お何故こんなにもコナーズ先生が皇室の正装に興味を持つのか全く分からない。祐樹が見た映画で植民地でのイギリス人の振る舞いはどこに行っても現地人のことを同じ人間と思っていないという権高さと横柄さだった。
アガサ・クリスティーのエジプトを舞台にした映画では物乞いをする現地人など居ないように振舞っていたのが印象に残っている。正確には居ないではなくて蠅を追っ払うような感じだ。イギリスの植民地になってはいない日本だが、最愛の人は「資源がないからだろう。幕末には生糸の需要は有って、主にイギリスが買っていったらしいけれども、ちょうどその時に当時の清国で確か蚕に伝染病で壊滅状態に近かったのでその代替品に日本の絹がよく売れた」と教えてくれた。ただ、植民地にされていなかったにせよ黄色人種というだけで思いっきり見下されそうなのに。
「そうですね。その何枚も重ねたのは皇室の女性の正装です。その横に立った黒装束が天皇家の正装です。イギリスでも貴族の方はいらっしゃいますよね?」
もしかしたらコナーズ先生も貴族階級かも知れないなと思いつつ聞いたが更に可笑し気な表情を浮かべている。
「そう聞いているね」
そう聞いている?ということは……コナーズ先生イギリス人ではないのだろうか?
「ちなみにあの黒い装束はどこかに売っているわけではないのかね?」
何だか好奇心満々と言った感じだった。
「ご存知かも知れませんが、私の病院のある京都が昔の首都でして……もしかしたらそういう装束を売っている店があるのかもと思いますが、羽織袴を売っている店しか知りません」
呉服屋という言葉をどういうふうに表現して良いのかは分からないので暈すしかない。
「だったら、天皇家の伝統的な衣服を着ている日本人はいないのかね?」
質問の意図が全く分からないが、きっとコナーズ先生には意味が有ることなのだろう。
「ああいう装束を着ている人は昔天皇家の住まいが有った京都でも一人たりとは見たことがないですね」
コナーズ先生は興味深そうに聞いている。
「では裃はどうだろうか?」
やけに突っ込むのは何故だと思いつつも苦い笑いを漏らしてしまった。
「テレビや映画の中でしか見たことはないですね。京都には映画の撮影所があります。また、JRという電車に乗ったら1時間ほどでよく将軍の城のロケ地に使われる明石城というお城があって、その中では俳優が演じている程度でしょうね」
コナーズ先生の質問はどうであれ、副協会長だ。森技官が陰謀もとい職務の一環として省庁を超えた日本版国際公開手術を考えている。その時が来ればこれだけ日本に興味を持っているコナーズ先生も来日してくれるかもしれない。取りあえずは京都とその周辺のアピールも兼ねておこう。
「そうなのかね……?ああ、イギリスとは異なって貴族という階級は日本にはもうないのだったな。だから貴族をお守りする武士という階級もないのか……。だったら正装は羽織袴ということになるか……」
何だかとても残念そうな様子だった。
「日本のロイヤルウエディングの黒い衣装はさほど興味がないのでせめて裃で好きな色を着ようと思ったのに……」
未練がましい様子だった。
「裃は武士、先生のお国では騎士階級が着るものですよ?千年前の日本の貴族は男性も華やかな色の物を身に着けていましたね。そちらも今の日本では着る人間は残念ながら居ないですが」
コナーズ先生は耐えかねたように大声で笑っている。特に笑わせようと思ったわけではないので呆気に取られた。
「私は生粋のアメリカ人だよ。LA生まれのLA育ちだよ。大学はハーバードだがね」
何だかとてもご満悦そうな表情だ。
「え?その恰好も、ですけれど流暢なキングスイングリッシュといい、イギリスの貴族だと思い込んでいました……」
ということはコナーズ先生はイギリス貴族のコスプレを行っていて、日本に来た暁には武士や貴族の正装を楽しみたかったに違いない。だからこそこんなに突っ込んで聞いてきたのだろう。
祐樹の偏見かもしれないが医師は凝るとなったらとことんだ。大学病院の医師で、美味しいピザが食べたいと石窯まで自宅に備え付けたとか言う話を聞いた覚えもある。
「日本の古都の京都では伝手があればそういう衣装を着るということも可能かもしれません。是非是非一度京都にいらしてください。大学病院長ならばそういった人脈を持っているかもしれません。羽織袴に日本刀程度は知り合いに聞けば何とかなりそうです。ああ、ただ本物の日本刀は立派な武器ですので屋外に持って歩くことは出来ないのですが」
コナーズ先生は残念そうに肩を竦めているものの、今度のコスプレは武士にするという決意に満ちたような表情を浮かべている。これで森技官の文字通りの助太刀になっただろうか。
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