中身はカオスという言葉でしか表現出来ないほどぐちゃぐちゃだったので。
 祐樹は良く知らないが、女性が化粧品を持ち歩く時にはポーチ(?)だかに入れるらしいが、長岡先生は口紅やその他化粧品をバラバラに入れていたし、医学書の真ん中に何故かホッチキスが挟んであったりハンカチも、綺麗に畳むどころか、ぐしゃぐしゃのままで何枚も入っていたりで。
 そして極めつけは京都市指定ゴミ袋を一枚だけ取り出した時にくっついて出て来たのだろう、開封口から数枚のゴミ袋がごちゃっと出ている。
 まあ、祐樹も学生時代から住んでいたアパートでは棚の中でそういう状態にしていたことは有った。ただ、このバッグは四千万円だ。

 そのことを最愛の人に告げたら祐樹よりも遥かに几帳面な性格なので絶対に整理整頓をしようとするだろうし。

 黙って彼女に手渡した。

「まあ、田中先生有難うございます。このタイプのバックはたくさん荷物が入るので重宝しているのです。

 あら、スマホはどこに行ったのかしら」

 ――確かにあの混沌(カオス)の中から探すのは大変だろうなとしみじみ思った。

 バックの中はチラリと見ただけだが、収納力という点は問題がない。何しろ分厚い医学書も入るのだから。

 最愛の人の手技を信頼して国内外から患者さんが入院してくる。その中には財界の大物とかも居るわけで「犬を散歩させるために大きな家と庭が必要でして」と笑いながら言った人も存在した。

 犬など、そこいらの歩道で散歩させたら良いと内心思ったが、長岡先生も同じ思考回路の持ち主なのだろう、多分。

「落ち着いて下さい。着信音が鳴ったからには確実にそのカバンの中に有りますので」

 探しているというよりはかき混ぜているという感じの長岡先生を見ていると、職場での有能振りが別人のようだった。

「あの、お願いしても良いですか?」

 信号が青になる直前に祐樹は電話を掛けるというジェスチャーを後部座席の人に送った。

「ああ、そうだな。分かった。長岡先生、今から私が鳴らしますので、その音で探して下さい」

 最愛の人も即座にスマホを取り出してタップしている。

「有りましたわ。百貨店からですわ。岩松からかと思ったので焦りましたが……。後で掛け直します。

 それにしても、田中先生が『あの』と(おっしゃ)って教授が即座に理解なさったのには驚きました。

 覚えていらっしゃるかどうか分かりませんけれど、お二人がキスなさっている所を偶然に見てしまいましたよね……」

 覚えている。あの時の長岡先生は手にケガをしているにも関わらず、患部を心臓よりも上にするという基本中の基本も忘れ果てていた時だった。

「そんなこともありましたね……」

「そ、それは……」

 二人同時に口を開いていた。

「いえ、アメリカに居た時から教授に想い人がいらっしゃるのは存じていました。

 そして、その恋が叶うと良いなと個人的には思っていましたのよ。そして、両想いになって関係が深まるのも大体は察していましたけれど。

 キスを交わしていた時に『田中先生なら大丈夫。きっと香川教授を幸せにしてくれる』と直感的に思いましたけれども、実現なさって、そしてずっとその想いが継続していて本当に良かったです。

 心から祝福申し上げます。

 お二人とも末永く幸せに暮らして下さいね。

 アメリカ時代の教授は表情も曇りがちで、退院していく患者さんを見送る時以外に笑顔は滅多になかったのです。

 それが田中先生と一緒にいらっしゃると輝くような笑みを浮かべていますよね。それを拝見したら(わたくし)まで幸せになりますもの……。香川教授が田中先生のことを太陽のような人だと仰っていて、本当にその通りだと思います。

 どうか、ずっと香川教授のことを照らしてあげてください」

 真剣な口調で長岡先生が言い募っている。

「はい。生涯に亘るパートナーとして大切にします。

 それに、実家の母も――あ、父は故人です――実の息子以上に大切に思っていまして『彼と別れたら勘当する』と。物凄く気に入っていますよ。今では家族の一員として――まあ、一緒には住んでいないですけれど――扱ってくれています、お互いが。今日も私の母の好きな季節限定のお菓子を買って贈るために百貨店に行こうと言ったのはこの人です。

 母がどうとかではなくて……死が二人を分かつ『とも』ずっと一緒だと誓いましたから、その点はご安心ください。

 今の私があるのは最愛の恋人のお蔭ですし、永遠に、そして公私共々一緒に人生を歩んでいくことをお約束します」

 バックミラーを見ると最愛の人が薄紅の滑らかな頬に涙の小川を作っていた。

 さんざん告げたことだが、他人の前で――しかも長岡先生のことは仕事では優秀な人間、プライベートでは困った妹扱いをしている、血縁は全くないが何となく家族めいた感情を最愛の人が抱いているのは知っていた――断言されるのはやはり異なるのだろう。

「まあ、虹ですわ。あんなにくっきりと七色が出ていますし、半円形の形も綺麗です。

 お二人の未来を象徴しているようですわね」

 長岡先生の言葉通り、土砂降りの雨の後だからか本当に綺麗な虹が青い空に架かっていた。

 振り向いて最愛の人を見ると、涙を纏ったまつ毛とは裏腹に目を輝かせて祐樹と虹を交互に見ている。

 ずっと二人で人生を歩んでいこう、あの虹よりも鮮烈な人生を。
                                   
               <了>



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後書きです。
この辺りの人間関係を抑えておけば大丈夫じゃないかな?的な小説でした。これでやっと終わりです。何で毎回こうも長くなるのか自分でも呆れています。
二つとも読んで下さっている方はお気づきかもですが「ブログの文字とかレイアウトが違う」のです。
ワードとライブドアブログをいろいろ弄っても改善出来ず、たまたまネカフェで予約投稿してみたら不思議なことに綺麗になりました。。。

これからの小説全部をネカフェでアップするのは無理そうですが、なるべくネカフェで予約投稿しておきます。

もう九月だというのに「夏休み」はまだまだ続きます。
読んでくだされば嬉しいです。
                  こうやま みか拝


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