「私達の『新婚旅行』に相応しい過ごし方で部屋を使うのだったら、この会議も出来るようなこんな大きな部屋よりも、こじんまりした部屋の方が良いと思う。

 オフィスラブごっこだと、こちらの部屋の方が相応しいと思うが……」

 自分的には大胆な言葉ではあったものの、心に薔薇の紅い花びらと銀の粉が降りしきっているような気持ちはまだ祐樹に告げていない。

 「こじんまり」と表現してはいたが、第二の愛の巣とも言うべき大阪のリッ○の普段使う部屋の二倍の床面積だったが。

 ただ、「新婚旅行」と位置付けるのであればその程度の大きさは奮発するのが普通らしい。

「オフィスラブごっこというよりも、セクハラごっこをするのでしたらマルコポー○スイートの方が良いでしょうね。

 ほら、昼ドラ――滅多に観ませんが、久米先生の多彩かつオタク趣味のゲームとか電子書籍を「凪の時間」に勝手に読んでいるのですが――そういうマンガでは割と有りがちなベタな展開で5巻は見たような気がします」

 え?と思ってしまう。自分が知っている電子書籍とはアマゾ○のキン○ルとかで、マンガも確か有ったような気がするものの、ベストセラー作家の小説本がタブレットで読めるサービスなので、認識の違いが有るようだった。

 ただ、部屋が広すぎることと、ちょうど載っているのが昼間の画像ということもあって、大企業の社長室とか役員会議室といった雰囲気も漂わせている、ホテルの一室という感じではなくて。

 ただ、会議室と言ってもウチの病院の教授会専用会議室的な――と言っても斉藤病院長の許可が有れば使えるが――古めかしい感じは全くなくて詳しくは知らないものの大手IT企業とかの社長室といった感じだったのは確かだ。

「ああ、説明が足りていませんよね。久米先生はマンガしか配信していない配信サービスを使用しているのです。

 そして、お金持ちなのに変にケチなので……。無料コインだったか、ポイントだったかは忘れましたが毎夜ログインすればそういう特典が付与されるサービスがあるのですが、その時の条件に『無料マンガを一話読む』という義務を果たさないといけないのです。

 忙しい時は、画面が回っている、つまりロード中を示すサインが出ていても全く構わずに内容を読まずにタップし続けてノルマ達成が可能なのでそうしているのですが、救急救命室はご存知のように暇な時はとことん暇なのでつい『久米先生お好み』のエ○マンガを読んでしまうというか。

 ある意味健全なアマ○ンのキ○ドルとは全く違います」

 祐樹がタブレットを――しかも画面にロード中を示す真っ白のままの状態で――情け容赦なくタップし続ける様子を想像すると何だか笑い声が零れてしまった。

 集中しなければならない時と、どうでも良い業務をこなす時の祐樹の取り組みの差は知っている積もりだったが、多分その雑さは自分には決して見せない類いのモノなのだろうから。

「良くあるパターンに『この商談を成立させるか反故になるかは貴女の決断次第です』と必要以上にイケメンかつ若い社長が、メガネを掛けた上に髪の毛も後ろで束ねただけの地味な女性に迫るというのが黄金のパターンですね。

 ただ、久米先生のお好みがモロにオタク趣味なので――というか、普通の嗜好を持つ男性は皆そうなのかも知れませんが――服の下は驚くべき豊満な胸と細いウエストですし、髪を下ろして眼鏡を外されたらビックリするほどの美人さんです。

 そういう人を押し倒すには頃合いの大きさのテーブルですよね、確かに」

 女性の心理はイマイチ分からない自分だったが、女の人は自分の魅力を最大限に引き出そうようにしている人が多いように感じる。もちろん、ナースは職務上そういうことを控えているのは知っている。

 しかし、斉藤病院長の秘書以下、若い事務職を見ているとお化粧なども完璧だったし自分が客観的に見て「美人」と評されることを常に考えているような気がする、

 だから素顔がそんなに綺麗な女性だったらメガネをやめてコンタクトにするだろうし、髪の毛だってナースの常識でもある、頭の後ろで束ねただけではなくてふんわり下ろすと全然印象が異なるだろう、多分。

「このテーブルの大きさだったら、どんな愛の営みの形を取っても大丈夫だろうな……。

 久米先生愛読のマンガだったら、この大きさの机が会議室ではなくて社長室に有りそうだ……」

 以前祐樹が「いたいけな男性のドリームというか妄想です」と断言したマンガとか恋愛シュミレーションゲームなので、その程度の見当は付く。理解は出来そうにはないものの。

「セクシャルハラスメントごっこは、置いておいて……。

 デラックス・ハーバービュースイートの場合、海に面しているだろう。まあ、ペニンシュラ、つまり『半島』の名に相応しく対岸は見えているが、ただ、窓に面した夜景を見ながら愛の行為を交わしても隣のビルの視線がないので……心置きなくどんな表情も身体の形も取ることが出来る……。それに何となく日本的な要素が入っている点も寛ぎやすい感じだし……。浴室も濃い翡翠の緑色が――本物の宝石ではなくて大理石だと書いてあるが――異国情緒を感じさせてくれる。

 それに、このジャクジー付きのバスタブに入っても、『そういう』行為が可能だろう?しかも誰も見ていない安心感があるし……」

 祐樹が心の底から楽しそうな笑みを浮かべていた。そして輝く眼差しに熱を帯びているような気がして、その視線を受けた場所が紅に染まっていく。

 脳裏によぎった想いを口に出せてしまったのは、祐樹が振ってくれた久米先生が愛読しているというマンガのお蔭だったのが良いのか悪いのか分からなかったものの。

「言い古されたフレーズですが、100万ドルの夜景を――しかもヨーロッパのように照明の色が制限されていないためにあらゆる色が使われています――見ながら愛を交わすという贅沢さは『新婚旅行』に相応しいでしょうね。

 この部屋にしましょうか?」

 薔薇色に染まった心に真珠の煌めきが加わったような気分のまま頷いた。ただ、祐樹が言及した100万ドルの夜景は確か、ビクトリア・ピークという山の上から見下ろした時の場合に表現される言葉だったと思うが、別に訂正するほどのことではない。

「予約日時の選択っと……。

 あれ……?」

 祐樹の指がキーボードを的確かつ器用に叩くのを見惚れていたが祐樹の声に驚いて画面を見た。

 薔薇色に震えて真珠の粒を宿しているような気持ちのまま。

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