「お水を飲めば少しはご気分も良くなります。胃の辺りを押さえていらっしゃいましたが痛みなどの異常は有りますか?」
蓋を優雅な仕草で取って彼女に渡している。
「香川教授にまでこのような取り乱した姿を見せてしまい誠に申し訳ありません。一瞬ズキっとした痛みは有りましたが今は大丈夫です。それにここは病院ですものね。ウチのヤツ、いえ主人には絶対に診てもらいたくないですが、信頼できる先生方が揃っていらっしゃるのでまた痛み出したら申します」
しっかりした話しぶりに大丈夫だろうと手を離した祐樹に彼は一瞬だけ「良く動いてくれた」と言うような眼差しを向けてくれた。
「それは良かったです。異常があれば遠慮なく仰って下さいね。循環器内科の医師ではなくて消化器内科の医師を呼ぶことも可能ですので」
最愛の人は山看護師の胃痛には心臓内科医の長岡先生に頼んでいた。しかし、柳田夫人には専門医を紹介しようとしているのは前者のことを好ましく思っていないことも理由の一つだろう。長岡先生も優秀な内科医だし、コトの経緯を良く知っているという理由もあったに違いないが。それはともかく医師が山のようにいるのは事実で、ドラマの「白い巨塔」の被告になった主人公が判決言い渡しの場で倒れるシーンがある。それを見てこんなに医師が揃っている所で倒れたら救命率も上がるだろうと思っていたが、此処の大学病院は設備も揃っているという病人にとってはドラマよりも恵まれている。尤も何事もないのが一番だが。
ミネラルウオーターを一気に半分ほど飲んだ彼女はポケットからハンカチを取り出して口に当てている。唇に付いた水分を吸収しているのだろう。祐樹ならグイっと拭くだろうが、口紅が落ちないようにする工夫のようだった。杉田弁護士はまだ長岡先生が「うっかり」持って来てしまった山看護師のスマホを人に気付かれないように弄っている。その様子は授業中の「内職」に耽る高校生かと突っ込みたくなるシロモノだったが「オブザーバー」として、また新たなクライアント探しに来ているので見なかったことにしよう。
「奥さんのように直視出来る勇気がないのです。口頭でお教えいただけませんか?」
柳田夫人の様子をオロオロした感じで見ていた山氏はおずおずといった口調だった。
「内田教授、発言をしても良いでしょうか?」
呉先生が控え目な口調でお伺いを立てている。旧態依然のヒエラルキー制度がまだまだ蔓延っている大学病院では精神科「助手」と教授では天と地ほどの差がある。尤も内田教授は医療従事者目線での病院改革を目指しているし、過度の教授崇拝は嫌っている。呉先生には話していないものの、悪性新生物科の教授は「私が執刀します」と患者さんに説明して難しい手術は頑固な手術職人の桜木先生に丸投げをしている。そのことを祐樹から聞いた内田教授は烈火のごとく怒っていた過去がある。祐樹最愛の人の病院長就任を全面的にバックアップすると言って貰っていたが、その新体制での内田教授の発言権は今よりも更に強大になるだろう。その時には難易度の高い手術が出来ない教授など不要だと主張するのはほぼ確実だ。それに小児科の浜田教授に倣って教授職にもフランクに話しかけることが出来る病院作りを目指しているとも言っていた。だから呉先生がそこまで畏まる必要はないのだが。
「勿論です」
内田教授は謝罪の場に相応しいしめやかな笑みを浮かべて呉先生に頷いている。
「柳田さんの一時的にせよ胃が痛くなるような画像を山さんが直接見てしまったら確実にフラッシュバックが起こりますし、鬱状態になって食欲不振や不眠などの症状が出ますので、是非言葉で聞いて下さい」
呉先生の春爛漫の風のような声が親身に響いている。
「内田教授、私からも提案があります。離婚問題は専門ではないですが、これまで123組の離婚を手掛けて来ました。その経験則から申し上げたいのですが」
確か三分間に一夫婦が離婚するとかどこかで朧気ながら聞いた覚えがあるような……。まあ、離婚届にお互いが署名捺印して市役所だかに提出すれば離婚成立なので弁護士が介入するケースが全体の何パーセントなのかは当然知らないし、杉田弁護士の123組というのが多いのか少ないのかも全く分からない。
「弁護士にこれから依頼するとなると、今、呉先生が持っていらっしゃる画像と元になった動画、もちろん音声付きです。それらを証拠としてお二人が事務所にお持ちになって画像か動画を元に説明する必要があります」
柳田夫人は「何を今さら」といった表情だったが、山氏の方は幽霊でも見たような感じで皺だらけのハンカチを口に当てている。山看護師は不倫に夢中でアイロンを掛けないのだろうかと勘繰ってしまった。今日は薬品保管室で性行為をしていたのでお化粧とか髪型とか服などは特別な用意は不要だろうが、それなりの身支度、それこそLINEに書いてあった「相手の気に入る下着」とやらを買ったりムダ毛の手入れなどをしたりして忙しいハズだ。
「えっ!弁護士の先生の事務所であっても……とても正視出来るとも思えないのですが……。意気地がなくて申し訳ありません」
杉田弁護士のクライアント候補は柳田夫人かと思っていたが異なるのだろうか?もしくは祐樹の目の前に居る二人とも杉田弁護士が引き受けるのだろうか?
--------------------------------------------------
最後まで読んで頂き有難うございました。
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが劇的に上がりますので、どうか宜しくお願い致します!!![]()
にほんブログ村
小説(BL)ランキング
2ポチ有難うございました<m(__)m>
本記事下にはアフィリエイト広告が含まれております。![]()
![]()




![]()
![]()
![]()
このブログには
このブログにはアフィリエイト広告を使用しております。
Twitter プロフィール
創作BL小説を書いています。ご理解の有る方のみ読んで下されば嬉しいです。
最新コメント
人気ブログランキング
にほんブログ村
アーカイブ
カテゴリー
楽天市場








