「ほう、具体的には?」
西野警視正の興味深そうな声が車内に響いた。
「一点目は、スライド式の本棚にぎっしりと並んだ本の題名から考えて、あ!もちろんスライド式なので、隠れている所までは分かりませんが、生物学・薬学の専門書が7割で法学関係が3割といった感じでした。
オレ達と同様に現役の法学部生なのに、少なすぎるなと思いました」
幸樹が本棚にさり気なく注意を払っていたことは知っている。
「なるほど……。本棚を見ればその人物が興味を持っていることが分かるし、趣味嗜好も大体が把握出来るからな……。法律関係の本よりも生物学や薬学にまだまだ未練があるということか……」
西野警視正は相変わらず飄々とした口調だけれども感心したような響きも混ざっている。
「流石にスライド式の奥に隠されている本までは分かりませんが……」
横に座った幸樹の広い肩が面目なさそうに竦められている。
「いや、奥に収納する本は一般的にさほど読まない本か、それとも……人に見られたくない本とか雑誌だろうね。
例えばアダルトな物とか。大野だって未だ28歳だろう?Hなことが自分でもしたい盛りの高校生の頃よりはマシだろうがまだまだ枯れてはいないお年頃だ……。
幸樹君は下宿だろう?大野と異なって友人が遊びに来る機会も多そうだし、その手の雑誌は巧妙に隠しているのだろうが、大野はそもそも友達が居なさそうな感じだったので『不用心』にスライドの奥に隠していても全くおかしくない、な」
「その手の雑誌」が妙に意味有り気に聞こえるのは被害妄想ってヤツかもしれない。幸樹は俺と、そのう……「初めてのHをするために」とその手の人が集まる新宿二丁目までわざわざ出向いて怪しげなお店の親切な店員さんからお勧めのハウツー本を買って俺との初めての夜に備えてくれていたらしい。
……そんな夜が来ないかも知れないにも関わらず。
その雑誌は俺も見たことはないんだけれども、女性のヌードとか男女の絡みなどの雑誌やDVDとは異なって絶対に他人に見つかってはダメなやつだと思う。
大野のようなボロアパートじゃなくて、防音対策もそれなりに施してあるマンションに下宿している男同士でエロいDVD鑑賞会なんてものが開催されているらしいんだけど、そういう誘いに幸樹は嫌な顔をしていて……今思えば嫉妬なのかな……誘われても行ったことはない。
そういうのを堂々と開催出来るツワモノだったら、大人のための雑誌やDVDを隠すことはしないだろう。
けど、幸樹と俺のようなある意味特殊な関係とか、大野の「アカデミックでございます!!」と自己主張しているような人間は普通隠すだろうな。
「少し……窓を開けて良いですか?風に当たって気分転換したいので……」
赤くなってしまった頬を自覚して、せめて高速道路の強い風で頬の赤みを消したい。
幸樹の指は「気にするな」っていう感じの信号を伝えてくれていたんだけれども……。
「勿論構わないよ。
で、幸樹君、二点目に気になった点とは?」
西野警視正は「その手の雑誌」と発音した時とは異なって真剣そうな響きを飄々とした声に混ぜている。
「こちらの方がより重要かと思いますが、スライド式の本棚の厚みが浅いように思いました。奥の方ではなくて、前面のが、です。
オレも大野と同じ本を持っています。当然ですよね。講義に使う教科書は担当教授が執筆した専門書なのですから……。
大野と同じ講義も当然有ります。
そして本棚も似たような規格品なのに、何故かオレの本棚には余裕で入って棚に隙間が出来る本がぎちぎちの状態で並べられていました。
それで計算したのですが、本棚の前面部分が2センチほど足りないのではないかとの結論に至りました」
幸樹ってやっぱり凄いな。俺だって同じ本を持っているんだけど、そんな細かい点には全く気付かなかった……。
「あの!部屋に微かに臭っていたヘンテコなのって……。龍角散というのど飴?お薬みたいなものを燃やしたらあんな臭いになると思うんですけど……。実際に燃やしたことがないので……あくまで推測なのですケド……」
幸樹のように理論立てて推理することは俺には出来ない。けど、直感は割と当たると幸樹が褒めてくれるんだけど、今回はあまり自信がない。
「なるほど、生薬を燃やした後ということだね?遼君が言いたいのは……。
大野も『生薬』という言葉に強く反応していたように思う。
ただ、室内には燃やした跡などなかったな……。
蛇足だが、今の法律では素人が物を外で燃やす行為自体を禁止している。
ま、ウチの署の管轄内でも庭で落ち葉など焚火をしているご老人が居るがね……。
昔はそういう法律もなかったので不法行為と知らずにしている人が大多数だから一回目はなるべく温厚そうな警官を向かわせて注意をして終わらせる。二回目は厳しく注意をするようにしている。
しかし、あんな昭和臭たっぷりの、しかも砂利だらけの敷地で焚火でもしていたというのは考え辛いのだが……」
幸樹は何だか運転席に座っている西野警視正を皮肉めいた感じで見ていた。
何か考えがあるのだろう。
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