「炎の柱は世襲ですよね。そして痣のことも『無限列車』で活躍したキャラのお父さんが読んでいた書物に――主人公の耳飾りも『書いてあった』と父親が逆切れの嫉妬の余り、ずたずたに破いてしまっていましたけれど――『(あざ)』という文字が辛うじて読めたました。ああ、だからあの連綿と続く炎の柱の家系には痣が出ていないのですね。出ていたら嫉妬なんてしませんし……」 
 最愛の人が言いたいことが徐々に分かって来た。彼はすき焼きの『割り下』と生卵を混ぜた物に肉や豆腐やエノキや春菊をバランスよく入れている。日本でしか食べられないらしい「卵かけご飯」の豪華版を作る積りのようだった。
 祐樹は海外で生活したことはないけれども、学生時代の試験前とか課されたレポートが山積みになってしまった時には「玄関開けたら二分でご飯」がキャッチフレーズのレンチンご飯と生卵を混ぜて食べるある意味簡単に作る(?)料理で空腹をしのいだことが多々あって、スタンダードな料理(?)だと思い込んでいた。
 ただ、Ai(死亡時画像診断)の積極的な推進者の医師兼作家の先生の小説を「何かの時に逢った時に備えて」という理由と単純に読み物として面白いからと読んでいた。
 祐樹も隣に座って薄紅色の笑みの花を咲かせてお箸を器用に使っている最愛の人も「例の地震」の時のことをまとめた共著の本を出版して具体的に感想を述べてくれた人に対してとてもとても感謝したし、その先生達には好意を抱いた。
 多分その先生も同じだろう。会うと分かってから急いで読むよりも普段から準備していた(ほう)が良いと考えていた。その先生の多数の著作の中で具体的な書名は忘れてしまったのだけれども外国で医師として長いこと勤務していた女性が久しぶりの帰国で「何を食べたいか?」という質問に卵かけご飯と間髪入れずに答えていた。
 きっとヨーロッパ圏内では卵が新鮮でないとかそういう事情で食べることが出来ないのだろう。いわば日本のソウル・フードなのだろう、多分。
「心拍数の問題は置いておいて、痣を出すと良いということをご先祖の手記で読んだせいで妊娠した妻にワザと火を見せたのではないかと考えている。そのせいで髪の毛の色が変わったのだろう……。あ、祐樹も要るか?卵かけご飯……」
 白いご飯に割り下と新鮮そうなぷっくりとした卵の黄色い色が幸せの象徴のような湯気を立てている。
「成る程……敢えて妊娠中に火を見せることで痣を出すという逆転の発想ですね……。炎の呼吸は他の呼吸と異なって家相伝ですから――何せ『奥義』に苗字が使われているというのは他の家の人には『奥義』までは教えないみたいです――痣の有る息子が生まれる点は悲願だったのかも知れませんね。
 桜餅の食べ過ぎで髪色が変わったり雷に打たれて金髪になったりしたという『合理的な』説明がまかり通る作品ですから、お腹の中に居る時に髪の毛の色が炎色に変わったという点も説明が付きます。
 主人公達も『継子(つぐこ)』に誘われていましたけれど……。柱が直々(じきじき)に稽古をつける才能のある人を『継子』と呼ぶみたいですよね。毒を使って鬼を殺す蟲柱(むしばしら)の『継子』は花の呼吸でしたので呼吸が異なっていても大丈夫みたいです。
 まあ、お腹の中に居る時に同じく火を見たと思しき弟(くん)は髪色こそ同じでも剣の才能に恵まれなかった点は気の毒でしたが……。
 その貴方の説は説得力がありますね……。流石です……」
 最愛の人は誇らしやかな感じの笑みを浮かべて頷いている。
「ただ、清水研修医とか医局の皆も親が医者をしているという人も多いので、武道に限った話ではなさそうです……。森技官なんて産婦人科のクリニックを継ぎたくない一心で厚労省に入るというコペルニクス的な発想の転換をしましたよね。
 医師の家に生まれるのもある意味プレッシャーですよね……。
 私『が』医学部以外の学部に進んでも誰も文句は言わないですし、すんなりと受け入れられる思います。
 あ、頂きます。ただ割り下は少な目でお願い致します……」
 最愛の人は思い当たったという感じの笑みを浮かべている。卵かけご飯は好きだけれども、割り下の砂糖と味醂(みりん)の甘さは少し苦手だった。
 祐樹は医学部に入りたかったがそれはあくまでも個人的な問題で、落ちたとしても母親からは何も言われないだろう。母の願いは立派な学歴を付けて欲しいという曖昧な物だった。勿論親戚とかにも煩いことを言われたことはなくて、合格後物凄く祝福された程度だった。
 最愛の人も親戚に医師はいないので雑音は入らないという点では一緒だったのだけれども、病院の馬鹿令嬢と将来結婚してその病院を継ぐという条件で生活費の援助を受けていた。
 だから医学部を落ちてしまったら――最愛の人が不合格になるとは考え辛かったけれど、「受験は水物(みずもの)」とも言われているのも事実だった――だから親とか親戚とは異なるしがらみが出来ていたので敢えて「私達」とは言わず「私『が』に限定して話した。
「ああ、砂糖の味か……。分かった。では味を調節するな」
 薄紅色の指が醤油の入っている焼き物を傾けて新しい卵を水の流れよりも鮮やかな箸裁きで祐樹用の卵かけご飯を作ってくれている。
 炭の火の赤や黄色、そして青色の部分がとても綺麗で、こういう江戸時代から続く日本式の調理用具とも相俟って二人だけが別の次元に放り込まれたような気がする。
 第二の愛の巣とも言うべきホテルにも西洋式の暖炉が冬になると火が入るけれども、そちらよりもより親密な感じがする。




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すみません!!体調不良でダウンしてしまっていました。ただ、今日も絶対に外せない仕事が有りますので、本日更新はあと一記事だろうと思います。
すみませんがご理解とご寛恕をお願い致します。
 こうやま みか拝


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