「久米先生はアクアマリン姫と一緒に受付担当です。森技官と芳名帳を書きに寄られますよね?
名札は付けているかどうかは分からないのですが、少しぽっちゃりした童顔な感じの男性と、アクアマリンに似た感じの清楚かつ美人が二人並んでいたらビンゴです。
アクアマリンを彷彿とさせる女性は岡田裕子さんで、脳外科のナースです。もし二人が席を外していた場合には――受付係りに『久米先生を呼んで欲しい』と仰ればどうせそこいらで油を売っているだけですから直ぐに現れると思います」
そういえば、祐樹の「彼女さん」を探そうとして、久米先生と岡田看護師が受付係りを引き受けたことは自分も知っていたにも関わらず、祐樹のような発想に至らなかったことに内心忸怩たる気持ちがした。
そして祐樹の応用力のような考えが出来ることを「恋人」としてもとても頼もしく思った。
「明日、受付に……」
祐樹の言葉を伝えようとすると呉先生がスミレ色の風のような軽やかさで答えてきた。
『聞こえていました。田中先生の声は低いですけれど良く通りますし。
久米先生という方を探せば良いのですね?受付で。そしてアクアマリンのように清楚な感じの女性が一緒に居ていたらその横の少しぽっちゃりで童顔の先生の顔を覚えておけば大丈夫なのですね?
大丈夫です。何だったらスマホで写真を撮っておきますので。
で、田中先生のお母様が体調を崩されたと私達が判断した場合は、私が立食エリアに探しに行けば良いのですよね?
ま、私は精神科専門ですし、同居人は皮膚科にしか紹介出来ないと数々の大学病院の病院長からため息混じりで言われるのも……、おっと……。いや事実だろ?え?精神科も大丈夫だって?それはさ、オレじゃなくて呼んでくれたのか無理やり押しかけたのかは知らんけど……、その大学病院の病院長に言えよ。オレに言われてもそんなの知らないって……』
どうやら仲良く――あの二人は喧嘩をしている時以外はとても仲睦まじいことも知っている――休日を過ごしていたらしい。
森技官の抗議めいた声が断片的に聞こえている。
『ちなみに田中先生のお母様の体調はどう優れないのですか?』
森技官との舌戦を制したらしく、呉先生が電話越しに心配そうで親身な感じで聞いてきた。
「時々手の痺れがあるらしくて……。ただ、久米先生の――あ、彼も救急救命室勤務も兼ねています――診立てで緊急性はないとのことですが、私にとっても大切な人ですので万が一のことが有ったら困るので……」
祐樹が電話を替わって欲しいとジェスチャーで伝えてきた。
「呉先生、お休みのところ本当にすみません。
それに年寄りの世話を押し付けた挙句の果てにこんなワガママなお願いをしてしまって本当に申し訳なく思います」
呉先生が見ていないにも関わらず頭を下げているところに肉親の情愛が感じられる。
自分だってお母様のことは心配していたのだが、そんな動作までは考えられなかったのはやはり血の繋がりがないからだろうか・
「ええ、月曜日には念のためにウチの病院で検査をしてから帰らせます。最悪の場合、脳に何らかの疾患が隠れているかも知れませんので。
まあ、気配りというか、場の雰囲気を壊したくないと思っているらしい上に私の母なので……『披露宴』いや、つい嬉しくて口が滑りました……。せっかくのパーティに水を差すようなことを、他ならぬ『身内』しかもたった一人しか居ないという状態ですから、そういう自分が仕出かすわけには行かないといったところでしょう」
祐樹の口から――二人きりの時には散々聞いてはいるものの、いくら親しいと言っても第三者に言っているのは少なくとも初めて聞いた――「披露宴」という単語が出たことに、心の中の薔薇の花の上に宿った露が一斉に紺碧の空に光を反射させながら煌びやかに散っていくような気持ちになった。
「どうか母の具合が悪くなったら、他の人にはなるべく気取られずにパーティ会場から出して下さいませんか?
久米先生は多分ですが、立食パーティのエリアにウチの医局員や脳外科の先生方と居ると思います――何しろアクアマリン姫こと岡田看護師は脳外科所属なので―――そちらと上手く連携が取れるようにして……。
ああ、森技官、お休みのところ申し訳ありません。お聞きになった通りです。
なにしろ大袈裟なことになったらパーティに水を差すというのは母としても大変不本意だと申しておりましたので……。え?呉先生と協力して事に当たって下さるのですか?それは大変心強いです。ちなみにウチの医局の久米研修医は母の最新のバイタルとか既往症を知っている――いえ、救急救命医としては当たり前の心得です。意識のない患者さんではない限りそういうことはキチンと聞くように周知徹底していますから。
はい、その他の指図は全てお任せ致します。救急車には久米先生だけ乗せて後は席に戻って貰って構いません」
どうやら森技官と通話しているようだった。
久米先生はお母様の最新のバイタルをきっちりと計っているようではあるものの、正直なところ臨機応変さに欠けているような気がするので――自分を棚に上げて他人の非難をしているようで心苦しいが、事実は事実だった――森技官がその場を仕切ってくれた方が個人的にも有り難い。そしてその点は祐樹も完全同意らしく、瞳の輝きがさらに強さを帯びていた。
何しろ森技官は裕樹と同じく乱世に強いタイプなので、祐樹のお母様に何かが有った場合――無いに越したことはないのは言うまでもない――水を得た魚のように活き活きと動いてくれるだろうから。
「森技官も協力して下さるそうですよ……。これで一安心ですね。
それに万が一なことが起こった場合はウチの救急救命室が開いているのでそちらに搬送するように久米先生にも言っておきます。ウチの医局所属の人間は流石にこのホテルに招かれていますが、杉田師長を始めとする優秀なスタッフは揃っているので大丈夫だと思います」
祐樹が通話終了ボタンを安堵した感じで押しながら自分へと強く輝く瞳を向けた。
「そうだな……。確かに久米先生は今の状態の祐樹のお母様を診ているし適任だろうな。地震の時も一ユニットを率いて上手く回していたし、救急救命医としての腕も確かだと北教授からもお褒めの言葉を貰ったことも有ったので。
だったら、あっては欲しくないことだが、万が一のことが起こっても救急車に乗ってウチの病院まで行って……引き継ぎは完璧になるな……」
祐樹が可笑しそうな表情で唇を開いた。
名札は付けているかどうかは分からないのですが、少しぽっちゃりした童顔な感じの男性と、アクアマリンに似た感じの清楚かつ美人が二人並んでいたらビンゴです。
アクアマリンを彷彿とさせる女性は岡田裕子さんで、脳外科のナースです。もし二人が席を外していた場合には――受付係りに『久米先生を呼んで欲しい』と仰ればどうせそこいらで油を売っているだけですから直ぐに現れると思います」
そういえば、祐樹の「彼女さん」を探そうとして、久米先生と岡田看護師が受付係りを引き受けたことは自分も知っていたにも関わらず、祐樹のような発想に至らなかったことに内心忸怩たる気持ちがした。
そして祐樹の応用力のような考えが出来ることを「恋人」としてもとても頼もしく思った。
「明日、受付に……」
祐樹の言葉を伝えようとすると呉先生がスミレ色の風のような軽やかさで答えてきた。
『聞こえていました。田中先生の声は低いですけれど良く通りますし。
久米先生という方を探せば良いのですね?受付で。そしてアクアマリンのように清楚な感じの女性が一緒に居ていたらその横の少しぽっちゃりで童顔の先生の顔を覚えておけば大丈夫なのですね?
大丈夫です。何だったらスマホで写真を撮っておきますので。
で、田中先生のお母様が体調を崩されたと私達が判断した場合は、私が立食エリアに探しに行けば良いのですよね?
ま、私は精神科専門ですし、同居人は皮膚科にしか紹介出来ないと数々の大学病院の病院長からため息混じりで言われるのも……、おっと……。いや事実だろ?え?精神科も大丈夫だって?それはさ、オレじゃなくて呼んでくれたのか無理やり押しかけたのかは知らんけど……、その大学病院の病院長に言えよ。オレに言われてもそんなの知らないって……』
どうやら仲良く――あの二人は喧嘩をしている時以外はとても仲睦まじいことも知っている――休日を過ごしていたらしい。
森技官の抗議めいた声が断片的に聞こえている。
『ちなみに田中先生のお母様の体調はどう優れないのですか?』
森技官との舌戦を制したらしく、呉先生が電話越しに心配そうで親身な感じで聞いてきた。
「時々手の痺れがあるらしくて……。ただ、久米先生の――あ、彼も救急救命室勤務も兼ねています――診立てで緊急性はないとのことですが、私にとっても大切な人ですので万が一のことが有ったら困るので……」
祐樹が電話を替わって欲しいとジェスチャーで伝えてきた。
「呉先生、お休みのところ本当にすみません。
それに年寄りの世話を押し付けた挙句の果てにこんなワガママなお願いをしてしまって本当に申し訳なく思います」
呉先生が見ていないにも関わらず頭を下げているところに肉親の情愛が感じられる。
自分だってお母様のことは心配していたのだが、そんな動作までは考えられなかったのはやはり血の繋がりがないからだろうか・
「ええ、月曜日には念のためにウチの病院で検査をしてから帰らせます。最悪の場合、脳に何らかの疾患が隠れているかも知れませんので。
まあ、気配りというか、場の雰囲気を壊したくないと思っているらしい上に私の母なので……『披露宴』いや、つい嬉しくて口が滑りました……。せっかくのパーティに水を差すようなことを、他ならぬ『身内』しかもたった一人しか居ないという状態ですから、そういう自分が仕出かすわけには行かないといったところでしょう」
祐樹の口から――二人きりの時には散々聞いてはいるものの、いくら親しいと言っても第三者に言っているのは少なくとも初めて聞いた――「披露宴」という単語が出たことに、心の中の薔薇の花の上に宿った露が一斉に紺碧の空に光を反射させながら煌びやかに散っていくような気持ちになった。
「どうか母の具合が悪くなったら、他の人にはなるべく気取られずにパーティ会場から出して下さいませんか?
久米先生は多分ですが、立食パーティのエリアにウチの医局員や脳外科の先生方と居ると思います――何しろアクアマリン姫こと岡田看護師は脳外科所属なので―――そちらと上手く連携が取れるようにして……。
ああ、森技官、お休みのところ申し訳ありません。お聞きになった通りです。
なにしろ大袈裟なことになったらパーティに水を差すというのは母としても大変不本意だと申しておりましたので……。え?呉先生と協力して事に当たって下さるのですか?それは大変心強いです。ちなみにウチの医局の久米研修医は母の最新のバイタルとか既往症を知っている――いえ、救急救命医としては当たり前の心得です。意識のない患者さんではない限りそういうことはキチンと聞くように周知徹底していますから。
はい、その他の指図は全てお任せ致します。救急車には久米先生だけ乗せて後は席に戻って貰って構いません」
どうやら森技官と通話しているようだった。
久米先生はお母様の最新のバイタルをきっちりと計っているようではあるものの、正直なところ臨機応変さに欠けているような気がするので――自分を棚に上げて他人の非難をしているようで心苦しいが、事実は事実だった――森技官がその場を仕切ってくれた方が個人的にも有り難い。そしてその点は祐樹も完全同意らしく、瞳の輝きがさらに強さを帯びていた。
何しろ森技官は裕樹と同じく乱世に強いタイプなので、祐樹のお母様に何かが有った場合――無いに越したことはないのは言うまでもない――水を得た魚のように活き活きと動いてくれるだろうから。
「森技官も協力して下さるそうですよ……。これで一安心ですね。
それに万が一なことが起こった場合はウチの救急救命室が開いているのでそちらに搬送するように久米先生にも言っておきます。ウチの医局所属の人間は流石にこのホテルに招かれていますが、杉田師長を始めとする優秀なスタッフは揃っているので大丈夫だと思います」
祐樹が通話終了ボタンを安堵した感じで押しながら自分へと強く輝く瞳を向けた。
「そうだな……。確かに久米先生は今の状態の祐樹のお母様を診ているし適任だろうな。地震の時も一ユニットを率いて上手く回していたし、救急救命医としての腕も確かだと北教授からもお褒めの言葉を貰ったことも有ったので。
だったら、あっては欲しくないことだが、万が一のことが起こっても救急車に乗ってウチの病院まで行って……引き継ぎは完璧になるな……」
祐樹が可笑しそうな表情で唇を開いた。
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勝手を申しましてすみません!!
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最近はブログ村の新着に載らなかったり、更新時間も滅茶苦茶になっているので、ツイッターアカウントをお持ちの方は無言フォローで大丈夫なので、登録して下されば見逃さずに済むかと思います!!宜しくお願いします。
◇◇◇お知らせ◇◇◇
あと、BL小説以外も(ごく稀にですが……)書きたくなってしまうようになりました。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。
こちらでそういった作品を公開していきたいと思っています。
「下剋上」シリーズは一人称視点で書いていますので、他の人がどう考えているのかは想像するしかないのですが、こちらはそういう脇役がこんなことを考えているとか書いています。
今は、久米先生が医局に入れてハッピー!な話とかですね。
今は、久米先生が医局に入れてハッピー!な話とかですね。
スマホで読んで頂ければと思います。その方が読み勝手が良いかと。
落ち着くまでは私ですら「いつ時間が空くか分からない」という過酷な(?)現実でして、ブログを更新していなくてもノベルバさんには投稿しているということもあります。
なので、お手数ですが「お気に入り登録」していただくか、ツイッターを見て頂ければと思います。
なので、お手数ですが「お気に入り登録」していただくか、ツイッターを見て頂ければと思います。
更新出来る時は頑張りますが、不定期更新となります。すみません!!
すみません、ただ今職場とクリニックのハシゴ&(しょぼい)相続会議紛糾中でして、心身共に疲れ果てています。
不定期更新に拍車掛かりますが何卒ご了承ください。
こうやま みか拝