腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

気分は~ロンドン編教授視点

気分は下剋上 ロンドン編 213 香川教授視点

「どうぞ、荷解(にほど)きは済ませて有るので、そんなに見苦しいことはないかと思いますが」
 祐樹がドアを開けてくれて、客室へと入った。祐樹も割と几帳面なタイプなので客室はキチンと整頓されていることは想定内だった。
 けれども、本で読んだベルサイユ宮殿の「夫婦の語らいの部屋」要するに貴族の男性が正妻とそう(・・)いう(・・)意味で(すご)す部屋ではなくて、愛人を招くための個室に来てしまったような気がした、いわゆる密会の寝室に。
 「今夜はしない」と祐樹が断言したのにどうしてこんな気持ちになってしまったのか自分でも分からない。
 そして、大事な明日を控えている祐樹に対して疚しい劣情の芽が心に生えてしまったことを気取られたくない。
 それは物凄く恥ずかしい上に、優しい祐樹は自分の欲求に応えるためだけに愛の行為を恋人としての義務で行ってくれそうな気がする。
 「しない」と決めている祐樹の邪魔だけはしたくない。
 劣情を押し隠していても目敏い祐樹には気付かれるかもしれないので他のことを考えよう。
 取り敢えず立ち止まって部屋の内装の豪華さと見事さに驚いている振りをしよう。
「ホテルのティルームでも思ったが、ベルサイユ宮殿みたいなのだな……」
 心の中の約8割は劣情に支配されていたが、残りの理性の部分で思っていたことを告げた。
「そうなのです。招待状が来て、その便箋にQRコードが印刷されていて、術者専用と思しきサイトに入ってホテルの名前だけを見て予約したので……。
 その後は貴方もご存知のように忙しく過ごしていたものですから、調べる暇などはなく来てみて驚きました」
 祐樹の朗らかな声に救われたような気がする。
 ただ、どことなく罪悪感のような響きを感じるのは、「今夜はしない」宣言をしたことと、それに反する劣情を抱いてしまっていることに気付いたのかも知れない。
 しかし、明日のことを考えると、しない(ほう)が良いのも厳然たる事実なので敢えて笑みを繕った。
「確かにロマンティックな部屋だな……。しかし、こういう部屋が好きな人は一定数居るだろう、な」
 こういう「変な連想をさせる」部屋に地球で一番愛している祐樹といるからこその劣情の兆しなのかも知れないと、空間に不満を持ってしまう、八つ当たりだと重々承知の上だったけれども……。
 祐樹が輝くような笑みを浮かべて一歩ずつ近づいてきて太陽のような力強くて、そして健康的なオーラに包まれると先ほどの浅ましい欲情が雲散霧消したような気がする。
 そして、目を閉じて祐樹の見た目よりも柔らかな唇の感触を唇で感じた。
 熱く甘い抱擁でなくて指を付け根まで絡めた接吻は普段の出勤時のような雰囲気で気持ちが凪いでいく。
「来て頂けて本当に有難う御座います」
 祐樹の眼差しが真摯な輝きを放っている。
 押し殺していた劣情に気取られなかったらしいことに心の底から安堵して笑みを浮かべてしまう。
 それに祐樹だって明日の不安を抱えているはずで、自分はその気持ちを少しでも拭うために来たのだという目的を心に刻んだ。
「私の時もベルリンに来てくれただろう?
 あの時はとても嬉しかったし心強かったので、そのお返しがしたくて……」
 自分も似たような状況で成功したのだから、今回もそうであって欲しいという非合理的・科学的根拠皆無の願望がフツフツとまるでシャンパンの泡のように湧きあがってくる。
 自分は(げん)(かつ)ぐとかそういう心情とは無縁だと思って生きて来たが、切実な願いが有れば何にだって縋りたいと人間は思うのだというのが実感として理解出来た。
「私も同じ気持ちですよ。とても嬉しいですし、心強いです」
 低く熱い声と共に祐樹の唇が近付いて来て恍惚と満足が心を満たしていく。しかし、これ以上の接吻を重ねると先ほどの危うい情動が再燃しそうな気がした。
 キスを止める良い口実は何かを必死で考える。
「……私のパスポートが茶色の理由は……」
 これが正解だろう、多分。祐樹も知りたがっていたし、部屋に入ったら教えると約束していたし……。
 説明するよりも現物を見せる(ほう)が絶対に早い。ボーイさんだかポーターさんが運んでくれた自分の荷物に近寄って目的の袋を取り出した。
「これを運びたかったので、森技官にお願いした。祐樹が美味しいと言ってくれていただろう?だから……」
 祐樹は喜んでくれるだろうかと半ば確信、半ばドキドキしていると祐樹の瞳が輝きを増している。
 やはり持って来て本当に良かったとしみじみと思ってしまった。
「もしかして、いや確実に貴方が淹れて下さったコーヒーですね!?」




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気分は下剋上 ロンドン編 212 香川教授視点

「ところで、貴方のパスポートの色、茶色でしたよね?あれは一体……」
 祐樹は何だか人の耳を憚るような雰囲気だった。
 日本人、いや東洋人らしき人はこのホテルのベルサイユ宮殿もかくやと思われる廊下には居ないというのに……。
 言語的な問題ではなくて、何か自分が後ろめたいことをしているのではないかと疑っているのかも知れないなと思うと何だか可笑しい。
 病院内、特に患者さんに聞かせたくない時は小声の祐樹だが、それ以外は明朗快活というか張りのある声なので何だか新鮮な想いだった。
「ああ、森技官に頼んだのだ。茶色のパスポートは外交官用らしい」
 祐樹にやっと種明かしが出来ると思うと嬉しい。
 祐樹の顔を見上げると心の底から驚いたように輝いて、しかも目を瞠っている。
 優し気にそして自分を包み込むような眼差しはデートの時に良く見慣れていて、それはそれで天国にいるような気持ちだ。
 しかし、目敏い祐樹を驚かすことは中々自分に出来ないのでそういう表情を浮かべさせることが出来たのは少し嬉しい。
「何故外交官なのですか?」
 祐樹の黒曜石のような目が興味津々といった感じに輝いている。
 今、フランスの貴族しか歩くことを許されない、ベルサイユ宮殿の廊下めいた場所で告げても良いかなと思った。
 しかし、祐樹が世界一美味しいと言ってくれたコーヒーを運んで来た現物を見せたいという気持ちの(ほう)が勝っている。
「それは……。部屋に入ったら分かるので、少し待っていてくれないか?」
 多分、祐樹は喜んでくれるだろう。その時のことを思えば自然と微笑してしまった。
 祐樹が性格的に嫌いそうな手編みのマフラーですら喜んでくれたのだから、普段から褒めてくれるコーヒーは言うまでもない気がする。
「部屋はすぐそこですよ。あのドアです」
 祐樹が気を取り直したような表情で長くて男らしい指で示してくれた。
「そうなのか……」
 明日外科医としての正念場に立つ祐樹がホテルの客室で二人きりになった後で愛の行為をするかどうか先に聞いておいた(ほう)が良いと先ほど考えていたが……実際に口に出すのは何だか躊躇してしまう。
 しかし、部屋に入ってお誘いが有るかどうか悶々とするくらいなら先に聞いておくに越したことはないと意を決した。
「祐樹、部屋に入る前に確かめておきたい……」
 祐樹は立ち止まって自分と視線を絡ませてくれた。
「何ですか……?
 絶対にロンドンでは会えないと思っていたのに来て下さった感謝を込めて何でも仰って下さい」
 輝く眼差しが自分だけに注がれている幸せを噛みしめた。
「祐樹とホテルの部屋に入ると、その……必ず……することがあるだろう……?」
 愛の行為自体には慣れて来たものの、祐樹の(いざな)いが先だった。
 性的な言葉を口にするのは、行為中はともかく服を着て廊下で佇んでいる時には途方もなく勇気が要る。
 先ほどから考えてきた言葉は頭から飛んでしまって、しどろもどろにしか言えない自分が情けない。
 ただ、祐樹と行ってきた過去の行為が想起されて頬が紅くなるのを自覚した。
「ああ、愛の交歓のことですか?」
 個室で二人きりの時に祐樹が発する言葉を直截的に言われて更に頬が熱くなった。
「今夜は、そのう……する、のか……?」
 ああ、やっと聞くことが出来たという安堵感と誰もいないとはいえ廊下という公共の場で、あからさまなことを言い合う羞恥心で何だか居た堪れない。
 祐樹は羞恥心を抱いていない感じだったけれども、何だか不思議そうな表情を男らしく整った顔に浮かべている。
「したくないといえば嘘になりますけれども、今夜、悦楽に耽ってしまえば何だか現実逃避をしているみたいで……。
 出来れば、したくないです……。
 明日、レセプション会場から二人して出た後の楽しみとして取っておきたいですね……」
 祐樹の輝く眼差しには一点の曇りもない揺るぎなさを感じる。 
 それに、愛の行為は精神的に満たされるものの体力は確実に消耗する。
 祐樹が言うことも尤もだ、何しろ明日は祐樹にとって外科医として世界的に認知される登龍門なのだから。
 それはともかく、これであれこれ気に病むことはない。そもそもネガティブ思考に陥りやすい自分なので先に聞いていて本当に良かった。
「分かった。先に聞いていなければ……色々考えてしまうと思うので……」
 恋人の間に隠し事をしてはならないと祐樹も言っていたので正直な気持ちを吐露した。
 祐樹が黒曜石の瞳に優し気な光を宿している。
「手を繋ぐとか唇へのキスはしたいと思っています」
 祐樹の唇も愛おしそうな笑みを浮かべている。
 そして、二人の身体が一つに混じり合うかのような愛の行為も大好きだけれども、指を絡めて祐樹の精神的な温かさが伝わってくる感触も、見た目よりも物凄く柔らかい祐樹の唇を自分の唇で確かめる行為も自分にとっては宝石よりも貴重で煌めく時間だ。




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気分は下剋上 ロンドン編 211 香川教授視点

 アメリカには借金が返せなくなった人の代わりに肩代わりする連帯保証人という制度はない。
 自分の知る限り日本独自の慣習のようで、生粋のアメリカ人のコナーズ教授が良く知っているなと逆に感心した。
「借金を肩代わりして下さるなら、そうですね。
 ハロッズを一棟丸ごと買いたいと思いますが、それは諦めます。
 本題ですが身元保証をお願い出来ればと……」
 百貨店を丸ごとというのは勿論、冗談で、さして面白くもない自分の発言に電話の向こうで大笑いしているコナーズ教授だった。
 祐樹の場合、大学病院で主治医を務める患者さんと冗談を言って笑わせつつも、予め決めた時間内で伝えるべきことを十全に果たした後にさっさと立ち去る様子を何度も見てきた。
 そういう祐樹のコミュニケーション能力の高さは羨ましくもあり誇らしくもあった。
『ホテルのスタッフに代わってくれませんか?』
 ひとしきり笑い終えると真面目な声を出してくれた。
「分かりました。支配人に替わりますね」
 お金も掛からないし、虚偽は一切述べなくても良い身元保証を断る人は少なくとも自分の周りには居ないし、コナーズ教授も気さくな性格だ。
「香川教授、ではフロントで手続きをお願い致します。
 それはそうと……香川教授、当ホテルにようこそお越しくださいました。お部屋は田中先生と同室ということで宜しいのですよね?」
 コナーズ教授がキチンと言ってくれて身元の確認が取れたのだろう。
 イギリス王室の執事といった感じの支配人が賓客をもてなす笑みを浮かべている。
 小さな関所(せきしょ)を越えたような安堵感から笑みを浮かべて祐樹を見たらシャンデリアの灯りよりも輝く笑みを返される。
 それだけで(来て良かった)という何度目かカウントしていない思いがこみ上げてくる。
「はい。その通りです」
 祐樹のはきはきとした声も太陽のような風情だった。
「では、パスポートを拝見致します」
 言われたままにポケットから取り出して支配人に渡した。
 目敏い祐樹はパスポートの色の違いに当然気付くだろうけれども、そろそろ種明かしをしても良いだろう。
 ベルリンの国際公開手術に赴いた際に自分が祐樹にしてもらった、ホテルのフロントから電話を掛けて驚かすという目的は果たしたのだから。
 安堵したせいかフロント部分にふんだんに活けてある百合の花の香りを纏った空気が鼻腔に心地よく沁み込んでくるような気がした。
「部屋への案内は大丈夫です。私が分かっていますので」
 祐樹とイギリスのホテルで二人きりで泊まることが出来て本当に嬉しい。
 といっても祐樹がホテルの名前だけ見て決めたこのホテルはイギリス風というよりもフランスのベルサイユ宮殿とか城館(シャトー)のような趣きだ。
 自分としては祐樹がいてくれさえすればどこでも天国に居るような気持ちになるのでどちらでも良いのだけれども。
「あ!ボーイさんにチップが必要なのだろう?」
 チップ文化が有るのは事前に調べて来た。チップも日本ではない風習なので異国情緒を感じている。しかし、慣れるまでは気を付けなければならないなと思ってしまう。
「私の時は支配人が案内してくださいましたので必要なかったのですが……?」
 二人して乗り込んだエレベーターが不自然な揺れを立てているのも由緒のある建物に来たという実感だ。
 ただ、2ベッドルームの部屋に二人して泊まるのは確定だけれども、明日のことを考えたら寝室を別にした方が良いような気がする。
 いや、優しい祐樹は自分に気を遣って愛の行為を敢えて行ってくれるかもしれない。
 祐樹がしたければ大歓迎なのだけれども……。ああ、自分が思考の淵の中でぐるぐる回っていることを自覚してしまった。こういう時の自分はネガティブ思考に陥りやすいことも分かっている。
 こんな時にはさっさと祐樹の口から結論を聞いてしまった(ほう)が良い。
 デートの時は当然、その愛の行為も心積もりをしている。
 しかし、今回は祐樹の外科医人生の檜舞台なのだから、特別中の格別だ。
 部屋に入った時に即座に聞こうと決意した。
「香港でもトイレ小母さんと呼ばれている人達が居ただろう、場所にもよるけれど……。
 あの人たちのように収入を見込んでいると思うので2ユーロ程度は手渡した(ほう)が良いと思う」
 半ば上の空で言葉を紡いでいる。いや、上の空というか集中力を二分割して想いを巡らすところと、現実的なことを考える箇所に分けたというのが正確だった。



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気分は下剋上 ロンドン編 210 香川教授視点

 支配人が何だか探るような視線を向けているのは気のせいだろうか?
 不審者を見る警察官のような眼差しのような気がする。尤もそんな場面はテレビの中だけでしか知らないのだけれども。
 嘘を()くという心に疚しいことをしているせいで疑心暗鬼を生じているだけだと信じたい。
「誠に失礼ですが、香川教授。主催者サイドにお知り合いはいらっしゃらないでしょうか?」
 今の時代に居るかは知らないが、侯爵とか公爵様の屋敷を完璧に取り仕切って主人夫妻からの信頼も厚い執事のような慇懃さだ。
 そんな感心をしながら頭にインプットしてある知人をスキャンした。
「それならば副会長のルーク・コナーズ教授を存じ上げています。
 アメリカ国籍の(かた)ですが既にイギリスに到着していると思います。電話をしてみましょうか?」
 コナーズ教授は術式やそれで得た知見などを交換する仲だ。ニューヨーク在住だけれどもLA時代に手技の見学に来て下さって、いたく褒められたのが切っ掛けで知り合った。
 Eメールで連絡を取り合っているけれども、メールの末尾に住所やスマートフォンの番号が書いてあって覚えている。
 一回も電話したことはなかったのだけれども、この際背に腹は代えられない。
「お手数をお掛け致しますが、当ホテルの規則でして。フライトでお疲れのところ誠に申し訳ありません」
 祐樹は術者として無条件に受け入れるが、他の客は身元確認的なものが必要なのだろう。
 格式の高いホテルなのはベルサイユ宮殿をそのまま持って来たのではないかと思わせる作りで何となく察した。
 日本で言う、一見(いちげん)さんお断りといった感じなのだろう。
「分かりました。そちらに有る電話を使っても宜しいですか?」
 こういうホテルは見た目こそアンティークだが、最先端の機械を使っていると風の噂で聞いていた。
 スマートフォンの場合、例えば祐樹の電話番号を記録させて名前を斎藤病院長として登録することも可能だ。
 もちろんそんなことはしないけれども、この完璧な執事風といった支配人を完全に信頼させて祐樹と同室を勝ち取るためにはホテルに通話の番号履歴が残って、かつ主催者側の名簿と照らし合わせても合致した(ほう)が信頼されやすいだろう。
 ホテルの電話を借りてスマートフォンの番号を回した。
 たまたま祐樹と観た「サザエさん」でプッシュボタンではなくて回す電話機の使い方は知っていた。
「コナーズ教授ですか?」
 何故か物事に全く動じなさそうな支配人さんが驚いたように自分を見ていたがそんな些細な問題は今どうでも良い。
『そうだが……?』
 知らない番号からの電話に不審そうな響きが混じるのは仕方ないだろう。
「京都大学医学部附属病院の香川です。ご無沙汰しています。
 実は教授が副会長を務めていらっしゃる国際公開手術の今回の術者は」
 電話の向こうで豪快に笑う声がした。
『ベルリンで教授が紹介したユウキ・タナカ医師だろう?外科医を見抜く目()一流だなと感心していたよ。で、用件は何だい?
 まさか手術の難易度を下げろとか今更言いに掛けてきたわけではないだろうな?』
 祐樹は何だか物思いに耽っているようで会話を聞いていない感じだった。別に聞かなくても全く問題のない会話だったけれども。
「その『まさか』です」
 相手の冗談に付き合うことにしたら。笑い声が更に大きくなった。
「実は、今の日本は『お盆』というバカンス期間中でして……」
 コナーズ教授は日本文化にも興味を持っていることは知っていた。
『ああ!ジゴクと言ったかな?ジゴクで罪を償っている死んだ人がこの世に帰ってくる日だろう?先祖の魂?霊?その辺りは良く知らないが、生きている人はそれをお迎えするのが『オボン』だろう?
 キリスト教だとハロウィンといったところかな?』
 去年のハロウィンは祐樹が小児科の催し物で仮装をしたなと淡い笑みを浮かべてしまった。
 アニメの「現代最強の呪術師」役で、身長はアニメの設定だと少し足りないけれども、祐樹の強気な雰囲気がいかにも最強感を出していて小児科病棟の患者さんだけでなく看護師達にも大層満足された……。
 今年も小児科の浜田教授は催し物を考えているらしくて……祐樹に声が掛かるかもと連想ゲームのように思考がポンポン飛んでしまったのを慌てて軌道修正した。
「そうですね。似ていると思いますよ。
 それはそうと、田中先生の手技の練度がどのくらい上がっているのかこの目で確かめたくてロンドンに来たのは良いのですが……そのう……」
 咳払いをして後ろめたさを隠した。
「予約していたホテルのシステムエラーで部屋がダブルブッキングになってしまいまして、既に私が予約していた部屋には他のゲストが入っている状態になってしまいました。
 田中先生のために協会側が用意した部屋は2ベッドルームのスイートですよね?
 1ベッドルームが空いているので使えば良いと言ってくれまして……。教授には私の身元保証人になって頂きたいとこうしてお電話を差し上げているのですが。お願い出来ますでしょうか?」
 先ほど祐樹が支配人さんに言ったことを自分なりにアレンジした。
『身元証明的な感じなのかい?まさか日本の恐ろしい制度、連帯保証人などではないだろう?』




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気分は下剋上 ロンドン編 210 香川教授視点

「なるほど、良く分かりました。河川敷とか堤防は確かに景観を損ないますよね。
 ビックベンと国会議事堂のごく近くまで川が流れているのには驚きましたが……」
 嘘を見抜かれていないことに安堵した。
 普段の祐樹だったら気付くだろうことを、術者に選ばれてからスルーしてしまっているのは世界的な外科医の登竜門に挑むという、いつもと異なる心理状態なのだろう。
 ただ、ビックベンと国会議事堂はすぐ傍がテムズ川なのは確かなのだけれども、祐樹はその黒く輝く目で見たのだろうかと驚いた。
 自分の場合ベルリンに着いた時も既に手術(オペ)のことしか頭になかったと言っても過言ではなかった。
 患者さんの症例を事前に開示されていた自分とは異なるのだけれども、祐樹の余裕に感心した。
「ああ、既に市内観光を?」
 折角来たのだから出来れば祐樹と観光までは望んでいないけれども、一緒に散策くらいはしたかった。
 尤も自分が訪れることを告げていなかったのだから自業自得の側面は否定出来ない。優しい祐樹は自分と一緒なら絶対に誘ってくれるので。
 ヒースロー空港に着く飛行機、つまり祐樹と同じ便にしたらビックベンを一緒に見ることが出来たのだろうかと首を傾げてしまった。
「いえ、部屋から見ただけです。市内観光も貴方が来て下さらなかったらとてもそんな心のゆとり(・・・)は生まれません、よ。
 国際公開手術の前日なので……それなりに緊張しています」
 観光をしていないのかと喜びが一瞬の閃光となって脳裏を(よぎ)った。
 しかし、それよりも重大なのは祐樹の気持ちだ。
「祐樹が……緊張……?」
 祐樹と緊張という言葉は水と油というか最も似つかわしくない単語だ。
 確かに外科医にとって一世一代の晴れ舞台に臨むのは事実だ。しかし、祐樹は術者に決定してからずっと緊張とは縁がなかったはずだ。
 祐樹のことを病院では見ていて、病院外ではさり気なく凝視している自分には祐樹の緊張を全く感じなかった。
「私だって緊張しますよ……。貴方と肩を並べるほどの外科医に成ることが出来るかどうかの土壇場といった感じですから、明日の手術は」
 黒曜石のような目に輝きを浮かべて自分を見ている祐樹にも緊張の色は微塵も感じられない。
 ただ、執刀医としてのキャリアが長く、その分執刀数も多い自分が「緊張するだろう」とか「実は私も案じている」と言うのも逆効果のような気がする。
 敢えて明るい笑みを浮かべて何でもないふうを装おう。
 祐樹の明敏な目を誤魔化すのは容易でない。しかし、自分が明日の手術(オペ)の成功を確信していると祐樹に「誤解」いやミスリードかも知れないが……。
 祐樹は自分のことを外科医の先輩として尊敬してくれている。だから自分の気持ちが揺らいでいれば祐樹だってその動揺を感じ取るに違いない。
「大丈夫だ。才能も有って努力も怠っていない外科医でも滅多に舞い降りることがない、気まぐれな医学の神が降臨したほどの腕を持っているのだから。
 明日も絶対に上手くいく」
 祐樹の笑みが更に輝きを増している、安堵したような陽炎(かげろう)を纏って。
 「例の地震」の時の神懸かり手術(オペ)の画像を密着取材に来ていたNHKのカメラマンが撮っていたのは幸いだった。もちろん手術(オペ)の場面をお茶の間に流すわけにはいかないので撮っていてくれたのはまるで奇跡のようだ。
 その画像を譲り受けてアメリカやヨーロッパの知人にEメールで送ったのももしかしたら術者に選ばれた一因かもしれない。
 大学病院はある意味軍隊と同じで上の職階の人間が指揮を執る。
 「例の地震」の時に教授職としては真っ先に駆け付けた。マンションは徒歩圏内だし、何より祐樹の安否が気になって……。
 そしてなし崩し的に指揮を執っていた自分は祐樹の元に運ばれた患者さんを見て(自分が対応した(ほう)が良いのではないか?)と咄嗟に思ったのだけれども、祐樹の手技に圧倒された記憶は今も鮮明だ。
 紅茶を飲み終わって祐樹の客室に一緒に泊まるべくフロントへ移動したら、支配人が担当してくれた。
「ご相談があるのですが。日本ではこの時期はちょうどバカンスでして……。
 その機会を利用して部下である私の国際公開手術を見に来て下さったのですが、予約した某ホテルがシステム障害を起こしたのか何かの手違いでダブルブッキングになってしまって、今夜の宿がない状態なのです。
 私の部屋はご存知のように一人で泊まるのは広すぎますので……、何とかもう一名追加をして頂けないでしょうか?」
 祐樹が立て板に水といった感じで真っ赤な嘘を()いている。といっても祐樹の嘘は誰も傷付けないような優しい嘘ばかりだけれども。
 駄目だと言われたとしてもこのホテルに空室が有ることを祈りたい。
 また、祐樹の前で自信満々といった態度とか表情を取り繕うのも正直なところかなり苦しいけれども……、それでも祐樹に内心を気取られて共倒れといった感じで自信喪失になるのが怖い。




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