腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します 申し訳ありませんが書く時間を最優先にしたいのでリコメは基本的に致しません。 要望・お礼などは「日記」記事でお応えしますが、タイムラグがあることも多いです。

2019年01月

「気分は、下剋上」<夏>後日談39

「子供の時は、今から考えると何であんなことにくよくよ悩んでいたのか……とか思うような些細な出来事が物凄く大事件のようにも思えたものです。
 だから、子供の時の方が時間の経過は遅く感じるのかもしれませんね。それに失われた時間は返って来ない分、より貴重で、そして煌めく想い出になるのでしょう。
 日常の業務をこなしているだけで一日はあっという間に過ぎてしまうのも事実ですから、今日だけでも子供の頃の精神に返って楽しみましょう」
 塩加減が絶妙なお握りを口に運びながら「優等生的」な発言をした。
「そうですね。そうしましょう。
 ところで、この梅干しの味、あれは多分高校生の頃だったと思いますが、奈良県の田舎の無人販売コーナーで買った『農家のお婆さんの手作り』梅干しと似ていてとても美味しいのですが」
 呉先生も幸せそうな顔で、お握りの中の梅干しの味を褒めている。
「ああ、その梅干しは田中家のレシピ通りに作った物です。干す場所がマンションのベランダしかないので、風に充分当たったかどうか自信がないのですが」
 最愛の人が幾分華奢な肩を竦めながらも透明な笑みを唇に浮かべている。
「え?これも手作りですか……。とても美味しいです。
 農家出身ではなくてもこのような梅干しを作ることは出来るのですか。知らなかったです」
 呉先生がスミレ色の微笑みに称賛の彩りを加えている。
「ちなみにウチの実家は農家ではないです。京都の街に育った方からすれば田舎ですけれど。京都府の日本海側なので」
 ジェットコースターの轟音とか楽しそうな子供の悲鳴、そして芝生を渡る風に薔薇の香りが含まれている空間で他愛のない話しを交わしながら最愛の人が丹精込めて作った昼食を摂っていると、夏の「事件」の精神的な傷が癒されていくような気がした。
「こんなにたくさんの、小学校の時の遠足を想起させてくれる――と言っても、この完成度の高さはなかったのも事実ですが――お弁当を食べると、幼い時のことがアリアリと心に浮かんできますよね。
 これは心理学の本で読んだのですが、人間は味覚からその当時のことを思い出しやすい存在だそうです」
 呉先生が満足そうな笑みを浮かべつつ旺盛な食欲を満たしている。その合間に心理学のことを語り始めた。
 ほぼ自作のお弁当でも小学校の頃の――祐樹最愛の人は、お世辞にも恵まれた幼少期を過ごしてはいないものの、取り立ててその件については残念とも思っていない。それよりも「事件」で負った心の傷のほうが被害は甚大だ――想い出が甦るのだろうか。
「ああ、なるほど。プルーストの『失われた時を求めて』はマドレーヌを食べながら延々と幼い頃を思い出すという、退屈極まりない、いやフランスの貴族社会のことを語ってくれていますが、あれもマドレーヌというお菓子が引き金になったということですか?」
 いかにも貴族的な印象が強い森技官が意外にも、貴族社会に否定的なことを言い出したので意外に思った。
「『失われた時を求めて』は文学的な格調の高さが原因で長編の途中で脱落してしまいましたが、確かにマドレーヌを食べていましたよね。主人公が食べているマドレーヌの味については気になりました」
 呉先生らしい意見だった。ちなみに祐樹は「あらすじ」を読んで面白くなさそうだったのでパスをした記憶があった。
「当時のマドレーヌはバターの製造方法が今のとは異なるので……。呉先生もお気に入りの洋菓子屋さんのバターのコクとか香りも素晴らしいしっとりとした焼き菓子とは違っていたと思います」
 あの長編小説を読破した感じの最愛の人が解説をしている。多分、本の解説をして欲しいとのリクエストがあれば、語ってくれそうだ。多分、誰もそんなことはしないだろうが。
「なるほど……。確かにバターの製法は違うような気がします。
 それに本場フランスのマドレーヌと日本のモノでは異なるとか聞いたこともありますし」
 呉先生が興味深そうに「焼き菓子」のみに反応している、名作の本ではなく。
「違うみたいですよ。外務省の知人に頼んで本場のマドレーヌを買ってきて貰いますので、食べ比べてみては?」
 甘い物の苦手な森技官が本場のマドレーヌを食べたことがないというのはある意味納得出来たが、恋人の歓心を買うべく頑張っている感じだった。
「それは楽しみだな。本場のマドレーヌを入手出来たら病院にも持って行きますので一緒に食べ比べしてみませんか?」
 最愛の人が少し興味を惹かれた感じで頷いている。
「それはそうと、この梅干しの味は確かに『塩100%の手作り梅干し』といった感じで美味しいですね」
 森技官が――ステーキとかキャビアだのが似合いそうなのでそのギャップが可笑しい――感心した感じでお握りを味わっていた。
「そうだろ?オレは高校の時『柳生の里』に耐寒訓練という遠足のようなモノで連れて行かれた時、途中で買った梅干しの味がこんな感じだった。あの時は滅茶苦茶寒くて死ぬかと思ったけど……」
 呉先生の高校では「耐寒訓練」なるものがあるらしい。
「ああ、耐寒訓練ですか。ウチの高校は比叡山でしたね。積もった雪が凍り付いていて、とても寒かった思い出があります」
 最愛の人が懐かしそうな笑みを浮かべて相槌を打っている。
「耐寒訓練ですか……。ウチの高校はなかったように……」
 「思います」と言いかけて、不意に脳裏をよぎった記憶で言葉を止めた。




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楽しみにして下さっている方がいらっしゃるのかどうか分かりませんが、【蓮花の雫】のみ、続きはエブリスタ様単独で書きたいのでご了承とご理解を頂けたらと思います。
【追記】
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隙間時間に作業しています。エブリスタ様の方がやはり使い勝手も良いので(加筆修正も加えています)全ての記事を向こうに移した後はこちらのブログからは削除したいと考えて居ます。
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昨日は更新お休みしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
       こうやま みか拝

気分は下剋上 白衣の王子様 8

「百合香ちゃんは日本の、そして大人が読むような推理小説にいずれは行きつくと思います。その時にあのマンガを読んでいると、作者が渾身で考えた画期的なトリックが一瞬で分かってしまう興醒め感を味わってしまうので」
 それはパクリというか盗作ではないのかと思ってしまう。
「そうですの?日本の推理小説はまだ読んでいないのですが……。マンガを読んでいるとその小説のトリックが分かってしまうのですか?」
 百合香ちゃん「も」祐樹の話しを興味津々といった感じで聞いている。
「はい。先にマンガをたまたま読んだ人は――この頃の推理小説好きの人間はだいたいマンガを先に読んで、少し大人になったら小説も読んでみようと思うのが主流のようです――割と初めの段階で『犯人はこの人』と分かってしまいます」
 祐樹の会話の引き出しが他人よりも多いのは知っていたが、さして興味もなさそうな推理小説まで語れるとは知らなかった。自分の引き出しが少なすぎるのは重々自覚しているが、語れるようなネタもないのも事実だったので、感心して聞いていた。
「それは……。最後に犯人が分かるのが推理小説を読む楽しみですのに、最初の方で分かってしまうのは悲しいです。分かりました、そちらは読まないことにします。田中先生は色々なことをご存知なのですね。これから私にためになることを教えて欲しいです。
 それにこのマンガ、93巻まで出ているようですし、当分はこのマンガを読めますので大丈夫です」
 そんなに巻数が多いとは本屋さんでも気付かなかった。本棚は全部見たので、無意識にでも記憶しているのが普段の自分だったが、祐樹との話しに夢中になっていたことと、その後の「理解出来ない趣味」の本のコーナーに行って仕舞ったのが敗因だろう。百合香ちゃんは物珍しそうに裏表紙とかを見ていたので、そこに書かれている巻数を見たのだろう。
「はい。私が知っていることであれば何なりと。ちなみに、そのマンガが発行された時点では93巻だったようですが、今現在、巻数を重ねていると思います。いずれにせよ、直ぐに新しいのを持って参りますね」
 祐樹が「王子様」に相応しい笑みを浮かべている。
「はい、楽しみです。先生が主治医になって下さって本当に嬉しいです」
 一件落着だと安堵した。
「シェイクスピアの著作は読まれましたか?」
 これだけの読書家なので当然読んでいるだろう。病室に並んでいないのは単にスペースの問題だろう。ご家族も百合香ちゃんの大好きな本を優先して運んできたに違いない。
「はい。主なものは日本語で読みました」
 やっと患者様との「雑談」のネタが出来て本当に嬉しく思った。
「シェイクスピアは英国でもアメリカでも知識人は――現代語訳された物ですが――当然読んでいる本に分類されますから、百合香ちゃんも、現代語訳の大人向けの本を読んでおく方がいいです、もちろん英語で」
 偶然の一致ながら徳川家康と生没年が同じのシェイクスピア本人が書いた「英語」は、江戸時代の文章を古典の知識がない日本人が読んでも分からないのと同様に、今の英語しか学んでいない人間は読めない。単語も今の物と異なっているとか文法も若干異なるので。
「現代語訳……ですか?翻訳なら知っていますが、その言葉はまだ学んではいません」
 大人びているが六歳児なので当然かもしれなかったが。
「言語は時代と共に変わっていきます。シェイクスピアの時代の英語は現代の英語だけを学んでいる人間には読めないのです。
 『源氏物語』は日本に関心を持つ外国人なら大抵知っている代表的な本ですが……」
 百合香ちゃんは熱心かつ無邪気な笑みを浮かべて自分の顔を見上げていた。
「はい。子供向けのではなくて、与謝野晶子が訳したのを読みなさいとお母様に言われています。アニメやマンガは『今の』日本文化として外国の方との会話で必要らしいですが、初対面では『源氏物語』とかシェイクスピアなどの話をするのが無難だそうです」
 流石に政治家一族だけあって、外国の要人との会話を想定した本選びもされているようだった。マンガなどのサブカルチャーの話題よりはシェイクスピアなどの本格的なモノを選んで会話をするというのが初対面の大学以上の教養を持った外国人に対しては有効なのをご存知なのだろう。
「そうですね。与謝野晶子の文章も今の日本人は難しいと感じるようですが、それでも頑張ったら読めます。しかし、紫式部が書いた『源氏物語』は教育を受けていないと読めません」
 祐樹が楽しそうな感じの笑みと知的好奇心で輝く眼差しで自分と百合香ちゃんを交互に眺めていた。その引き締まった唇が物問いたげな感じで開かれた。
「つまりは、シェイクスピアも――高校の時に本格的に学んだ日本の古典文法と同じというか、無理やり読まされた『源氏物語』を始めとする文のように古典文法と単語を知らないと――読めないということですか。
 日本の古文は明治以前の文章と定義されていますが、シェイクスピアも日本で言うところの江戸時代に書かれた作品ですよね。同じように文法や単語が異なるという認識で大丈夫ですか?」
 知的好奇心を満たすためと、トリビアを仕入れておこうという目論見だろう、患者さんと話す時のために。



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◇お詫び◇

お知らせが申し訳ありませんが、本日の更新はリアルで突発的なことが有ったためお休みさせて頂きます。
勝手を申しまして誠にすみません。

気分は下剋上 白衣の王子様 7

「それは光栄です。頑固なのは認めますが……。王様ほどの威厳はないかと。
 百合香様はマンガを読むことを家で許されていないのですよね?」
 祐樹は純白の、そして午後の診察を終えてもシワ一つない清らかな白衣姿で百合香ちゃんのベッドに更に近付いた。
「はい。祖父の方針で読ませては貰えませんでした。だからとても嬉しいです」
 与党の政治家には「マンガが大好き」と公言している大物政治家も居ることは知っていたものの、吉田家の教育方針は異なるのだろう。
「では、読み方のコツというほどではないですが、ご本しか読んでいないと戸惑う部分についてお教えしますね」
 マンガなどのサブカルチャー系について「も」祐樹の方が圧倒的に知識は多い。
「そんなことまで教えて頂けるのですか?とても嬉しいです。田中先生が主治医になって下さって本当に良かったと思います。あ『様』はやめてくださいね。
 色々と教えて貰うのは私ですから。
 それに教授にはこの心臓を治してもらい手術もして頂く方なので、むしろ恩人です。そのような方に『様』付けされるのはとても心苦しいので……」
 百合香ちゃんは愛らしく微笑んで、こちらの方を見上げている。
 マンガを広げた祐樹の手が素早く動いて絵の描かれたページの上に乗っている。
「分かりました。では百合香ちゃんとお呼びしますね。
 マンガの読み方は、右のコマから横に読んでいって、その段が終わると下に行くのです。そして全部読んだら次のページへ移ります」
 祐樹の長くて器用そうな指がページの上を滑っていく。その男らしい指の長さとか形の良さに見惚れてしまっていた。
 マンガの鑑賞法は自分も知らなかったので大変参考になったが。
「分かりました。名探偵コナン君なんて素敵ですね。そういう推理マンガが本屋さんにはたくさんあるのですか?」
 吉田家のような華麗なる政治家一族の生活ぶりは良く知らないものの、過去の患者さんの中には世界レベルのお金持ちとかアラブの王族といった人達も居た。そういう人たちは確かに「普通」とは異なる世界に住んでいることは知っていたので、百合香ちゃんもそうなのだろう。
「百合香ちゃんは名探偵金田一シリーズをお読みになったことはありますか?」
 そういう雑談力というかコミュニュケーション能力の高さは医局一との誉れの高い祐樹に任せておくことにした。
「いえ。読みたいと家の者に申したのですが、残酷な殺され方をするとかで……。『そんなものを読んではいけません』と止められました」
 深窓の令嬢というのも色々な制約があるのだろう。本なんて図書館で借りて読んでいたし、金田一シリーズは確か小学校の図書館に普通に置いてあったので、それほど残虐とも思えないが。
「ご本を読んで、頭の中でその情景がアリアリと思い浮かんだことはありますか?」
 祐樹が突っ込んで聞いているのは多分その「残酷なシーン」に――個人的にも客観的にもそれほどのものとは思えなかったが――百合香ちゃんの脆い心臓が耐えられるかどうかを確かめているのだろう。
「いえ。それはないです。オリエント急行の客室の中、色々なナイフで刺殺されたと書いてあれば、ああそうなのね……としか」
 百合香ちゃんの読んだ書名が分かってしまう。
「それでしたら大丈夫かと思います。それに禁止されると逆に読みたくなりませんか?」
 祐樹の言葉に百合香ちゃんが大きく頷いている。自分は読書に限らず、母親から禁じられた行為などなかった。ただ、祐樹のお母様はそれほど子供に干渉するタイプのように思えなかったものの、小学生の時にはそうでもなかったのかも知れない。機会があれば聞いてみようと思った。祐樹が夜勤中を見計らって自宅の固定電話に電話が掛かってきた時にでも。
「でしたら、マンガと同じくそっと持って参りますね。その日本の推理小説では名作と有名な本ですので」
 百合香ちゃんが、少し躊躇った感じの笑みを浮かべている。
「良いのですか?そんなに厚意に甘えてしまっても?」
 確かに自分達は医療を提供するのが仕事で、それ以外はサービスといえばその通りだった。六歳の子供とも思えない判断をする辺り、帝王学だか英才教育は実を結んでいる感じだった。
 彼女には是非完璧な手技を施して、普通の生活が送られるようにしてあげたいと心の底から思ってしまう。普段もそう思って最善は尽くしていたものの、彼女の才能とか人柄を見ているとよりいっそうその決意が固くなるのも事実だった。
「大丈夫です。百合香ちゃんの手術が無事終わって、退院した後には小児科病棟にでも寄付しますので。
 小児科に入院している子供達も退屈しのぎになるでしょうし、ね?教授」
 いきなり話を振られて、慌てて頷いた。
「そうです。入院患者さんは、割と暇を持て余していらっしゃいますので本を読むのも楽しみだそうですよ。ですから病院のためにもなりますのでお気になさらず」
 文庫文やマンガを購入する程度のことは病院への貢献としては微々たるものだ。
「その名探偵金田一の孫が――といっても、その名探偵は独身で子供もいない感じなのですが――活躍するマンガもあります。しかし、あれはあまりお勧めしたくはないですね……」
 そんなに残虐なのかな?と思ってしまう。祐樹と本屋さんに寄った時にサイコパスを描いた作品を違った意味での参考として二人で見たが、あの主人公は自分の担当クラスのほぼ全員を殺してしまうというストーリーのようだったので。
 祐樹がお勧め出来ないと言い切るのは珍しい。面白くない本のことは割と辛辣な感じで評価していたが。
 興味を惹かれて、次の言葉を待った。





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「気分は、下剋上」<夏>後日談 38

 医師として、そして一納税者としても厚労省に言いたいことは山のようにあるが、それを森技官に言っても仕方ない。それに森技官本人は「事件」の時に島田警視正に「予算を無駄に使うな」とわざわざ言いに行く辺り「意外にも」良心的な仕事をしているのではないかとも思ってしまう。
「逆さに振るという方法も有ったのですか?あいにく不勉強なので知りませんでしたが……」
 最後の言葉は、いわゆる謙遜だ。救急救命医の資格も持っている祐樹だったが、心臓外科の論文はともかく救急救命の最新情報まで知るのは時間的に余裕がない。
 ただ、最愛の人は読むのも書くのも感心するくらい早いので、興味を抱いている科に限られるが専門外の論文集も日本語と英語のは読んでいるハズだ。今の医学界ではかつてのドイツ語主流から、英語が公用語になっているのでヨーロッパの各国の医師も母国語ではなくて英語で論文やレポートを書く。だから英語が分かれば――祐樹のように時間がなくて全て読めないという境遇の人間は多いものの――世界の医学界の最先端の治療法は知ることが出来る。
 そして救急救命も興味の対象に含まれているのは知っていたので、その彼が首を傾げているからには「表に出ていない」情報なのだろうか?ただ、祐樹の属する世界では誰かが新たな治療法とか画期的なことを考え付いた場合は論文やレポートにして共有するのが常識だったが。
 美味しそうにタコの形のウインナーを食べていた森技官は広い肩を竦めている。
「いえ、素人療法です。厳密には素人ではないですが、ウチの父は産婦人科しか知らない町医者なので、救急救命でお金を稼げないという意味ではアマチュアですね。
 先ほどお話に出たパイナップルの飴を私が喉に詰まらせたことが有って、あれは小学校に上がっていなかった頃だと思います。
 それに気づいた姉が父に報告しに飛んで行って、その時運よく父が自宅にいましたのも幸いだったのですが、駆け付けた父が私の足を持って逆さまに勢いよく振ったら飴が喉から出てくれました。
――そうか、あの時のトラウマで振り回されたり、強く揺さぶられたりするのが苦手になったのかも知れません。今思うと。
 何しろ気道を詰まらせていたので、呼吸が出来ずに苦しかったですし、子供心にも呼吸が出来ないイコール死ぬという図式は認識していました。
 その苦しさや恐怖を感じている最中に思いっきり逆さに振り回されたのですから。
 お蔭様で今日まで生きながらえることは出来ましたが」
 森技官にそんな黒歴史があったとは思ってもいなかった。先ほどパイナップルの飴の話をしていた時に森技官が意味ありげな眼差しを浮かべていた理由も判明したが。
「ああ、なるほど。逆さに振ると確かに異物は――しかも飴のような円形のものは特に――出てくるかも知れませんね。
 しかも子供の場合、胸部圧迫などは素人がすると肋骨を折ってしまうリスクもありますので、そういう事態も考えに入れた上でのお父様の英断だったのではないでしょうか?」
 森技官の性格が遺伝なのか環境由来なのかは知らないものの、頭が切れるだけでなく、何かを企むとかでっち上げるとかが大好きなのは祐樹も最愛の人も認める事実だった。そして恋人である呉先生も。
 お父様もそういう性格だったらそういう「英断」をしても全然おかしくない。
 ただ、どの程度逆さに振り回されたのか知らないが、森技官の家の大きさが分かるエピソードだ。別に知りたいとも思っていなかったが。
「ふーん、でもそんだけ器用なんだから、パイナップル飴の穴から呼吸すれば良いんじゃなかったのか?」
 最愛の人の作ったコロッケサンドを形を崩さずに千切るという割と難易度の高い技を見せる森技官を感心したように眺めながらも、まだ含むところが残っているのか憎まれ口をたたいている呉先生の言葉に「森技官なら出来るかも」という眼差しでの会話を最愛の人と交わしてしまう。
「うん!とても美味しいです。キャベツはシャキシャキだし、コロッケはホクホクとしているし、それにこのパンの硬さもちょうど良くて」
 呉先生はとても幸せそうなスミレ色の笑みを浮かべながら心のこもった感じで感想を述べている。
 その表情を満足そうな薄紅色の薔薇に似た感じで眺めている最愛の人の笑みも相俟って祐樹の心の傷も少しは癒されていくようだった。
「このタコさんウインナーも懐かしいですよ。小学校の遠足のことを思い出します。
 あの頃は、毎日が新鮮で、そして一年が物凄く長く感じた独特の日々でした。
 大人になってからは一年なんてあっという間に過ぎてしまいますから。
 そういう意味では子供の頃は良かったなと思います」
 森技官も感慨深げにタコのウインナーを食べている。
「大人になったら一年が直ぐに過ぎると感じる点は完全同意だが、何か企んでいたり他人をはめようとしたりしていると、ターゲットの動向が気になって時間の経つのは遅く感じるんじゃないか?」
 呉先生が揶揄混じりのツッコミを返している。祐樹も何か言おうかとも思ったが、下手に関わってしまうとケンカになってしまう恐れが多分にあるので微笑を浮かべながら、菊の花よりも見事な卵焼きを堪能することだけに専念した
「それはそうですねぇ。こちらの思惑に乗せられて踊ってくれるのを待っている間は確かに時間の流れを遅く感じます。
 しかし、企んでいる時とかはめるための仕込みを考えている時は逆にあっという間に時間が経過するのでプラスマイナスの結果論では『早い』と感じますね」
 「夏」の事件の時の森技官の八面六臂の大活躍を知っているだけに、その言葉の重みは身に沁みて分かる。



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だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。
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エブリスタ様に投稿してみて、痛感したのですがヤフーブログは「ルビが打てない!!」という仕様なのは仕方ないのです。しかし、このブログで連載中(現在は休止中です、すみません)の「蓮花の雫」はルビが打てないのは(個人的に)物凄く辛いので、全部エブリスタ様に持って行った上で、再開したいと思います。
楽しみにして下さっている方がいらっしゃるのかどうか分かりませんが、【蓮花の雫】のみ、続きはエブリスタ様単独で書きたいのでご了承とご理解を頂けたらと思います。
【追記】
取り敢えず、このブログで書いていた分を再掲という形でゆっくり移して行きます。
隙間時間に作業しています。エブリスタ様の方がやはり使い勝手も良いので(加筆修正も加えています)全ての記事を向こうに移した後はこちらのブログからは削除したいと考えて居ます。
https://estar.jp/_novel_view?w=25307809

良かったら覗いて下さいませ。

あと、BL小説以外も(ごく稀にですが……)書きたくなってしまうようになりました。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。

こちらでそういった作品を公開していきたいと思っています。


興味が有る方は是非!スマホの方が読み易いので、オススメはスマホ経由です。

風邪が長引いていて、家族の入院している病院にも行けない今日この頃なのですが、やふーブログの更新は出来れば二話!最低でも一話を目標に頑張ります。

ただ、お医者様から「急変も覚悟しておいて下さい」と言われているので、綱渡りな更新になりますがご了承ください。

私の都合で更新時間がバラバラになってしまっている上に、「にほんブログ村」はシステムの移行とかで新着記事が反映されたり、されなかったりです(泣)
基本毎日更新しますので「人気ブログランキング」でチェック頂くか、まめにこちらをご覧いただければと思います。
寒い上にインフルや風邪が流行っていますので読者様もお身体ご自愛ください。
 
【本日の更新予定】
二時間後を目途に「白衣の王子様」をアップ予定です。多分大丈夫だとは思いますが、綱渡りです(泣)更新がなければ「力尽きたな」と生暖かく判断して頂ければ幸いです。
       こうやま みか拝
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創作BL小説を書いています。ご理解の有る方のみ読んで下されば嬉しいです。
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