何だっただろう?危機(リスク)回避(ヘッジ)というからには資産運用関係だろうと思うのだけれども……。きっと脳が一時的に忘れてしまっているだけなので、この際、今日あったことを話していけば思い出すだろう。
「そういえばウチの医局の三好看護師がNISAについて詳しく知りたいと言っていました……。同僚が銀行の口車に乗ってそちらで口座開設したら株式が買えないと後から分かったらしいです」
 チェックインを済ませて部屋に入れば熱烈に愛し合う恋人同士の時間を過ごす積りなのでお金とか資産運用とかそういう色気のない会話はこの階で済ませたい。
「新NISAは旧NISAと比較して使い勝手が良くなった。『預金から投資へ』と総理大臣が積極的に動いている関係上か朝晩のニュースとか知識系のバラエティ番組でも良く取り上げられているのだけれども、医師や看護師も仕事が忙しかったり育児をしていたりしてテレビを見る時間がないのかも知れないな……。
 旧NISAの時は積み立てNISAとNISAに分かれていて、どちらか一方しか選べなかった。株式を買う場合だとNISA一択なので、銀行の勧誘に乗らなかったと思うのだが」
 話が長くなりそうだと判断した。祐樹もNISAなる名前は知っていたが具体的に徹底的にこの際聞いておこう。
「その話を詳しく教えてくださいませんか?バーに移動して……?」
 フルコースは大変美味しく味わい尽くした。祐樹は全ての皿が供された後に長々と居座るのはお店の迷惑になってしまわないかと考えて早々に席を立つことにしている。最愛の人も以前同じことを言っていたし。
「そうだな……。バーも久しぶりだ……。もう少し祐樹との時間に()酔っていたいし」
 ギャルソンを動作ではなくて眼差しで呼んでクレカを渡した。デートは交互に支払うという不文律が出来ていたが、今夜は最愛の人が愛用していたボールペンを一円で譲って貰ったお礼も兼ねているので祐樹が支払うという約束だった。
「そもそもNISAって何ですか?ふわっとしか知らないもので……」
 フレンチの店とは若干テイストの異なるバーはイギリス貴族が好んで作ったとかいう「クラブ」の雰囲気だ。クラブといっても貴族限定の友人の共通の趣味の話し限定の空間だ。
 おそらく架空だろうが、シャーロックホームズの実の兄が作った「この部屋では一切話してはならない」という規則を設けた場所まで多彩だ。シャーロックホームズは貴族階級ではなかったと記憶している。もちろんお兄さんも同様だが、作中では「政府そのもの」という設定だ。表向きは単なる下っ端役人だが実際は政府の要人だったと記憶している。当然給料は高いので貴族の(たしな)みとしてのクラブ運営も可能だったとどこかで読んだ覚えがある。
「ここの雰囲気も大好きだ……」
 ボックス席に二人して座ると最愛の人は花のような艶めいた眼差しで店内を愛おしむように見回した後に薄紅色が濃くなったしなやかな指で革製のメニューを(めく)っている。最愛の人の指の美しさも祐樹の目を惹きつけて止まない。()()中は手袋(グローブ)を当然着けているし、執務室ではゆっくり鑑賞する暇がなかなかない。
 デートの時の弾むような紅色の指の動きを見るだけで幸せな気分になる。
「私は『山崎』をロックでお願いします。あと、フルーツの盛り合わせも」
 先ほどのデザートの甘味が口の中に残っていたので今度は苦みが欲しいところだ。
「私はこの桜のカクテルを」
 ウエイターが一礼して下がる。
「珍しいですね。普段はもっと甘味のあるカクテルを頼んでいらっしゃいますよね?」
 先ほどのレストランよりも座席が低いしクッションの効きも抜群だ。なんだかずっと座っていたくなる。それに、お客も一人でボトルキープをして呑みに来ている人とか静かな語らいとピアノの生演奏を楽しんでいる人ばかりなので居心地も抜群だ。先ほどのレストランと同様なのはテーブルとテーブルの間隔が広く取ってある点だろう。隣のテーブルの人達に気兼ねなく会話が出来る点も気に入っている。気兼ね……あ!と思った。
「少し口直しというか、舌を元の状態に戻してからいつものカクテルを頼もうと思って」
 分かったような分からないような答えを聞いてはいたが、心の中では違ったことを考えていた。気兼ねと同義語の遠慮についてだ。遠藤先生は最愛の人のことを心底尊敬している。だからマンション投資について彼に聞きに行こうと誘った時には物凄く遠慮していた。
「NISAの話の前に円安が170円まで進んだら遠藤先生に円に換えろというLINEをしておきますね。もう家に帰って口座残高を見ている頃でしょうし……」
 これで38万ドルを円高の時代に換えていたというオチでなければ良いなと思ってしまう。まあ、遠藤先生も口座の存在を忘れていたのでそれは無いだろうが……。
 ただ、引き出し切ったので忘れていたという可能性ならばある。祐樹は大学時代に母が仕送りをしてくれるための口座と大学病院に勤務して給料が入る口座しか持っていない。
 しかし、大学時代の同級生で家庭教師のバイトを複数の派遣会社から紹介してもらっていて、派遣会社が「この銀行に口座を作って欲しい」と言われて多数の銀行に口座を持っていて、派遣会社の対応が悪かったとか生徒さんを紹介してくれなくなったとかでその会社のお給料が入る口座はほぼ空にして放置しておくという話を聞いたことがあったので。
 そんなことを考えながらスマホを弄った。デート中は放置しているのが常だったけれども、この際仕方がない。
「お疲れ様です。モルガンスタンレー銀行の口座は見つかりましたか?」




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