棚にマンガばかりが並んでいるのは圧巻だった。
「電子書籍だと実感がないですが、紙だとこんなに嵩張るのですね」
 これだけのマンガがあっても、社会現象にまでなるような作品は少ないのだなと感心してしまった。漫画家は収入も安定しないし、売れたら物凄く儲かるらしいが物凄い競争率だなと実感した。最愛の人も祐樹も難関学部と世間から言われる学歴だが、医師免許は彼のように真面目に勉学に励むか祐樹のように手抜きが出来る点はとことんサボって要領よく勉強していればほとんど合格するので将来は安定している。
 しかし、漫画家志望だと会社勤めとの兼業はほぼ無理で、履歴書に「職歴なし」と書くしかない。尤も大ヒット作を生み出せば莫大な収入が入って来るらしい。「龍の玉集め」マンガの作者だったと記憶しているが、名古屋市に住んでいて莫大な市県民税を支払っていて、市が出版社のある東京に引っ越さないように自宅から直線で空港に行くことが出来る道を作ったとか浜田教授に聞いた覚えがある。
「呉先生を迎えに行かなければ」
 彼が我に返ったような真剣な表情を浮かべている。
「そうですね。ただ、呉先生がマンガを読むかは聞いていませんが、各種雑誌も揃っているのできっと退屈はしていないのではないでしょうか?」
 ポケットからスマホを取り出した彼は画面を見て描いたような眉を寄せている。何かあったのだろうか?




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