「はー!やっと終わりましたね、日本心臓医学会」
副会長が閉会の挨拶をしているのを聞き流して、ひそひそ話を交わそうと目論んだ。いつぞやリッツカールトン大阪の中華レストランでなし崩し的に決まった理事職は祐樹が囁きかけている最愛の人は条件を満たしているが、香川外科では一介の医局員でしかない祐樹は何だか場違いな席に座っているという居た堪れなさ満開だった。
「そうだな。この後宴会だそうだが、祐樹はどうするのだ」
真顔で囁いている、その横顔の非の打ちどころのない端整な白い顔に見惚れてしまう。
「宴会も親睦を深めるために必要だと思っていますが、一時間も付き合えば良いでしょう。その後、私が腹痛を起こしてホテルの部屋に戻るというタテマエで……。その後仙台の街をデートがてら散策しませんか?」
ごく薄い紅色の唇が花よりも綺麗な笑みを仄かに浮かべている。
「分かった。一時間後な。しかし何故腹痛なのだ?」
祐樹は笑いそうになるのを慌てて真顔に戻した。二人して医局のこととか患者さんの容態について話しているように装わないといけないので。
「発熱も考えましたが、万が一デートを目撃されたら『常備薬で全快しました』と言い訳が出来るでしょう。発熱だったら普通は一晩寝ていますよね……」
最愛の人が納得したような笑みを零している。心臓外科学会の理事職は外科医にとって名誉なことだけれども、引き受けた切っ掛けは「会合は旧国立大学を順々に回って開催するという運びでして」と言われたからだった。つまりは日本のあちこちに最愛の人と二人で行くことが出来るという点に最大のメリットを感じた。
「流石は杜の都と謳われるだけのことがあるな……。空気がとても美味しい」
宴会場のあるホテルを出た最愛の人は深呼吸している。祐樹は念のために腹部を押さえている。理事の中でも何だか足の引っ張り合いがあるらしくてホテルのスモーキングルームを避けて路上に出てくる人たちが居ることを漏れ聞いたので、腹痛がタテマエの祐樹がピンピンしているのを見られたら困る。
「どこに参りますか?」
ホテルから500メートルほど離れた所で聞いてみた。
「そうだな……特に行きたい所はないが、まずは『喜久福』の店舗に行って……」
京都では観光客が溢れかえっている時間だけれども、地方都市だけあって人はまばらだ。観光客らしい人もそんなに歩いていない。
「ああ、『ずんだ生クリーム味』ですね」
スマホで検索してみると仙台駅に店舗があってまだ営業時間内だった。
「そうだ。『呪いが廻る戦い』のアニメを見て美味しそうだなとずっと思っていて……。それに祐樹が最強の呪術師の扮装をしただろう。それで一気に親近感が湧いてきて……、もっと食べたくなった。『ずんだ』とは枝豆をすり潰した物だろう?どんな食感なのだろう?それにもともとは白玉と合わせて食べていたらしいな。それが生クリームと……」
普段よりも開放的な響きを帯びた楽しそうな声だった。
「貴方は生クリームの方がお好みですからね……」
小児科の浜田教授に要請されてアニメの主人公のコスプレを務めたが、得難い体験だった。その時からアニメを二人して観るようになった。
「ああ、あのアニメを観て食べたいと思っていた……。生クリームの層が程よい配分で入っていた。ずんだの緑色もとても美味しそうに見えたのだけれども……あれはアニメならではの表現なのだろうか……?」
仙台駅に向かいながら他愛ない会話を交わしているだけで幸せだ。京都でも充分楽しいが、初めて訪れる東北の街に居るせいだろう。今は日が暮れているが太陽が照ったら青い葉っぱがきっと翡翠のような煌めきを放つのだろう。そんな青葉若葉を見ながらのデートが明日出来るかと思うと心躍る気分だった。
「それは分からないですね。実際に買ってみないことには」
街路樹は京都よりも多くて空気が澄んでいるせいか空気がとても美味しい。しかも最愛の人が真横に並んで歩んでいるからより一層に。
「祐樹は、ずんだ生クリームを選ばないだろうな……」
薄紅色の唇を楽し気に弛めて見上げてくる笑みに見惚れた。一応職務なので秀でた白い額もとても綺麗だ。
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