腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します 申し訳ありませんが書く時間を最優先にしたいのでリコメは基本的に致しません。 要望・お礼などは「日記」記事でお応えしますが、タイムラグがあることも多いです。

2020年09月

気分は下剋上 七夕編 49

「ちなみに、柚子のピューレには砂糖を一切入れていないし、柚子特有の爽やかな酸味もキチンと残っていると思う。
 柚子好きの祐樹のために――といっても、胡椒は入れていないが――」
 その言い方に思わず可笑しくて笑ってしまう。
「セブイレの柚子胡椒が大好きだからといってシャーベットにまでそれを求めませんよ。
 あの味は『おでん』には素晴らしく合いますが、シャーベットには無理でしょう……。逆に胡椒が入っていたら何らかの嫌がらせにしか思いません。
 まあ、貴方に嫌がらせをされる理由は全く思いつきませんが」
 冗談が言えるようになった最愛の人が愛おしくて、思わずキスを落とした。
「コーヒーとシャーベットは笹飾りの完成版を作るためのお供としてリビングで頂きませんか?短冊に祈りを書くという儀式が残っていますよね?」
 祐樹の提案に嬉しげに頷いた最愛の人は「笹飾りを持ってくる」と言い残してキッチンから姿を消した。
 その隙にとこっそりと寝室を覗いた。
 ハウスキーパーさんにわざわざ図入りで指示していたのが良かったのか、祐樹の目論見通りの場所に鏡が備え付けられていた。このアングルを求めていた!とか思うとフツフツと「そういう」欲望が滾ってしまった。
 短冊作りが終わって、ベランダに飾ったらいよいよ熱い逢瀬の夜の始まりだ。
 そして、その時にはこの鏡が大活躍をしてくれるだろうな……と思うと下半身が熱くさらに充血してくる。
 今はマズい!!と必死に鎮めようとした。
「祐樹……笹飾りとか短冊が用意出来たが?」
 涼やかな声に下半身の血も冷やされるような気がした。
「あ、済みません。今参ります。シャーベットが溶けるのも勿体ないですし、コーヒーが冷めるのも……」
 速足でリビングに向かうと、短冊とか筆ペンなどが過不足なく用意されていた。
「柚子の暖かい感じの黄色が良いですね。頂いても良いですか?」
 最愛の人が大輪の花が綻ぶような笑みを返してくれていて、それだけで充分過ぎるほど幸せだ。
 ピューレとやらが掛かっている祐樹の分のお皿の前に座って、さっそく味見をした。
「あ!このピューレ……柚子の美味しさをギュッと濃縮したような感じでとても美味しいですね。
 それにシャーベットの中に入っている柚子の皮……。わずかに塩が入っていてシャーベットの甘さを引き立ててくれていて本当に美味しいです。これはレシピサイトとかに書いてあったのですか?」
 柚子の酸味が口の中だけでなくて、何だか下半身の充血すらも清めてくれるようなサッパリ感だった。
「いや、そこまでは書いてなかったな。
 ただ、スイカに塩をかけると甘さが増すだろう?そういう効果を見越して少しだけ入れてみたのだが、気に入って貰えてとても嬉しい」
 ピューレも美味しかったが、柚子の皮入りのシャーベットのシャキシャキ感とか極上の味付けなどが口の中で美味しさの重奏曲を奏でているようだった。
「柚子のシャーベットもコンビニで売っているのしか食べたことないのですが、そしてそんな高い価格帯でもないので比較するまでもなく物凄く美味しいです。
 ほら、私の柚子大好きなのを知っている久米先生が珍しく気を利かせて買って来てくれるのですけれども。
 その中のシャーベットでも皮が入っているやつも有ったと思いますが、こんなに柚子の香りなどはしていませんでしたね。味は薄まった柚子といった感じでしたが。
 もうこの柚子の皮の濃厚な味とか酸っぱさと甘さを知ってしまえば、コンビニアイスの柚子は食べられなくなりますね……」
 最愛の人はシャーベットを掬っているスプーンを握っている紅色の細く長い指が一際艶っぽさと誇らしさを増したような感じだった。
「祐樹にそう言って貰えると作った甲斐が有ったな……。
 柚子のシャーベットの改善点などはあるか?」
 薄紅色の薔薇のような笑みを浮かべながらそれでも生真面目な感じで聞いてくるのも最高に愛おしい。短冊を書く作業を省略して寝室に連れ込みたい欲求に我ながら良く耐えた。
「いえ、100点満点だと思います。
 また作って下さいね。ピューレもこんなに美味しいので、これってサラダに混ぜても美味しいかと思います。
 柚子風味が効いた生ハムサラダとかも美味しそうですし……。柚子ドレッシングも売っていますが、それよりも美味しそうです。スモークサーモンでも良いですよね?もともとあれにはレモンを絞って掛けるので、その代用としての柚子も相性が良いと思いますが。
 ああ、サーモンにこの柚子の酸味が掛かったサラダ……。そう思うと梅干し効果以上に唾液が分泌されています。お時間が有れば絶対に作って下さいね……。
 それはそうと短冊の願い事は考えましたか?」
 早くその行事(?)を終わらせてベッドでの熱い逢瀬の時間を楽しみたい一心で聞いてみた。
「ありきたりなのしか思い浮かばなかったのだが、書いても良いか?
 サラダは明日にでも作っておくので。確かにサーモンと合いそうな感じだな……ピューレは味見しかしていないが、レモンとはまた違った感じでサーモンを引き立ててくれそうだ。後はクルミとかそういう歯ごたえの良いモノを入れて、思いっきり洋風という感じにして……チーズは何が良いかな?モッツァレラチーズでトマトを合わせてみようかな……」
 物凄く楽しそうに献立を考えては薄紅色の唇が紡いだ料理はとても美味しそうな感じだった。
 そして祐樹の示唆通りに薄紅色の指が筆ペンを持っている。
「二人の幸せを願うというような内容ですよね?
 ありきたりで良いと思いますよ。
 貴方が『世界征服』とかそういうある意味ぶっ飛んだ願いを書く方がびっくりですので」
 筆ペンで書かれた綺麗な文字を見て、思わず微笑んでしまった。



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気分は下剋上 公認カップル騒動 108

「お墓、綺麗な状態ですよね?ここはお寺さんの境内でもなさそうですし。
 もしかしたらご親戚が手入れに通って下さっているのかも知れないです」
 街路灯の白い光を朧に受けている最愛の人は目を瞠っている。
「藤井さんという患者さんのことを覚えていますか?」
 藤井さんというのは祐樹が主治医を務めて手術終了後無事に退院していった人だが、職業は住職で金閣寺とかの国宝級の寺ではないもののそれなりの檀家さんを持つ人だった。
「もちろん覚えているが……?」
 涼しげな眼を瞠ったまま最愛の人が密やかな言葉を紡いでいる。
「おの方に聞いたのですが、境内にあるお墓はお寺が管理する場合も多いそうです。しかし、ここはそうでもないみたいなので――その上、隣のお墓は草も生えていて、手入れが行き届いていません。
 だから香川家にゆかりのある人が定期的に通っていらっしゃるのでは?
 母が言いだして来た時には内心『無駄じゃないか?』とも思いましたが、このお墓の綺麗さを見ると定期的にお参りと掃除をなさっている方が居るようなので、その人が誰なのかも突き止めた方が良いでしょうね……。
 それに『親戚です』と貴方に申し出なかった点でお金目的という線は外れますね。
 黙ってお墓の掃除をして下さっているだけという遠縁の方がいらっしゃるのではないでしょうか?
 そういう方は多分母が取り寄せてくれる戸籍謄本で分かると思いますよ。
 その方が御幾つなのかは分からないですが、お身体に不自由な点はない方みたいですよね……」
 お墓全体に手入れは行き届いているような感じだった。祐樹などはお墓の各部分の正式名称は知らないものの、屋根部分までキチンと綺麗になっていた。
 足腰が不自由になった人なら無理だろうなと思う高さなので、ご高齢でもピンピンしている人か、それともその人の意を汲んで墓守をしている――例えばその家のお嫁さんとか――人が居るのだろう。
「ずっとそうして手入れして下さった人が居たのだと思うと有難さと共に何だか済まなさが募るな……。
 私が日常の忙しさに紛れてしまって参っていない不義理を穴埋めして下さっていた人が居るということだろう?」
 最愛の人の律儀な性格を考えるとそう思うのも尤もだと思った。
「母が戸籍を全部取得してくれるそうなので、お墓参りを欠かさずしてくれている方を探し出すのも難しくないでしょう。
 その人に『お墓を綺麗にしてくれて有難うございます』的なお金を振り込んでみては如何でしょう?
 相場は私にも分からないのですが、検索したら大丈夫だと思いますし。
 あ、幾ら綺麗だといっても、やはり手を加える必要も有りますよね。
 まずはお水を汲んで来ますので、それでもっと綺麗にしましょう」
 祐樹が覚えている限りでは母がお墓参りの儀式(?)めいたものをして居る時、お墓を綺麗に掃除した後にお花やお線香を供えていたような気がする。
「それは任せるが、祐樹はスーツだろう?お墓の掃除は私が一人でする方が良くないか?」
 最愛の人が祐樹の服装を慮ってくれるのも嬉しかった。
「これ言いましたっけ?某ナースが元患者さんと婚約して、そのご挨拶に未来の夫の田舎に挨拶に赴いたのです。もちろん、そういう席なので白いワンピースで行ったらしいのですが、ウチ以上のド田舎だったらしくて『嫁となる人はまず、お墓に挨拶するのが筋だ!!』とか言われてご挨拶のために買ったワンピースでお墓掃除をさせられたとか言っていましたよ。しかもその墓地は風通しの良い高台に位置していたらしくて、半そでのワンピースしか着ていなくて物凄く寒かったし、真っ白なワンピースが悲惨な状態になったとか言っていました。それにご挨拶がメインだと思っていたので、ヒールの有る靴を履いていて……。
 しかも他のお墓は草ぼうぼうという有様だったようで蚊が飛んで来て思いっきり刺されたらしいです。
 田舎の人間との――ま、ウチも田舎ですが――結婚あるある話らしいですよ。
 白いワンピースでそういうことをさせられたのも悲劇ですが、私の場合はスーツで作業することも慣れていますし、この季節は蚊もいないので大丈夫ですよ。
 貴方のご両親にご挨拶に来たのですから、その程度はさせて下さい。
 では柄杓とバケツを取って来ますね……」
 街路灯の光が辛うじて届く両親のお墓を見ながら祐樹に向けて僅かな笑みを浮かべてくれていた。
「分かった。祐樹が水を汲みに行っている間に、水がなくても出来そうなことをしておく。
 正式な掃除は――というほど汚れてはいないが――二人でしよう」
 蛍の光に照らされたような綺麗な笑みが一際印象的だった。
「これで完璧に綺麗になりましたよね……?この墓地内のお墓の中で最もピカピカです」
 二人して励んだ結果――もともと几帳面で綺麗好きの最愛の人と、その気になれば几帳面になれる職業の祐樹だ――本気を出せばこんなモノだろう。
「そうだな。では花とお線香を手向けようか……」
 ピカピカといっても、御影石とか大理石ではないのでそこまで光り輝いてはいなかったが。そもそも大理石がお墓に使われるかどうかは知らなかったが。御影石は水を汲みに行った道すがら見かけたので使用出来るのだろう。
「当然貴方が先にご挨拶して下さいね。
 あと……」
 どう言えば効果的かと思いながら言葉を続けた。
 誰も居ない墓地で街路灯だけが仄かな光で照らしている。世界に二人しかいないような錯覚を覚えながら。





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気分は下剋上 七夕編 48

「貴方が凱旋帰国をされた頃ですね……。
 たまたま行く機会がありまして。といってもお義理で連れて行かれたのですが。
 それ以降は私が貴方派に付いたので、それっきりです」
 最愛の人は誰に連れて行かれたのかピンと来たのだろう。
 形の良い眉を僅かに顰めていたものの懐かしそうな笑みを浮かべている。恋人に隠し事はダメだろうと個人的に思う。しかも最愛の人は祐樹のことを全面的に信頼してくれているので、そういう人を騙したりウソを――サプライズのために敢えて黙っている分には免責されるだろうと個人的に思っている――ついたりしたら騙される人が悪いのではなくて祐樹の欠落した部分が全面的に悪い悪いと思ってしまう。
「分かった、そういう料理人の世界は狭いと聞いたことも有るので調べることは出来るだろうな。運よくその料理人さんの現在の勤務先が分かればそこに食べに行ってみよう。
 そして味を覚えて返ってあわよくば自宅で作れるようになりたいな……。中華は苦手だが、祐樹が好きならば……せめてエビチリソースだけでも上手く作りたいなと。
 それにこの料理の献立に検索してヒットした料理レシピのサイトでは――まあ、見ているのはきっと主婦とか料理が趣味な独身女性が大半だろうが。
 『自宅で簡単に出来る』とかいうキャプションが付いているのもたくさんあったので、私でも作れそうな気がする、な。
 ほら、祐樹のお母様に頂いたレシピをメインに出していただろう?
 そして祐樹が美味しそうに食べてくれる味は再現出来ると思っているのだが、どうだろう?」
 自信を半分くらいは持っている感じだったが、不安げに揺れている眼差しがとても綺麗だった。
「はい!それはもう貴方の料理はいつも美味しく頂いています。
 母の味を超えていますね。
 お袋の味というのは確かに子供の時から食べているので馴染みは有りますが、しかしそれを凌駕する味になっていますよね。
 何かで読んだのですが『夫が姑の料理の方が美味しいと食事の度に言って来て困っている。夫はマザコンなのでしょうか?』と。
 マザーコンプレックスでなくとも、小さい時からずっと食べて来た味というのはそれだけ馴染みが有るのは当たり前ですよね。 
 しかし、貴方の素晴らしく美味しい料理一択ですね。私の場合」
 思わず力説してしまった。
「それは嬉しいな、心の底から。
 それはそうと柚子のシャーベットを作ってみた。あとは、これを掛けると出来上がりだ」
 大輪の薄紅色の薔薇のような笑みを表情で咲かせた最愛の人はいそいそとした感じで冷蔵庫から出したモノをシャーベットの上に注いでいる。
 薄い黄色い液体だったが、何だかシロップのような感じだった。
「貴方の分にはかけないのですか?」
 コーヒーの芳香がキッチンの空気を優しく、そして寛いだものに変えていくような気がした。
 七夕という本来は夫婦とかカップルを祝う――裁縫も上手くならしいが、もしかしたら縫合術にも効果が有るのかもしれない――儀式の夜に相応しい感じだった。
「これは祐樹用に作ったものだから、私はいい」
 柚子の爽やかな香りがするシロップだかジャムだか分からないモノから仄かに薫ってきた。
「柚子のジャムですか?しかも酸味の思いっきり効いている?」
 最愛の人は甘い物が好きなので、暖かな感じのする薄い黄色のシャーベットだけで楽しむのだろう。その点甘い物の苦手な祐樹に配慮してくれたのだろう。
 ただ、最愛の人と一緒のモノを味わいたくて――バレンタインデーに祐樹は山のようにチョコレートを貰っている――食べていると意外に抵抗感が薄れてきたのも事実だった。
 昔は無理だったが、今ならショートケーキ一個くらいは楽に完食できるようになっている。
「ジャムではなくてピューレだな。
 ジャムはイチゴなら食べたことが有るだろう?」
 最愛の人の鮮やかな手つきを惚れ惚れと見ていた。
「ああ、学校の給食とかで無理やり食べました。給食は残すな!という先生が多かったので、イチゴよりも甘くて正直気持ち悪かったのですが」
 薄紅色の唇が笑いの花を咲かせている。
「ジャムは砂糖を入れて熱したもので……。当然甘くなるが、ピューレは素材本来の味が生かされる点が異なるな。
 ちなみに……」
 最愛の人の薄紅色の唇がいったん閉ざされた。「ちなみに」何なのだろうか?とか、キッチンで食べるよりもリビングで寛いで食べる方が良いのかもしれないなという贅沢な悩みが頭の中を幸せ色に染めていく。
 それに胃も心も満たされている上に一緒に過ごせた幸福な時間も宝石の煌めきのように貴重な時間だったし。





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「心は闇に囚われる」 131

「西野警視正、もし宜しければ運転しましょうか?」
 キーを手に持って駐車場に向かって歩いて来る飄々とした感じの西野警視正に――多分、何も知らない人が見たら、警察関係者とは思われないだろう、な。なんか財布とかを落としてこの署に預かってもらっていて、それを取りに来て気分はスッキリしている一般人って感じだった――幸樹が声を掛けている。
 この気遣いとか大人の対応は「まだ」いつもの幸樹だった。
 それは嬉しいんだけど、え?と内心目をぱちくりしてしまった。
 とはいえ、俺が運転したらかなりの確率で税金が投入されている(んだろう、きっと)車に傷を付けて修理費とかで税金の無駄遣いをさせそうなので敢えて声は出さなかったんだけど。
 ウチの母さんはベンツを――そういえばN宮市のK戸屋というレストランに置きっぱなしだけど、きっと西野警視正の有能な部下がレストランの人に言ってくれているか気を利かして西野警視正が署長を務める署の駐車場にでも動かしてくれているかのどっちかだろうなと思う――幸樹が運転するなら快く貸し出すクセに俺には緊急事態じゃないとキーをくれないという点からも分かるように運転技術は雲泥の差がある。
「あのな、幸樹君……。自分がどんな薬を摂取したのかもう忘れたのかい?
 頭痛薬ですら『車の運転はしないでください』と注意書きに書いてあるだろう?
 いくら半減期が早い薬とはいえ、身体にどんな作用が残っているか分からない人間に運転なんてさせられると思うのかい?
 そんな身体で事故った場合は――アルコールだったら明確に法律違反だが、薬物は明文化されていないがね――私の保護者としての管理責任まで問われることになるのだよ」
 あ!という顔をしている幸樹だったけれど、そういう普通の人だったら間抜けに見える表情までもがカッコイイと思うのは恋人の贔屓目じゃないと思う。
「ああ、オレそういえば薬飲んでいましたよね。アドレナリンが分泌されているせいかすっかり身体は忘れてしまっていました。
 ただ、薬は余り飲まないので、市販の頭痛薬でもぼうっとしてしまうことが有ります。
 言って下さって有難うございます」
 幸樹がペコリと頭を下げている。
 俺も「幸樹、薬飲んでいるけど良いの?」って思っていただけに西野警視正の大人の判断にホッとした。
「助手席に座りたいのですが、まだぼうっとしているので、後部座席で遼に凭れ掛かっていて良いですか?」
 西野警視正は意味ありげに俺達二人を見て不思議の国のアリスに出てくる猫のような笑みを浮かべている。
 ――これはもしかして……。でも下手に弁解したら逆にドツボにハマってしまうダメなヤツのような気がして全力でスルーすることにした。
「確かに警察車両には色々なモノが装備されているからね。薬の作用でフラッとしてどこかにぶつけたら大変だ。だからそういう物がない後部座席に座りなさい。クラっと来たら遼君の身体をクッションにするんだよ?」
 どこまでが本当か分からないことを言っている。ドラマで観た警察車両でパトカーじゃないヤツって普通の乗用車と変わらないんだけどな。
「幸樹、お薬そんなに苦手だったの!?それは知らなかった!!」
 そう言えば幸樹が薬を服用している――「あの」合宿で大野さんに飲まされていたのは別にして――のを見たことがない。正露〇は匂いがダメで飲めないというのは知っていたけれど、薬全般だったとは知らなかったな。
「ああ、オレはバファリ〇とかもダメなんだ。これはガチ……」
 幸樹が俺の耳元で小さく告げてくれた。その呼吸が耳朶を赤くしていくのを自覚してしまった。
 今夜――まだ未確定だけどさ、これ以上の緊急事態は起こりそうにないと思うんだけれどもまだ分からない。まだ生き残ったゼミの全員が然るべき施設に保護されたという報告は来ていない。多分「緊配」とかいう警察署で最も優先順位が高いとかいう配備が解かれていないのだろう。コンビニ強盗の身柄の確保が出来ていないってコトなのだろうけれど、H庫県を超えてO阪府に入ったら龍崎さんも色々と厄介なことが起こるらしいので待機中とか根回し中なのかな――俺の部屋でHをするという約束は出来ている。
 そういうことを嫌でも意識してしまう幸樹の低くなった声に身体が反応してしまっていて、慌てて他のことを考えた。
「あのさ、谷崎君の方が大量に薬を摂取したのに何故薬が効かないのかとか、幸樹は薬入りの缶コーヒーを三口しか飲んでないのに直ぐに効果が出たのかな?って考えていたんだけど、幸樹の体質が薬にそれほど耐性がなくてさ、谷崎君には有ったってことじゃないかな?
 それが谷崎君の体内にあるハズの『闇に囚われた薬』のせいかどうかは分からないけどさ……」
 この考えは物凄く魅力的だった。谷崎君の「闇に囚われる薬」が大野さんのニンニクみたいなアマゾン由来の薬のせいだったら、幸樹は同じように耐性が出来ているハズだ。
 と言っても、新種の薬(?)なので全然的外れかもしれないし、バファリ〇とかの製薬会社が作ったお薬と天然物由来のモノとでは違うのかもしれないし。
 個人的に思うんだけど「植物由来だから身体に安心」とかっていうCMがテレビとかYouTubeなんかで良く流れているけど、トリカブトとかいう植物を――どんな形をしているのかとかは全く知らないんだけど――使って殺人事件も起こっているし、植物だからといって人体に優しいなんてことはない。
 ああ、そういえば法律で禁止されている大麻も普通に栽培出来るとかテレビで見た覚えがあるし、法律で禁止されていないけれども、依存度では大麻よりも有害なタバコだって葉っぱを乾燥させて作っていたんじゃなかったっけ?
 あ!大麻は滅茶苦茶ハイテンションになるとかワイドショーで芸能人とかが捕まった時に言ってたけれども……、それって脳に何らかのパルスって言うのかな?とにかくハイテンションになるように!っていう信号を送っているんだろう。
 だったら、谷崎君とか有吉さんが「闇に囚われた」状態もお薬が脳にヘンテコな情報を送り続けているんだろうなって思う。
 幸樹が、駐車場で交わしていた二人だけの会話を西野警視正にテキパキと的確に伝えている。
「なるほど……。確かにK都大の研究室に残っている人間が私の見た厚労省のリストの中に含まれている可能性は高いな。
 二人のお蔭だよ。これは東野副部長――もちろんホンモノのほうだがね――あれ?」
 西野警視正が運転しながら変なトコで言葉を切った。
「あれ?」って何か思いついたのかな?





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気分は下剋上 公認カップル騒動 107

 まあ、仮に気付かれたとしても、祐樹が知っている事務局の女性陣は割とキャピキャピしている感じで、若い男にしか興味がなさそうな感じだった。
 本来は無神論者だし霊なんてものを全く信じていない祐樹には――菊の花を抱えて隣を歩む最愛の人もそうだろうが――全く平気な場所の霊安室にもオカルト系のウワサは漏れなく付いていることは知っていた。
 だから霊安室勤務の初老の山田さんとは接点がないだろうな……とも思うし、山田さんも若い女性に積極的に近づきそうなタイプでもなかったので大丈夫だろう、指輪の件は。
 まあ、万が一山田さんが素朴な疑問として指輪のことを誰かに話したら、それなりの説得力のあるエピソードをでっち上げないとな……と思っていた。
 ――祐樹が今パッと考え付くエピソードがないのは内心残念だったが、男性の薬指にプラチナのシンプルなリングだけではなくて祐樹の母から託して貰った上で彼に贈ったダイア付きの指輪は言い訳が面倒そうだなとは思ってしまったが。
 森技官に相談してみようか?と思う。昼間に散々迷惑を掛けられたのだから――そして「大人のおもちゃ」の具体的名称を呉先生に畳み込まれた最愛の人の当惑具合とかも加味すると――その程度は許されるような気がした。絶対に口から先に生まれて来た森技官のことだからそういうのも得意のハズだし。
 万が一のことにも備えなければ、最愛の人と祐樹の真実の関係がこれ以上知る人がないようにするという二人の口に出さない願いは叶わないのも分かっていた。
「祐樹、この小路を右に曲がればすぐに墓地がある」
 最愛の人の息も乱していない怜悧な声に我に返った。
 彼が言っていた通り、街灯がかなり明るく点いていて単身者用と思しきアパートがあちらこちらに建っているからだろう。祐樹が学生時代から住んでいたのもこんな感じの部屋だったので何だか懐かしい気がした。ただ、間取りは医学部生の宿命で専門書などを買わなければならないと聞かされていたのでもっと広いような感触だった、ざっと見た限り。
 ただ、昨今の雇用形態の変化で派遣とか非正規とかで働いていて、月収20万円以下という人が多くなったという記事を読んだことが有ったので、そういう人が墓地近くでも良いので住みたいという需要があるのだろうかとかついつい余計なことを考えてしまう。
 祐樹の実家は京都の日本海側でハッキリ言えば田舎なこともあって墓地の周りに普通の民家とかはない。
「ああ、この程度の明るさだったらお墓を探せますよね……」
 安堵の吐息交じりの言葉を何となく雰囲気に飲まれて小声で告げると、菊の花を胸に抱えた最愛の人は怪訝そうな表情を浮かべていた。
「街灯が消えていても、道は以前と同じだから記憶を辿れば多分お墓の前まで行けるかと思っていたのだが……」
 ――この人の驚異的な記憶力をうっかり忘れていた。確かに彼ならばその程度は容易いハズだし、イザとなればスマホのライトを使って道を照らすことも出来るし、お墓も大体の場所が分かったらライトで探せるだろう。
「貴方の記憶力にはいつも助けられてばかりですね……。私の欠けたところを補って下さって嬉しいです」
 実感というか心の声を唇に載せた。
「いや私の欠けたところは祐樹に補って貰っているので、それはお互い様だと思うのだが……。ただ、祐樹の役に立てて嬉しいけれど……」
 二人とも墓地の静謐な空気を搔き乱すようなことをしたくないのだろう、自然と小声になっている。
「こっちだ……」
 迷う様子もなく墓地の中を歩んでいる最愛の人が祐樹の腕を掴んで道案内をしてくれる。
 二階以上の――といっても京都は殆どの場所が低層階しか建てられないように条例で決まっているし、この辺りもそうなのだろう四階以上の建物はない感じだ――ベランダに出ていたり窓の外を見ていたりした人が居れば見つかってしまうだろうが、こんな夜にお墓を観察するようなモノ好きな人間は居ないと信じたい。まあ、部屋の壁などを汚したくないスモーカーならベランダで吸っているという可能性は有ったものの、上から眺められた場合は顔が見えないという利点に気付いた。
 それに何かの拍子に顔を上にしても、最愛の人は前髪も下ろしているし、スーツ姿ではないのでテレビに出た時とは全く雰囲気が違うので人違いだと思ってくれるだろう、多分。
「ああ、このお墓ですか。割と綺麗に掃除されていますよね。お花は枯れてしまっていますが。 
 えっと、お水を汲むヒ……ヒシャクでしたっけ?それも要りますよね?あとバケツ状の物も。水道が有るところにそういうのも置いてあったハズですが……?」
 もっと難航するかと思っていた香川家重代の墓が彼の記憶力のお蔭で最短時間と距離で着けたのでうっかりしていた。
 それに、二階以上の部屋から灯りが漏れていないよな?とかタバコ特有の光を密かに探していたという事情もあったのだけれども。ただ最近は電子タバコが普及しているので分かりにくくなっているのも事実だった。
 祐樹は時々――特に救急救命室勤務の時は格好の息抜きに―タバコを吸う程度にまで少なくなったものの、電子タバコという選択肢はなかったが。何だか昔から馴染んだモノしか吸いたくないという思いが理由だった。
「あ!それはうっかりしていた。
 お墓参りに来たのは先ほども言った通り納骨の時が最後だったので。息子失格だな……」
 少し恥じた感じの小さな声に、被せてしまった。
「いえ、ウチは父が眠っていますがそこに行ったのはいつだったかもう覚えていないので……。同じ程度だと思いますよ、息子失格具合は。
 それよりも……」
 気付いたことを言ってから、バケツ状の物と柄杓とやらを取りに行こうと思った。





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最後まで読んで下さいまして誠に有難うございます!!取り敢えず二話更新出来ました!!
「心は闇に~」は正直微妙ですが、一応リンク貼っておきます。
「七夕編」よりもこちらの方が早く終わりそうです。もうお彼岸なのに何やっているんだか……と。
本当に済みません!!



     こうやま みか拝


◆◆◆




小説家になろう様「心は闇に囚われる」こちらで更新出来ていたら正午にブログもアップされます。なければ力尽きたなと生暖かく見守って下されば嬉しいです。







小説家になろう様「気分は下剋上 秋」まだまだ恋人同士になって間もない二人が思いっきり遠回りしております。宜しければ是非♡







 








小説家になろう版 「気分は~」1stシリーズ 一気読みにどうぞ!












 









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