腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します 申し訳ありませんが書く時間を最優先にしたいのでリコメは基本的に致しません。 要望・お礼などは「日記」記事でお応えしますが、タイムラグがあることも多いです。

2025年02月

気分は下剋上 不倫騒動 158

「それは是非ともお願い致します」
 内田教授は革命の闘士に相応しい鋭い目つきだったが若干の逡巡(しゅんじゅん)を感じた。祐樹は自分のスマホをタップして最愛の人にLINEを送った。「値段を聞いてください」祐樹が「知り合いでもない」杉田弁護士と直接話すわけにはいかないし、教授の言葉に口を差し挟むのは遠慮すべき立場なのも弁えている。内田教授のことは信頼しているが、二人の真の関係をこれ以上の病院関係者に言わないようにしようと二人で話し合っていた。杉田弁護士のことは「香川教授の顧問弁護士」と紹介したので、彼から聞いて貰う(ほう)が自然だろうし。
「香川です。ちなみにそのお値段はお幾らくらいなのですか?」
 祐樹最愛の人は杉田弁護士に「顧問」をしてもらっていると内田教授に言っていたが、相談窓口などは設置したことがないことは知っているハズなので値段というか相場が分からなくても不自然ではない。
『香川教授、ここだけの話ですが、不倫の実績が積み上がれば積み上がるほど慰謝料もそれに比例するのです。柳田氏もかなりの資産をお持ちのようで、大西さんは『取ることの出来るお金は全部(むし)り取って欲しい。山さん、()だ夫の方ですが、そちらには慰謝料が行きわたるように配慮して』というご依頼です。最終的な慰謝料・財産分与などの総額はただいま算出中でして、最終的に幾らになるのかは分からないのですが、柳田氏が支払う慰謝料には私の報酬も含まれています。つまり内田教授の懐はこれ以上痛まないですね』
 内田教授の眼差しから逡巡の光が雲散霧消した。まあ、実質無料と言われたら誰だって安堵するだろうが。
「では宜しくお願い致します。先生の事務所の電話番号と住所、そしてメールアドレスが頂いた名刺に書いてありましたのでそれを院内LANで公開しても宜しいですか?」
 この際、徹底的に(うみ)を出し切る気なのだろう、内田教授は。
『もちろんです。オフィスタイムだけではなくて20時までなら電話可能ともお書き添えください』
 大学病院では医師や看護師が定時上がりという勤務時間でないことの方が多いのでその配慮だろう。最愛の人が奇跡的に定時で帰宅出来るのは手術(オペ)が素晴らしく速いことと事務処理能力にも卓越しているからだ。まあ、黒子というか女房役の黒木准教授に任せるべきことは全てを信頼して委ねているという点もある。最愛の人は優秀な外科医に相応しい思い切りの良さを持ち合わせていて、いったん信頼すればその人に任せて万が一失敗すれば自分が責任を取るという方針を貫いてきた。それらが絡み合っての定時上がりだ。
『ではそのように致します。大西さん、いや、まだ役所に離婚届を出していないので柳田夫人ですか、もう動揺はなさっていないですよ。むしろ闘志に燃えているといった感じですね。仄聞するところによれば、山氏の(ほう)こそ精神状態が悪いらしくて。不定愁訴外来の呉先生がチェック済みの画像を見せても気分が悪くなったり胃が痛くなったりで、今は大学病院に戻っているようですね』
 呉先生が居てくれて本当に良かったと思う。外科医は一般人とかなり常識というか感性がズレている自覚はある。だから祐樹や最愛の人ではなくて呉先生の繊細な配慮があって良かったと思う。
「そうですか。有難うございました」
 内田教授は祐樹最愛の人の端整で怜悧な顔を確かめるように見ている。別に下心があるわけではなくて、杉田弁護士に言い残したことがないかを確かめているのだろう。彼も白く長い首を横に振っている。真殿教授の口座のお金の流れなどについては後日相談するのだろう。医局内クーデターという偉業を成し遂げた実績のある内田教授も疲れているようにも見えたし、急ぐ話ではないのだから。
 最愛の人や祐樹は「医局内の誰かが不倫密会をしている」という認識で動いていたので心の準備は出来ている。しかし、内田教授にとっては青天の霹靂だったので精神的な疲労も大きいだろう。
「では、またのご連絡をお待ちしております」
 LINE通話が切れる音がした。呉先生が山氏と弁護士事務所ではなくて大学病院に居るとなると、懸念すべき問題が残っていることに気づいた。
「香川教授、少し席を外して宜しいですか?」
 最愛の人は涼やかな眼差しを裕樹に向けてごくごく小さな微笑を浮かべてくれた。その一瞬の瞳の交差で心が洗われていくような気分を感じた。呉先生の特殊な事情を最愛の人が思い至ったかどうかは分からないが、内田教授にまで暴露することではないだろう。
 一礼をした後に静かに教授執務室のドアを閉じた。さて、今の時間の救急救命室で誰に連絡を入れたら最も効果的かを考えながらLINEをタップしてみた。外科医だと一笑に付される可能性が高いなと思いながら、緑色の葉が美しい観葉植物の陰に隠れてスマホの画面をタップした。



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気分は下剋上 巻き込まれ騒動 15

 祐樹の時はもれなく嫌味がついてくるが。お育ちが良いので感謝の言葉は必ず告げるのが森技官だが、こんなに心の籠った「有難うございました」は聞いたことがないような気がする。
「一応呉先生の様子を見てから夕食の買い物に出かけよう」
 通話終了のボタンを細く白い指が軽やかに優雅に動いてタップした後にハンガーラックに掛けていたカシミアのコートを手に取っている。
「そうですね。今日は珍しく車を出しますのでたくさん買い込んでも大丈夫ですよ。ああ、マフラーを巻いて差し上げますね」
 祐樹の希望を汲んでくれる最愛の人は真冬でも室内で襟ぐりの深いニットを着ている。室内だと大丈夫だけれども、外気温に触れる時には風邪を引いてしまわないか心配になる。それに最愛の人は何でも出来る人だが、細々と世話を焼きたくなるのは休日ならではだ。平日は最愛の人が何でもこなしてくれているのでほんのお礼といったところだ。
「祐樹有難う。祐樹に巻いて貰うと三割増しで温かくなるような気がする。祐樹の車で買い物に行くことが出来るのも、とても嬉しい。と言ってもそんなに大量に買う必要はないのだけれども…」
 ごく薄い紅色の唇に瑞々しい笑みの花を咲かせた最愛の人の吸引力に惹かれて触れるだけのキスを交わした。
「あの二人…普段の喧嘩とは違っていたな。まさか別れるということはないだろうな?」
 京都の街のマイナスの名物が渋滞で、先ほどから全然車が動いていない。まあ、呉先生が起きるまでに(かす)(じる)()じゃが(・・・)が出来ていれば良いので充分時間があるので気にしていないが。助手席に座った最愛の人は形の良い眉を寄せている。呉先生や森技官のことを気にしているのだろう。そして彼はそもそも悲観主義者だ。祐樹と付き合って絆が深まり、かなりマシになったけれども。
「最終的には二人の気持ち次第だと思いますが。呉先生は不満があると森技官に即座に言うタイプですよね?今回は森技官が言い訳とか釈明をしないというのが気に掛かります、ね」
 見たわけではないが絶対に口から先に生まれてきた森技官が黙秘権を行使するというのが不自然だ。
「そうだな。浮気を本当にしたのだろうか?」
 祐樹や最愛の人のような少数派の性的嗜好の持ち主は多情であったり移り気だったりする人の(ほう)が多いと経験則で知っている。しかもその上感情の起伏が激しい人も多数見てきたし、ストーカー行為も平気でする人も居た。祐樹も過去の一夜の恋人に付き(まと)われて職場やマンションとは名ばかりのアパートまでも特定されそうになった苦い過去がある。
 祐樹はゲイバー「グレイス」に通い詰めていた時期もある。具体的には大学生の時から研修医までだ。だからそれなりに人間関係も出来たが、断ち切りたい縁も多数あった。その点最愛の人は同性しか愛せないという自覚は思春期頃に自覚はしていたと聞いているが、特に何のアクションも起こさなかったらしい。
 祐樹が「グレイス」に足を運ぶ切っ掛けになったのは「グレイス」のオーナーが入院して優待券をくれたからだ。商売柄、そういう人はピンと来るようだった。そして彼も同じ券を貰って呑みに行った時に、裕樹が綺麗な人を口説いていた場面を目撃して立ち去ったらしい。実際には逆で祐樹が口説かれていたし、その口説いていた人の顔も名前も覚えてはいない。そういう経緯もあって、同好の士が極端に少ない。だから一般的な恋人や夫婦のように考えているのだろう。実際は意気投合すれば即座に性行為もするというのが当たり前(・・・・)で、次の日には他の男性とも…という人など珍しくないことは知らないので。
「浮気の定義によりますね…。呉先生の許容範囲と言い換えた方が良いかも知れないですけれども。ついつい出来心でベッドを共にしてしまって慌てて出てきたという程度なら呉先生は許すのかは本人にしか判断は出来ないでしょう。
 私たちは森技官の犯した過ちを素直に言うお手伝いをするだけですね。というか、口達者な森技官が何も話さないという点が気になっています。また、森技官が移り香が付くくらいの接触をしたとしても、シャワーを浴びて服を代えて証拠隠滅をしなかったのも不自然ですよね」
 助手席に座った最愛の人は形の良い(あご)に白く細い指を添えて考えに耽っているようだった。
「そうだな…。ただ、森技官は能弁家だという共通認識が出来上がっているのだけれども呉先生に一目惚れをした後にわざわざ手術ミスの画像をでっちあげて関係を迫ったのだろう?私はベルリンに行って居なかったので祐樹や呉先生からの伝聞でしか知らないのだけれども」
 こともあろうにその捏造した手術ミスの術者の名前は祐樹最愛の人だった。祐樹以上に病院への愛着心のある呉先生は、森技官のことを半ば受け入れていたが、大学病院の看板教授でもある彼が本当に手術ミスをしたのかが気になったらしい。そして、香川外科の医局員の伝手を辿って吐くほど嫌いな血が流れているかも知れない救急救命室に祐樹を尋ねて来た。香川外科の医局員ならば誰でも良いと思っていたらしいが呉先生の日ごろの行いの賜物で祐樹と出会った。ゲイバー「グレイス」のオーナーほどではないが、裕樹も同好の士は勘で分かる。だから的確なアドバイスが出来たと自負している。
 尤も最愛の人の手術ミスをでっち上げた森技官のことは未だ許してはいないが。
「ああ、なるほど…」



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気分は下剋上 巻き込まれ騒動 14

 細く長い指が優雅な所作で動いて画面を見ている。
「ああ、やっぱり森技官だ」
 常識的に考えて呉先生の家出先はこのマンションだと推測するだろう。
「祐樹、何か言うべきことを思いついたら教えて欲しい」
 最愛の人に頼りにされるほど嬉しいことはない。
「今は呉先生が私のベッドで入眠剤と精神安定剤を専門医には有るまじきことに自棄(やけ)飲みして熟睡中ということくらいでしょうかね」
 森技官も馬鹿ではないので呉先生がどんな思いで薬を過剰摂取したのかは分かるだろうし、今迎えに来ても薔薇屋敷に帰宅できないことも察するに違いない。最愛の人は頷いて通話ボタンをタップしている。
「もしもし香川です。呉先生が家出なさったのは本人から聞きました。はいお察しの通り、呉先生はインターネットカフェで夜明かしをした後、ウチに来ていますよ。そして私が以前、呉先生に貰っていた入眠剤と精神安定剤を既定の四倍も飲んで熟睡しています」
 スマホ越しに聞こえる森技官の声はいつもの張りがないような感じだった。祐樹はジェスチャーでスピーカー機能に変えるように指示した。
『自棄飲みですか…。そんな無茶をするとは』
 いや、そもそも原因はお前だろと思う。胃洗浄が必要なレベルでないとしたらこのまま眠らせておくしかないし、救急救命室で得た知識として精神安定剤の類いは肝臓に負担を掛けないらしいので過剰摂取の一回や二回…いやしない方が良いに決まっているが、騒ぐことではないだろう。
「ご存知だと思いますが薬を服用する動作など一瞬です。入院患者さんにするように一回ずつの分量を小分けにして出せば良かったのでしょうか?」
 ごくごく落ち着いた怜悧な声だったが、これはきっと彼の目が離れて祐樹だけがその場にいたと森技官が知ったら八つ当たりが裕樹を急襲することを恐れたせいだろう。
『香川教授の(おっしゃ)る通りです。せっかくの休日に恋人が迷惑をお掛けして本当に申し訳ありません。電話を掛けても全く出ないのでつい焦ってしまって…』
 呉先生のスマホが鳴っている音は聞こえなかった。まあネカフェに居たのだから消音モードにしたのかも知れない。あ!もしかして最愛の人と祐樹がネカフェに迎えに行った時に個室でスマホを落としていた。そのせいで故障したのかも知れないなと。
「インターネットカフェの個室では他の利用者の迷惑になるのでサイレントモードなどに設定していたのではないですか?それにスマートフォンをうっかり落としてしまわれたので故障をしたとか」
 祐樹の予想と同じことを考えているのはとても嬉しいが、この場合は以心伝心などではなくて普通の人なら誰だって同じ結論に行きつくハズだ。
『全ての機能が故障したわけではないと思います。恋人のスマートフォンの位置情報は教授と田中先生のマンションを表示していますし』
 位置情報まで把握しているのかと半ば呆れた。浮気(?)はしても呉先生の居場所は常に知っておきたいタイプで本当に面倒くさい性格だと半ば呆れた。
「そうなのですね。それでこれから森技官はどうなさるお積りですか?迎えに来ても寝ている人を運ぶのは本当に手間がかかりますよ」
 祐樹は救急車からストレッチャーに患者さんを移すときなど人ひとり持ち上げて運ぶのは得意だ。最愛の人も学生時代に救急救命室でボランティアをしていたのでそういう作業はさせられていただろう。だから「手間」というほどのことはないが、タクシーに乗せた後に薔薇屋敷に帰って寝室に運ぶのは森技官なので全く慣れていないだろうから「手間」どころか物凄く大変な作業になるだろう。病院はいわゆるバリアフリーだし、手がふさがっていても足で蹴るとドアが開くなどの特殊な作りになっているが、築年数が半世紀以上だと推測される薔薇屋敷ではそのようなことも望めないだろうから。
『熟睡しているのですよね?目覚めるのは何時間後ですか?それまでは申し訳ありませんがマンションで眠らせてくださいませんか?』
 妥当な判断だろう。そして、浮気のことは最愛の人や祐樹が呉先生の要請もないのに口を挟むべき問題でもない。
「薬効は六時間程度で切れると思いますが、昨夜のインターネットカフェの個室では眠れなかったようですので更に時間がかかるのではないかと思います。私たちとしても呉先生が目覚めた後に夕食を振る舞って…帰宅するかどうかは本人の意思に任せようと話していたところです」
 数秒の沈黙の(のち)に低く艶のある声がスマホから流れ出した。
『申し訳ありませんとしか言いようがないのですが…その夕食をお相伴させていただくわけには参りませんか?』
 最愛の人の涼やかな眼差しが祐樹の目を窺うように見ている。頷くと花のような笑みを唇に咲かせた。
「はい。お待ちしています。では、ろく」
 祐樹は首を思いっきり横に振って指を五本立てた。
「失礼しました。五時間後に来て頂けますか?ご承知のように個人差のある薬ですし、呉先生は確か…代謝が早いと聞いたこともあります」
 嘘を()くのが苦手な最愛の人が一生懸命に考えた結果が「代謝」の問題なのだろう、多分。
『分かりました。では五時間後にお邪魔します。そして、この度はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。そして有難うございます』
 最愛の人にはこんな感じの言葉遣いなのだろうか?




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気分は下剋上 不倫騒動 157

 「当職」というのは弁護士の仕事上の一人称で、裕樹は受け取ったことはないものの弁護士からの内容証明郵便に必ず書いてあるとゲイバー「グレイス」で杉田弁護士から聞いたことがある。多分だけれども、弁護士として強く勧めるという意志を表現したのだろう。
 最愛の人は席を立ってカフェオレのお代わりを淹れている。本来ならば旧態依然としたヒエラルキー制度がまかり通っている大学病院では教授職ではなく一介の医局員の祐樹がすべきお茶の手配も最愛の人に任せてしまっていて、これが口うるさい教授だったら咎められるハズだ。ただ、内田教授自身は病院改革の闘士として大学病院の旧弊さを払拭したいと常々言っているので祐樹が座っていて、最愛の人がカフェオレだかコーヒーを淹れる件について煩いことは言わない。そして今の内田教授は全くそれどころではなさそうな感じで微動だにせずローテーブルの上に置いたスマホを凝視している。
『はい杉田です。内田教授折り返しのお電話有難うございます。部屋に誰かいらっしゃいますか?』
 飄々とした感じは相変わらずだが、真剣そうな響きも混ざっている。祐樹と話すときはもっとふざけた感じだったし、ゲイバー「グレイス」で常連客が巻き込まれてしまった法律トラブルのことを相談している隣に祐樹がたまたま座ったことがある。(今夜は少しで良いので好みの男性が来てほしい。いや来るべきだ!いやいや絶対来る!!)と面食いを自認する祐樹のハードルの高さに見合う男性を待っている。尤も、そんな好みの男性が現れる可能性は極めて低く、妥協に妥協をしまくった男性と…という夜が圧倒的に多かった。そんな時に漏れ聞こえてくる杉田弁護士の法律的なアドバイスとか実務的(?)な話、たとえば建築業を営んでいて仕事では常に作業着でも警察に相談に行く時にはバリっとしたスーツ着用必須とか対応に出てくれた警官の名刺を要求するとか、不可能ならば警部補などの役職やフルネームをメモに書いておくことなどといった注意点も飄々と話していた。単に親身にアドバイスをしているのだろうと思っていたら営業活動の一環だと後に知った。
 ギャラが発生しない場合は飄々とした口調で、お金が貰える場合は異なるのだろう。そして今の内田教授はきっと顧問弁護士契約を結んだクライアントだ。
「私は今香川教授の執務室にお邪魔していて、教授以外には田中先生がいらっしゃいます。田中先生はお互いの配偶者への謝罪と説明に同席された…」
 内田教授は杉田弁護士を裕樹最愛の人の顧問弁護士だと認識していて、裕樹が実は杉田弁護士と親しいということは知らない。
『ああ、田中先生ですか?それでしたら問題はないですね』
 最愛の人がコーヒーを淹れている薫りが教授執務室の空気を和らげている。
「LINEを拝読しましたが、そんなに口説いていたのですか…」
 内田教授は部下の監督不行き届きを恥じるような、そして気落ちしたような口調だった。
『そうみたいです。夫人はフレンチやイタリアンレストランに二人で行ったクレジットカードの記録をお持ちだそうで。そういう明細を見て問い詰めたらしいですが『同僚と打ち合わせに行った』の一点張りだそうです。そういう有名店に同僚と行くものなのですか?』
 最愛の人とのデートではそういう店に行くが、同僚とは行ったことがない。というか忙しすぎて病院の食堂とか救急救命室の休憩室でしかご飯を食べたことしかない。最愛の人は元同級生の柏木先生とまれに呑みに行くと聞いているが、学生時代に行った居酒屋兼定食屋だと聞いている。
「行かないです。少なくとも私は。香川教授や小児科の浜田教授、そして田中先生とたまに呑みに行く時も学生が気合いの入ったコンパで使うようなお店ですし」
 内田教授がスピーカー機能にしてくれているので杉田弁護士の声も良く聞こえる。
「田中です。Ai(死亡時画像診断)センター長も兼務していますからMRIやCTの新機種が出た時に説明と称した接待では老舗フレンチなどを指定されることもあります。実際に購入という運びになると会社には億以上の儲けが出るので先行投資の意味があるのでしょう。同僚と一緒に行くことはあり得ませんね」
 とはいえ、億単位の出費が経費節減と念仏のように唱えている事務局長に承認されないことは火を見るよりも明らかなので購入する意思もなかったが。そして先方もダメ元で「営業」をしてついでに高価なモノを食べたり呑んだりするのが目的なのだろうと勘繰っている。
『やはりそうですか。香川教授が文書にしてくださった山看護師もイタリアンに誘われたとかブランド物を買ってもらったとか言っていたとありましたので、そんなことだろうと思っていました。とにかく被害に遭った女性も多そうなのです。イタリアンは月に二回とか多くて四回もあったようです。山看護師とだけ行ったとは考えられないですし、ああいう場所ではアルコールも提供されますよね?酔った勢いとか最悪酔いつぶしてということも考えられますので当職の事務所に『秘密厳守の相談窓口』を設置しても構いませんか?』



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気分は下剋上 巻き込まれ騒動 13

 しかも、その三種類のシートは丁寧に手で切って空になったプラスチックだかの薬包はポケットに入れている。呉先生は繊細そうな見かけとは異なってかなり大雑把な性格をしていることは知っている。祐樹も人のことは言えないが。ただ、普段の呉先生なら飲み終わった空のシートもグラスと同様にトレーに放置しそうな気がする。最愛の人が裕樹の個室の暖房を入れてきたのか部屋に入って来て、トレーを見て細い眉を寄せている。
「部屋が暖かくなったのでゆっくりとお休みください」
 何だか患者さんに対する口調だった。何か懸念があるのか見えない壁を作っているような感じだ。
「はい。有難うございます。お言葉に甘えますね。…田中先生の部屋を占領するのは申し訳ないんですが」
 何だか眠気を(こら)えている舌足らずの子供のような口調だった。
「いえ、このマンションはファミリータイプですのできっと他の家では子供部屋として使われている部屋です。私も滅多に使いませんのでお気になさらず。あ、案内しますね」
 呉先生はこのマンションに来てはいるが全ての部屋を知っているわけではない。
「こちらです」
 最愛の人は形の良い眉をさらに寄せて何か考え込んでいる風情だった。
「このドアです。あっ!危ないですよ」
 祐樹が開けたドアにぶつかりそうになっていた呉先生の腕を慌てて掴んだ。きちんとベッドメイキングされた枕の上には最愛の人が用意したのだろう。パジャマが几帳面に畳まれて置いてあった。
「ありがとうございます」
 普段は活舌の良い爽やかな話し方をする呉先生の舌が(もつ)れている感じだった。そしてパジャマに着替えることもなく、ベッドに倒れこんで眠りの国に落ちていった。枕の上のパジャマは頭の下だった…。
 そっとドアを閉めて最愛の人の元へと戻った。
「祐樹…精神安定剤と入眠剤が四つずつ減っているのだが、呉先生が全て服用したのか?」
 彼の秀逸過ぎる記憶力は薬剤の数も覚えていたのだろう。
「そうです」
 細い眉が更に寄せられた。
「三種類の薬剤は皆一錠ずつなのだが。精神科医が様子を見て二錠にする薬も含まれているが一度に四錠はあり得ない…。それに祐樹には釈迦に説法だが、薬を二倍服用しても効き目が二倍になることもない。過剰摂取だと思う…」
 案ずるような表情と声だった。
「過剰摂取でしたか?精神科の薬は良く分からないので気付かなくてすみません。胃洗浄が必要なレベルですか?」
 薬剤によってはごくごく少量の嘔吐薬が入っていて、たとえば一瓶飲んでしまったらその嘔吐薬の効果で吐いてしまうモノもあることは知っていた。しかしそういう効果のない薬を過剰摂取して、OD(オーバードーズ)で救急搬送される患者さんもいる。
「いや、そこまでのレベルではない。ぐっすり眠ったら大丈夫だろう。呉先生が薬剤の量を間違えることはないはずなのだが」
 呉先生は最愛の人の卓越した記憶力を知らない。だから空になった薬包をこっそり隠したのだろう。精神科の薬に祐樹は詳しくなくて最愛の人は知悉していることを知っていたゆえに。
「もしかして注意力が散漫になってどこかに当たったり舌足らずな喋り方をしたりするのも薬の影響ですか?」
 そういえば服用した直後はいつもの呉先生だったが時間の経過と共にそういう症状が酷くなっていったような気がする。
「そうだな。眠りに落ちる時には注意力が散漫になるだろう。また、話す時には唇と舌、そして喉の筋肉がお互いに調整しあっている。しかし精神安定剤の副次的効果でこれらの筋肉がうまく作用しなくなる。呉先生は誰よりもそのことを知っているにも関わらず四錠ずつ三種類の薬を服用したのは何故なのだろう?」
 怜悧な声に沈痛な響きが混じっている。
「そういう薬は頭をぼうっとさせますよね?これ以上イライラが続いて欲しくなかったのかも知れませんし、自棄(やけ)酒ならぬ自棄薬だったのかも…。森技官の浮気の証拠とかその後の態度を早く忘れたくて、いけないと思いつつも服用してしまったとは考えられませんか?」
 最愛の人はため息を零している。
「要は本来、駄目だと分かっていながら薬の力を借りてでも、現実逃避がしたかったわけか…。森技官の服に染み付いた香水という浮気の証拠を忘れたいという」
 端整な顔に遣る瀬無さそうな表情を浮かべている。
「呉先生が起きたらとっておきの夕食にしませんか?具材たっぷりの豚汁、いや(かす)(じる)の方が良いかもしれませんね。山椒がたっぷり入ったちりめんじゃこ(・・・・・・・)()だストックがありましたっけ?後はそうですね。貴方特性の最高に美味な肉じゃがが食べたいです」
 最愛の人の憂い顔は絵になるが、裕樹としては彼の笑った顔が最も綺麗だと思っているので話題を変えた。
「粕汁の材料は冷蔵庫に揃っていないので買い物に行かなければならないな。ジャガイモも確か切れていたはずだし」
 先ほどとは異なった明るい思案顔が嬉しい。
「では、一緒に買い物に行きませんか?呉先生は単に眠っているだけでしょう?」
 それならば放置しても問題はない。
「呉先生のことが気になるので近くのスーパーで良いか?」
 最愛の人は京都の台所と一部では言われている錦市場(にしきいちば)や百貨店の食料品売り場で食材を購入することが多いのは知っていた。しかし、呉先生を放置したままというの件について責任感の強い彼には気になるのだろう。
「もちろんです」
 外出の準備をするためにしなやかな動作で立ち上がった最愛の人のスマホが鳴った。




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