「旨っ!いえ……もとい……とても美味しいです!魚が口の中で跳ねているような感じです。鯛は大きさこそ貴方と行った明石の市場で買った物よりも小さいですけれども味はとても繊細ですよ。それに近い場所で獲れた新鮮さの賜物でしょうか歯ごたえが素晴らしいです」
最愛の人の前では丁寧な言葉を使うようにしているが、学生時代の口癖が出てしまったくらいに美味だ。
「そうなのか?枝豆もとても美味しい。京都の百貨店で売っている物よりも格段に……。これを摺り潰したのが『ずんだ』なのだろう。デザートに絶対に頼む!」
普段よりも熱量が籠っている声が微笑ましい。祐樹はこの感動を最愛の人と共有したくて、器に載っている白身魚をお箸で挟んで身を乗り出した。
「召し上がってみてください」
瑞々しい大輪の花のような笑みを浮かべた最愛の人は紅色の口を開けている。真っ白い歯とサーモンピンクの舌もとても綺麗だ。最新の注意を払って口の中に魚を入れた。
「ん!祐樹の言う通りだな。とても美味しい。祐樹が口に運んでくれたから美味さも五割り増しだろうけれども……」
幸せそうに笑みを零す最愛の人を見ていると祐樹もとても幸福な気分になる。
「『づけ』のタレの醤油味も絶妙ですよね……。このお店のネットでの評価が高いのも頷けます。ご飯もツヤツヤとしていて粒の大きさが揃っています。ご飯も進みますし、ビールとの相性も抜群です」
美味し過ぎて病院の食堂に居る時のスピードで完食してしまった。看護師などのようにランチタイムが定められていないし、職務の合間を縫って食べるのでスピード勝負という側面がある。例外は教授執務室に患者さんの差し入れが有って、彼が祐樹を呼んで一緒にランチを摂る時だった。デートの時は最愛の人の顔を見ながらゆっくりと食べるのも楽しみの一つなのに、この「仙台づけ丼」の吸引力は凄まじいなと苦笑してしまった。最愛の人は切れ長の艶めいた目を瞠っている、意外なモノを見たかのように。彼と病院の食堂で昼食を摂る機会などない。教授職が食堂に来ないという不文律があるのである意味当たり前だし、いくら病院では「仲が良い」と広く認知されているとはいえ不特定多数の人間の前で二人して食堂で昼ご飯を食べることは憚られるし、時間を合わせるというのも現実的ではないので。あっという間に半分を食べ終えて器を彼の前に置き直した。
「祐樹の豪快な食べ方は初めて見た……」
感心したように呟く彼の紅い唇も新鮮だ。
「病院の食堂ではこれよりも早く食べることが出来ますよ?何しろ食事を摂る時間は限られていますからね。主治医を務める以上、患者さんの昼食が終わったのを見計らって話しに行く必要がありますから」
大輪の紅い花のような笑みを浮かべている最愛の人に笑みを返した。
「そういう祐樹の姿も見たいな……」
紅く細い指がビールジョッキを傾けているのも優雅そのもので視線が惹かれてしまう。
「食堂に教授がいらっしゃるのはとても珍しいですよ。ああ、浜田教授がナース達と一緒に足を運ばれて、他の科の医師が箸を止めたりポカンと口を開けたりして驚いていたのを思い出しました」
彼は美味しそうにビールを呑んでいる。
「そうか……。ただ、浜田教授はナースにも慕われているから出来ることなのかも知れないな」
「長なす漬け」を口に運んでいた祐樹は首を横に振った。
「貴方だって医局の医師だけではなくて看護師に慕われていますよ。正確には手術室ナースにも、ですね。浜田教授は看護師に懐かれているという感じです」
彼は納得したような笑みを浮かべつつお箸を動かして「仙台づけ丼」を食べている。
「お米というと新潟産が最も美味しいと思っていたのだけれども、宮城県産もこんな味だったとは新鮮な驚きだ……」
切れ長の目が無邪気かつ熱心な光を放っている。きっとこの人は出来ればこのお米を持って帰りたいと思っているのだろう。重量の関係で無理だろうが、自宅マンションのお米の在庫が切れたらきっと注文するのだろうなと微笑ましく思いながら枝豆の皮を剥いて翡翠のように煌めく中身を出して口に運んだ。
「浜田教授といえば……」
絶妙な塩味が絡んだ枝豆のシャキッとした歯触りを楽しみながら口を開いた。
「小児科学会も仙台で行われないかと残念がっていらっしゃいましたよ。『呪いが廻る戦い』の主人公も劇場版の主人公も共に仙台出身ですよね。だから一度来てみたいと……」
「お待ち遠さま!」
扉の向こうから声が掛かったせいで口をつぐんだ。先ほどの店員さんが扉を開けている。
「牛タンと『あおば餃子』そして『マーボー焼きそば』です」
手慣れた手つきでテーブルに料理を置いていく。
「あ、ビールのお代わりをお願いします。貴方はどうしますか?」
どの料理も美味しくてビールを呑むピッチも早まる。
「私も同じものをお願いします。わざわざ『仙台あおば餃子』と名前がついているだけのことは有りますね。餃子の皮が緑色です。この皮には何を練り込んでいるのですか?」
彼は興味深そうに質問していた。
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2024年08月
民事訴訟と刑事訴訟の違いは新聞記事レベルでしか知らないが、懲役何年とかで刑務所に行くのは刑事訴訟なのだろうなとか思いながらアイスコーヒーを飲んで人心地がついたような気がした。最愛の人の淹れてくれるコーヒーは世界で一番美味しいのは紛れもない事実だ。それに氷ではなくてコーヒーを凍らせたキューブを入れてくれているので薄まってもいない。
「そういえば、杉田弁護士が言っていたのだが、警察署で事情聴取をされた人が居て……。祐樹、食事にするか?」
杉田弁護士は病院外では数少ない二人の共通の知人だ。ゲイバー「グレイス」の常連だが下心ありありの祐樹とは異なって静かな雰囲気でお酒を楽しむ目的で通ってきている。会社員を自称していた祐樹とは異なって職業も公表していた。「弁護士といっても客商売だからね。顧客が居ないと収入がない点は『グレイス』と同じだ。ま、この店では法律相談無料だけれども、いざ訴訟になったら代理人契約をして対価はきっちりと貰っているよ」飄々とした感じで言っていたのを祐樹も聞いている。「グレイス」ではたまに「彼氏を寝取った!この泥棒猫!」的な喧嘩は起こるが概ね静かだし、酔った女性客のキンキンとした声は聞こえてこないのが杉田弁護士にも居心地が良いのだろう。祐樹の職業と職場が杉田弁護士に露見したのは大学病院の医療過誤裁判の代理人として病院に来てばったりと会ってしまったからだ。「弁護士には守秘義務があるからねぇ。別に口外はしない」頭を掻く祐樹に拘らない感じの小声で告げてくれた。性的嗜好はどうやらバイセクシュアルなようで救急救命室の名物ナースを紹介したら結婚したという逸話の持ち主でもある。
「いえ、さほど空腹ではありませんので、このまま会話を続けたいです。警察署で事情聴取ですか?逮捕とかではなくて……」
法律で薬物を摂取した患者さんを警官に引き渡す義務は有るが、処置が一段落したら警官が4人救急救命室に来るのが普通なので、さほど詳しくはない。
「そうか。今夜はお寿司なので冷めても大丈夫だ。警察は相談に赴いたら事情だけは聞いてくれる。例えばストーカー被害などだが……。緊急性がないと判断されれば被害者の家の周りのパトロールを重点的にしてくれるとか。警官は法律も熟知していると考えるだろう?」
彼も肩の荷が下りたような表情だった。
「そうですね。法律違反を取り締まるのですから必須の知識だと思いますが……?」
祐樹だって心臓外科と救急救命医の資格は持っている。特に救急救命は搬送された患者さんがどんな容態か診るまで分からないので出たとこ勝負という側面もある。救急車からの基本情報は入って来ても、応用するのが救急救命医の仕事だ。職業によって詳しい知識を持っていると考えるのが妥当だろう。
「そう思うだろう?警察で逮捕もあり得ると聞いた人が杉田弁護士の事務所に駆け込んだ。逮捕された場合、弁護士が付いて色々とアドバイスをして貰わないと刑罰が重くなる可能性が高まるので賢明な判断だと思うが」
食前のコーヒーを嗜んで他愛のない話を「平日」に交わせることはまずないのでその点だけは嬉しい。
「え?でも、裁判は弁護士が居ないと維持出来ないのではないですか?」
最愛の人は祐樹が褒めたせいで室内着は襟ぐりが深くて肩がかなり露出しているニットを着ている。その白く滑らかな肌もとても綺麗だ。
「民事訴訟の場合は本人でも可能だ。刑事訴訟の場合は被告人の人権を守るために絶対に必要なのだけれども。被告人に弁護士を頼む財力がない場合には国選弁護人といって弁護士会所属の弁護士が順番にほぼボランティアとして担当する。ボランティアといっても一応報酬は弁護士に支払われるのだけれども、被告人と一回接見すると一万円とか。そして判決が下されたら確か五万円だったと思う」
たったそれっぽっちと思ってしまう。杉田弁護士とは弁護士報酬の具体的なことは話していないものの「呪いが廻る戦い」のまだアニメ化されていない「死滅回遊編」で弁護士が出て来て主人公に「相談料は30分5,500円」と冗談で言っていた記憶がある。患者さんのバイタルの暗記は慣れているが、割とどうでも良い弁護士報酬なのでもしかしたら間違って覚えているかも知れないが。
「それだと弁護士のモチベーションも上がらないですよね?お金だけが目的だったら事務所に駆け込んで来た人の方が支払いも桁違いなのでしょう?また国選弁護人という文字だけ見たら、何だか『国が推薦した』弁護士みたいですね……。誤解を招くような名称だと思います」
彼は白い花のような笑みを浮かべていてコーヒーの色とは好対照だ。
「そうだな……。私選弁護人の方が報酬も高いので、国選弁護人の要請をパスする弁護士も居ると聞いている。杉田弁護士の話に戻るが、警官から『どうせ損害賠償を求めて民事でも訴えられると思うが、そんな訴状は放置すれば良い』とアドバイスされたと聞いて、思わず天を仰いだそうだ……」
ということは警官がとんでもないことを言ったに違いない。
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「もちろんです。白身魚のヅケはともかく周りに散らされている『錦糸卵』は貴方が作ってくださる方が色も鮮やかですし、もっと細いですよね」
彼は水晶のように澄んだ笑みを浮かべているだけで無言だった。自作の料理を褒められたのはきっと嬉しく思っているだろうけれども、プロが出す料理にケチをつけるのは失礼だろうという判断のようだ。
「貴方は鯛とヒラメどちらになさいますか?」
最愛の人は楽しそうな感じの笑みを浮かべている。
「ヒラメが良いな……」
お箸でヒラメが載っている部分から綺麗に二等分した。何故なら丼モノは二人で食すのが難しい。最愛の人と過ごす時に丼は食べないが病院の食堂で久米先生とか柏木先生などの医局の誰かと時間が合ったら一緒に食べる程度だった。「ダイエットは明日から」と毎日言っている久米先生は祐樹の頼んだカツ丼に箸を伸ばして来ることもあった。まあ、祐樹も久米先生の天ぷら饂飩に汁が真っ赤になるほど七味唐辛子を掛けたことがあるので食事中の些細な悪ふざけの一環だ。カツが一つ無くなった丼は何だか間抜けな感じだったせいで先に彼の分を取り分けておこう。
「祐樹、先ほど店員さんが来たタイミングで口を閉じただろう?『葬列のフリーレン』の勇者も祐樹が扮しても大丈夫だと言っていた時に」
多分東北大生と思しき店員さんが入って来て、会話を一時中断した時のことだ。
「貴方の前ではああいう表情をしていたことは分かりました。何しろ証拠が有るのですから。しかし、ああいう顔は貴方専用にしたいのですが……。それを小児科病棟ナースとかよその科や事務局からわざわざ見物に来た女性たちがスマホで拡散しますよ……。去年で小児科だけでなくて病院中から注目を集めた催し物になりましたから注目度は高いと思います。出来れば……あの表情は貴方の前でしか浮かべたくないです……」
呉先生の天敵の精神科の真殿教授に代表される生きた化石のような教授は置いておいて、病院改革の闘士というか革命家としての能力がかなり高い内科の内田教授やナースにまで慕われる浜田教授は最愛の人が目指す医療従事者視点での病院改革を目指している人なので祐樹としても出来るだけ協力はしたい。しかし、身長だけがネックだった去年の「呪いが廻る戦い」の現代最強の呪術師は童顔という点で似ていたし、立ち居振る舞いも祐樹に似ている面があった。といってもあんなに傍若無人でもなければ軽いノリでもないが。実力に裏打ちされた自信家という点は似ているので何とか演じることが出来たけれども「人のために戦う」とか「困っている人を見捨てない」良い人というのは祐樹とあまりに異なり過ぎて自信はない。それに祐樹の先ほどの邪気のない笑顔は相手が最愛の人だから浮かべることが出来ただけで。「葬列のフリーレン」も楽しく観ているのは確かだけれども、あの勇者のコスプレが出来るとは先ほどまで全く思っていなかった。
「その気持ちはとても嬉しいのだけれども、浜田教授から直接オファーが来た場合は小児科を盛り上げると思って一肌脱いで欲しい、な……」
真率な表情で頭を下げられた。
「どうか頭を上げて下さい。貴方のお願いでしたら何でも聞きますので」
最愛の人がこれだけ熱意を込めた態度と熱心に言ってくれるのなら、協力するのにやぶさかではない。まあ、今年のハロウィンで「葬列のフリーレン」が選ばれるかどうかは分からないので、決まった時にまた考えよう。ただ他の人気アニメでコスプレが出来そうなものはなさそうなのも事実だが。秋アニメで小児科病棟の患者さんが喜ぶものが出て来るかも知れないが。「逃げ上手のわか君」は主人公が子供なので医師がコスプレするのは無理だし、アクアとルビーという訳あり双子の芸能界モノも年齢的に無理だろう。記憶は定かではないものの確か高校生という設定だったハズだ。それはともかくルビーというある意味キラキラネームを付けるのは勝手だけれども、ルビーの対の名前はサファイアではないのかとアニメを観てついつい突っ込んでいた。ハロウィンの催し物を決めるのは浜田教授で、メインのコスプレをする医師は看護師の投票で選ばれると聞いている。祐樹などはお呼びが掛かるのを待っていよう。
お箸を再び取って「仙台づけ丼」を見た。我ながら完璧に二等分されている。
「先に頂いて良いですか?」
祐樹も空腹だったが、同じような「運動」をした彼も同様かもしれない。声に出して言ってはいなかったけれども。
「いや、祐樹ほどは空腹ではないので先に食べて欲しい」
枝豆を美味しそうに食べている最愛の人は満足そうな笑みを浮かべている。翡翠のような枝豆を薄紅色の唇に運んでいる仕草が何だか精緻な宝石細工のようだった。
「では遠慮なく頂きますね。あ!」
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今までに見たことがないほどの苦渋の表情を浮かべている最愛の人は、信頼している医局員のことを考えているのだろう。香川外科の医局の中の相対評価ではあるが手技が凡庸な医師でもそれぞれに合った仕事を与えている。例えば遠藤先生などは英語での論文やレポート作成などだ。彼のことだから「飼い犬に手を噛まれた」と激怒する他の教授とは異なってどちらかと言えば悲しみの感情の方が強いのではないだろうか?他の病院のことまでは知らないが、ウチの病院では福利厚生も手厚いので産休や育児休暇は法律通り取得が可能だと聞いている。ちなみに産休は略語だろうが正式名称は生憎知らないし興味もない。ただし、育児休暇を取得するのは看護師だけで、少なくとも祐樹の知る限り医師はその権利を放棄するのが普通だった。女性の医師が多い産婦人科のことまでは全く知らないが。育児休暇を終えて復職出来る環境なので既婚者の看護師も多い職場なのでそういう恩恵に与かった看護師が不倫している可能性は少なからずあるだろう。
「……祐樹と長岡先生が当事者を特定してそういう状況だったら……。祐樹には本当に申し訳ないのだけれども叱責は任せるが良いか?」
全体の雰囲気が悄然とした感じだった。
「勿論です。それはお任せください。ただ、引導を渡すのは医局の責任者である貴方がなさるべきです……。香川外科では一介の医局員の私では不可能です、出来るならば替わって差し上げたいのですがそれは僭越の度が過ぎるので……。それとも黒木准教授にお頼みになりますか?それならば医局の皆も納得すると思うのですが」
彼は俯いて考えている様子だったけれども、三秒後に顔を上げた時には決意を秘めた眼差しだった。
「いや、それは出来ない。黒木准教授に頼めば長年の経験で叱責もお手の物かも知れない。しかし、医局の責任者は私なので職務を全うしなければ」
潔い口調で言い切っている。責任感が人一倍強い人なので縁の下の力持ちとして黙々と責務を全うしている黒木准教授の手を煩わせてしまうことを避けたのだろう。
「そうですか。貴方が決断なさったことを尊重致します。それで、所謂ダブル不倫の場合は両人とも慰謝料などを支払って離婚させることは前提ですよね?その後の処分はどうなさるのですか?」
長岡先生が黒木准教授ではなくて祐樹に打ち明けたのは彼にアドバイスして充分話し合った末に結論を出して欲しいという要望が原因だったが、余り役に立っていないような気がする。最愛の人は自分のことを話すということをしない人なので、祐樹よりも知り合った時間が早いし、比較的心を開いている長岡先生に対しても「司法試験に合格した」ということは言っていないのではないのではないかなと。後は彼女に生粋の病院育ちという点が買われたのかも知れないが、彼も充分に病院の「常識」を理解しているせいで祐樹は単なるアシストしか出来ないのが歯がゆいくらいだ。
「その後の処分は京都の日本海側とか山奥の公立病院に移ってもらうしかないだろうな……。尤も長岡先生の薬品保管室で密会していた二人が各々の配偶者に然るべき慰謝料や養育費を支払った後に再婚を希望するようなら、同じ病院とまではいかなくとも、近隣の病院に勤めさせる程度のことは配慮しようと考えているが……それでは甘いだろうか?」
潔い光を放つ切れ長の目が祐樹の目を射るようだった。
「円満に離婚出来た場合でしたらそういう温情を掛けても良いと思います。しかし、逆恨みとか報復の念を元配偶者が持っていた場合は避けるべきかも知れないですね。少なくとも結婚していた期間の半分くらいは遠い場所に隔離して、それでもお互いが惹かれているのなら近隣の病院に移しても良いと思いますが。時間の経過で元配偶者も許す気持ちが出て来るかと思いますので。あ、それと慰謝料とか養育費は全てお金の問題ですよね。配偶者を信頼していたのに裏切られて、思いっきり殴ったり蹴ったりしたいと思う男性は多いのではないでしょうか?もちろん傷害罪とか暴行罪になるので抑止力も有るでしょうが……。私が診た下腹部に熱傷を負った患者さんは多分被害者でしょう。それだけ逆上したら暴力もやむなしと考える男性は多いと思うのですが……」
最愛の人が小さな紅い花のような笑みを浮かべているのが印象的だ。
「私にはそういう気持ちは全く分からないが……」
最愛の人の場合、仕返しを考えるという選択肢を持っていないことは知っている。思い詰めたら衝動的に行動してしまう危うさも持ち合わせているので、祐樹としては日々の出来事をなるべく言うようにしている。と言っても、祐樹の恋愛対象が男性限定なのを知っているので看護師や事務局の女性から山のように貰うバレンタインチョコは「祐樹はモテるのだな」と感心して見ているだけだ。そして旧態依然とした病院内で同性愛をカミングアウトするような勇気の有る人間は居ないのも事実なので安心していたが。
「傷害罪とか暴行罪は警察沙汰に出来るだろう?警察は刑法上の罪についてだけを取り扱っている。そして離婚などは民法の定めに従うのでお金でしか解決出来ないし、してはならないという決まりになっている。いくら奥さんの不倫相手に腹を立てても殴ってしまった場合は慰謝料的にも不利になるし、警察に被害届を出されたら逮捕もあり得る。そういえば……」
彼も一応の結論が出て安心したのか愁眉が花のように開いている。
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お菓子届きました~!!特にゼリーが美味しかったです!!教授大好き♡様・しょうこ様・ゆき様(五十音順)いつもいつもありがとうございます!たくさんの有難うと感謝の念を送ります!
ブログの更新がまちまちになって本当にすみません。私の現時点での資格でもクライアントというか相談者が来て下さるようになっておりまして、法人登記の定款に加えることになりました。そのため役員を務めてくれている実弟と共に司法書士の先生と打ち合わせたり、ライフプランニング業務も加わってなかなかブログ更新の時間が取れなくなってしまっています。毎日一話更新をマストにして頑張りたいと思っていますので気長に待っていて下されば嬉しいです。
ウチの家人は要所要所をきっちりこなせば何も言わない人なので助かっています。お盆休みは義実家と恒例行事を済ませた後は自宅でまったりと過ごしました。ネットフィリックス独占配信の「地面師たち」を観ようと誘われたので「あ~!友達も面白いって言ってたし」と一緒に鑑賞しました。地面師とは他人の土地の所有者に成りすまして偽の売買をし代金を持って逃げる詐欺師のことです。
とても面白かったので原作もついつい読んだのですが「半沢直樹」と同様ドラマの方が面白かったです!
偽の所有者同席で決済をする場面で家人が「みか(仮名)も干支とか聞かれた?(実家)家の写真の選択とかもされなかった?」と興味津々で聞いてきました。私には相続した実家を売却した過去があるのです。「え?そんなの全く聞かれなかった」と正直に答えると何だかガッカリしていました(笑)司法書士さんに世間話ついでに聞いてみたら「流石にそこまでしないです。ただ、実際に有った事件では土地の権利書なしでの取引だったので慎重になったのでしょう」と。私の時は全部揃っていたので干支などを聞かれなかったのか「地面師たち」の売買額の五分の一程度だったからなのかは不明です。「地面師たち」はグロいのが苦手な方にはお勧め出来ませんが、とても面白かったです!!
「どうせなら株主優待券使おうよ!」とリッツカールトン大阪のフレンチにも二人で行ってきました。小説のネタにしようと思ったことは内緒です!どれもとても美味しかったです!小説ならキチンと描写しますが、日記なので画像貼り付けだけしますね~!




あと、コメント返しが出来なくて本当に申し訳ありません。小説でご恩返しが出来れば良いのですが(汗)
本業と実弟の会社の手伝い、そして手を抜いているとはいえ家事もしないといけないのでネットに割く時間がなくてですね……。中断してしまっているロンドン編も再開しないととか宿題の多い身の上ですし……。
各地で災害が相次ぎ、またコロナも流行っていますのでどうか読者様もお身体に気を付けてくださいませ。
こうやま みか拝

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