「そうか?私には良く分からないが祐樹がそう見えると言うのだからそうなのだろうな……」
 彼は判断に困る時に祐樹の決定を取り入れてくれる。全幅の信頼をされているというのは恋人冥利に尽きるし、部下冥利も同様だった。
「お待ち遠さま」
 先ほどの店員さんの声が扉越しに聞こえた。
「牛タンと焼き肉です」
 焼き肉と表現しているが、ステーキの大きさだ。もしかして牛肉の産地でもあるこの辺りではこの大きさが「焼き肉」で、もっと大きく厚く切った物を指すのかもしれない。東北地方は祐樹も訪れたことはないのであくまで独断と偏見だし、もしかしたらこの店独特の肉の大きさかも知れない。彼とデートで行った神戸の街ではシャリが見えないほど大きく切った刺身が載っているというお寿司屋さんがあったし。ちなみに祐樹は世間一般の人が言う「デート」というモノは最愛の人としかしたことはない。それまではゲイバー「グレイス」などで出会った人ともう一軒だけ飲みに行った後に男性同士でも気兼ねなく入ることの出来る、知る人ぞ知るファッションホテルに行くか、それほどに時間が取れない場合にはグレイスが入っているビルの非常階段で、そういう行為をしたことも有った。彼女いない歴=年齢だった久米先生が脳外科のアクアマリン姫こと岡田看護師と運よく付き合うことになって、デート指南をしている時にしみじみと過去の行状を振り返ってしまった、今向かいの席で美味しそうに「マーボー焼きそば」を食べている彼には言いたくないことだし、実際言う積りは毛頭ない。
「有難うございます」
 最愛の人が笑みを浮かべて店員に告げると、視線が泳いでいるし頬も少し赤くなっている。最愛の人にそういう店員さんの態度が分かっているかどうかまでは祐樹には分からないが、気付かないのであれば後でじっくりと話そうと思いながらジョッキを空にした。
「もう一杯同じ物をお願いします。貴方は如何ですか?」
 彼が頷くのを確認して注文した。
「流石に仙台名物の牛タンだけのことは有りますね。絶妙な歯触りです」
 先ほどから同一の店員さんが注文した物を持って来てくれる。だから今頼んだビールを運んでくるのは時間の問題だろう。だから無難な話題を選んだ。
「うん!美味しい。肉の味が濃厚だ。しかも歯で噛んだら肉汁が口の中いっぱいに広がって……」
 紅色の笑みを浮かべる最愛の人は弾けるような楽し気な口調だ。
「そうですか?牛タンがこれほどまでに美味しいのですから、肉もきっと(うま)いと思っていたのですが、直感が当たって嬉しいです。それと、先ほどの店員さんがビールを持って来たら、さり気なく様子を窺ってくださいね?」
 最愛の人はお箸を空中に(とど)めて不思議そうな表情を浮かべている。
「え?何故だ……」
 百聞は一見に()かずという故事成語が有るので説明は後にしよう。最愛の人の恵まれた容姿についての自覚のなさは美徳だと思っているけれども、少しくらいは気に留めて欲しいというのが正直な気持ちだった。それに大学病院とか心臓外科医学会、そして厚労省主催の勉強会などでは実績と名声で下手なことを言って来る人間はいないだろう。しかし、彼の素性を知らずに一目惚れしてしまう人間だって居るので、その虫よけ対策は必須だろう。
「それは後で説明しますから、言う通りにしてくださいね。それはそうと、本当に濃い肉の味がしますね!それにとても柔らかいです!口の中に弾ける肉汁も濃いですね。それでいて歯で噛むと驚くほど柔らかいです……」
 二人で美味な物を食べたりアルコールを呑んだりするだけで幸せだ。しかもこの肉は頬が落ちるほどのクオリティーなので猶更だ。
「そういえば『呪いが廻る戦い』のアニメの本編ではなくてオマケの話だが……」
 紅色の笑みの花を咲かせた最愛の人が弾んだ声を出している。
「ああ『じゅじゅさんぽ』ですね。よりによって、私が扮したキャラが女子生徒のスカートを穿()いて学生に見せびらかしていましたね。アニメの中だと何をしても許されるかも知れませんが、実生活でしたら犯罪モノですよね?」
 そういう悪戯は好き嫌いがはっきりと分かれるだろう。というか、恵まれた体格と鍛えられた身体にスレンダー女子のウエストサイズのスカートが入るかどうかという素朴な疑問は残るけれども。
「犯罪とまでは言えないと思うが、セクシャルハラスメントだと女性が判断したらそうなるだろうな。しかし、校則が有ってないような自由な学校、ああ、制服も皆異なっているな、そういえば。そういう校風なら結構何をしても良いような気がする。それに日本に四人しかいない特級呪術師の一人だろう。確か、特級は『単独で国家転覆が可能』というのが条件だったはずで、上層部だって下手に手出しをすればもれなく返り討ちにされそうだから叱責はしてもそれ以上のことはしないのではないか?アニメ一期の一話の時に特級呪物の宿儺(すくな)の指を食べても自我を保つことが出来る主人公が居たから物語は始まったわけで。普通は猛毒なので食べることは不可能なのだろう。宿儺の指二十本を全部食べてしまった後に器である主人公を殺すというのが上層部の目論見だった。そんな凶悪な人間?を殺すには特級呪術師は絶対に必要だと思うのだけれども?」
 焼き肉に感動していた時とは異なって怜悧で落ち着いた声が室内に溶けていく。




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