『それはもちろん構わないが、ただ……』
その次に続く言葉は恥ずかしくて口に出せなかった。一生忘れないだろう、道後温泉の慰安旅行の夜のことを話していたのでなおさら羞恥に視線が定まらなくなってしまっていた。
裕樹は短くなったタバコの火をペットボトルの蓋で器用に消して、コーヒーカップを置いてから肩を抱き寄せてくれた、唇には暖かな笑みを浮かべながら。
『これ以上のことは決して致しませんよ。貴方は愛の交歓の後に普段通りに振る舞える人ではないことも知っていますので。そういう不器用な点も含めて愛していますので』
肩を強い力で抱きすくめられて、唇に甘やかなキスの雨を降らしてくれた。束の間の宝石のような強い煌めきを放つ時間を裕樹は事あるごとに設けてくれて、それだけで充分過ぎるほど幸せだ。
『裕樹はどこで眠るのだ?』
責任者二人が同時に居なくなるにはさすがにマズいことくらいは自分ですら分かるのだから、裕樹も既に折り込み済みのことだろう。
白衣に包まれた肩を抱き締められた心の弾みでやっと視線も裕樹に絡めることが出来るようになったので、裕樹の凛とした顔をマジマジと見つめてしまう。苦い笑みを浮かべた裕樹の表情は自分よりも年下には見えないほど大人の魅力に溢れていた。
『自衛隊の炊き出し部隊が到着しましたから、備品の中には毛布もあるでしょう。それを借りてロビーで休みます。容態急変の患者さんが居たら大変ですからね。いくらICポートの高点滴剤を埋め込んだとはいえ、震災関連死には謎の心臓疾患も多く含まれますのでそのためにはやはり心臓外科の人間が居ないと、ね。責任者の一人としてその程度の務めは果たすべきだと思います。
ああ、貴方は明日に備えてゆっくり休んで下さいね。大丈夫ですよ、そんな顔をなさらなくても。伊達に病院一の激務をこなす医師というウワサを取ってはいないので、こういうのには慣れています。それに明日も手術はお休みなのですから、第一助手の仕事よりも私にとっては楽です。貴方の曇ったお顔もとても綺麗なことは否めませんが、私の前では花のように笑って下さった方が嬉しいです。そんなお顔をさせるくらいなら、夜這いに参りますよ。それは嫌でしょう?』
笑いに紛らわせてはいるものの裕樹の眼差しは自分の健康を何よりも案じてくれていることが分かってしまって、薔薇色のときめきが心を満たしていく。
『分かった。裕樹がそう言うなら。そうさせて貰うことにする』
裕樹の怪我のことは気になったが、休める時に休んでおかないと咄嗟の判断力が落ちてしまうし、一瞬でも気を抜けないのが医療の現場だ。
『私も手が空き次第参りますが、くれぐれも待たないようにお願い致します。寝顔を拝見するだけで充分幸せですから。何なら呉先生にお薬貰って下さいね』
白衣の肩に頭をコツンとぶつけて了解の合図を送った。
『全てが片付いたら、たくさんしなければならないことがあるな。一番の楽しみは……裕樹と二人きりで行う行為だが。その時が待ち遠しくてならない』
万が一の喪失の予感に怯えながら信号機すら光を失っていた夜道を歩いたことを思い出して、今度は素直に言葉に出来た。
『優先順位の一番が私と同じで良かったです。母に会いに行くとか仰言るのかと思いましたが、テレビに映ったので充分安心してくれているでしょう。それに忙しいのは分かっている人なので大丈夫ですよ。まあ、お連れしますけど。心の底から愛する貴方のお願いには弱いので。ああ、ついでに天の橋立も寄りますか?あの時は月に攫われそうな不安を抱いたのですが、今は貴方がずっと傍に居て下さる安心感を自覚していますからきっと異なった感覚を抱くでしょうね』
裕樹の提案に一も二もなく頷いた。
『日本海側は医療も充実しているとは言い難いので、定年後はあちらでクリニックでもしながらのんびりと暮らすのも悪くない、な。裕樹と二人で。そして時々お母様の話し相手もして』
そういう暮らしも悪くないような気がする。クリニックだったら診療時間は勝手に決められるし、土日祝日も休める。そういう老後の暮らしも裕樹さえ居てくれれば幸せだろう。メインロビーの戦場から離れただけに他愛のない話をして束の間の安楽を貪りたかった。
『そうですね。貴方は自然が豊かな場所をお好みのようですし、故郷に錦を飾る老後の暮らしも楽しそうです』
山や海を好むーー実際に好きではあったもののーーのではなくて、人工的ないわゆるデートコースでは人目が気になって些細なスキンシップが出来ないし、もちろんそれ以上の行為などは望めないからというのが一番の理由だったが、その件はいずれ話そうと弾んだ心に封印を施した。
『裕樹、もうタバコは良いのか?』
ヘリの音は聞こえるものの、着陸時の独特な音は聞こえないが裕樹の怪我の痛みを止めるために救急救命室に寄らなければならない。
『あと一本だけ吸わせて下さいね。貴方はフィナンシェを召し上がっていて下さい』
自分が贈ったライターで火をつけて紫煙を満足そうに味わっている白衣姿の裕樹を見詰めながら味のしないフィナンシェを機械的に嚥下した。
その次に続く言葉は恥ずかしくて口に出せなかった。一生忘れないだろう、道後温泉の慰安旅行の夜のことを話していたのでなおさら羞恥に視線が定まらなくなってしまっていた。
裕樹は短くなったタバコの火をペットボトルの蓋で器用に消して、コーヒーカップを置いてから肩を抱き寄せてくれた、唇には暖かな笑みを浮かべながら。
『これ以上のことは決して致しませんよ。貴方は愛の交歓の後に普段通りに振る舞える人ではないことも知っていますので。そういう不器用な点も含めて愛していますので』
肩を強い力で抱きすくめられて、唇に甘やかなキスの雨を降らしてくれた。束の間の宝石のような強い煌めきを放つ時間を裕樹は事あるごとに設けてくれて、それだけで充分過ぎるほど幸せだ。
『裕樹はどこで眠るのだ?』
責任者二人が同時に居なくなるにはさすがにマズいことくらいは自分ですら分かるのだから、裕樹も既に折り込み済みのことだろう。
白衣に包まれた肩を抱き締められた心の弾みでやっと視線も裕樹に絡めることが出来るようになったので、裕樹の凛とした顔をマジマジと見つめてしまう。苦い笑みを浮かべた裕樹の表情は自分よりも年下には見えないほど大人の魅力に溢れていた。
『自衛隊の炊き出し部隊が到着しましたから、備品の中には毛布もあるでしょう。それを借りてロビーで休みます。容態急変の患者さんが居たら大変ですからね。いくらICポートの高点滴剤を埋め込んだとはいえ、震災関連死には謎の心臓疾患も多く含まれますのでそのためにはやはり心臓外科の人間が居ないと、ね。責任者の一人としてその程度の務めは果たすべきだと思います。
ああ、貴方は明日に備えてゆっくり休んで下さいね。大丈夫ですよ、そんな顔をなさらなくても。伊達に病院一の激務をこなす医師というウワサを取ってはいないので、こういうのには慣れています。それに明日も手術はお休みなのですから、第一助手の仕事よりも私にとっては楽です。貴方の曇ったお顔もとても綺麗なことは否めませんが、私の前では花のように笑って下さった方が嬉しいです。そんなお顔をさせるくらいなら、夜這いに参りますよ。それは嫌でしょう?』
笑いに紛らわせてはいるものの裕樹の眼差しは自分の健康を何よりも案じてくれていることが分かってしまって、薔薇色のときめきが心を満たしていく。
『分かった。裕樹がそう言うなら。そうさせて貰うことにする』
裕樹の怪我のことは気になったが、休める時に休んでおかないと咄嗟の判断力が落ちてしまうし、一瞬でも気を抜けないのが医療の現場だ。
『私も手が空き次第参りますが、くれぐれも待たないようにお願い致します。寝顔を拝見するだけで充分幸せですから。何なら呉先生にお薬貰って下さいね』
白衣の肩に頭をコツンとぶつけて了解の合図を送った。
『全てが片付いたら、たくさんしなければならないことがあるな。一番の楽しみは……裕樹と二人きりで行う行為だが。その時が待ち遠しくてならない』
万が一の喪失の予感に怯えながら信号機すら光を失っていた夜道を歩いたことを思い出して、今度は素直に言葉に出来た。
『優先順位の一番が私と同じで良かったです。母に会いに行くとか仰言るのかと思いましたが、テレビに映ったので充分安心してくれているでしょう。それに忙しいのは分かっている人なので大丈夫ですよ。まあ、お連れしますけど。心の底から愛する貴方のお願いには弱いので。ああ、ついでに天の橋立も寄りますか?あの時は月に攫われそうな不安を抱いたのですが、今は貴方がずっと傍に居て下さる安心感を自覚していますからきっと異なった感覚を抱くでしょうね』
裕樹の提案に一も二もなく頷いた。
『日本海側は医療も充実しているとは言い難いので、定年後はあちらでクリニックでもしながらのんびりと暮らすのも悪くない、な。裕樹と二人で。そして時々お母様の話し相手もして』
そういう暮らしも悪くないような気がする。クリニックだったら診療時間は勝手に決められるし、土日祝日も休める。そういう老後の暮らしも裕樹さえ居てくれれば幸せだろう。メインロビーの戦場から離れただけに他愛のない話をして束の間の安楽を貪りたかった。
『そうですね。貴方は自然が豊かな場所をお好みのようですし、故郷に錦を飾る老後の暮らしも楽しそうです』
山や海を好むーー実際に好きではあったもののーーのではなくて、人工的ないわゆるデートコースでは人目が気になって些細なスキンシップが出来ないし、もちろんそれ以上の行為などは望めないからというのが一番の理由だったが、その件はいずれ話そうと弾んだ心に封印を施した。
『裕樹、もうタバコは良いのか?』
ヘリの音は聞こえるものの、着陸時の独特な音は聞こえないが裕樹の怪我の痛みを止めるために救急救命室に寄らなければならない。
『あと一本だけ吸わせて下さいね。貴方はフィナンシェを召し上がっていて下さい』
自分が贈ったライターで火をつけて紫煙を満足そうに味わっている白衣姿の裕樹を見詰めながら味のしないフィナンシェを機械的に嚥下した。
何だか長くお休みを頂いている間にYahoo!さんにも日本ぶろぐ村にも仕様変更が有ったらしく、メカ音痴な私はサッパリ分かりません(泣)
どのバナーが効くかも分からないのですが(泣)貼っておきます。気が向いたらポチッとお願いします!!
一番下の『ぶろぐ村のランキング表示』はPV専用のようで(泣)せっかくクリックして下さってもポイントは入らないようです。一番確実なのは『文字をクリック』のようですので、ポチっても良いよ!と思われた方はそちらから是非お願い致します!!更新の励みになります!!
リアル生活にちと変化が有りまして、更新時間も日付けが変わる頃が一番投稿しやすいので、その頃に覗いて頂ければと思います。誠に申し訳ありませんが、1日何話かは更新します。iPad更新に泣く泣く切り替えたので、文頭の余白を空けると、レイアウトが崩れます(泣)
以前より読みにくいかと思いますが、どう弄っても改善されないのでお休みを頂いている時にちまちま書いたストックがiPadにまだあるので、当分は二話、ドライブデートはなるべく毎日新しく書こうと目論見中です!!
以前より読みにくいかと思いますが、どう弄っても改善されないのでお休みを頂いている時にちまちま書いたストックがiPadにまだあるので、当分は二話、ドライブデートはなるべく毎日新しく書こうと目論見中です!!
読んで下されば嬉しいです。