腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

気分は下克上 夏

気分は下剋上 週末編 5(I8禁)

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「とても……悦いです。聡のベルベットのような舌とか精緻な咽喉の締め付け具合は最高……なのは、言うまでもなく極上過ぎるのですが、今夜の聡は『そういう』状態なので……咽喉も口も震えていて、そのブレ具合が堪らなく悦い……です。唇や咽喉の圧迫感でお分かりかと思いますが……もう……」
 紅く染まった頬が妖艶なホオズキのように広がったりすぼんだりする様子も魅入ってしまうほど綺麗な煌めきを宿している。
 理知的な感じが強い怜悧かつ端整な容貌が妖艶な大輪の薔薇のような艶やかさに満ちているのも。
 祐樹が頂点を極めるのを急かすかのように、しなやかな指が二つの丸みを絶妙な指使いと強さで唆してくれているのも。
 大理石の白い場所が、二人を昂ぶらせる濡れた音と熱い息で濃厚な愛の空間へと塗り替えられたような感じだった。
「聡……。その大輪の紅薔薇のようなお顔に……、真珠の迸りを……ばら撒いても……構わないですか……」
 紅くけむったような眼差しがイエスのサインを送って来てくれる。
 祐樹が丹精込めて淫らに開花させた肢体とは裏腹に、魂の無垢さを象徴しているような無邪気な熱意を込めた唇とか舌の動きに身体だけでなく魂までもが沸騰しそうになる。
 注意深く腰を引こうとすると、先端のくびれ付近の裏側を熱いベルベットの舌が抉るように強く愛らしく淫靡な仕草で愛情の強さを切々と訴えてくるかのようだった。乾いた臨界点にずっと漂っている肢体は時折大きく震え続けているのに祐樹の愛情の象徴を大きく育ち上げようとする健気さもこの人の魅力の一つだ。
「あっ……熱いっ……」
 紅色に染まった滑らかな肌に真珠の放埓が滴り落ちていく、この上なく淫らでどこか高貴な風情の煌めきを見詰めながら乱れた息を整えた。
 紅く染まった唇の端に宿った小さな真珠の雫をより紅い舌の上に載せて消えていくのも邪気のない扇情的な光景だった。思わず感謝の接吻をしたくなるが、精緻を極める愛の唇の動きの後にキスを交わすことへの抵抗感を抱いている最愛の人の気持ちを尊重して自粛した。
「少しだけ……鎮まった。口とか……咽喉に……集中力を割いたのが……良かったのかと……。ただ、花園の中へ……祐樹を迎え入れたい……。心も、身体も祐樹自身で満たして欲しい」
 甘く掠れた声が薔薇色の言葉を健気に紡いでいる。時折震えては言葉が途切れるのも、乾いた絶頂が断続的に続いているからだろう。
 紅色に染まった怜悧で端整な顔に真珠の雫が無垢な煌めきを放って宿っているのもとても蠱惑的で眩暈がしそうだった。
「それは……構いませんが……。もう一度……その薔薇色に染まった唇で私の愛情と欲望の楔をその気にさせて下さいませんか……。
 薔薇の花弁に真珠を纏った聡のお顔は最高に綺麗で……物凄くそそられます。
 そのお顔でもう一度して下さったら、直ぐに元通りになりますので……」
 頂点を極めた余韻の残る低く掠れた声で告げると、最愛の人のしなやかな肢体が紅色の太刀魚のように大理石の上で跳ねた。
「分かった。
 祐樹の熱くて滑らかな愛情の証しを……口や舌、そして……咽喉全体で……で味わうというか愛するのも……、私にとっては……至福の時間だし……」
 目蓋までが瑞々しい紅色に染まっている。長い睫毛に涙の水晶と祐樹がばら撒いた真珠の慎ましい煌めきを二粒宿して煌めいているのも。
 それに、胸の二つのルビーよりも紅い尖りとか、育ち切って震えている先端部分から滴り落ちる水晶の煌めきも無垢な蠱惑に満ちて祐樹の目と魂を釘付けにするには充分以上だったので。
「聡の咽喉奥までの愛の仕草は……、何だか『聖なるもの』に奉仕しているような背徳感とひたむきさを感じさせて下さいます。
 散々申し上げているとは思いますが、本当に上手ですよね……。花園は濡れた厚く熱いシルクの趣きで私を包み込んで下さいますが、口での愛の行為は堅い箇所とかざらついた部分が精妙に当たって……また異なった最高の悦楽を与えて下さいます。
 それに今宵は口の中もよりいっそう熱くて溶けそうな熱と、聡の乾いた絶頂のせいで咽喉や舌が震えて……普段よりも更に悦かったです。
 それに紅色のお顔に真珠の雫を垂らしている今の聡の無垢さと妖艶さが精妙なバランスで彩って煌めいているので……、その壮絶に艶っぽい表情と、口の中の熱さをココで感じると、回復は直ぐだと思います……。少し身体の位置を変えますね……。私が触れて……また聡の乾いた絶頂が更に高まったら教えて下さい。
 涙を呑んで諦めますから……」
 少しだけ最愛の人の若干細いウエスト部分を捧げ持ってなるべく刺激しないように細心の注意を払いながら少し高い位置へと誘導した。
「その程度なら……大丈夫だ……」
 紅色の素肌に悦楽の涙の水晶と祐樹の放った真珠を宿らせたまま、濃い紅色に染まった唇がどこか切羽詰まったような言葉の花を咲かせている。
「そうですか。愛の交歓は熱烈に愛する人への、身体の全てを使ったコミュニュケーションですから……、最愛の聡に不快な思いは絶対にさせたくないので……。
 ベルベットの舌とか、私の愛情と欲情の証しよりも熱い口腔や咽喉で愛して下さい」
 紅色の唇が露に濡れた大輪の薔薇が盛りのように咲き誇った。
 そのまま祐樹の少しだけ反応している場所を愛おしげに頬で確かめてから唇を寄せていく。
「ゆ……祐樹っ」
 驚いたように涙の小さな粒で煌めきを放つ睫毛が扇のように花のように飾った切れ長の目が見開かれた。祐樹の指が白桃よりも瑞々しい双丘の慎ましやかな狭間を開いたので。










 リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
 
【お詫び】
 リアル生活が多忙を極めておりまして、不定期更新になります。
 更新を気長にお待ち下さると幸いです。
 本当に申し訳ありません。




        こうやま みか拝

更新出来ませんでした。

誠に申し訳ないのですが、今夜の更新はお休みさせて頂きます。
明日は……運が良ければ更新します。
楽しみにして下さった読者様には誠に申し訳ないですが、ご理解とご寛恕を賜わりますようにお願い申し上げます。


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「気分は、下剋上」<夏>290(最終回)

 ただ、今日の手技が――考えたくないが――万が一にでも外科医としてはある意味当然の黒木准教授のシビアな判断で「術者変更」を言い渡されても優先されるべきは患者さんの命そのものなのは確かだ。強行してしまって取り返しのつかない事態になった時の方が最愛の人の精神的なダメージ――何しろあれだけ膨大な執刀数で術死ゼロの金字塔の数字の持ち主だ――は甚大だろう、それこそ現役の外科医生命を絶ってしまいかねないほどに。
 その時には職業的というか公的な「外科医としての矜持」を根本から打ち砕かれてしまうと最愛の人の精神だけでなく赫々と輝く名誉とか権威も傷付いてしまう。
 祐樹とプライベートな関係性は時間と共に深まったことも実感しているし、最愛の人がアイツにレイプもどきのことをされたのがもっと早い時期だったら最愛の人は黙って祐樹から離れるとか……最悪命まで絶ってしまいかねないほどの衝撃だっただろう。祐樹の前でこそ奔放に乱れてくれるが、それは相手が祐樹だからで純潔とか貞操という観念を頑なに持っている人だ。
 望まぬ行為とはいえ――そして思い返す度に背筋に絶対零度の恐怖と怒りがこみ上げてくる、アイツに対して――肌を許すという行為自体が最愛の人にとっては「自分で自分を許し難く」思っていたし、実際厚労省の当時のナンバー2に唇を奪われた時ですらあれほどの狼狽振りだったので、あの時のような祐樹だけが「確か」だと思い込んでいた愛の時期でなかったのも不幸中の幸いだったと言える。
 プライベートな問題は時間をかけて再構築していくしかないし、多分最愛の人は精神が許しても肢体が「あの時」のことを想起してしまって、精神もそれに引き摺られてしまうだろうことは想像に難くない。純粋で無垢な精神性を――あんなに濃厚な愛の夜を重ねてきたというのに――保ち続けている人なので。
 手技は――密かにイメージトレーニングはしていた――祐樹が交代して成功させても、このスタッフなら絶対に口外しないだろうし、その上呉先生の診断書には「三ヶ月は手術不可能」と書いて病院長に提出済みで、その間に徐々にでも快復してくれるのを最悪の場合は待つしかない。
 皆が普段よりも更に張りつめた感じで黙々と準備を進めていくのに倣って祐樹も身支度を済ませた。
 「手術前カンファレンスの件は柏木先生から聞くように」との准教授命令だったが、分かりやすいレジュメと、そして何より術式自体も――多分黒木准教授が患者さんの順番を入れ替える時に考慮の一環にしてくれたに違いないが――数日前に最愛の人が行ったのとほぼ同じなので指や頭で既に覚えているので、万が一の、そして最悪の事態でもある術者変更に対応出来る自信は有った。
 所定の位置に背筋を伸ばして、そして消毒済みの手術用手袋をはめた後だったので手は高く上げたまま、執刀医の入室を待つ。
 普段なら一分もかからないし、その間は平静さを保つように努力すれば良いだけの時間だったが。
 その一分が永遠のような感じで、そして手術スタッフ全員が何かを祈るような重々しい静けさに満ちた緊迫した時間だった。
 専用のドアが開いて手を祐樹と同じように上げた最愛の人が凛とした静かさを浮かべた表情と、そして露出の多い手術着なだけにメスの切り痕も生々しい肌がとても痛々しく感じた。背後に手術着姿の黒木准教授を従えているのは予定通りだったが。
 手術台に横たわった患者さんを一瞥して、怜悧な瞳に僅かな狼狽とか気後れめいた光が宿った。
 手術スタッフは極力目を向けないようにしている――そのように黒木准教授から強く指示が有った――ので分からなかったかも知れないが、祐樹にはクッキリと見えてしまい、瞳に渾身の力を込めて最愛の人の目を直視した。
 大丈夫……怖がらないで下さい。平常心を保てれば絶対に大丈夫です。太陽のオーラが届きますように。
 そういった意味を込めたアイコンタクトを二十秒ほど交わすと、最愛の人が微かに頷いて怜悧で落ち着いた感じの瞳の煌めきに変わっていく。
「手術を始めます。バイタルは」
 落ち着いた凛とした声が手術室に響くと、スタッフ達から声にならない歓喜の雰囲気が溢れ出るのを肌で感じた。
 祐樹は――自分でもこんな精神状態になるとは思っていなかったが――恐る恐るといった感じで最愛の人のメスを握る予定の指に視線を合わせた。
 恐怖と祈りの混じった眼差しの先には「震えていない」指が揺るぎなく存在している。
 床に崩れてしまいそうな安堵の気持ちで最愛の人の指とそして怜悧さの際立つ端整な容貌を力付けるように眺めた後に指示を待つ。
「バイタル異常有りません」
「麻酔完了しました」
 スタッフ達の普段よりも緊張した感じの強張った声が手術室に響いた。
 祐樹としては――非常に気持ちは良く分かるものの――もう少し落ち着いた声を出して貰えないだろうかと心の中で注文を付けたが。
「では開胸に入ります。メス」
 道具出しの看護師――ちなみに柏木先生の奥さんだ――がツバメのような速さと正確さで祐樹最愛の人にメスを渡す。
 それをしっかりと受け取って、淀みも迷いもない指先が流水の流れるような繊細さと滝のような大胆さで精緻かつ巧みに動く。
 手術用の大きなマスクで隠された祐樹は密かに安堵のため息を零してしまったが。
 第一助手の務めをこなしながら――同時に何かをするのはもう慣れっこになっているので集中力が途切れることもない――お目付け役のように佇んでいる黒木准教授の表情を窺った。
 最初のほうこそ普段の温和さではなく厳しい外科医の表情と内心の緊張――多分祐樹が懸念した「公的」な部分は同じ思いだったのだろう――が透けて見える表情だったが、手術が滞りなく、しかも普段と同じ寸分の狂いない正確さと目まぐるしいまでの早さで進行するにつれて普段の温和さに戻っていく。隠せない疲労が滲んでいる程度で、マスクで覆われた口元は見えないのは当然だが、多分安堵の笑みを浮かべているだろうと思わせる表情だった。
「手術、無事完了しました。何か気が付いたことがあれば仰って下さい」
 鮮やかな手技とその終了の言葉は普段通りの怜悧さに満ちていたが、最愛の人のその言葉を聞いた黒木准教授が「香川教授、お帰りなさい。見事な手技でした」と感極まった感じで声を掛けたのを切っ掛けに、皆が歓喜の声を上げたり、涙を流したりしている。
 祐樹は最愛の人の少しだけ緊張の色を孕んだ眼差しに「お見事でした」という思いを乗せて瞳を光らせた。
 身体が安堵の余り床に崩れ落ちそうに、いや、歓びの余り皆とハイタッチをしたい気分や最愛の人の傍に駆け寄って抱き締めたい衝動などが次々と溢れ出て自分が何をしたいのかすら分からなくなる。
 普段は患者さんが手術室から運び出された瞬間に快い感じに弛緩した空気が漂う手術室だったが、今日だけは「香川教授の無事帰還の祝祭」とでも言わんばかりに、皆が声に出したり、大袈裟なジェスチャーでブラボーを形作りながら涙を零したりしている。
「患者さんを運び出して下さい」
 気持ちは充分分かったし、この祝祭を長引かせたいのは祐樹も同じだったが、患者さんが最優先されることは言うまでもない。
「はいっ」
 我に返った感じのスタッフが患者さんを乗せたストレッチャーを押して手術室から出ていく。その背中にも歓喜の情で弾けるような感じを漲らせながら。
「お疲れ様でした。……素晴らしい手技で……」
 胸の中には溢れているたくさんの言葉が、声にならないという歓喜が極まるとこうなるのだろうかと思いながら最愛の人の手術用手袋越しに握手を求めた。
「有難う、ゆ……田中先生」
 震えていない手を握って、安堵と満足の視線を絡めあっていると後ろで盛大な拍手が起こった。
「我らが香川教授、万歳!」
 柏木先生が疲労など吹っ飛んだような笑顔で音頭を取り皆が祝福の声を掛けてくる。その歓喜に満ちた祝祭のことを、祐樹は一生忘れないほどの万感の想いを込めて心に仕舞った。
                            <了>











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        こうやま みか拝

「気分は、下剋上」<夏>289

「それは……。あくまでも可能性の域を出ないと田中先生が判断していたからで、この件に関しては精神異常者という極めて特殊かつ配慮が必要だったこともあり、黒木准教授まで巻き込んでしまうと後々マズいと判断したからなのではないですか。
 黒木准教授のご尽力で何とかなると考えた場合、田中先生は迷わず相談しますよ。
 それにこの件は、私ですら打ち明けて貰っていなかった――いえ、事前に知っていたとしても結果は変わらなかったと心の底から思います――のですから」
 淡い笑みを浮かべてフォローに回ってくれた最愛の人の手は幸いなことに震えていない。
 手術室へ続く廊下を三人で肩を並べて歩いていたが――そして病院の習慣通り一番偉い人間が真ん中を歩くという点はその通りだった――ただ、祐樹は最愛の人にさり気なく手の甲が触れるようにと黒木准教授の反対側を歩いていた。教授総回診などでは「一番前」という慣習を「一応」守っている最愛の人が内心では順番などどうでも良いと思っていることも知っていたし、並んで歩く――まあ、普段は祐樹の方が遠慮して一歩下がって歩んではいた――ことにも全く抵抗がないのは言うまでもない。
 それに病院の玄関という最初の関門――普段だったら事もなげに通るだろうが――今の最愛の人には病院関係で心因性の手の震えが起こりやすいのはこの二日間で良く分かった。
 公園で甘えん坊の由美子ちゃんとか無邪気なキョウ君などと接している時の最愛の人は普段以上に寛いだ感じの無垢で涼しげな笑みを浮かべて丁寧に対応していたし。
 森技官が呉先生の意を汲んでどんな強烈なクレームを斉藤病院長に入れたのかは知らないが、この件で一番の功労者は間違いなく彼だろう。今までは単なる「ケンカ友達」だったが、これからは「信頼出来るケンカ友達」に格上げをしようと心の底から思った。まあ、相性が良いとはお世辞にも言えないので実際会えばまた口ゲンカは始まるだろうが、感謝の念が根底にある「ケンカ友達」という存在が居ても良いような気がする。それに森技官も祐樹の反応をある意味喜んで買ってくれる口ゲンカなので、掌を返したような対応をする方が彼の意に沿わないような気がした。
 最初の関門は難なく突破したものの、次は患者さんの前に出る時が問題かもしれないと思ってしまう。
 手術室の張りつめた空気とか独特の物々しい雰囲気や手術を待つ患者さんの前に実際出た時にはどうなるのかは未だ謎だった。
 その瞬間は、ある意味水に飛び込む直前の気持ちに似ている。飛び込んでしまえば後は泳ぐだけだが――最愛の人も祐樹もさして水泳に興味を抱いていなかったものの金槌ではない――その前の一瞬は「本当に泳げるのだろうか」とか色々なことを考えてしまうのが人間だし、感情表現が豊かでないとはいえ、最愛の人に感情がないわけではないことを祐樹が一番良く知っている。
 この手術を上手く、そして彼自身がイメージしているのと寸分違わずに手が動くだろうかなどと考えてしまうと手に震えが出て来そうな気がする。
「普段通りの貴方で居て下さることを望みますが、背後には優秀な部下が居ることを心に銘記しておいて下されば幸いです。では、手術室で」
 人の気配がないことを幸いに手の甲を強く押しあてて、強いて励ますような光を瞳に宿らせて最愛の人の怜悧さと無垢さで煌めく瞳を見下ろした。
 この先は教授専用スペースで――本来ならば黒木准教授すら入れない―ある意味「聖域」めいた場所だ。
「分かった。人事を充分尽くしたので、後は天命を待つだけだ」
 「祐樹のお蔭で」と言いたげな饒舌な瞳の煌めきは冷静さに満ちていた。そして感謝の念にも。
 強く押しつけ合った手の甲だけで揺るぎない愛と信頼のサインを密かに交わし合う。
「脳外科は手術延期の大混乱で、そして悪性新生物科の教授執刀はない予定ですので、教授用の控室は香川教授お一人が使える場所ということになります。ま、私もおまけで付き添いますが」
 黒木准教授が「心配するな」という感じの視線を最愛の人と祐樹に送ってきた。
 脳外科は手術どころではないのも聞いていたので知っていたし、悪性新生物科は手術室の魔人とも呼ばれる桜木先生の独断場なのだろう。ただ、当然ながら桜木先生も教授控室には足を踏み入れる権限は祐樹同様持ち合わせていない。
「では、私はここで失礼します」
 立ち去り難い思いではあったものの、最愛の人に全てを託した患者さんの命が掛かっているのだから、今の祐樹が出来ることは黒木准教授の「術者変更」という最悪の声が手術室に響いた時に即座に交代してつつがなく手術を終えることが出来るように――実は内心で最愛の人の手技に倣った、そして同じ術式をイメージトレーニングは充分済ませていた――心の準備をすることだけだ。
 そんな事態にならないように心の底から神様に祈りつつも。
 キリスト教徒が十字架を手に祈るように、最愛の人の手の甲だけではなくて、細く長い指をそっと握って最後の祈りを捧げた後にそっと手を離した。人の気配が全くない――ただどこもかしこも入念に磨き上げられている――教授しか入れない神聖な場所を後にした。
「よ、重役出勤お疲れ様」
 手術控室に入ると妙にハイテンションな柏木先生の声が迎えてくれた。
 ただ、彼の場合は疲労がピークに達するとこういう状況になるのは救急救命室勤務が共に長い祐樹にも分かっていたので苦笑するしかない。
「いえ、皆様こそお疲れ様です。そしてご心配をお掛けしました」
 控室に居た皆が祐樹に対して物問いたげな表情とか心配の眼差しを向けているのは病院の至宝とも呼ばれる最愛の人にずっと接してきたのが祐樹だけ――呉先生も居たが外科医ではないので――だからだろう。
「で、どうなんだ?教授の容態は……」
 救急救命医に最も向いている――つまりはある意味怖いモノ知らずの――柏木先生が恐る恐るといった感じで聞いてきた。
 他のスタッフ達も一様に疲労の表情を浮かべた顔で、しかもお通夜にでも参列しているような神妙そうな感じで祐樹の顔を窺っている感じだった。
「今のところは手の震えも治まっています。
 ただ、手術室に入室した後にどうなるのかは予断を許しませんが。ただ、第一の関門でもあった、病院の正面玄関を通る時に――密かに危惧はしていたのですが――も手の震えは出なかったのも事実です。なので」
 柏木先生が安心した感じで祐樹の背中や肩を叩いて来る。
「分かっているって。視線だろう、問題は。それは黒木准教授からも散々注意されているので大丈夫だ。
 正面玄関な、最初は病院長がお取り巻き達のお偉いさんと出迎える積もりだったらしい。少なくとも昨日の段階ではそうだった」
 柏木先生の言葉に背筋が震えた。病院長室に集められた人間で最愛の人が心を許しているのはアメリカから連れ帰った長岡先生と最愛の人の存在がきっかけで啓蒙、発奮して院内クーデターを完遂させた内田教授だけだろうし、それ以外の人に仰々しく出迎えられたのでは却って手の震えが出かねない。
「それが厚労省の局長を出すのも厭わない感じで、強烈なクレームが厚労省の室長様から入ったらしくてだな、腹黒タヌキが真っ青になっていたとか長岡先生が教えてくれた。
 厚労省には恨みしかないが、その室長様の配慮には正直感心したよ」
 室長の上司が局長なのは知っていた。森技官単体でも斉藤病院長に対して心胆寒からしめることは出来そうだが、敢えて森技官は上司まで――どうせ弱味の一つや二つ握っているのだろう――引っ張り出してのクレームという荒業というか離れ業を使ってくれたらしい。呉先生の意を汲んだ上で最愛の人にも「心が平穏な状態で」手術に臨めるように。
 柏木先生作成らしいレジュメに目を通しながら話を聞いていた。手術前カンファレンスを執刀医抜きで行うなど異例中の異例だが、黒木准教授のきめ細かい配慮の賜物だろう。
 このスタッフなら余計なことは言わないと信頼出来る人間ばかりが集められているのも。
 後は手術室の物々しい雰囲気に最愛の人の辛うじて立ち直った精神が耐えられるかどうかだろう。
 耐えて欲しいと心の底から祈りを捧げた。この手術で最悪の術者変更を告げられると、最愛の人の――血のにじむような努力に相応しい――外科医としての矜持が折れてしまいかねないので。












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        こうやま みか拝

「気分は、下剋上」<夏>288

「では、お先に行って参ります。ロックの方法は分かりますよね?」
 伊達に二日間をこのマンションで過ごしたわけでない呉先生は自信に満ちた表情で頷いている。
「もう一杯コーヒーを飲んでから私も出勤しますが、病院に着くのは私の方が早いかもですね……。行ってらっしゃい」
 キッチンの椅子に座ったままなのは少しでも長く二人きりにさせるための配慮だろう。これが最愛の人の精神的な状態が予断を許さないものであれば、呉先生も絶対に診について来ただろうから。
 手を深くまで絡めて廊下を並んで歩くのは普段通りで、そして玄関のドアの前で軽く口づけを交わした。
 今のところ指は普段と変わりなくて心の底から安心したが、病院に着いた時とか、患者さんを目の前にした時にはどうなるかは未だ分からない。
「お迎えの黒いお車は、玄関先に停まっております。お出になれば直ぐに分かります。今のところは一台しか停まっておりませんので。
 では香川様、田中様行ってらっしゃいませ」
 受付嬢が良く訓練された感じの落ち着いた声と営業用の笑みで見送ってくれた。
「行って参ります」
 普段通り怜悧かつ端整な表情と涼しげな声だ。そしてさり気なく重ねた手の甲からも震えは伝わって来ない。
「香川教授、田中先生お早うございます。斉藤病院長の指示でお迎えに参上致しました」
 初老の運転手は白手袋をはめた手でドアを開けてくれる。胸に名刺の大きさの職員証を付けていて、確かに大学病院のロゴが入っていたのは確かめた。
「お早うございます。ご苦労様です」
 最愛の人が会釈を返して車へとしなやかで機敏な感じで乗り込んだ。万事が派手好みの斉藤病院長だが、病院長公用車は国産と決められていると専らのウワサで、それを証明するかのように内装こそは特別誂えだったが、車自体はクラウンだった。
「へえ、自動車電話も付いているのか……」
 珍しそうに涼やかな目を見開いて革張りの車内のあちこちを見ていた最愛の人がふと気付いたように「震えていない」指でスイッチを押すとミラーガラスと思しき仕切りが運転手さんと二人を完全に遮った。
「病院長は本当に外部に漏れてはならない密談の時にこの車を使うと聞いているので、防音性も保証済みだ。
 それに窓ガラスも――本当は違法だとか聞いたことはあるが――こちらからは見えても道からは見えない仕組みになっているらしい」
 案の定朝の渋滞に巻き込まれた――といっても普段よりだいぶ早く出て来たので出勤時間には間に合うだろうが――車の中で座る距離を縮めて、お互いの身体がぴったりと寄り添うような形に変えて最愛の人の右手を両手で優しく覆った。
 「未だ」震えていない指がこの先も震えないようにと心の底から祈りを込めて両手に念めいた力を送り込む、気休め程度にしかならないことも充分承知の上だったが。
「祐樹……もう少しこのままで……」
 最愛の人の頭が祐樹の肩に載せられて気持ちの良い重みとシトラス系の薫りが匂いやかな肌から淡く漂ってくる。
「ええ、貴方が安らげるのであればいくらでも……。それにこの手には太陽のオーラを充分籠めておきますが、万が一日蝕のように陰ってしまったら、それは全て私の責任ですので、私が貴方の手の代わりをします。
 あくまで万が一ですが」
 肩に載った重みが不意に消えたかと思うと最愛の人の前髪も普段の出勤時と同じように上げた怜悧で理知的な容貌が大輪の瑞々しい花のような笑みを浮かべて唇へと近づいてきた。
「太陽のオーラを分けて欲しい。
 それに、祐樹の愛情とか優しさや根気強さなどはこの二日間、私をずっと励ましてくれているのは感じていたし、その御礼も兼ねて……」
 慎ましやかで触れるかどうかがギリギリな感じの接吻では何だか足りないような気がして強く唇を押し当てた。ただし、淡い紅色に艶めく唇の色は変えないように入念に注意を払ったが。
「祐樹、本当に有難う。そして」
 唇を僅かに離して言葉を紡いでいた最愛の人が言い淀む感じで言葉を切った。
「そして?」
 聞き返している間にどんどんと見覚えのある正面玄関が近付いてきた。
 名残惜しそうな感じで密着した身体を「普通」の距離を取って座り直す最愛の人の右手だけはずっと両手で貴重品――実際に最愛の人の指は貴重過ぎて値段も付けられないだろうが――を愛でるようにそっと動かしながら愛情と生気を注ぎ込むように撫で続けていた。
 今の祐樹にはこれ以外の方法はないような気がして。
 診察が始まる時間にはタクシーとか患者さんを送って来ただけの車も停めることが許されるスペースだったが、今の時間は病院長公用車しか停められないと聞いたことがある。
 そのウワサの正しさを証明するかのように正面玄関前には車の姿はなかった。
 ちなみに自動車通勤組も多いが、そういう人は職員用の駐車スペースが別に設けられているのでそちらに停めている。
 正面玄関の外側で――斉藤病院長が直々に公用車を出させたということはどんな出迎えを受けるのかは分かったものではないし、それが却って最愛の人の心の傷を抉ることにならないかと内心危惧していたが――白衣のまま人待ち顔といった感じで佇んでいたのは黒木准教授ただ一人だった。
 運転手がドアを開けてくれると、黒木准教授――この二日の激務を物語るかのように疲労感を隠し切れていない。その点心はともかく身体は充分休めた自分達の方が月曜日の朝に相応しい生気に満ちている――が安堵した感じで笑みを浮かべた。
「お帰りなさい、香川教授。病院長が合わす顔がないので医局の皆で出迎えて欲しいと仰ったのですが、それでは大袈裟になってしまうと判断して私が代表して出迎える役目を。
 田中先生もお疲れ様でした」
 真の関係を知らない黒木准教授は「教授の懐刀」とあだ名を奉られたし、プライベートでも仲が良いというウワサ――意図的に祐樹が流した――だけしか情報源がないのだろう。
「いえ、ご心配とご足労をお掛けしまして誠に申し訳ない気持ちです。え?執務室には寄らないのですか?」
 黒木准教授の決して長いとは言えない足は手術室へと向かっているようだった。
「手術前カンファレンスは先程独断で行い無事に終了しました。
 当然執刀医でもある教授と第一助手の田中先生とも共有するべき内容です。
 斉藤病院長から教授用手術控室の入出許可を頂きましたので、教授には私から、そして田中先生は柏木先生から責任を持って伝えます」
 外科医らしいテキパキとした口調ながらも温和さが滲み出ているのは黒木准教授の人徳の賜物だろうが、並んで歩きながらも気遣わしそうな視線を最愛の人の右手に向けているのもはっきりと分かってしまう。
 ただ、今のところ手の震えは出ていないし、それにこのまま――鞄の中かスーツの中に呉先生から貰った薬が入っているだろうから――の状態で手術控室に行けるのは幸いなことに違いはない。
「医局の束ねもして頂いた上に、こんな気遣いまで……。本当に有難う御座います」
 最愛の人が年上の部下でもある黒木准教授に深く頭を下げた。
「いえ、こちらこそ至りませんで……。
 田中先生、あらかたの話は柏木先生から聞きましたが……、今後このようなレベルの話であれば、私の耳にも絶対に入れて下さい。
 まあ、未曾有の事態ですので今後などないと信じていますが」
 蚊帳の外――意図したわけではなかったが――に置いてしまった己の未熟さを恥じた。病院長に直訴は考えた――そして沖縄に出張中という体たらくだったが――ものの、黒木准教授に対しても済まない気持ちでいっぱいになる。
「はい。今後このようなことがない前提ではありますが、万が一の時には必ず。
 申し訳ありませんでした」
 深く頭を下げた。医局の皆も心配で堪らなかっただろうが、連絡――遠藤先生暴発の危険という電話は貰ったが――もして来ずに皆が自分の出来ることを頑張ってくれていたのは黒木准教授の疲労が滲み出ている表情からも充分に察することが出来て自然と頭が下がってしまう。











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