「そうだ。拾ったと嘘の吐けない主人公がさらっと言っている。百葉箱の中から取り出したならばそう言うだろう?確か百葉箱には鍵が付いていたと記憶している。私は鍵を壊すとかは考えられない行為だけれども、主人公の割と物に捕らわれない性格では鍵くらい壊しても別に不思議ではないだろう。それに中に不審物が置いてあったとして、それを取ったとしても別に問題はないだろう?百葉箱はそもそも気温を計るための温度計しか置いていない場所なのだから、その他の物ならば取っても特に問題はないはずだ。
だから、伏線を密かに張り巡らせていたとしか考えられない。ただ、校内を自由に動き回るだろう?その学校の生徒なのだから普通の行動だ。都合よく拾うことの出来る状況を作るのは至難の業だと思うのだが……?」
確かにその通りだ。今後内田教授や浜田教授との呑み会が行われた時に話題にしてみよう。
「高校生が確実に見るのは靴箱くらいでしたね、私の場合。ただ、靴箱に入っていたら『拾った』とは言わないような気がします。貴方が不思議に思われるのも尤もだと思いますよ。今後明らかにされるか楽しみに待つことにしましょう。といってもラスボスと思しき史上最強の呪術師との最終決戦まで進んでいますから、今更という感じが拭えませんが……。人間が食べたら猛毒なのにも関わらず、勢いで口にした主人公は難なく自我まで保つことが出来る『千年に一人の逸材』と言われていた頃に真相が解明されたら良かったですよね。
さてと、一周回りましたが……ベンチもないですし、ラグビー場の近くで『ずんだ生クリーム』を食べましょうか?」
最愛の人は切れ長の目を瞠って屋上を見ている。
「あそこで特級呪物を受肉した主人公と小児科のハロウィンの催し物で祐樹が扮した現代最強の術師が戦っていたのだな……」
唇に笑みの花を咲かせて呟いている。
「ものすごく校舎を破壊していましたけれど、ね。ただ、『ずんだ生クリーム味』のお菓子は避難させていましたよね。自分の命すら保証されないというのに……、それほど美味なのでしょうね。楽しみです」
このマンガの「お約束」として登場する人物がアスファルトの道路を粉砕しながら降りて来るシーンは枚挙に暇がない。呪力という代物で身体が強化している設定なのでアスファルトも簡単に破壊出来るのだろう。
ただ、作中設定として秘匿死刑執行が出来る権限を持っている「上層部」という存在があるので、政府に準ずるかもしくはそれ以上の権力を持っているのだろう。だったら壊された建物を建て直すことも簡単なことだ、多分。祐樹は芝生の上に腰を下ろして、最愛の人に手を差し伸べた。夜目にも白い指が祐樹の手をしっかりと掴んでしなやかな動作で祐樹の至近距離に座った。校舎を一通り見て回った経験上、人が来ない可能性が高いので人目を憚らなくても良さそうだ。
「祐樹は靴箱の中にラブレターとかバレンタインのチョコレートとか入っていたのか?」
包み紙を最短の動作で開けながら興味津々といった感じで聞いてくる。
「貴方はどうだったのですか?」
質問を質問で返すのは祐樹的にはあまり好きではないが、靴箱=ラブレターとかバレンタインチョコと即座に連想した最愛の人のことは気になった。世事に疎いというか浮世離れしている感じの人だけれども、祐樹が一目惚れするほどの容貌の持ち主だ。
「残念ながらそういった過去はないな……」
さして残念そうではない口調でさらりと返事が返ってくる。
「ラブレターは差出人の名前が書いていない物が一通ありましたね。バレンタインのチョコは貴方もご存知でしょうが、甘い物が苦手だと公言していました。そしてそういう人の苦手な物を贈ってくるような無神経な女性はなおさら苦手だ!と大声で言っていたので靴箱に入っていたことはないですね」
クラスメイトから「余裕だな」とか「羨ましい」とか「妬ましいしムカつく」と言われたことは内緒にしておこう。中学の頃は裏庭に呼び出されてとチョコを渡されるということもあったのだけれども彼が「靴箱」に限定していたので言う必要はない。しかもどんな女の子がくれたのかすっかり忘れ果てていた。それよりもゲイバー「グレイス」でチョコを山のように貰った記憶があるが、そちらの方が最愛の人に絶対に伏せておきたい。何しろ看護師や事務局の女性から祐樹が貰うチョコに対しては「祐樹はモテるのだな」と感心したふうに言っているが同性からの場合はかなり神経質な人なので。最愛の人と同じく異性には全く興味のない祐樹のことを知悉している。
「そうなのか?靴箱が満杯になるくらいのチョコレートを貰っていたと思っていた……。えっと、どれが『ずんだ』なのか分からない……」
最愛の人が困ったような言葉を紡いでいる。
この暗さでは仕方ないことだと思う。思いついてポケットを探った。
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