腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

船上のモリアーティ

「船上のモリアーティ」 11

「ヤバい……。

 想像してたのよりも、凄くそそられる。リアムのそんな綺麗過ぎて、しかも艶っぽい表情……。

 そういうのは、俺だけにしか見せないで欲しい、な……」

 シャーロックの熱を帯びた声が、そして二人の舌で湿った唇にかかる甘い苦い息が思考と理性をさらに溶かしていくようだった。

「そう……ですか?自分では分からないので……。

 ただ……シャーロックさんも、とても魅惑的です……」

 広い背中に腕を絡めながら心に浮かんだことをそのまま言葉にした。

 普段のウイリィアムならば、発言一つ一つを頭の中で吟味していたが、今はそんな余裕もなかった、熱に浮かされたように。

「良かったら、いや絶対にシャーリーと呼んで欲しい。

 今となってはクソ忌々しい兄貴が呼ぶだけだが……、昔は母が愛情と慈しみを込めてそう呼んでくれていたので……。

 この船室に居る間だけでも良いから」

 了解の意味を込めて、シャーロックの唇に唇を重ねた。

「ベッドに……行きましょう」

 震えそうになる唇を必死で耐えて言葉を紡いだ。

 一応、そういう類いの本は読んで来たものの、未知の体験への恐怖心はどうしても募ってしまう。

「お!それは物凄く嬉しいお誘いだな。

 ……だが、初めてだろう?」

 シャーロックが眉間を寄せながらも甘い笑みを浮かべている。

「初めて……だと、どうして分かりましたか?なんてシャーリーに聞くのは野暮ですよね。

 大丈夫だと……思います」

 ウイリィアムは自分でも何を言っているのか分からなかった上に、最後の方はどうしても声が小さく、そして震えてしまっていた。

 「シャーリー」と聞いた途端にシャーロックの表情が朝日を浴びたように輝いた。とても嬉しそうに。

 お兄さんとは上手く行っていないと――というか、一方的にシャーリーが嫌っている――アルバートお兄様から聞いた覚えが有ったが、きっとお母さんの記憶の方が勝ったのだろうと思う。

 シャーロックの手がウィリアムの腕に回される、まるでレディをエスコートする貴公子のように。

 その丁重さとか優雅な動きはどんな貴公子よりも魅惑に富んでいるようにウィリアムには思えて来て、頬が上気してしまう。

「僕は貴婦人でもない……。生まれもそもそも……労働階級よりも下っ……」

 そう言葉を紡ぐ唇がシャーロックの唇で塞がれた。

「リアムには、自分を卑下する言葉は似合わない……。

 それに俺が知る限りでは最も貴族らしい立ち居振る舞いと、そしてどの貴公子よりも貴公子らしい容貌の持ち主だ。

 ま、考えていることは抜きにして、な」

 真顔で囁いた後に、意味有り気なウインクをするシャーロックの男性的で多彩な魅力に富んだ顔をマジマジと眺めてしまった。 

「シャーリーにそう言って頂けるのは、単純に嬉しいです。

 しかし、僕はレディではないので、一人で歩けます」

 持ち前の勝気さが、つい出てしまったウィリアムに、苦笑を浮かべたシャーロックは腕ではなくて指を絡めた。

「これならレディ扱いじゃないだろ?」

 指の付け根までしっかりと繋いだ手の強さと熱さに眩暈がしそうになる。そしてシャーリーのさり気ない優しさにも。

「ところで、寝室はどっちだ?そこまでは調べてないっ!!」

 先ほどまで余裕綽々といった感じを浮かべていたのに、急に焦ったシャーロックが何だか可愛く思えて来た。

 普段のペースを取り戻したウィリアムは、絡めた指の力を強くしながら笑みを浮かべた。

「一等客室の間取りは大体似通っていますから、多分こちらでしょう」

 その部屋で何をするかを考えると紅く染まった頬が更に彩りを加えてしまいそうで、敢えて考えないようにした。

「あ、そっかあ。リアムは例の『劇』で調べたんだろ?

 だが、とても助かる……」

 絡めた指を微細に動かしては強く握られる。そして立ち止まっては口づけを交わしながら広くて豪華な空間を歩んだ。

「このドアが……多分、寝室です……」

 咽喉の渇きを自覚しつつウィリアムは告げた。

「そっか……有難う。リアムの知識が俺の役に立った、な」

 ウインクをしながらシャーロックは愛おしそうにウィリアムの顔を見詰めていた。

 男らしく節張った大きな手が重厚な樫の木で出来たドアを開ける。

 案の定、そこにはベッドが鎮座していた。

「リアム……愛している……」

 大きいベッドのシーツに身体を縫いつけられた感じで横たわったウィリアムに口づけの雨を降らせながらシャーロックが熱くて真率な言葉を吐息と共に囁いていた。


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「船上のモリアーティ」 10

「綺麗だし……見事だろう?」

 シャーロックは、ウィリアムの端整で静謐な横顔にだけ視線を当てている。

「はい。この優雅な曲線を計算するにはどの方程式を使えば良いのかと考えてしまいますね……」

 予想外の言葉に――ある意味ウィリアムらしいとも言えるが――シャーロックの顔がピクリと引きつった。

「ま、それはそうと、客室に行こうか?ああ、案内は良い。だいたい分かるので。

 見た限りでは……『劇の舞台』もなさそうだし、さ」

 案内をしようとした乗務員へ向けた言葉に、一礼をして去って行くのを見送りながら、その言葉の真の意味に気付いたウィリアムは、むしろ無垢な笑みを漏らしている。

「僕だっていつでも企んでいるわけではないですよ。

 そう思われてしまいがちなのは分かりますが……。

 元々は困っている人を僕の知識で助けられるのならばと思って始めたことですので。

 盗みや物乞いをするよりも、知恵を与えて僕たち二人の食料や居場所を確保する方が良いのではと思っていましたから」

 何故、シャーロックにそんな幼い日のことを打ち明けるのか自分でも分からないままにウィリアムは唇を開いていた。

「そりゃそうだ。

 俺だって諮問探偵とか偉そうな名前が付いちゃいるが、実際のところ知識と推理力を売って生活してるんだからな。同じだろ、リアムの小さな時、で良いのか?」

 幼い頃にルイスと二人で暮らした貸本屋の埃っぽい空間がウィリアムの脳裏に懐かしく蘇った。

「はい。そうです。弟のルイスと二人でその日暮らしの生活を送って居たモノで……。

 その後ですね、モリアーティ伯爵家の養子になったのは。ルイスが手術の必要な心臓の病に冒されていると分かったのでその手術代のために」

 シャーロックになら何を言っても良いような気がした。

 知天使の――ケルビム――見事な彫像が中央に置いてある螺旋階段をゆっくりとした足取りで歩きながら、あの当時はこんな空間が有ることを書物でしか知らなかったのだなと思っていた。

 それがこんな絢爛豪華な空間を当たり前のように歩くようになったのもアルバート兄様のお蔭だった。

 シャーロックは、そのお兄様を取引材料にはしたものの、自分が応じなければ全てを白日の元に晒すということはなさそうな気がした、ただの勘だったが。

 少なくともシャーロックは何が何でも犯罪卿を捕まえようとしているわけではない。妥協出来る点は大幅に妥協してくれている上に、ウィリアムが企んだ通りの筋書きで動いてくれていたので。

 ただ、この船に強引に誘われたのは想定外だったが、その期待の外し方はむしろ心地良いと感じてしまっている自分に戸惑ってしまう。

「そうか……。だからルイスはリアムを殊更大事に思っているんだな……。いつぞやの列車の中でマジな殺意をヒシヒシと感じたもんな……」

 しみじみとした口調で言われて、面食らってしまった。ルイスがそこまでの強く熱い想いを持っていたことは気が付いていなかったので。

「そうですか?僕は気が付きませんでしたが……。

 ルイスには重ね重ね悪いことをした……っええっ!?」

 シャーロックにやや乱暴に腕を掴まれて、客室へと導かれた。

 重い木の扉を事もなげに開けたシャーロックの手が背中に回されるのを半ば心地よく受け止めてしまっていた。

「驚いた顔も最高に良い……な。

 リアムのそういう表情を初めて見た。もっと誰にも見せない顔が見られるのかと思うと、ゾクゾクするほど愉しみになる……」

 厚い木の扉とシャーロックの身体に挟まれた形になって背中を押しつけられたウィリアムの耳に鍵を掛ける音が微かに聞こえてきた。

 鍵の閉まる音が、何だか笑いたいような泣きたいような不思議な気持ちになってしまう。

 そして、唇に煙草の香りのする熱く乾いた唇が重なった。直ぐに湿った舌が唇に触れて来て、その温かくて安らかなキスの感触は生まれて初めてだった。それに何だか母親の胎内に居る赤子のような安逸さすら感じてしまう。

 舌のノックに応えるように唇の合わせ目を開いた。暖かく湿った舌に恐る恐る舌を出すと先端部分が擦れて甘い戦慄が背筋を甘く震わせてしまっている。

「ここじゃ、マズいよな……。流石にそれはないよな」

 唇を離したシャーロックが甘く低い声を出した。その熱い呼吸に呼応するように、二人の唇に細い銀の糸が微細に揺れた後に切れた。

「こういう場合は……ベッドなのでは?」

 持ち前の勝気さで何気ないふうを装ってしまう。

 すると、額に唇が押し当てられた、慈しむように、そして急かすように。

 胸を満たす熱い気持ちがウィリアムにとって初めての衝動だった。

「ギリシア人の愛情確認の方法を読んで来てくれたの、か?

 愛している、リアム」

 真率に告げられた言葉に、心臓が甘く熱く鼓動を刻んでいるようだった。




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「船上のモリアーティ」 9

「よ!来てくれたか……。」

 相変わらずラフな格好で馬車や徒歩の人間が行きかう港の雑踏の石柱に凭れかかったシャーロックは眩しげにウィリアムの一分の隙もない服装と普段よりも若干緊張している顔を眺めていた、とても嬉しそうだった。

 ウィリアムは伯爵家の馬車ではなくて辻馬車を下りて、人混みから頭一つだけ出たシャーロックの方へと近付いて行った。

「はい。約束ですから。僕は約束を違えるようなことはしません。しかし、少し道が混んでいたので遅れてしまったのは申し訳ないです……。お待たせ致しましたか?」

 ほぼ同じ高さに有るシャーロックの顔を見ると先程まで感じていた後ろめたさが氷解して何故か心が溶けていくような気がした。

「俺も今来たばっかだし、別に待ってはいねぇよ」

 ウィリアムはシャーロックの足元を見て淡く笑みを浮かべた。

「そんなに煙草を吸っているのに、ですか?」

 シャーロックは慌てて足の下に散らばっていた煙草の吸殻の山を崩そうとした。

「いやぁ、来たのは10分くらい前なんだが、リアムが本当に来てくれるのか来てくれないのかとか考えちまって……、つい煙草の量が増えただけだ。

 リアムが約束を守る人間だってコトは充分過ぎるほど知っていたんだが、伯爵家には怖えぇ人間が二人居るだろ?

 だから抜け出されないんじゃないかって思ってしまって。

 で、どうやって抜け出したんだ?」

 ウィリアムはシャーロックの長い脚が吸殻の山を蹴散らしている様子を見て普段よりも明るい笑みを浮かべてしまっていた。

「『我々』に新たな――いえ、初めてといった方が正確ですね――敵というか、脅威が出て来たのでその対策を一人になってじっくり考えたいとそう言って屋敷を出て来ました」

 シャーロックが目を眇めて真剣な眼差しでウィリアムのルビーに似た紅い瞳を見詰めた。

「新たな敵?それは……。

 リアム『達』にとって俺は敵ではあるが、ある程度の譲歩は可能だ。結果的に相容れなくなっちまっても、な。しかし、今の状況ならばそこまで切羽詰まってないだろ。

 そういう歩み寄りが出来ない相手なんだろ?大丈夫なのか……」

 シャーロックの親身な口ぶりにウィリアムはむしろあどけない笑顔を向けた。

「色々手は打っています。ただ、追い詰めるだけの証拠が出ないので……。そのプランを考えるために一人になって考えたいと言ったら兄も弟もそして同志も納得してくれました。

 だから貴方のシンデレラになる時間は出来ました、が……」

 シャーロックは煙草の煙を肺がしぼむのではないかと思うほど盛大に吐き出して、海に捨てた。

 船の乗降口を優雅かつ上品に歩むウィリアムよりも、シャーロックの方が険しい顔をしている。

「それは大丈夫なのか……?」

 ウィリアムは先日シャーロックから受け取った一等船室のチケットを船員に見せていた。

「まだ分からないです。正直なところ。敵に対する情報が少なすぎて。

 ですから、このシンデレラ・リバティの時間にでもじっくり考え」

 「る積りです」と、そう言葉を紡ごうとしたウィリアムの薄めの唇をシャーロックの長く節張った指が塞いだ。

「そういう野暮なことを考えさせるためにわざわざ呼んだわけじゃない。

 三日間は文字通り、シンデレラの『自由』の時間だ。

 ま、気が向けば俺が相談に乗って……って、それはリアムにとっては要らん世話か……。

 ただ、いつかの宝石商殺しの時は別々に考えて同じ解答を導き出したんだから二人で一緒に考えれば正解がより近付くんじゃね?

 ま、相談する気になったら、いつでも言っ」

 「てくれ」と言いかけたシャーロックの唇を今度はウィリアムの白くしなやかな指が塞いだ。

「船室に折角ご案内して下さっている乗務員の方がいらっしゃるのに『作り話』を延々とする神経が分かりません。ここは公共の場所ですよ」

 ウィリアムひいては犯罪卿に対峙する「敵」……そんな頭脳と資金力、そしておそらくそれなりの武装集団まで持っている人間がこの国にまだ居たのかと思うと謎を解きたくなってしまい、ここがどのような場所か一瞬頭から飛んでいたシャーロックは「みだりに変なことを言うな」とウィリアムに咎められて口をつぐんだ。何しろ謎を解くことが――しかも「あの」ウィリアムまでが手こずっている相手なだけに尚更だ――第一の生きている証しだとまで思っているシャーロックの悪いクセが出てしまっていた。

 ただ、この三日間だけはそういう自分の執着を棚に上げてウィリアムと二人きりの時間を愉しもうと思っていたし、実際、逸る気持ちのまま約束の時間よりも随分早く港に着いたというのに。

 ウィリアムは厚いペルシャ絨毯が敷き詰められた一等船室のゲスト専用のエリアに足を踏み入れた途端に、歩みを止めた。

「ノアティック号の時もそうだったが、黄金比ってのはそんなに良いモンかね。

 まあ、見事な建築だし、あの天使の像なんてものすげぇ造形美だと思うけど。それに螺旋階段やステンドグラスの天井も……」

 二人並んで、ウィリアムは階段を、シャーロックはウィリアムの肢体を黙って見ていた。

 ステンドグラス越しの陽光が赤や黄色の模様を織りなす空間に佇んだまま。


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このお話は、今ドハマり中の「憂国のモリアーティ」の虹小説です。1万字程度で書こうと思っていたのですが、私の悪いクセでついつい長くなってしまいました。

あと三回くらいで終わる予定、は未定です。
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「船上のモリアーティ」 8

「知識、いえ理論としては知っています。しかし実践となると……」
 シャーロックの黒い瞳に目が離せなくなるのは何故だろう。
 そして、いつもは頼られることや、ウィリアムの知識が他人に役立つことに悦びを感じていたのも事実だった。
 それだけで良かったハズなのに、何故か今日のシャーロックの言葉や一挙手一投足に視線どころか心まで奪われてしまうのは何故だろう。
「理論ね。確かにそれも大切だ。しかし、頭を働かせ過ぎて――ああ、リアムの場合は実戦にも加わるんだっけか――まあ、ソッチの実践は初めてのようだが、それは貴族たるものはこう振る舞わねばならないっていう思い込みに縛られてんじゃねーの?
 リアムの場合一度で良いから頭で考えることを放棄して、他の人間の――いや、リアムの場合は自分が信頼できると判断した人間のみっていう厄介な前提条件が付くみてーだが、幸い俺はその難し過ぎるテストに運よく合格しているみたいだし――「企み」に乗ってみるのも良いんじゃね?
 普段は仲間の皆から頼りにされる損な役回りをしてんだろ」
 損だとは全く思ってもいなかったが、シャーロックが言うとそうなのかも知れないという不思議な気持ちになってしまう。
 理屈ではなくて本能的な感じで。
「損だとか得だとかは考えたことも有りませんが……選択の余地はなさそうですね」
 肩を竦めてそう言った後にウィリアムは客船のチケットをしなやかな指で取った。
 自分の命は全てを「理想の為に」捧げても良いとの思いは変わらない。
 しかし、アルバート兄様という、ウィリアムにとってはかけがえの無い同志でもあり家族でもある人がこの世から消えてしまうという事態には耐えられそうにない。
 それ以上にシャーロックの傍にいると何でも彼が決めてくれそうな、ある意味自分が自分でなくなるような覚束なさが逆に好ましく思えてくるのは我ながら不思議だった。
「じゃ、俺達の想い出の港で待っている。乗船の日時はチケットに書いてある通りだ。
 リアムを口説くのには時間がかかると思っていたが、もうロンドンじゃん。
 予想以上に時間が掛かったな……。じゃあ、船に乗ってしまえばこっちのモンだからさ、それまでは兄弟とか仲間に上手く誤魔化しておいてくれ。リアムならそれらしい口実くらい思いつけるだろ?
 それとも何か?そっちまで俺が考えなきゃならないか?」
 列車のスピードが落ちているとは思っていたものの、いくつかある停車駅の一つかと思いきやいつの間にか終着駅だったとは。
「その程度は自分で考えます。兄弟や仲間を欺くことになるのはとても心苦しいのですが」
 シャーロックの押しの強さに絆されたわけでもなくて、ウィリアム自身が――今までは全く自覚してもいなかったが――内心密かに望んでいたことのような気もする。
 兄弟や仲間から隔絶された環境というものを、数日間。
 ずっと一緒だと誓い合った仲ではあるものの、そしてそれに対して不満などあろうハズもなかったが、心の奥底では(ほんの少しで良いから……全てを忘れて誰かに――多分シャーロックに――従ってしまいたい)と、そう思ってしまっていた。
 それにアルバートお兄様を救えるという大義名分があるなら、ウィリアム自身の心すら欺くことも出来たのも紛れもない事実だった。
「じゃ、サウサンプトン港で。待ってるからぜってー来いよ、な」
 口調とは裏腹にシャーロックの饒舌な瞳は来て欲しいと懇願しているようだった。
「分かりました。参ります。誓いますので……」
 すっかり冷めきってしまった紅茶を口に含むとウィリアムは咽喉がひどく乾いていたことに今更ながら気が付いた。
 それだけ動揺していたのだろう。シャーロックの唐突過ぎる――と言ってもシャーロックがそういう人間だということはプロファイリングで知っていたハズだったのに――言葉に心全部が翻弄されたような気がして。
 シャーロックは満足そうにタバコの煙を食堂車の天井の方に向けて盛大にはいていた。
 その粗野極まりない仕草にも――モラン大佐もウィリアムの居ないところではしていると聞いてはいたが――どこか洗練された美しさがあるような気がした。
 他の人間が自分を見る目とは異なって、シャーロックの場合は常に対等だった。いや対等というよりも有る部分ではウィリアムよりも上だったりまた異なった部分では下だったりしていてどこか据わりが悪いような気持ちがする。
 心が揺さぶられるというのはこういうことなのだろうか?
 シェイクスピアの戯曲は幼い頃から親しんで来たが、ロミオとジュリエットなどの恋愛モノに全く興味を抱かなかったし当然共感を込めて読んだこともない。
 ただ、今のウィリアムの気持ちは――シャーロックの全てを見透かすような黒い瞳の魔力は恋の魔力と似ているような気がする――シェイクスピアの恋愛モノに似ているような気がした。
 アルバート兄様を守るためという「大義名分」を盾に私情を優先させてしまっている。
 そのことに気付いて内心舌打ちをしたい気分だった。そんな品のないことを人前はおろか自室で一人の時にもしないと決めていたので。
「じゃあ、船に乗っている間は俺だけのシンデレラになってくれ。
 12時の鐘じゃなくって、船が港に帰って来るまでの間な。
 王子様っていうガラじゃないが、きっちりベッドの上でダンスを踊ろう、二人きりで。全てを忘れて。シンデレラがそうだったように、な?」
 何と答えれば良いのか分からなくて、ウィリアムはただ頷くだけで了承の意を伝えた。
 汽笛と蒸気の香りが駅に着いたことを知らせてくれた。
 ホームでシャーロックと別れて一人プラットフォームを歩くウィリアムは何度も何度も内ポケットに手を入れてシャーロックが渡してくれた船のチケットが本当に有るかどうかを確かめずにはいられなかった。
 さて、アルバート兄様やルイスには何と言って数日間留守にしようかと頭をフル回転させながら。






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       こうやま みか拝

「船上のモリアーティ」 7

「はぁ?」
 ウィリアムは、生まれて初めて味わう「新鮮な」驚きに、思考が止まるほどだった。
 色々な相談事とか犯罪卿としての「企み」を考え過ぎて脳が休止するような感じで眠ってしまうことは何度も経験している。
 その状態に似ているような気もしたが、この黒い眼差しに魂が揺蕩うような不思議な感覚は初めてで、そしてとても心地が良い。
 ただ、表情が制御不能になってしまっていたのも初めてのことだった。普段は無意識にコントロールしている。他人に言われた時には――そしてそれが妥当なモノだと判断した場合に――表情を強いて変えることは有ったものの、それ以外は無意識に「仮面」のような表情を張り付けているのが習い性になっていた。
 それなのに。
「お!いいじゃん。その顔……。いつものお高くとまったリアムの冷たく、そして整った顔もすげえソソるけど。
 そういう表情の方がずっと良い。
 でさ、愛情の講義を二人っきりで愉しまないかという話だ。
 船の中だけでは、リアムのその類い稀な頭脳しか背負えない重い重い荷物を下ろしてさ。
 ずっと『頭脳』として生きていくことを――もちろんリアムもそう望んだんだろうが――続けてきたんだろ?悩みの有るあらゆる人の期待に応えようとして、さ。
 その気持ちは良く分かる。
 『ホームズさんなら何とかしてくれる』と頼られるのは別に良いんだが、俺の場合はさ、断ることも出来るだろ。
 実際、気が向かないような下らない案件は随分断って来たからな。
 しかし、リアムは性格上、頼って来た人間は断れないと思ったんだが、違うか?」
 シャーロックはセカセカとした感じでタバコをむやみに吸っている。
 ただ、その黒い眼差しは何故か安らぐような光を宿していた。
 そのことに鼓動が跳ねている。
 しかし、話の後半部は、言われてみれば確かにそうだと今更ながら気付いたが、前半部は全く理解出来ない。
「ええと。
 確かに、他人の悩みを解決することが多くて、それが徐々に広がっていったように思います。
 そしてこの国をより良い世界にするためには人の心を変える必要が有ると判断して、いつしか理想のために……。
 それ以外のことは考えてもいませんでした」
 何だか憑かれたようにシャーロックを見詰めたまま「自白」とも取れる「独白」をぶつけてしまっていた、ウィリアム自身が驚くほど舌は滑らかに動いて。
 ただ、シャーロックは暖かい光を黒い瞳に宿して癒すような光を放っていて、ウィリアムの碧い衝動とそれを癒すかのようなシャーロックの暖かい眼差しが車内の空気の中で絡み合った。
「それがリアムの選んだ道なら、良いんじゃないか?俺もこの国が良いとは到底思えないし。
 ただ、俺は卑怯だからリアムが最も大切にしている兄弟をいわば人質にして、それを盾に数日の間だけでも、リアムと二人きりになりたいのだが。
 講義は寝室のベッドの上で、ゆっくりとじっくりと……」
 シャーロックの黒い瞳が優しげなそして懇願するような光を放っている。
 しかし、ウィリアムはその言葉の意味が全く分からない。
「えと。兄のことや、我々のことを海軍提督に、ひいてはその然るべき家柄のお兄様の、耳に入れないという件は分かりました。客船に乗ることと引き換えに。
 しかし、ベッドの上で何をするのでしょうか?」
 ごくごく真面目に聞いたのに、シャーロックは心の底から可笑しそうな感じで広い肩を揺らして笑っている。
 そういう、喜怒哀楽を――周囲の目を全く気にせずに――表現出来るシャーロックを好ましく思うのは、ウィリアム自身が常に周囲の目を気にして生きて来たからに違いない。
「数学の教授ってのは、文学とか歴史には疎いわけか?」
 テーブルの上に載ったティカップとソーサーが音を立てるほど、身体を揺すって笑うシャーロックは、目尻の涙を手で拭っている。笑い過ぎのせいだろうが。
 その手にハンカチを差し出した。
「いえ、一通りは知っていますが?」
 「助かる」と言いながらシワ一つないハンカチで顔を拭っているシャーロックを途方に暮れた感じで見詰めていた。
 何を要求されているのかが全く分からないままだったので。そして目の前のシャーロックが笑い死にをするかも知れないほど爆笑している理由も。
「古代ギリシア人の恋愛……と言えば分かるか?」
 その言葉に、ウィリアムの頬が熱を帯びた。




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