「今度は裕樹の方に行ったな。早く逃げた方が良い」
花火の閃光よりも弾んだ声がより鮮やかに耳に響く。決して大きな声ではなかったものの、普段の彼よりも無邪気さに満ちて空間をラムネ色に染めていく。
「了解です。しかし、貴方がバランスを崩すだけのことは有りますね。すごい勢いと速さです、ね」
砂を踏んで花火から逃げるという幼心の帰ったような気がした。裕樹にはまだそういう「人並み」の夏休みの想い出は持ち合わせていたが、最愛の人にとっては「初めて」の体験だったので、経験値の差かもしれない。ただ、裕樹自身が最愛の人の寂しい過去を埋めて、上書き保存していけることの歓びの方が上回ったし、過去のことはーー最愛の人が聞いてくれば話は別だったがーー触れない方が良さそうなので敢えて黙っていたが。
忘れかけていた経験則と二個のヘビ花火の火薬の要領は大体掴めたので、次は最愛の人が上手く逃げられるようにだけは配慮して火を点けよう。
「次はきっと貴方の方へと断末魔の大蛇のようにのたうちながら閃光を放つように工夫致しますのでお気をつけくださいね。大体コツは掴めたと存じますが」
夜の海岸を全力疾走するという開放感に満ちた「初めて」も最愛の人には必要そうだったので。
「分かった。今度は自力で逃げられるように頑張るので」
怜悧な瞳で裕樹の手と花火を見つめている最愛の人の声は花火の煌めきよりも綺麗だった。
「海水浴の季節にもこの辺りにドライブランドデートして下さると約束しましたよね?蝉の羽化を眺めた経験はお有りですか?」
なるべくさり気なさを装って質問してみた。花火に気もそぞろな感じの最愛の人ーーただ、セミの幼虫は京都の街にもたくさん居たのでもしかしたら小学生とかの夏休みの宿題で多分会ったハズの自由観察がてら最愛の人も見ている可能性は有ったし、裕樹も救急救命室勤務の時に一人きりで休憩する隠れ家めいた神社の境内でもタバコを吸いながらたまに蝉の幼虫が地面から木に登る様子や羽化真っ盛りを慌ただしく見た記憶も有ったのでーーの過去をこの際聞いておく絶好のチャンスだった。
「夜は早く寝るのが習慣だったので、図鑑でしか見たことはないのだが。ああ、あとテレビのニュースに何故か羽化の様子が早送りされて放映されたのを観た記憶はある」
つまりは肉眼で見たことはないということだろうと心にメモして花火に火を点けた。
思惑通りに最愛の人の方へと閃光がうねって弾けるのを楽しそうに微笑みながら走る人のしなやかながらも無垢さが際立つ動作を見入ってしまったが。
「物凄く楽しかった。ただあんなに複雑にうねる花火の軌道計算が出来るのだな。少なくとも私には無理なのでーーもっとサンプルが多くてかつ逃げ回る手間がなければ計算式は立てられそうだがーーそうなると花火の楽しさが台無しになりそうなのでやめておくが、裕樹は凄い、な」
息切れと表現する程度ではなかったが、走った直後の普段よりも早い呼吸ーーベットの上などと異なって艶めいた蠱惑は全くないーーのが逆に心を揺さぶられる要因になってしまっていた。
そんな大層なシロモノではなくーー裕樹も一応は理系なので頑張ったら可能だろうが、そんな気はさらさらないーーただの経験則と二個の花火の傾向から分析しただけだが最愛の人に心の底から感動している賞賛の眼差しに無粋なことを言って水を差したくなかったので曖昧に笑った。理詰めで物事を考える人なことも含めて愛していたので。
「夏に再び訪れた時にはセミの幼虫を探しましょう。一番大きなクマゼミがお勧めですね。羽化したての妖精の羽のような儚さを是非貴方にも見せて差し上げたいですし。
もっとも、ベッドの上で甘く乱れる聡の肢体の方がさらに綺麗ですけれど。
ベッドと言えば、カブト虫やクワガタも夜に交尾をする習性が有るのでオスとメスを捕まえてきて、何かの容器に入れて観察がてらしつつ私達の愛の交歓を見せつけるというのも一興です、ね」
ヘビ花火の在庫が切れてしまったのを残念そうに眺めていた最愛の人の無垢な眼差しがさらに透明さを増した感じで煌めいた。昆虫が苦手という話は聞いた覚えがなかったので、多分喜んでくれるだろうと目論んでいたが図星だったようだ。
「セミの幼虫はーー病院内の木の枝に抜け殻が有ったのでーー捕まえることも可能そうだが、カブト虫やクワガタは夜の林とか森に樹液を吸いに来るのだろう?だったらかなり歩き回らないと不可能ではないだろうか?」
ゼミの知識も図鑑で得たのだから、カブト虫などの情報も同じだろう。裕樹も確か小学生の時に図鑑で見た覚えはあったが、伊達に田舎育ちはしていない。
「割と簡単に捕まえることは可能ですよ。特に車が有れば、ね。それに夏の宿泊先のホテルは山に近いのを選んでいいですか?自然に放して、そして短い一生ーーといってもクワガタは七年程度生きるらしいですがーーセミは七年も土の中で過ごして短い夏を過ごすと儚く終える一生なので流石に可哀想ですから」
花火の残り火のような笑みが灯台の灯りに朧に浮かび上がってセミの羽化したてのような瑞々しい繊細さが一際印象的だった。
「それもとても楽しみだ。クワガタやカブト虫を捕まえる裏ワザも有るのだな……。山に入るのではなく?」
線香花火が残っていたので、砂浜をサクサクと踏みながら指を深く絡めてゆっくりと歩くのも楽しかったし、その上最愛の人が感心した感じで見上げてくれたのでなおさら幸せだった。
「山には近付きますが、車から徒歩五分以内で見つかりますよ、カブト虫とクワガタ両方は保証しかねますが、どちらかの番いならほぼ100%見付ける自信はあります」
ピンクの薔薇のように清楚な感じで弾んだため息が最愛の人から溢れ落ちる微かな音が耳に異なった意味で心地よく浸透していく。
花火の閃光よりも弾んだ声がより鮮やかに耳に響く。決して大きな声ではなかったものの、普段の彼よりも無邪気さに満ちて空間をラムネ色に染めていく。
「了解です。しかし、貴方がバランスを崩すだけのことは有りますね。すごい勢いと速さです、ね」
砂を踏んで花火から逃げるという幼心の帰ったような気がした。裕樹にはまだそういう「人並み」の夏休みの想い出は持ち合わせていたが、最愛の人にとっては「初めて」の体験だったので、経験値の差かもしれない。ただ、裕樹自身が最愛の人の寂しい過去を埋めて、上書き保存していけることの歓びの方が上回ったし、過去のことはーー最愛の人が聞いてくれば話は別だったがーー触れない方が良さそうなので敢えて黙っていたが。
忘れかけていた経験則と二個のヘビ花火の火薬の要領は大体掴めたので、次は最愛の人が上手く逃げられるようにだけは配慮して火を点けよう。
「次はきっと貴方の方へと断末魔の大蛇のようにのたうちながら閃光を放つように工夫致しますのでお気をつけくださいね。大体コツは掴めたと存じますが」
夜の海岸を全力疾走するという開放感に満ちた「初めて」も最愛の人には必要そうだったので。
「分かった。今度は自力で逃げられるように頑張るので」
怜悧な瞳で裕樹の手と花火を見つめている最愛の人の声は花火の煌めきよりも綺麗だった。
「海水浴の季節にもこの辺りにドライブランドデートして下さると約束しましたよね?蝉の羽化を眺めた経験はお有りですか?」
なるべくさり気なさを装って質問してみた。花火に気もそぞろな感じの最愛の人ーーただ、セミの幼虫は京都の街にもたくさん居たのでもしかしたら小学生とかの夏休みの宿題で多分会ったハズの自由観察がてら最愛の人も見ている可能性は有ったし、裕樹も救急救命室勤務の時に一人きりで休憩する隠れ家めいた神社の境内でもタバコを吸いながらたまに蝉の幼虫が地面から木に登る様子や羽化真っ盛りを慌ただしく見た記憶も有ったのでーーの過去をこの際聞いておく絶好のチャンスだった。
「夜は早く寝るのが習慣だったので、図鑑でしか見たことはないのだが。ああ、あとテレビのニュースに何故か羽化の様子が早送りされて放映されたのを観た記憶はある」
つまりは肉眼で見たことはないということだろうと心にメモして花火に火を点けた。
思惑通りに最愛の人の方へと閃光がうねって弾けるのを楽しそうに微笑みながら走る人のしなやかながらも無垢さが際立つ動作を見入ってしまったが。
「物凄く楽しかった。ただあんなに複雑にうねる花火の軌道計算が出来るのだな。少なくとも私には無理なのでーーもっとサンプルが多くてかつ逃げ回る手間がなければ計算式は立てられそうだがーーそうなると花火の楽しさが台無しになりそうなのでやめておくが、裕樹は凄い、な」
息切れと表現する程度ではなかったが、走った直後の普段よりも早い呼吸ーーベットの上などと異なって艶めいた蠱惑は全くないーーのが逆に心を揺さぶられる要因になってしまっていた。
そんな大層なシロモノではなくーー裕樹も一応は理系なので頑張ったら可能だろうが、そんな気はさらさらないーーただの経験則と二個の花火の傾向から分析しただけだが最愛の人に心の底から感動している賞賛の眼差しに無粋なことを言って水を差したくなかったので曖昧に笑った。理詰めで物事を考える人なことも含めて愛していたので。
「夏に再び訪れた時にはセミの幼虫を探しましょう。一番大きなクマゼミがお勧めですね。羽化したての妖精の羽のような儚さを是非貴方にも見せて差し上げたいですし。
もっとも、ベッドの上で甘く乱れる聡の肢体の方がさらに綺麗ですけれど。
ベッドと言えば、カブト虫やクワガタも夜に交尾をする習性が有るのでオスとメスを捕まえてきて、何かの容器に入れて観察がてらしつつ私達の愛の交歓を見せつけるというのも一興です、ね」
ヘビ花火の在庫が切れてしまったのを残念そうに眺めていた最愛の人の無垢な眼差しがさらに透明さを増した感じで煌めいた。昆虫が苦手という話は聞いた覚えがなかったので、多分喜んでくれるだろうと目論んでいたが図星だったようだ。
「セミの幼虫はーー病院内の木の枝に抜け殻が有ったのでーー捕まえることも可能そうだが、カブト虫やクワガタは夜の林とか森に樹液を吸いに来るのだろう?だったらかなり歩き回らないと不可能ではないだろうか?」
ゼミの知識も図鑑で得たのだから、カブト虫などの情報も同じだろう。裕樹も確か小学生の時に図鑑で見た覚えはあったが、伊達に田舎育ちはしていない。
「割と簡単に捕まえることは可能ですよ。特に車が有れば、ね。それに夏の宿泊先のホテルは山に近いのを選んでいいですか?自然に放して、そして短い一生ーーといってもクワガタは七年程度生きるらしいですがーーセミは七年も土の中で過ごして短い夏を過ごすと儚く終える一生なので流石に可哀想ですから」
花火の残り火のような笑みが灯台の灯りに朧に浮かび上がってセミの羽化したてのような瑞々しい繊細さが一際印象的だった。
「それもとても楽しみだ。クワガタやカブト虫を捕まえる裏ワザも有るのだな……。山に入るのではなく?」
線香花火が残っていたので、砂浜をサクサクと踏みながら指を深く絡めてゆっくりと歩くのも楽しかったし、その上最愛の人が感心した感じで見上げてくれたのでなおさら幸せだった。
「山には近付きますが、車から徒歩五分以内で見つかりますよ、カブト虫とクワガタ両方は保証しかねますが、どちらかの番いならほぼ100%見付ける自信はあります」
ピンクの薔薇のように清楚な感じで弾んだため息が最愛の人から溢れ落ちる微かな音が耳に異なった意味で心地よく浸透していく。
どのバナーが効くかも分からないのですが(泣)貼っておきます。気が向いたらポチッとお願いします!!
◇◇◇
都合により、一日二話しか更新出来ないーーもしくは全く更新出来ないかもーーことをお詫びすると共に、ご理解とご寛恕をお願いいたします。
やっとリアバタがー段落ついたので、次回更新分からは毎日更新を目指します!(目指すだけかも……(泣)
都合により、一日二話しか更新出来ないーーもしくは全く更新出来ないかもーーことをお詫びすると共に、ご理解とご寛恕をお願いいたします。
やっとリアバタがー段落ついたので、次回更新分からは毎日更新を目指します!(目指すだけかも……(泣)
諸般の事情で、クライマックス近くにも関わらず中断してしまっていた「気分は、下剋上」夏 ですが(プロットは流石に覚えていましたが、ちょっとした登場人物の名前などその場で思いついた名前とかは忘れてしまっていたため、復習に時間がかかりましたが、「ドライブ~」か「震災編」が終了次第再開する予定ですのでもう暫くお待ちくだされば嬉しいです。
◆◆クーラー多用の夏風邪が長引いてしまっておりまして、更新時刻はバラバラ、しかも何話更新出来るか自分でも分かりませんことをお詫び申し上げます。楽しみにしてくださる読者様には誠に申し訳なく思っております。なるべく無理のないように、かつ更新は途切れないように体調と相談の上頑張りますので宜しくお願い申し上げます◆◆
◆◆クーラー多用の夏風邪が長引いてしまっておりまして、更新時刻はバラバラ、しかも何話更新出来るか自分でも分かりませんことをお詫び申し上げます。楽しみにしてくださる読者様には誠に申し訳なく思っております。なるべく無理のないように、かつ更新は途切れないように体調と相談の上頑張りますので宜しくお願い申し上げます◆◆