腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します 申し訳ありませんが書く時間を最優先にしたいのでリコメは基本的に致しません。 要望・お礼などは「日記」記事でお応えしますが、タイムラグがあることも多いです。

2023年08月

気分は下剋上 ロンドン編 80

「私の外科医としての目が確かならば、そしてプライベートでの恋人としてのずっと見てきた祐樹ならば……。
 気まぐれが過ぎると言われている医療の神様をもう一度顕現させる実力と運の強さを持っていると信じている」
 涼し気な眼差しが蝋燭の炎の色よりも強い光を宿して煌めいている。
「私の強運は実証されています。
 何しろ研修医の頃に貴方に初めて(・・・)会って一目惚れをして、その絶望的な身分の壁を越えて恋人同士になれたのですよ。
 普通は研修医ごときを対等の恋愛対象として見ないでしょう?
 それなのに貴方は私の元に舞い降りて来て下さったのですから。
 それからはずっと、理想が高い私の望みうる限り完璧な恋人になって下さっていますし、ね」
 真率な眼差しで言い募るとテーブルの向こうの最愛の人が困ったような表情で真っ白いリネンのテーブルに視線を落としている。
 テーブルの上に飾られた薄いピンクの一輪の花よりも綺麗に頬を染めている。
 目を伏せた最愛の人の睫毛が滑らかな肌にくっきりと影を落としていてとても綺麗だった。
 博学多彩な最愛の人に聞いたのだが、こういうレストランでは万が一にもウエイターとかギャルソンが花瓶を倒してしまわないように10センチくらいの高さが限度らしい。
 普通の一輪挿しの花瓶を使っているお店はそこまで気を配っていない一流とは呼べないとか。
 それはそうと、教授職と研修医という立場の違いは、あの割と物怖じしない久米先生だって、最愛の人に対しては腰が引けているし、名前を呼ばれれば叱られた犬のような雰囲気でオドオドしているのが「普通」だ。
 祐樹は彼への恋心が募っていたために敢えて考えないようにしたし、医局トラブルが起こって彼を守ることに必死だった。
 このレストランは薄い紅色の薔薇の花の部分だけ切ってテーブルに置いている。
 蝋燭の灯りに映えて綺麗な薔薇の花よりも更に瑞々しい仄かな笑みを湛えた唇と恥ずかしそうに目を真っ白なリネンに落としている最愛の人の方が遥かに祐樹の目を強く惹く。
 後になって知ったのだけれども、学生時代にキャンパスで祐樹を見た彼は幸運なことに一目惚れをしてくれていたらしい。
 ただ、彼の場合は遠くから祐樹を見ているだけだった。
 同じ学部・専攻だと知ってからも積極的に近づくこともなくて、祐樹の視界に「完全に」入らないように懸命な努力をしてくれていた。
 祐樹は同好の士を見抜く勘のようなものを持ち合わせている。
 そして少数派の性的嗜好の持ち主はそういう勘が備わっている人が多いような気がする。具体的に何パーセントかなどは計算していないが。
 最愛の人は性的嗜好が少数派に属するという自覚はあったと聞いている。しかし、積極的に出会いを求めるタイプでは全くない。
 お母様を心臓で亡くしたのは本当に心の底から気の毒だと思う。
 だが、彼の成績の良さだけを見込んで婚約した病院のバカ令嬢が、婚約者が大学入試だというのにボーイフレンドとドライブに行って事故死したことが重なった。
 医学部に入るのは正直狭き門だし、病院のバカ令嬢は経済的にあまり豊かでないものの模試の偏差値が良い人間を婿にして院長夫人として遊び回る軽佻浮薄な人生を夢見ていたのだろう。
 その結果(自分が関わる人間は皆不幸になる)という頑なな思い込みのせいで同性(・・)の恋人を作るどころか大学での人間関係すら(いと)っていたと彼自身からも聞いていた。それに、元同級生の柏木先生も証言(?)している。
 学業の傍ら救急救命室でのボランティアをして腕を磨いていた彼だったが、ゲイバー「グレイス」のオーナーがたまたま入院して勘を発揮したらしい。最愛の人と祐樹両方に。
 詳しいことは忘れてしまったが招待券だか優待券だかを別々に貰った祐樹は(無料(タダ)で遊べる!)と店を訪れていて、そこそこ綺麗な男性()口説かれているところを最愛の人が偶然に見てしまった。
 といっても祐樹は全く気付かなかったのだけれども。
 最愛の人は祐樹()口説いていると思い込んだことと、祐樹が同性に下心を持つ人間だとやっと(・・・)分かったショックでアメリカに行ってしまったという笑えない過去がある。
 せめて大学で祐樹の視界に入ってくれれば好みにジャストミート、しかも同じ性的嗜好の持ち主だと分かっただろう。当然口説いていたに違いない。
 国立の大学病院が独立行政法人となり税金で賄えるのではなくて独立採算制になったことで病院の看板教授として白羽の矢が立ったのが最愛の人だ。
 凱旋帰国のお迎えの運転手として急遽選ばれた祐樹が関西空港で会った時には(二歳しか違わないのにこちらは研修医、あちらは教授様)という反発心と、彼の素っ気ないというよりも祐樹など眼中に入れるに値しないといったに苛立ったのは今思えば浅はかだった。
 しかもその上、一緒に帰国した見た目だけは完璧な美人長岡先生の婚約者だと仄めかしていたので祐樹には珍しく勘が鈍ってしまっていた。
 後で聞くと、大学病院での再会は想定内で完璧に対応策を講じていたらしい。
 予定していた医師が体調不良で急遽変わった運転手として空港で会ったために頭が真っ白になってしまったと聞いている。
 ただ、最愛の人の場合はなまじ整った容貌をしているだけに無表情は思いっきり無機的な感じになる。
 今、テーブルの向こう側でうっすらと頬を染めて目を伏せている人とは別人のような感じだった。
「そうだな……。祐樹とこういう関係になれたのは今でも夢のような気持ちだし。とても嬉しい。
 ただ、それは祐樹の運の強さではなくて私が一生分の運を使い果たしたような気がする……」
 しみじみとした声が薔薇色の切実さを孕んでいた。
「大丈夫です。私の運の強さにしっかりと守られていますから、運気はますます向上します。
 貴方がベルリンで国際公開手術を成功させたのは実力でしょうけれども、会場まで()せ参じた私の運も、ほんのちょっぴりは混じっていたような気がしますよ」
 言ってしまってからハタと気付いた。




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今日一日、仕事でバタバタしております。「ロンドン編教授視点」を更新出来なくて申し訳ありません。
9月からは通常更新に戻る予定ですので、ご理解とご寛恕のほど読者様には宜しくお願い致します。
 こうやまみか 拝


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「心は闇に囚われる」 122

 俺は、正直有吉さんの葬儀の件よりも幸樹が大野さんの薬を飲んでしまったという方がとても心配だったけれども、幸樹に直接聞く勇気はカケラも出ない。
 そんなのはとても怖過ぎて、ともすれば唇は動きそうになる。でも、声にはならない。
 口にしてしまった瞬間、「ホントウ」になるような気がして、背筋にドライアイスを当てられた感じの、途方もない冷たさと熱さを同時に味わう。
「結婚式でチャペルを使う場合には、担当教授、私の学生時代は三回生から始まるゼミ――私の場合は『刑事訴訟法』でしたが――の担当教授に連絡を取るのが一般的ですね。
 そのゼミに所属していたとその教授に証言いうかお墨付きを貰って担当の教授から大学の事務局に許可を貰うというのが普通の手続きだと聞いています。
 卒業後、何度もチャペルでの結婚式に出席しましたし、その後最も近くの宝〇ホテルでの宴会までをセットになったウエディングプランも有ると聞いています」
 有吉さんのお母様は身体中が萎む大きななため息を零した。
 本来ならば、有吉さんも同じように何年後かに大学のチャペルで永遠の愛を誓った相手と結婚式を挙げて、その後タクシーかハイヤーだか何かで宝塚ホ〇ルまで移動して、披露宴に臨むという、俺の母校の学生がしそうな華燭の宴を挙げたかったのだろう。
 それを母親として臨席する日を楽しみにしていたのに、選りにも選って華燭の正反対の儀式に臨む無念さは俺の予想を遥かに凌駕しているのだろう。
「西野警視正はどうなされたのですか?」
 西野警視正は先ほどまで填めていた白い手袋をさり気なくポケットに隠している。その左手の薬指には結婚指輪がさり気なく嵌っている。
 警察庁のキャリア官僚で、幸樹のお父様にも気に入られている西野警視正が妻帯者なのは当たり前だ。
「いえ、私の場合は、妻の実家が鹿児島県でしたので……。
 東京と鹿児島県で二回披露宴を致しました。
 東京の方は仕事の一環という意味もありますので、関西の母校では不可能だったのです」
 それはそうだろう。西野警視正は、今はH庫県警の西宮K署の署長だが、知り合いはや上司は東京の方が圧倒的だろう。
 特に上司を呼ぶ場合は鹿児島県・H庫県とかじゃなくて警察官僚のお偉いさんが揃っているのは東京なので呼びつけるのは失礼だと考えたのだろう。
 特に西野警視正は捜査も張り切って率先的に指揮を執る人だということは、幸樹に紹介された時からの短い付き合いだけれど、良く分かっている。
 でも、やっぱり出世コースを順調にステップアップしたいという思いも持ち合わせている。
 まぁ、キャリア官僚に成る――しかも、国公立大学が圧倒的に多いと、少なくともドラマではそうなっている――場合、幾ら関西では大学に興味の有る人間の間では知らない人が居ない、一応「有名私立大学」と言っても、ハンディがあるのだろう。
 ああ、そう言えば、あの忌まわしい合宿中だったかに、幸樹が教えてくれた警察裏話を思い出す。
 警察は元々、警視庁が生みの親で、初代の警視総監は薩摩――今の鹿児島県だ――出身の人だ。だから、明治・大正・昭和・そして平成になっても、「薩摩閥」が存在するのだと。
 西野警視正が恋愛結婚だかお見合い結婚だかは知らないし、幸樹が大野さんのあの物凄い臭いのする生薬を飲んだ可能性がとても高い今、突っ込んで聞く気分ではなかった。
 それに、結婚式に夢を託すような女の子のメンタリティはイマイチ良く分からないので、正直、西野警視正の結婚式なんてどうでも良いとすら思ってしまう。
 ただ、旧薩摩、今の鹿児島県出身の女性と結婚したというのは、薩摩閥に連なりたいのでは?と思ってしまう。
 俺の家は零細企業とはいえ会社を経営している関係で、組織のことは分からない。
 分からないけれども、西野警視正の奥様が薩摩閥の大物の縁故の女性だと、これからのキャリアに輝かしさを添えるのだろう。
 幸樹は眉根を寄せたまま、長い指をパチリと鳴らした。
 有吉さんがご両親に宛てた遺書を、お母様が読んでいる間は手袋を貸していた。
 その後、お母様が精神安定剤だか何かを点滴に行く途中で白い手袋は、幸樹が追いかけて行って西野警視正経由で幸樹の手に嵌っていた。
 その手袋は幸樹が持っているのか、それとも西野警視正に返したのかは、俺は幸樹が大野さんのニンニクではなくて――二人ともニンニクを食べていないのは、しっかり確認済だ――お腹を下していた幸樹に生薬を、それも、これまた普段の大野さんらしくなく幸樹に「是非とも飲め」と言わんばかりに用意されていたことがとても不安を募らせてしまう。
「今の俺達のゼミの担当教授は上野教授ですよね?特別に許可を貰いに行くという口実で、上野教授と話す機会が生まれます。
 遼と俺とでお願いに行ってもいいですし、身分は隠して……だって警察が動いていることを極力相手に悟られない方が良いですから……単なるOBとしてオレ達と親しいだけだと偽って上野教授に会いに行くのも良いかもしれません」
 幸樹の瞳はとても静謐ではあるものの、内心を覗かせないようにブロックされているのを感じた。
 幸樹と素肌の熱さや、幸樹の欲望を俺の身体に感じている時は、幸樹の瞳には、そういうブロックは無かった。
 もしかしたら、幸樹も大野さんから貰って飲んだ薬のことに気付いているのかも知れない。
 気付いていたとしても、解毒薬が手に入らなければ幸樹だって、いつ有吉さんを始めとする、今はこの世に居ないゼミ仲間と同じような症状が出てしまう。
 みだりに俺を心配させたくなくて、そういう瞳をしているのかも知れない。
 そう思って幸樹を観察していると、星が降って来るようなロマンティックな高原でのキスや、その後の幸樹が俺の全てを欲しがった時には感じなかった、幸樹の顔つきには目に見えない膜を張っているようにも思える。
「そうだな……幸樹君の個人情報は当然、ゼミの教授だから把握しているだろう。そのOBとはいえ『知り合い』なのだから、お父様の部下であったことも上野教授なら何となく分かりそうだ。
 その上野教授の反応を一度直接見たい気がするね……」
 西野警視正はとても乗り気になったようだ。キャリア官僚というのは、部下に命令してふんぞり返っているイメージが有ったのだけれども、この人は捜査にも熱意と責任感を持って当たっているのが良く分かる。
「では、善は急げです。
 ただ、俺達だけで頼むというのは……所詮他人ですよね?結婚式を大学のチャペルで挙げた人は直接頼みに行ったのですよね?
 でしたら、俺達だけでは了承してくれないかも知れません。お母様から上野教授に連絡して貰って……。
 そして『精神的ショックが大きすぎたので、委任状でも何でも書くので、俺達に交渉を任せた』という連絡を入れて下さいませんか?」
 幸樹は車椅子に座った有吉さんのお母様と目の高さを合わせるために膝を折ってお母様に語りかけていた。




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仕事でバタバタしておりまして更新時間・更新頻度ともにまちまちになっております。
8月31日を乗り切れば何とか元に戻せると思いますのでご理解とご寛恕を賜りますようにお願いいたします。
 こうやま みか拝

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気分は下剋上 ロンドン編 79

「そうなのです。一覧になっていて、好きなところをポチっとする仕組みのようでした。飛行機も適当に選びました。あ、ホテルは……」
 力加減を間違えたのか彼のお皿がナイフに触れ合って大きな音を立てた。そういう不作法さはしない人なので驚いてしまった。
「祐樹、済まない……手が滑った」
 軽く頭を下げる最愛の人の若干細い髪の生え際にはまだ水滴が宿っているのも気になった。
 午後の手術(オペ)を終えてシャワーを教授専用の個室で浴びることは知っていたが、キチンと乾かした髪の毛しか見たことがない。
 その後、何か有ったのだろうか?といっても最愛の人の表情は凛として咲く白薔薇のような風情だった。
 何だか深く追求するのを躊躇ってしまった。
 それに祐樹の術者への招待状が来たせいでベルリンでの彼の記憶、特に手術前の緊張を昨日のことのように思い出してしまったのかもしれない。
 何事も行き当たりばったりで、図太く楽観的な性格な祐樹とは異なって最愛の人は慎重だし繊細な人だ。
「そんな……。たかがナイフをお皿に当てただけですよ。そんなに謝られるようなことでは有りません。
 そうですか、貴方の時は紙で送り返すシステムでしたか。
 私がタップした、術者専用と思しきサイトは飛行機もホテルも名前だけしか書いていなかった上に何分(なにぶん)急ななことでしたので、ガイドブックはもちろんのことネットで検索する暇もなかったです。
 あんなので良いのでしょうかね?飛行機はともかくホテルは外観くらい載せても良いかと思いました。ま、観光で行くのではなくてあくまで一夜を快適に、そしてリラックスして過ごせたら良いとの配慮かも知れないですね。
 私は無神論者ですし、占いなども信じておりませんが、ジンクスは信じてみようかと思いまして選択肢の中にリッツホテルロンドンが選択肢に含まれていて、詳しいことは存じませんが同じような名前なので其処(そこ)に決めました。
 偶然名前が似ているだけのホテルかも知れないのですが……」
 何だか銀のナイフとフォークを握る白く長い指が手術の時の手つきを彷彿とさせる感じだったのが、祐樹の言葉を聞くうちに華やかさが勝っていくような気がした。
 手術の時はもちろん手術(オペ)用の手袋(グローブ)を身に付けているので正確な感想かどうかは分からない。
 ホテル情報に最も疎い呉先生と雑談している時に初めて祐樹が口にした「リッツ」と聞いてお菓子、正確にはクラッカーだと思い込んでいたという笑い話もあった。
 要はそれほど奇抜な名前ではないので最愛の人が泊まったベルリンのリッツカールトンのことが、祐樹も休暇を取れるかどうかも分からずにイライラした。
 どうにか休暇をもぎ取って矢も楯もたまらずに駆けつけたに行ってスイートの寝室で彼のイメージトレーニングが終わるのを待っていた記憶が鮮明に脳裏を(よぎ)った。
「ベルリンはリッツカールトンという名前でしたよね?」
 向かいに座った彼は何だか咲き定まって落ち着いている白い牡丹の趣きだった。そして白皙の顔は鮮やかな笑みを浮かべている。
「確か、ロンドンのリッツは経営者が異なるとかで世界的に展開しているリッツカールトンとは別会社だと読んだ覚えがあるな……。しかし、今ではインターネット予約が一般的になっただろう?
 その予約システムは共有しているのでいずれは傘下に納まる可能性が高い。
「明石の鯛のポワレを夏に相応しくレモンバターソースでお召し上がりください」
 ウエイターさんがノックの音と共に入って来た。
「めでたい(・・)に掛けた良い料理だな……。祐樹の前途を祝福しているようだ」
 極上の煌めく笑みでそう告げられた。
「そうですね。温野菜も彩りが素晴らしいです。人参のグラッセお何だか宝石のような美しさです。
 もしかして調べて下さったのですか?」
 一瞬だけ笑みが強張ったような気がした。
「いや、シェフのお勧めのコースなので調べていない。
 お勧めのコースはその日に入った食材の中で最も優れている物をシェフが腕によりを掛けて作ると雑誌で読んだので、そのせいだろう」
 室内には高い位置にシャンデリアが光を放っていたけれども光源としてはそれほどの明るさではない。そしてテーブルに置かれた本物のローソクも。だから確信は持てなかった。
「そうですか」
 それに最愛の人は何か言いにくいことが有ると薄紅色の唇を開いてから三秒ほどの溜めがある。そういうのは一切なかったので照明のせいだろう。
 この京都の老舗レストランを訪れたのは初めてだが、患者さんやそのご家族からの差し入れとして良くランチが届く。
 個室に案内されるペルシャ絨毯と思しき床や磨き上げられた木製の調度の間から他の客も自然と目に入る。
 その時には明らかに粋筋(いきすじ)と分かる秋の花の和服に髪の毛に一筋の乱れもなくセットした女性と中年の男性とか、後は最愛の人とか森技官のような仕立ての良いスーツを着た40代以上の男性が接待にでも使っているといった感じだった。
 どちらも密談をしているような感じなのでこのくらいの灯りが丁度良いのだろう。
「そうですか……リッツホテルロンドンは資本が異なるのですね。
 しかし、名前が同じなので貴方のジンクスもきっと生きると思いますよ……」
 最愛の人はごく薄い紅色の華やかな笑みを浮かべている。
「祐樹も覚えているだろう?『例の地震』の時の神懸かりオペを。あの時は気まぐれな医療の神様が顕現されて祐樹の肩で羽ばたいているようだった。その神様は優秀な外科医でも一生に一度舞い降りてくるかどうか分からない神様だ。しかし……」
 明晰な言葉に熱が籠っているのがハッキリと分かった。




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すこし仕事が立て込んでおりまして、8月末日までは「下剋上」シリーズは一話だけの更新となります。
奇跡的に時間が空けば二話更新かもですが、期待せずにお待ち下されば大変嬉しいです。
ここまで読んで下さって有難うございます1
  こうやまみか 拝




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「心は闇に囚われる」 121

 幸樹はどんな深刻な考え事の最中でも俺のことは視界からは絶対に外さない。ただ、俺の懸念までは多分読み取れなかったハズだ、多分だけど。
 幸樹は勿論俺よりも頭の回転は速いし、自分で気付いているかも知れない。
 でも、解毒薬が無ければ、薬を体内に入れてしまってはどうしようもないことは、入院しても症状が改善されなかった有吉さんの例で充分過ぎる程分かっている。俺でも思いつくコトを幸樹が見落とすとはないような気がした。
「どうぞ」
 西野警視正が慌てて――多分、ここが病室だということを再認識したに違いない――タバコの煙を窓から追い出そうと無駄な抵抗を試みながら言った。
「吉永です。有吉様のお母様の点滴が終わりまして……院長が指示を承るようにと」
 彦根院長は、よほど、訴訟とか法律のことを気にしているのだろう。
 多分、吉永看護師は、実は入院患者でも何でもない有吉さんのお母様に付っきりだったのだろう、院長先生の指示で。
「そうですか……お話ししても構いませんか?それとも安静になさった方が良いのでしょうか?」
 幸樹と西野警視正は有吉さんの本当の遺書をキチンと回収していた。キャリア官僚なのに、何故か持っていたジッパー付きの透明なビニール袋――良くドラマなんかで刑事さんが証拠品を入れているヤツだ――に入れて、今は西野警視正のスーツの胸ポケットに入っている。
「院長が申すには、もうお話ししても大丈夫とのことなのですが……それに、有吉様もそう望んでいらっしゃいますし」
 タバコの臭いを気にしたのだろうか?西野警視正はドア越しに言った。いや、証拠品を回収したのが拙かったのだろうか?でも、あの遺書は幸樹と俺へ宛てて書かれたものだ。「是非見せろ」と言われたら仕方なく見せるだろうが、お母様に見せても余計に悲しませる結果にしかならないような気がする。
「済みません。ここは当然、禁煙ですよね……?」
 そう言いながら、西野警視正はドアをスライドさせた。
「ええ、病院ですから当たり前です。ただ、患者さんの中には隠れて吸う方もいらっしゃいますが?」
 病院は絶対に禁煙だと思っていたのに、予想外の言葉だった。それに入院患者さんがどうやってタバコを手に入れられるのか謎だ。
 街の中に有る、外科の病院だったらその辺のコンビニでタバコくらいは買えそうだけど、こんなに山の中の敷地の広い病院で、しかも出入りは厳しくチェックされているのに。
 吉永看護師は有吉さんのお母様を車椅子に乗せて、扉の向こうで端正な趣きで佇んでいる。
「済みません……矢張り、ニコチン依存症というのは厄介なモノでして……それにこんなに若い綺麗なお嬢様がこんな目に遭われたのも遣り切れない思いで一杯です」
 西野警視正はバツの悪そうな顔をして、有吉さんのお母様に丁重に頭を下げる。
「いえ、私は吸いませんが、主人――今はあいにく海外に出張中ですが――は吸いますので大丈夫ですよ。それよりも娘がとんだご迷惑をお掛けして申し訳ございません。ところで、娘の……」
 精神安定剤が効いているのか、しっかりとした口調の有吉さんのお母様が気にするのはやはり有吉さんの遺体がどうなっているのか……だろう。
 ただ、「遺体」というある意味残酷な言葉は口には出せないようだった。
「実はですね……形式的なものでは有りますが、この病院でお亡くなりになられたわけでもなく、吉永看護師もご覧になったと思いますが、『溺死』とも『自殺』とも判定出来ない状態でした。それに、警察官の端くれである私も職務ですので……『不審死』扱いにせざるを得なかったことをお詫び申し上げます」
 車椅子に向かって、西野警視正が深々と頭を下げた。
 俺は面食らって見ていたが、幸樹は静謐な表情に悲しみの色を加えて有吉さんのお母様を見詰めているだけだ。
 と言っても、K署の署長というポジションに居るれっきとした社会人かつキャリア官僚の西野警視正と比較すると、幸樹と俺は有吉さんの大学の友達という身分に過ぎない。
 出過ぎたマネは慎むべきだと幸樹は判断したのだろう。幸樹の判断に間違いはない。
 有吉さんのお母様は、予期していたのか諦観を感じさせる表情だった。染め遺した白髪がとても気の毒で見ていられない。
「そうですね……こちらの病院の監督不行き届きではないということは、院長先生からも重々お伺い致しました。
 それに、裕子のあの服装は、覚悟の上で病院を抜け出したのも分かります。この物騒な世の中ですから……裕子が自ら死を選んだのか、それともどこかの不埒な人間が劣情を催したのか分かりません。
 ですから、西野警視正のご判断は正しいと考えます。是非、裕子の死因は究明して戴きたいと思います。ただ、この病院はそういう目的の病院では有りませんよね?しかるべき病院に搬送されたのでしょうか?」
 押し殺した悲しみがお母様の無理に作ったと思しき笑顔から卵の殻を少しだけ割ったように零れ出てくる。
「はい。これも職務の一環ですので……K戸大学へと部下に命じて搬送させました。何卒ご理解戴ければ幸いです。お辛い気持ちは重々お察し致しますが……
 西野警視正に丁重に頭を下げると、お母様は幸樹と俺の方に視線を向けた。
「高寄君や池上君――いえ、本当は『君』付けするのも心苦しいのですが……には本当に良くして戴いて……裕子もきっと、天国で喜んでいるでしょう。本当に有り難うございました」
 悲しみを押しこそし損ねた涙が両目から噴き出す勢いで滂沱と流れている。
「いえ、力が及ばず、こちらこそ申し訳なく思います」
 幸樹が深々と頭を下げる。俺も慌ててそれに倣った。
「裕子は、大学生活をとても――勿論、このような状況になる前ですが――楽しんでおりましたし、憧れのキャンパスで学生生活を送れたことを喜んでおりました。
 大学の構内にはチャペルが有りますよね?そこで結婚式を挙げることが出来ればと、生前良く申しておりました。
 もう、その望みは露と消えてしまいましたが……せめてお葬式という形であのチャペルを使えないものなのかと思いまして……」
 有吉さんのお母様は切実極まりない表情と口調だった。
 大学のチャペルは正面玄関を入った場所に有る。それから学部ごとにも存在するけれども、お母様の望んでいらっしゃるのは、正面玄関を入ったところに有るメインのチャペルなのだろう。
 幸樹と俺は、お母様の望みは叶えて差し上げたいものの、具体的な方法は思いつかないので顔を見合わせた。
「失礼ですが……」
 西野警視正が控え目に声を掛けた。そう言えば西野警視正は俺達のOBだ。きっと何かを知っているに違いない。
 幸樹と俺は大学のチャペルで講義のない日曜に結婚式が行われているのは知識として知ってはいたが、まだ参列したこともない。こうなれば西野警視正の知識だけが頼りだ。
 幸樹と俺、そして有吉さんのお母様の視線が西野警視正に集まったのを感じた。



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誠に申し訳ありませんが、リアル生活(仕事)でバタバタしておりまして更新が遅れてしまっております。二時間後に「気分は下剋上 ロンドン編」祐樹視点が更新されない時は力尽きてしまったとお考え下されば幸いです。ここまで読んで頂き有難うございます。
 こうやまみか拝

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「心は闇に囚われる」 120

「いえ、俺はカツオのタタキは苦手で、食べませんでした。幸樹だって、あの日は腹痛でそれどころじゃなかったよね?」
 幸樹も半ば苦々しげに、半ば安堵した表情で頷いた。
「ええ、オレも食べていません」
 西野警視正は明らかにホッとした表情を浮かべている。
「問題はだな……遼君みたいに、カツオのタタキを嫌う人間もいるだろうし、ニンニクを嫌う人間だって多いだろう?それなのに、そういう人間に無理強いは出来ないわけだ……私が犯人ならば、やはりワインに薬物を混入するね」
「そうですよね……犯人はやはり上野教授が主犯で大野さんは何も知らずに協力させられたのか?
 それとも大野さんも共犯なのかがオレにはとても気に掛かります。今のところ無事な4人はワインこそ呑んだけれども、ニンニクは食べていないかもしれません。その証言だけでも取る必要が有りますね?」
 幸樹はしなやかな筋肉の付いた腕を組んで考えている。
「しかし、大野さんはあの日、俺にカツオのタタキも結構強引に食べさせようとしていました。幸樹だって覚えているだろう?ほら幸樹が岡本の足を蹴飛ばしてまで誤魔化してくれた」
 幸樹も眉を寄せて考えている。ただ、岡本はこの世にもう居ないという重い現実も同時に思い当たったようだった。
「ああ、遼がニンニク嫌いだってことは知っていたし……ただ、遼には無理に勧めたけれども、オレが腹痛だと言ったらそんなには勧めて来なかった……それは何故かと……」
 俺は嫌な予感がした。俺はカツオのタタキを食べたことになっている、少なくとも大野さん的には。俺には勧めたクセに幸樹には勧めなかった理由は、ただ一つだけ思いつく。
 でも、怖くて言い出せなかった。
 言ったら本当になりそうで。
 幸樹は腹痛の薬を大野さんから貰っている。それも、市販の薬ではなくて生薬みたいな強烈な臭いのする特製のモノを。
 それを飲んだと知っているから大野さんは幸樹にカツオのタタキを勧めなかったのかも知れない。しかも俺が知っている限り、幸樹はその生薬を二回飲んでいる。
 植物由来の薬物なんだから、それにニンニクよりも生薬の方が味なんてもっと分からないし、変な味がしても――だって、正露〇の味なんて、誰も分からないというか知らないに違いない。糖衣錠ではない方を飲んだ人間すら――不審には絶対に思わない。
 幸樹にはカツオのタタキを勧めなかったのは、大野さんは薬を飲んだことを知っていたからだと考えると、納得出来る点が多い。
 もし、そうなら……幸樹の体内には薬物が確実に根付いているわけで……今の所は普通だけれども、いつかは有吉さんや他の皆がなってしまったような精神的な症状が出てもおかしくはない。
 でも、それを言及するのが怖い。言霊――ことだま――なんて信じている積りはないけれど、俺もやっぱり心の底では「言霊」を信じる日本人なんだなぁと。
 ……得体の知れない恐怖に背筋に氷を当てられたような寒気がする。
「遼、何だか顔色が悪いようだが……大丈夫か?」
 幸樹は何時でも俺のことを見ていてくれる。
 それに今の幸樹の存在は親友ではなくて、恋人というかけがえのないものとなっている。
 それなのに……上野教授が用意したワインと大野さんが勧めて回ったカツオのタタキ以外にも罠として腹痛に効くという薬まで用意していた、底知れぬ悪意にも悪寒がして、歯がカタカタと鳴ってしまう。
「うん、大丈夫」
 俺は頑張って笑顔を繕った。けれども幸樹は俺の顔を見ると憂色を深めている。鋭い幸樹には俺の笑顔に不自然なものを感じたのだろう。
 西野警視正は有吉さんの遺書を黙々と重ねている。幸樹も有吉さんのお母様が返してくれた白い手袋をはめて手伝っている。
 俺は込み上げて来る恐怖で頭の中が混乱の極みに達していて手伝うどころではなかった。
 幸樹が、変になったらどうしよう。
 有吉さんの悲痛な遺書の中には「『殺される前に殺せ』という私の思考に絶望した」というくだりが有った。
 幸樹がそうなったら、一体俺はどうすれば良い?
 俺は幸樹になら殺されても本望だ。幸樹の手に掛かるのならばそれも俺の運命だと思って諦められるだろう。
 幸樹は俺のことを全力で心配してくれていた。それに、ずっと「親友」という立場で見守ってくれていた。こんな痛ましい事件――敢えて事件と呼ぼう。だって、「自殺」ということで処理されてしまったけれども、亡くなった人たちはみな、「自殺」させられたのだから――がもし起こらなければ幸樹は俺に対して告白する気はなかったと言っていた。
 そんな幸樹の大きな愛情を告白されて、俺も幸樹への気持ちが友情ではなく愛情なのだと気付かされた。
 だから、俺は幸樹に生殺与奪の権利を与えても良いと思う。けれども、幸樹はどうだろう?有吉さんも正気に返る時間は有ったらしい。
 頭の中で「敵」と見做して俺を殺してしまったとしたら……?
 今の段階ではそんなおかしな症状は出ていないけれども、幸樹の場合は、他の人間と違って、生薬という形で体内に薬物を摂取している。その相違点が症状の出る速度に違いが表れたのかも知れない。幸樹が、正気に返って自分のしたことを、つまり、愛した人間をこの手で殺してしまったと自覚してしまったら、幸樹は絶望の余り、自分の命を絶ちかねない。
 俺は幸樹になら殺されても良いとすら思える。
 そう思っていたとしても、そして、その気持ちを手紙なり何なりに書き残したとしても幸樹は救われるだろうか?
 幸樹の性格からすれば、絶対に自分の命で贖おうとするだろう。
 そう思うと目の前が暗転していく。あ、気絶するかも……と思った瞬間、スライド式のドアがノックされた。
 俺はすんでのところで気持ちを立て直して……じっとりと汗をかいた掌に爪を喰いこませて必死に冷静な顔を作ろうと試みた。





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