腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

気分は~学会終了後

気分は下剋上 ルミナリエ編 11

「綺麗でしたね。それに今回は緑色が多めで……、貴方も良く緑とか青のネクタイを締めていらっしゃいますので数多いイメージカラーの一個なのです。だから貴方のことを――隣を歩いて下さっていたというのに懐かしくさえ思えてよりいっそう楽しめました」
 この催し物に来た人は祐樹が教えてくれた通りの屋台方向――実際に駅もそちらの方向だった――に向かうらしく驚くほど人の気配はない。
 祐樹も病院のすぐ近くの隠れ家的な場所を――暇を持て余した患者さんの目さえも届かない場所だ――を見つけるのが上手いが森技官も同じなのだろうか。
 時間を外して来ているとはいえ、先程までの人混みが全く消えて異世界に紛れ込んだとか二人を残してこの世界が滅亡したと言われても何だか納得してしまいそうなくらい、完全な「二人きり」の道路とビルが並んでいるだけの場所だった。
「本当に綺麗だったな……。実際に雪は降っていないし、降っていなくても充分繊細な煌びやかで厳粛な雰囲気がとても素敵だったが、降っていたらもっと雰囲気が増すと思う」
 ごくごく自然な動作で祐樹の指に自分の指を絡めて深くまで繋ぎ合わせた。何となくそうしたい気持ちでいっぱいだったので。
「雪ですか……。確かにそうでしょうね。しかし、クリスマス前に終わるイベントですから実際に降ることは極めて稀でしょうね。気象条件から考えても。
 ただし、六甲山系の山が近いので神戸の降雪の確率はかなり高いので運が良ければ降るかも知れません。三宮が雨でも六甲山の頂上付近では雪のことも多いと聞いています。今日はコートで充分な気温でしたが……。
 貴方の指もまだまだ温かいですし……」
 深く絡めた祐樹の指が指の付け根辺りから確かめるように上へと動く感触にすら甘い声が漏れそうな気がした。
「指はとても大切なので、今度は毛糸で手袋でも作ろうか?」
 意識を日常的なことに向けないと、理性の糸が切れそうな気がした。人通りが全くないとはいえ、オフィイスビルと思しき建物の――もちろん全部灯は消えている――並ぶれっきとした公道だ。
「そうですね。それもとても有り難いのですが……。カシミアのコートにマフラーまでは許せても毛糸の手袋よりも革製の方が調和しそうな気がします。
 ダウンジャケットならば毛糸でも大丈夫ですけれども……」
 言われてみれば確かにそうで、自分の不明を恥じてしまう。病院内の旧態依然の不文律では職階が上がればカジュアルでも着用可能なダウンジャケットを着ていくと周りから白い目で見られるのも確かだった。
「聡が編んで下さるのでしたら、今度は普段着にも合うようなマフラーの方が優先順位も高いです。難易度がどれほど高いか全く分からないので、素人のたわ言と聞き流して下さって結構ですが色違いのお揃いのセーターなどもデートとかウチの実家に帰る時に着ていくというのも素敵ですね。
 それはそうと、この建物は明治だか大正だかに建てられた感じがしてとても風情のある重厚さだと思いませんか」
 祐樹の低くて熱い声が人目を忍ぶ感じなのも耳朶の後ろの薄い皮膚を直接に舌で愛されているような錯覚を覚えた。名前を呼び捨てにされた――それはそれでとても嬉しいが――こととも相俟って。
 祐樹が歩みを止めるだけあって、石造りの階段が何だか舞踏会でも開けそうな感じで設えてあった。多分敷地内の面積が広いのだろうが、その傍には大きな樹木と低木がバランス良く植えられている。
「こちらへいらして下さい」
 その低い声に背筋を緑色の稲妻が奔り抜けたような気がした。
 樹木と祐樹の身体に隠されるようにしてビルの外壁に凭れかかった。
「祐樹……連れて来てくれて、本当に有難う。
 そして、何時でも、これからもずっと愛している」
 本当に大丈夫だろうかと辺りを確認してしまうのは、マスコミへの露出が増えたせいでより個人特定のリスクが高まったからだった。本当に大切だと思う人達に祝福される機会も出来たので後悔はしていないが。
「大丈夫ですよ。この仄かな灯りですから私のコートが一種の保護色になってくれます。
 それに私は人の気配にも敏感なので」
 深く繋いだ指はそのままで祐樹の首に指を絡ませながら唇を重ねた。
 唇だけでは物足りなくて舌で祐樹の柔らかな輪郭を辿って微かな水音を熱く響かせていると合わせ目が開かれて祐樹の口へと導かれる。
 同時にコートのボタンを外した指がスーツの内側を素肌の熱さを確かめるようにウエストから上へと這わされて、それだけで息が甘く熱くなった。
「ゆ……祐樹……、そこは……」
 唇を僅かに離して、ずっと布地を甘く疼いて押し上げていた尖りを強く触れて欲しいような、いや触れられたら後戻りが出来なくなりそうな二律背反した気分のまま言葉を紡いだ。
「聡が私を愛して下さっているからでしょう……。もちろん同じ量を私も聡に抱いていますから。
 こんなに可憐に尖らせて、指で愛さずにはいられないです」
 ワイシャツの上から尖った部分を優しく摘ままれただけで背筋が反るほどの甘く激しい快感がルミナリエの緑や青の光りのように灯った。
「ゆ…祐樹。とても……悦いのだが……それ以上触れられると……。あっ……」
 祐樹の首に縋るように腕全部を回してしまったのだが、逆にそれが更に密着の度合いを深めてしまっていた。
「聡の素肌は私の指に敏感ですよね、相変わらず。その方が私も嬉しいですが。
 それに呑んだのはビールでワインではないですよね」
 祐樹の指が精緻かつ大胆に動いて側面部を左右から弾いた。
「あ……。祐樹……本当に……止まらなくなる……。キスだけで……。
 ワインが……どうかした……のか……」
 甘く溶けた声を自覚しつつ必死に理性を保とうと最後のあがきのような声を出した。
「ワインはね、催淫剤の作用が有るらしいですから」
 祐樹の熱く低い声に背筋が甘く溶けて行きそうだった。それに祐樹の指で触れられていない尖りも先程より布地を強く押し上げては不満の疼きが灯っている。
「……祐樹の存在が……私にとっては催淫剤で……。これ以上は……。あ……」
 尖りへの愛撫だけで反応してしまった下半身を自覚して、薔薇色の気分で途方に暮れた。












 
【お詫び】
 リアル生活が多忙を極めておりまして、不定期更新になります。
 更新を気長にお待ち下さると幸いです。
 本当に申し訳ありません。
 お休みしてしまって申し訳ありませんでした。なるべく毎日更新したいのですが、なかなか時間が取れずにいます……。
 目指せ!二話更新なのですが、一話も更新出来ずに終わる可能性も……。
 なるべく頑張りますので気長にお付き合い下されば嬉しいです。
 




        こうやま みか拝

気分は下剋上 ルミナリエ編 10

「本当に綺麗だ……。光りの芸術建築と称されているのが良く分かる。
 荘厳さと軽快さの調和が見事だな……。本来が道だということを忘れてしまいそうになる」
 感嘆のため息を零しながら祐樹に告げると、その極上の煌めきよりも自分を魅了して止まない太陽のような笑みが返された。
「そう仰って下さるとお連れした甲斐がありますね。
 高速道路――まあ、こちらは飾りというよりも実用ですが――の反対車線のテールランプとか明石海峡大橋のように首飾り的な美しさりも、精緻な芸術品のような光の道路はこの期間限定なのも稀少価値が増していますから。
 それに毎年違った光の祭典を楽しめるようにマエストロが工夫してくれていますからリピーターが多いようですよ」
 他の人の迷惑にならないように石の階段から少し離れて、唐揚げとビールを楽しみつつ見事な光の芸術に二人して見入った。
 唐揚げも祐樹が振ってくれた塩と胡椒、そして片栗粉――だろう、多分――が効いて美味しかったし、こんな豪華な光の饗宴を見ながら呑むビールの味も格別だった。
「来年も来たい、な。テレビで観るのとはまるっきり違うので」
 教会の鐘――多分鎮魂のために鳴らされるような感じだった――が荘厳さをよりいっそう深めてくれている。
「承りました。一見の価値は有ると聞いていたのですが、それ以上ですからね。貴方が気に入って下さったのであれば毎年でもお連れします」
 祐樹の眼鏡越しに輝く瞳が普段以上に怜悧さが際立っている。それに前髪を上げているので、よりいっそう大人びた誠実さが秀でた額とか全体の雰囲気からも大人の色気のように立ち昇っていて、眩暈がしそうなほど魅力的だった。
「この辺りは順路というわけではないので好きに散歩出来るようですよ」
 精緻で洗練された光の壁の芸術で囲まれているとはいえ、元々が公園――と言っても子供が遊ぶためのものではなくてこの辺りにオフィスの有る人達が昼ご飯とか気分転換に訪れる場所のようだったが――なので先程のような規則正しさは要求されないらしい。
「寄付をしないと次回の開催が危ぶまれる……?」
 パネルの文字を見て思わず立ち止まってしまった。
「最初は企業の後援も有ったようですが、最近ではそれも減額されてしまったようで市民一人一人の応援が必要みたいですね」
 ポケットから財布を出して思わず一万円札を入れてしまった――妥当な金額かどうかは全く分からなかったが、無いよりはマシだろうし来年の開催への期待を込めて――その様子を隣に佇んだ祐樹が唇に甘い笑みを浮かべて見守ってくれていた。
「では私も来年一緒に来られるように祈りを込めて」
 祐樹も財布を取り出して同じ金額を入れてくれた。
「絶対に来よう、な」
 祐樹がコートに包まれた腕を掴んで少しだけ身体を引き寄せてくれた。
「指きりげんまんでも致しましょうか?」
 祐樹の――見た目よりもずっと柔らかいことをこの素肌が知っている――唇が甘い笑みを浮かべている、少し悪戯っぽい感じで。
「流石にここでは恥ずかしい……」
 時間をずらしたせいで大混雑と表現は出来ないものの、それなりに人は居たので。
 大きな教会の鐘の音が合図のように響き渡った。
「絢爛豪華かつ厳粛な光の祭典は堪能したので……オフィス街の方に行こう……か」
 瞳の奥にはまだ芸術のような光が残っているものの、素肌は祐樹の存在こそを求めていた。
 それに先程通り過ぎた階段を少し離れると本当に人が居ないのも確認済みだったし。
「少し待って下さい。ビールを最後まで呑みたいので……」
 祐樹らしい発言につい笑ってしまう、好意的な感じの笑みで。
 ただ、最後の一個の唐揚げを自分の唇に花束のような恭しさで運んで食べさせてくれた後にスマホを取り出して画面を弄りながらビールを呑んでいるのを横に立って見ていた。
 祐樹の言っていたように、観光客ではなくて会社帰りと思しき人達も多数居てそういう人はスマホで写真撮影ではなくて画面で何かを確認しているのでそう不自然ではなかったが。
「貴方は画像を撮らないのですか?」
 気を紛らわせるように祐樹が聞いてくれたが、黙って首を横に振った。
「スマホになまじ残しておくと、頭の中の祐樹との宝石のような記憶を溜めておく宝石箱の場所に収まらない惧れが有るから」
 機械を信頼していないわけではないのだけれど――というか医療用の機械がなければ仕事にならない職業だ――祐樹との想い出は自分の脳で覚えておきたいのも本音だった、脳を含む肉体全てで。
 祐樹の極上の笑みが更に甘みを増して自分を優しく包み込んでくれるようだった。
「では、あちらに参りましょうか……愛を囁きに」
 祐樹の低い甘い声に背筋に青色の細い稲妻が奔って微かに肌を震わせた。先ほどから布地に擦れて熱く甘く存在を告げる胸の尖りがより鮮烈に疼くのを自覚しつつもまだ会場に居たので必死に平静な表情を繕った、完全に隠し切れている自信はなかったが。












 
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        こうやま みか拝

気分は下剋上 ルミナリエ編 9

 祐樹のとても楽しそうな笑顔がルミナリエの光りよりも眩しく輝いていた。
「屋台もお好きですからね……。綿菓子ですか、リンゴ飴ですか?ああ、地元ですから神戸牛が――と言っても看板に偽りアリが屋台なので……本物でない可能性の方が高いですけれども――お目当てですか?」
 ノットを緩めたネクタイ姿――そういう格好は見たことがないのでとても新鮮だった――と男らしい長い指でビールの缶を傾ける姿も本当に会心の契約を取った敏腕営業マンのようで、心が春風を受けた波のように穏やかにざわめいた。
「流石にこの恰好で綿菓子とかリンゴ飴を食べる勇気はないな。たこ焼きとか産地偽造の神戸牛ならともかく」
 唐揚げを口に放り込んでからビールを呑む。その取り合わせもとても美味しくて、会社帰りのサラリーマンだかビジネスマンが――その区別が自分には分からなかった――家路へ向かう途中で嗜むのも分かったような気がした。
「確かにその恰好では流石に無理がありますね、リンゴ飴」
 不意に腕を掴まれて二人の距離が更に縮まった。
「しかし、リンゴ飴で紅く染まった唇を拝見するのは大好きですよ」
 耳元で囁かれて背筋を甘酸っぱい電流が奔って、アルコールのせいではなく素肌が紅く染まってしまっているのを自覚した。
「祐樹が唇で取ってくれるなら……それも有りかも知れない、な」
 祐樹にだけ聞こえる程度の声で返した後に視線を光の頂上――というか屋根部分――へと転じた。
 雪が降ったらもっと綺麗だろうにと思いながらも、祐樹の楽しそうな小さな笑い声が輝いて光の芸術品によりいっそうの彩りを添えるようだった。
「ほら、もう少し先にこういう屋根付きの門のような形ではなくて、壁状の光りの芸術が円形になって並んでいる場所が有りますよね。
 そこが一応の終点で、その道路を挟んだ場所に屋台がたくさん並んでいます。
 ああ、あそこは普段は公園だそうです。そして……」
 祐樹が掴んでいた腕をよりいっそう引き寄せて耳朶に唇を触れんばかりにしてくれた。
 周りの人が誰も注目していないのを素早く確認して――祐樹もそういう点は抜かりはないものの――耳に全神経を集中して次の言葉を待った。
「公園の反対側は銀行などのオフィス街で夜は誰も居ません。愛を囁く穴場です、よ。
 熱烈に愛の言葉を言葉でも、そしてお望みならそれ以上……」
 低く掠れた甘い声が脊髄に熱を孕んで急降下する。朝から昼にかけて入念に愛された記憶が素肌に色濃く残っていた残り火が急に燃え盛ったような気がする。
 胸の尖りがシャツを押し上げてしまっていて、歩く度に布地に擦れて甘い疼きと痛みを感じた。
「それはネットの情報か……。それとも口コミ……?」
 身体に宿った熱をどうにか散らそうと「現実的」なことを必死で考えた。
「ネット発の場合は、それを見た人間が集まってしまうという弊害が有りますから、当然口コミです。
 それも最も信頼できる森技官発の情報ですから確かです」
 祐樹の指がコートの襟をさり気なく立ててくれた後に軽く耳朶を噛んだ。
 背筋を奔る甘い毒のような電流に身体が反りそうになるのを必死で耐えたものの、胸の尖りは布地に擦れて、横の光りの柱の一つの光りの飾りのように小さいながらも確かな存在感を発揮していた。
「ゆ……祐樹はどちらが望みなのだ……」
 甘く乱れた声に惹かれたように耳朶の後ろ側の薄い肌まで舌が掠めていく。
 耐えきれずに背筋を細かく跳ねさせると、祐樹の甘く小さな笑みが濡れた耳朶やその後ろを紅色に染めている。そして尖った二つの胸の尖りが布地をさらに押し上げて紅色の悦楽を微かに訴えている。
「聡が決めて下さい……。ここに来たいと仰ったのも聡ですから……」
 低く掠れた声が、夜の闇を圧して圧倒的に煌めくこの会場の光りの建築物のように圧倒的な確かさで耳朶に浸透していく。
「……公園まで行って……その後は……オフィス街……」
 一気に朝の行為の余韻がルミナリエの光りの芸術よりも色鮮やかに素肌に蘇ってきたような気がした。
「畏まりました」
 祐樹の声も低くて濡れているような気がした。それに名前で呼ばれる時は、愛の交歓の前後だというのも二人だけの暗黙の了解だったので、祐樹もどこかでスイッチが入ったのだろう。
 道路部分の突き当りには石の階段が有ってそこを上るとメイン会場らしい。足元がやや暗いのを祐樹が腕で支えてくれたのもとても嬉しくて心がビールの泡のように弾けた。
 階段を上り切ってそう広くない円形の公園の周囲全体が光の壁に覆われているのも絶景だった。
「後ろを振り返って御覧になって下さい。光りのペーブメントみたいでとても綺麗ですよ」
 二本目の缶ビールを手渡してくれながら祐樹が誘ってくれた。
 言われた通り振り向いて感嘆のため息を漏らしてしまう。あまりにも精緻で華麗な光の芸術が、歩んで来た時のように断片ではなくて全面が露わになったので。











 
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        こうやま みか拝

気分は下剋上 ルミナリエ編 8

「ん、とても美味しい。確かにビールに良く合う味だな。塩と胡椒の味も絶妙だし。
 そう言えばこのコンビニは柚子胡椒も絶品だった。素材ではなくて調合の割合に力を注いでいるのだろう」
 人前で――いや祐樹とのプライベートな愛の交歓でも、ネクタイを完全に解くことは有っても――ネクタイのノットを中途半端に解くということはなかったので、そちらもとても新鮮だったし何だか本当に厄介な仕事を終わらせたサラリーマンのような気がしてくる。
「揚げかたも工夫しているのでしょうね。カリッとした歯触りに拘って。
 貴方の唐揚げの、外は歯ごたえと丁度良く焦げた感じで、その内部の肉のジューシーさには及びませんが、スナック程度に食べるのにはちょうど良いかと思います。
 お気に召して下さって良かったです」
 コンビニは当然ながら光のアーチの外側にあるので、黄色を主体とした赤や青の光の柱しか見えないが、それはそれで綺麗だったし教会に流れるようなクラシックの曲ではなくて鐘の音とかパイプオルガン――だろう、多分――の荘厳な音色が鎮魂に相応しいしめやかさと、復興に向けた――といっても神戸の街は完全に蘇っているが――意気込みを感じさせる音色がどこからともなく聞こえてくるのも非日常を感じさせる。
「このスペースで全部食べきってしまわずに、そぞろ歩きをしながらアルコールと唐揚げを楽しみましょうね」
 ついつい手が唐揚げを摘まんでしまって唇に放り込んではビールを呑むという――塩味とビールは本当に良く合うので――動作を繰り返していると、祐樹が満足そうに笑いながら制止の声を掛けてきた。
「あ、しかしビールも殆んど呑んでしまったし、唐揚げも二つしか残っていない……」
 こういう場所で味わうスナック菓子のような唐揚げは「止められない、止まらない」とのキャッチコピーだか歌詞を彷彿とさせる吸引力が存在している。
 祐樹がカシミアのコートに包まれた広い肩を竦めて「もう一度同じものを買って来ますか?」と優しい輝きに満ちた眼差しで自分を見下ろしてくれて、その包み込むような視線に愛されている実感に魂までがルミナリエの荘厳な光よりも煌めいているようだった。
「この唐揚げだけでなくて、串に刺したスパイス入りのも頼む。そしてビールも」
 テレビの画面で見るよりも綺麗な光の建築物だと心の底から思えるのは祐樹の瞳の輝きとか存在の全てが自分の身体だけでなく魂までが煌めきに満たしてくれているからだろう。
「それとも今度は私が買いに行った方が良いか?」
 コンビニの店舗の周辺を見回すと郵便局のロゴマークがはためいている。どうやらそちらでも何か売っているらしい。季節からして年賀状の販売かとも思ったが、それだけにしてはそちらに集まっている人数が多すぎる。
「いえ、私が行って参ります。あちらの郵便局のスペースが気になっている模様ですし。
 ルミナリエの記念切手とかを売っているようですよ。あちらを覗いて来られたら如何ですか?万が一見失ったらスマホを鳴らしますので」
 呉先生のライ○を見たせいで祐樹ともメールではなくてラ○ンで連絡を取った方が既読かどうか分かると判断して買い換えた。
 アカウントは本名で取得したので、スマホには厳重にロックを掛けていたが。それに同じ携帯会社だったら適用される「恋人割引」という特別扱いも嬉しかった。割引はどうでも良いものの何だか公的にも「恋人」と認められたようで。
「分かった。ではそちらを見てくる」
 350mlの缶ビール程度で酔う体質ではないものの、会場の雰囲気とか祐樹の優しさとか存在のせいで頭の中が桃色の酩酊感に霞んでいるような気がした。
 郵便局のスペースで一番賑わっているのはやはりルミナリエの記念切手だった。年賀状も売っていたものの、普通は最寄りの郵便局で買うだろうし、自分に至っては病院で一括購入し、印刷までしてくれる――あくまで公的というか儀礼的なやり取りに関しては――なので全く必要性を感じない。
 ちなみに祐樹のお母様には近くの郵便局で購入した年賀状に手書きで新年の挨拶を書いて送っている。
 記念切手も購入しようかどうか迷ってしまうが、使い道が見当もつかないので躊躇ってしまっていた。
「記念切手ですか?一シートはここに来た記念に、そしてもう一シートは母に毎年送って下さるクリスマスカードとか野口陸士に送るお手紙に使えるでしょう……。
 買った方が良いとは思いますよ。母にはデートでルミナリエを見に来た――あの人もニュースなどで存在自体は知っていると思いますし――野口陸士は切手よりは貴方からのお手紙の本文の方が励みになるので気が付かないかもしれませんが、使い道は有ると思います」
 背後から暖かな感じの祐樹の声がして、唇に笑みを浮かべて振り向いた。
「そうだな…お母様も喜んで下さるなら買っておく」
 切手のシート――特に台紙などはなくて直ぐに折れ曲がってしまいそうだったので――仕事帰りのサラリーマンの必需品でもある鞄に大切に仕舞った。
「では、遊歩道というかメイン会場に戻りましょうか」
 祐樹の腕から唐揚げが入っていると思しきコンビニの袋を自分の手に移した。唐揚げなどの温かい食べ物とビールなどの冷たい飲み物を別の袋に入れることは常識だろうから。
「屋台がずらっと並んでいないのはこういう催し物では珍しいな。美観の問題なのだろうか?」
 屋台で食べる――味はともかくとして、祐樹が居てくれるのは大前提だったが、その場の雰囲気とか屋台でしか売っていない物も大好きだったので――そう聞いてみた。
 黄色や赤、青のアーチを二人してくぐりながら、ビールを呑むという非日常に心が満たされては弾む気持ちのままで。











 
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        こうやま みか拝

気分は下剋上 ルミナリエ編 7

「布引の滝はロープウェイでは行けないのですよ。だから遠足気分での徒歩になりますね。滝そのものはとても優美で繊細な趣きですので歩くだけの価値はあると思います。
 六甲山系の自然に囲まれた感じでハーブ園の割と人工的な感じとは異なりますが、それはそれで楽しいかと思います。行くなら春から初夏にかけてが一番良いかと思いますが。冬は雪が降ってきたり強風が吹いたりと自然の厳しい一面を味わうリスクが有りますので」
 神戸三宮は関西では三本の指に入る中心地でもあるが、大阪や京都と異なってすぐ傍に山がある点が他とは異なった情緒を垣間見せてくれる。
「夏は延び延びになっていたセミの羽化とカブトムシやクワガタ採集でもこちらに来るのだろう?どれもとても楽しみだ」
 ルミナリエの点灯時刻にはわざと遅れて来たとはいえ、人の流れは一点集中している感じなので、その人ごみの中に混じってゆっくりと歩みを進めた。
「車で来なくて正解でしたね。駐車場――多分このビルが最寄りだと思いますが――も空車なしというボードが立っていますよ。停める場所を探してあちこちうろうろしていたら、あっという間に消灯時間になってしまいますので」
 商業用のビルなどは普段通りに営業しているのに、多数の人だけが観光客速度で歩いているというのも、日常と非日常が交じり合っている感じが新鮮だった。
 ただ祐樹と一緒にどこかへ出かけるだけでも楽しいのに、今は秀でた額が最も綺麗に見えるように前髪を上げて伊達眼鏡をかけたスーツとコート姿という、普段では見られない格好をしているのだから尚更だった。
 行楽客が見込める催し物がある場合、普通はその周辺に屋台が並ぶものだと思っていたが、どうやらこの場所ではそうでもないらしい。そういう点も含めて別世界に二人して迷い込んだようで面白かったが。
「道全体だけでなくて上の空間までが黄色く細かい光だけでなくて青色も散りばめた聖なる建物の中に居るようだ……。
 テレビの画面から判断してキラキラしているだけかと思っていたが、厳粛さとか荘厳さが教会のような感じだな。とても綺麗だ」
 ルミナリエの「光の洪水」の遊歩道は本当に「光の建築」とも呼ばれるのに相応しい精緻な煌めきで道路全体を異世界に変えている。
 同じような感想を皆が述べ合っているので、あながち間違いではないのだろう、自分の主観も。
 その光のアーチの中を二人して歩む、ごくごく自然に指を絡ませたまま。
 皆が上や横の見事な光の演出に見入っているので、気付かれることもないだろうと思って絡めた指を更に根元まで繋ぎ合わせて感動を微かな指の動きでも伝えた。
「元来の意図は阪神大震災の鎮魂と復興のためというものでしたから、こういう教会めいた光の建物――といっても芸術品みたいですが――になったようですね。
 計算されつくした光の大聖堂といった感じでとても見事ですよね」
 隣をゆっくりとした速度で歩む祐樹の瞳の輝きの方が自分にとってはよほど嬉しかったし、朝食前に祐樹に求められたことも。
 光のアーチが等間隔に設置されて、黄色や青などの計算され尽くしたと思しき見事な煌めきの中を二人してゆっくりと歩くのもこの上もなく心が時めいてしまう。
 中間地点――今更ながら気付いたが――ルミナリエの細かな照明が芸術作品の煌めきで光を放っている以外に普通にあるビルなどの照明は全て消されている。
 多分、この道路ではこの催し物の最中にはこぞって協力しているのだろう。
「へえ、珍しいな……コンビニの看板とか店舗外側のライトも消えている。
 営業はしているようだが……」
 奇しくも祐樹が最も気に入っているコンビニエンスストアだった。店内では明かりが灯されているし、店員さんも、そしてお客さんも多数居たので。
「入ってみますか?貴方にも召し上がって頂きたいものがありますし」
 祐樹が自分に食べさせたいものとは一体何だろうと思いながら、絡めた指を名残惜し気に離して、それでも手の甲はさり気なさを装って密着させつつコンビニの自動ドアをくぐった。
 祐樹は勝手知ったるという感じで――実際同じコンビニチェーン店には行きつけなので商品陳列の仕方もほぼ同じなので間違えようもないのだろう――ビールの缶を一つ手に取っている。
「貴方はソフトドリンクにしますか?それとも同じモノを?」
 祐樹が好んで呑むビールの銘柄ではなくて少しだけ価格の安い物を手で掴んでいる。
 多分、祐樹なりの目論見が有るハズなので、自分も同じものを手に取ったら祐樹の輝く眼差しが満足そうな笑みを浮かべている。
 そして他の商品には見向きもせずにレジへと向かった。
 「召し上がって」と言っていたのでビールだけが目的ではないハズなので内心首を傾げながら祐樹の後に続いた。
「この唐揚げと……。
 貴方は何か他に食べたいものは有りますか?」
 祐樹が指を指して店員さんに注文していたのは紙パックに入った一口サイズの唐揚げが6個程度入っている物だった。
 特に食べたい物はなかったので――ちなみにここのカニクリームコロッケは全く美味しくないことも知っていた――「同じものを」とだけ告げた。
「いや、一度してみたかったのです……。厄介な仕事を終わらせた帰りに「自分へのご褒美」と唐揚げとビールを帰宅途中に買って歩きながら味わうというのを。サラリーマンごっこみたいで楽しいかと思います」
 祐樹がネクタイのノットを緩めながら、唇に笑みを浮かべている。
 職場と自宅は目と鼻の先だし、ビールの自販機もコンビニも通勤路にはなかったし、祐樹は疲労をアルコールで誤魔化すタイプでもない。
 だから、営業の仕事をしているサラリーマンになった積もりで――雪が降ったら更に綺麗だろう――この光の建築物の下のそぞろ歩きを楽しむ積もりらしい。
 再び光の洪水のようなペーブメントを歩みながら恋人に倣ってネクタイのノットを弛めて祐樹ご推薦の唐揚げを味わうべく、先にビール――これも「大衆的な」サラリーマンごっこの積もりでセレクトしたに違いない――のプルトップを開けた。
「そうだな……。唐揚げも美味しそうだ」
 祐樹が全て支払ってくれた上に、ビールは自分が、そして温かい唐揚げの入った袋は祐樹が持っている。
「ああ、少し待っていて下さいね。この唐揚げに塩コショウを振らなければ……」
 祐樹がごくごく小さなシートを開けて美味しそうな香りと幸せの象徴のような湯気を立てる唐揚げに注意深くスパイスをかけてくれる甲斐甲斐しさにも見惚れてしまっていた。
「はい、貴方の分です。貴方の手作りには足元にも及びませんが、こういう場所で食べるには打ってつけだと思いますよ」
 唐揚げの紙パックを受け取って代わりにビールの缶を手渡した。
 指が触れる一瞬も忘れられない記憶になりそうだった、光の絢爛豪華なしめやかさも手伝って。











 
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