腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

気分は~花見2023

気分は下剋上 離宮デート 39

「頂きます」
 少し頭を下げてからお茶を口にした。親しき中にも礼儀ありというのが祐樹の信条だったので。
 口の中には微かな甘みと苦みが程よく調和して(まろ)やかな爽快感が広がった。
「美味しいです。鬼退治アニメの主人公が始まりの呼吸の剣士の動きを模した絡繰(からくり)人形の特訓で――まあ、飲まず食わずで、かつ睡眠も取っていない上にあんなに動き回っていたら普通は死に至ると思いますが――やっと一撃を入れることが出来た時に『お茶は高級玉露で』と言った気持ちが分かるような気がします」
 素直な感想を述べると最愛の人は極上の笑みの花を咲かせている。
「そうか、祐樹の口に合って良かった」
 安堵したような溜め息を零した後に薄紅色のやや薄めの唇にお湯呑みを近づけている。
「良い香りだ……。多分鬼退治アニメの主人公が飲んだのもこんな香りだったと思う……。玉露の淹れ方は大正時代の人だったら常識だったと思うし……。
 こちらからだと藤の花も良く見えるな……」
 お茶を飲みながら遠くの藤の花を眺めている。
「流石に名だたる庭園ですよね。緑と花と建物の調和がどこから見ても完璧ですし……。あの池の葉っぱは何の植物ですか?」
 当然ながら東屋(あずまや)には壁はない。翡翠にも似た薫風が吹いて来て心も身体も爽快感に満たされる。その上口の中まで清められていくようなお茶を飲みながら東屋の奥にある池に視線を遣った。
「多分、(はす)だと思う。花芽はまだ出ていないようだけれども、開花時期が確か六月頃なのでそれは仕方ないな……」
 満足そうな声も翡翠の色に染まっているような気がした。
「教えて下さって有難うございます。蓮の花も綺麗でしょうね。あの大きな葉っぱが邪魔にならないと良いのですが……」
 茶飲み友達という言葉があるけれども、個人的に何が良いのか全く分からなかった。しかし、彼となら――停年後の二人の野望でもある、のんびりとしたクリニック経営の休診日に――縁側でお茶を飲みながらこうして語り合って過ごすのも楽しいだろうなと心の底から思う。
 身体機能も加齢には勝てないので愛の交歓のペースは絶対に落ちるだろうけれども、そうなった時には身体ではなくて魂で結びついているので平気なような気がした。その時になってみたらまた異なった感慨を抱くかも知れないけれども……。
「蓮は仏教で最も尊ばれている花なのだ。泥の中から――つまり苦しい生を象徴している――出て来て凛と咲く花なので。確かに葉は大きいけれども、葉には絶対に隠れないで、清廉な感じで咲いているのが特徴だ。白と桃色のコントラストが特に美しい……。
 ……小学校の時に母の体調が若干回復して歩いても良いとお医者さんに言われた時に近くのお寺に蓮の花を見に連れて行ってもらった記憶が有る。
 その時の花の綺麗さと母の済まなそうな笑顔は一生忘れないだろうな。『聡、こんな所ではなくてもっと楽しい場所に連れていって上げられなくてごめんなさい』と。その時は何故謝るのか理解出来なかったし、母と手を繋いで歩くだけで充分過ぎるほど楽しかったので。
 ただ、子供が行きたがるような遊園地とかそういう場所に母としては一緒に行きたかったのだろうと思う。私は母が臥せっていないだけでとても嬉しかったのだけれども……。
 それに遊園地とか水族館とかそういう場所に興味もなかったし。そう言う意味では思い出深い花だな……」
 淡々としていながらどこかしみじみとした口調で紡がれた言葉に――彼がお母様とどこかに行ったという話を聞くのは初めてだ。心疾患を抱えていて彼が大学に合格したという報告を聞いてから直ぐに亡くなったということは知っていたけれども――具体的な話はしたことがない。
「貴方のお母様はそれこそ極楽の蓮の花の上で見守って下さっていると思います。蓮は6月ですか……。また山科さんにお願いして雨の中の散策も致しませんか?」
 蓮の花にそんな想い出が有ったとは知らなかった。蓮の花を見たら最愛の人もお母様のことを色々と話してくれるかもしれないなと思って誘ってみた。
 彼は寂しそうな中にも晴れやかな笑みを浮かべている。
「そうだな……。祐樹と梅雨の雨の日にデートするのも良いかも知れない……」
 お湯呑みを茶托に静かに置いている。
「斎藤病院長と鉢合わせしないようにだけ気を付けなければいけませんね。人脈作りとか学長選挙に向けてのPRを兼ねて病院ではなくて大学の学部長の人とこういう庭園で密談しているところに居合わせたくはないですから……」
 最愛の人は「確かにその通りだ」と言わんばかりに大きく頷いている。最近はそつなく人と話せるようにもなったし、笑顔もごくごく自然に浮かべている。ただ、根本的には良く知らない人と話すのは苦手らしくて精神力というか精神的なエネルギーが消耗すると言っていた。
 仕事の延長線上ならば仕方ないと割り切っているようだったけれども、プライベートの時に闖入者は好ましくないと思っている様子だった。その点は祐樹も同様だった。デートの邪魔をされて喜ぶ人間など居ないと思うのでごくごく自然な反応だろう、多分。
「それはそうとこのお茶菓子は有名なお菓子なのですか?コロッとしていて可愛い形ですけれども、余計な装飾がないので、抹茶の時のお菓子とも異なるようですが?」
 お菓子全般に詳しい最愛の人なら知っているかも知れないなと思いながら聞いてみた。




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リアル生活多忙&体調不良で更新が滞っております。
楽しみにして下さっている読者様には誠に申し訳なく思っております。すみません。
 こうやま みか拝


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気分は下剋上 お花見ランチ 最終話

「ああ、そう言えば患者さんに山科さんっていらっしゃいましたよね、私が主治医の。あの人は京都でかなりの影響力を持つ人らしいです。久米先生が『患者さんでなければ、畏れ多くて話も出来ないほど偉い人』と教えてくれました」
 至って普通の人という感じの患者さんだった。祐樹は割と気難しい患者さんの主治医を務めることが多いので内心は楽勝だと思っていた。ただ、久米先生の実家は京都市内のクリニックというある意味地元の名士的なお父さんでも頭が上がらない人だと祐樹に教えてくれたのだろう。
 久米先生はプライベートでは頼りないし買い物を頼めば100%ミスをするというある意味(イジ)り甲斐のある人なのだけれども外科医としての潜在(ポテン)能力(シャル)は祐樹が羨むほどの天稟を秘めているし、仕事面では申し分のない働きをする。
 外科専攻の学生がこぞって入局を望むのが心臓外科――いや正確には横で顔を輝かせながら強風を待ち望んでいる最愛の人が率いる香川外科――なので競争率は祐樹の頃よりも高くなっている。
 流石はその難関を突破しただけのことはあるなとしみじみと思った。ただ、最愛の人はコミュニケーション能力に劣等感を抱いていたので、外科医としての能力と共に自分には欠けている能力の高い学生を選んでいる。
 そういう点でも久米先生は選ばれたのだから祐樹に耳打ちしてくれたのはある意味当然かもしれない。
 最愛の人の面接では「今日の日経平均株価をご存知ですか?」とか聞くらしい。選考に一介の医局員でしかない祐樹は立ち会えないので隣で美味しそうに「きのこの山」をデザートとして薄紅色の唇に運んでいる恋人から聞いただけだけれども。
 医学部生は専門外なので――まあ、趣味が株式投資やFXという医学部生も世の中には居るらしいが――当然戸惑う。「知りません」と言うかしどろもどろになるらしいけれども中には「日経平均はあいにく存じ上げませんけれどもメジャーリーガーの誰それの打率は知っています」みたいな返しが理想らしい。
 ちなみに最愛の人はPB(プライベートバンク)に莫大な資産運用を任せていると聞いているけれども「為替と株の値動き」のニュースは熱心に聞いているし、野球には全く興味を持っていないらしいがテレビで言っていたことは全て暗記してしまう能力を持っていることから誰それの打率も正解かどうか分かるらしい。
 それはそうと祐樹はそういう話題を自分の(ほう)へと誘導するのは得意なので久米先生世代でも多分香川外科に入局出来たと思う。その証拠に扱い辛い患者さんの主治医に指名されることが圧倒的に多い。
「山科さんに『(かつら)離宮(りきゅう)』の休館日?とにかく一般人が入れない日が有りますよね?そのような日でも一部の人が言えば入ることが出来るらしいと聞いた覚えが有るので頼んでみましょうか?」
 これが祐樹の閃いた寺院での――桂離宮は正確にいうと寺院ではないけれども――デートプランだった。
 国内外から彼の手技を慕って患者さんが集まって来ているのが実情で、当然ながら外国籍の人には社会保険は適用されない。全額自己負担になってしまうので所謂(いわゆる)富裕層が多い。そういう外国の人が退院後に体調に配慮しつつも日本観光をしてから帰国するという話は良く聞いている。何しろ世界的規模の外科医として認知される機会の一つである国際公開手術に備えて祐樹も英会話も必死で勉強したので留学経験の有る医師と比肩出来るほどになった。
 その関係上外国人の主治医に選ばれることも多いので自然とそういう話は聞こえてくる。
「え?良いのか……。あまり公私混同はしたくないのだけれども……」
 綺麗な笑みが日を浴びた花のような表情に一点だけ憂いの雲が懸かっているという風情だった。
「大丈夫だと思います。『香川教授は寸志(すんし)不要と伺ったのですが、何かお礼をしたいのです』と真顔で(おっしゃ)っていらしたので」
 隣に座っていた人は満開の花のような笑みを浮かべている。
「それならば、祐樹と二人っきりで庭園鑑賞が出来るな……。人目を気にせずという点が特に素敵だ」
 「例の地震」の負の副産物として二人の顔と名前の認知度が格段に上がった。だから以前よりも他人様の目を気にしなくてはならないという点が密かな不満だったのだろう。祐樹も同様だったのでその心境は痛いほど分かる。
 まあ、プラスの側面の(ほう)が大きかったと判断しているから贅沢な悩みなのかも知れないけれど。
「あっ!」
 「午後の紅茶」のペットボトルを持っている指が空中を指した。先ほどよりも強いゴウっという音で吹いて来た。
 晴天の空と(こけ)の地の間に藤の花が咲き乱れている。その空間に桜の花びらが無数に舞い散っている様子は絵に描いたよりも綺麗だった。
 桜吹雪だけでも充分に目を楽しませてくれるのに、紫のグラデーションも見事な藤の花が背景となっているのだから。
 そんな春の豪華な饗宴を二人して見ることが出来て多幸感に包まれた。その昂った気持ちのまま若干薄い肩を引き寄せて唇を重ねた。桜の花びらがそんな二人を隠すように舞いしきっていた。

    <了>




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気分は下剋上 お花見ランチ 5

「私は不調法なので茶道を嗜んでいないのですけれど……」
 最愛の人も高校時代までは経済的に恵まれていなかったと聞いている。
 全国模試の結果は――本人が匿名を希望しない限り――受験者に配布されて、上位の人間の名前と高校名は載るというシステムだ。祐樹も別に匿名にする必要性が無いと判断したので数えきれないくらい載った覚えが有る。
 田舎の高校だったので「田中君って賢い」とか「凄いね、名前が載るなんて」などと女子に言われた記憶があるけれども――ちなみにそのクラスメイトと思しき人の顔も名前も覚えていない――そういうリストで名前を見ていた人間が医学部にはゴロゴロ居たのも事実だった。
 ただ、二歳上の最愛の人の名前は当然見ていない。
 それはともかくその名前を見た私立病院の馬鹿な令嬢が父親に言って病院の跡継ぎとしての将来と引き換えに生活費の援助を申し出てくれた。予備校代なども出してくれていたと聞いているけれども、修学旅行とかの学校行事のお金は遠慮したらしい。
 そういう人が学業と関係のない茶道などを習ってはいないだろうなと思いつつも聞いてみた。
「私もアメリカ時代に日本文化に興味を持っていた同僚に聞かれて慌てて本を読んだ程度だな……。ただ、その本には具体的な作法がイラスト入りで書いてあったので、出来ると思うのだが……。ただ祐樹は反対なのだろう?」
 先ほどのような強風ではなくて微風(そよかぜ)で桜の花びらが10枚ほど宙を舞っている。
 藤の花をバックにして花びらが舞っているのは着物の模様というよりもリラックスのために配信されている映像とかアニメのワンシーンのように綺麗だった。
 弱い風のせいか、花びらは綺麗な模様を描いているし、滞空時間も長い。
 その空間を桜色の笑みを浮かべて見ている最愛の人の端整な横顔を惚れ惚れと見入ってしまう。
「貴方の最高に美味しい料理が食べられるのは大歓迎ですけれど、また貴方が点てて下さった抹茶を飲むのもきっと美味なのでしょうが……。お茶碗とか泡立て器みたいなモノ……」
 最愛の人は桜の花よりも鮮やかな笑みの花を咲かせている。祐樹が固有名詞を覚えていないことが可笑しかったのか、それとも泡立て器という表現のせいだろうか。
 最愛の人と食べるコンビニのおにぎりは救急救命室で口に運んでいたモノと同一だとは思えないくらい美味しい。
 コンビニは品質管理がしっかりしていると読んだ覚えも有るので絶対に同じ味のハズなのだけれども。
 このコンビニはタバコも置いてあるのだが、久米先生が絶対に祐樹の好みの銘柄を間違って買って帰ってくる。一度などは空のパッケージまで渡したにも関わらず間違えたので、(さじ)を投げた祐樹はタバコが必要な時には買い物に行っている。
 久米先生がリクエストした、卵かけカツ丼だかをレジに持って行ったところエラー音が鳴って、店員さんが「期限が切れているので取り替えます」と言ってくれたが、面倒だったのとどうせ食べるのは久米先生だから「直ぐに食べるのでそのままで良いですよ」と返すと「レジが打てなくなる仕組みなので」と店員さんが走って取りに行った。
 それほどしっかりと管理されているので味は絶対に同じハズなのにひときわ美味だ。
「祐樹、それは『茶筅(ちゃせん)』というのだ……」
 最愛の人が教えてくれたけれども、そういう固有名詞的なモノを覚えておけるかどうかは祐樹には自信がない。京都市指定のゴミ袋の印象が強すぎて、長岡先生が持っていた最高峰のバーキンとか言われているらしいバッグの名前がシベリアなのかヒマラヤなのかも確信がない。まあ、最高峰という言葉からはヒマラヤだろうと漠然と判断しているけれども。
「茶筅ですか……。なるべく覚えておくように努力します。折角(せっかく)貴方が教えて下さった単語は覚えておきたいのですけれど……。
 ああ、デザートも用意しておきました。『たけのこ』と『キノコ』で迷ったのですけれど、手にチョコが付かないという点で『キノコ』にしました……。個人的には『たけのこ』の(ほう)が好きなのですが……」
 駄菓子というかスナック菓子はドライブデートの定番だ。最愛の人がこのスナック菓子を食べているところは見たことがないので気に入ってくれると良いのだが。
 また、ランチタイムという限られた時間だけれども、休日の気分を味わうにはこういうお菓子も良いだろうなと判断して買って来てもらっていた。
「気になっていたのだが、食べたことはないので……嬉しいな。ん!とても美味しい!
 それはそうと『野点』のどんな点が駄目なのだ?」
 「キノコの山」を一本薄紅色の指で持って鮮やかな唇に運ぶ仕草は桜の花びらよりも煌めいているように祐樹の目には映る。
「お茶碗とか、ええと茶筅とかの道具類が必要でしょう?貴方がお茶を点てるところは是非拝見したいですけれども、物が邪魔過ぎて……」
 辺りを見回したが静謐な藤の花しか二人を見ていない。
「こういうことが出来ないでしょう?」
 細い顎に指を添えると察したように目を閉じる人の顔を見惚れながら唇を近づけた。
 この時間に交わす二回目のキスはチョコレートの味だ。
「今度、ドライブに行く時は祐樹お勧めの『たけのこの里』を買うことにする」
 祐樹が舌で輪郭を辿ったせいで濡れた薄紅色の唇が花よりも瑞々しくてそして綺麗だった。その唇が極上の笑みの花を咲かせている。
「そうですね。桜は残念ながら見ることは出来ませんけれど、躑躅(つつじ)とか菖蒲(しょうぶ)とか、梅雨の時期だと紫陽花(あじさい)も綺麗でしょうね……。そういう花はむしろ京都のお寺が有名ですけれども……」
 大輪の花のような風情の最愛の人だけれども菖蒲(あやめ)とか杜若(かきつばた)の凛とした花も良く似合いそうだ。特に教授総回診の時にはそういう雰囲気を漂わせているなとしみじみと思った。
「お寺は人が多いので、特に土日は……」
 残念そうな笑みを浮かべている人の顔を見て閃いた。
「あ、そろそろ風が吹きそうな感じだ……」
 弾むような声が春の陽射しに混ざって煌めいている感じだった。




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気分は下剋上 お花見ランチ 4

「わぁ……。桜の木が見えないのに、こんなに桜の花びらが舞い散っていて……。しかも藤の花の紫との調和が……。何だか夢のような景色だな……。着物の模様みたいでとても綺麗だ……」
 二個目の「おかか」つまり鰹節(かつおぶし)のおにぎりを唇に運びかけている状態で手を止めて目を(みは)っている。
 桜の花よりも艶やかな唇に白いご飯が付いているのも気付いているのか、それともそっと取ることを忘れているのか感嘆めいた言葉を紡いでいる。
 確かに、紫色の藤の花を背景にして薄紅色の染井吉野(そめいよしの)の花吹雪が舞っているのは壮観の一言に尽きる。
「あっ……。もう終わってしまった」
 心の底から落胆したような響きも耳に心地よい。ただ、見事な桜吹雪の名残が境内のあちらこちらを薄紅色に染めている。そして強風で運ばれて来たのか藤の花の香りが濃くなっている。
「……野暮かとは思いますが……種明かしをしましょうか?」
 祐樹の声に我に返ったのか、薄紅色の唇に白く長い指を近づけて純白のご飯の粒をそっと取っている様子の方が桜吹雪よりも祐樹の瞳には吸引力があった。
「この神社の裏には見事な桜並木が続いているのです。ただ、あいにく満開を過ぎていて、桜並木を見るのはそれほど美しくないと判断しました。貴方が桜をご覧になりたいと(おっしゃ)ったので天気アプリで風速と向きを確認して、この神社を選びました。椅子があるという点も重要でしたけれども……。それ以上に重点を置いたのは藤の花と桜吹雪だけを楽しんで頂けたらと思いまして……。(ちな)みに今日は一日中断続的に強い風が吹くらしいので、運が良ければもう一回か二回は見ることが出来ますよ……。
 この風で染井吉野は散り切ってしまいそうなので今日で終わりかと思います。貴方が呟いて下さらなければ、この藤の花と桜吹雪のコラボを見ることは出来なかったので、感謝です。
 夜の藤の花は香りだけは良いのですが、ライトアップなど望むべくもない小さな神社ですから。ただ、外の空気とか血の匂いから解放されて藤の花の香りで気分をリフレッシュした後にコーヒーと煙草を吸うというのが最近の楽しみでして。その時も桜の花びらが風に舞って散っていたので、裏に回ってみたのです」
 最愛の人はとても嬉しそうな笑みの花を唇に咲かせている。
「そうなのか?ただ兼好法師が『花は盛りに、月は隈なきを見るものかは』と『徒然草(つれづれぐさ)』に書いていただろう?その気持ちが痛いほど分かった……。分からせてくれて有難う、祐樹……」
 最愛の人がさほど広くない境内を見回した後に祐樹の唇に花のような唇を重ねてくれた。藤の花の香りを嗅覚で燦燦(さんさん)と照る太陽を視覚で味わいながら交わす接吻はアルコールよりも祐樹を束の間の酩酊へと(いざな)ってくれた。
 彼が引用してくれた一節は祐樹も知っていて「桜の花は満開の時に、また満月は雲などの曇りがない時だけを見るものだろうか(いやそうではない)」というほどの意味だ。
 ただ兼好法師は桜の時期にワザと――ちなみに鎌倉時代末期に書かれた「徒然草」の花は桜だけれども、今でいう山桜のことだ。染井吉野は江戸時代に品種改良した桜で、その美しさから接ぎ木で増やしたいわばクローンだ――「室内に籠ってひたすら想像するのが良い」と続けている。
 実物を見るのではなくて想像力で楽しみなさいと説いていると高校だか中学の時に読んだ覚えがある。別に兼好法師に異を唱えるわけではないけれども、満開を過ぎた桜の舞い散る様子を見る、しかも最愛の人と一緒にという点が最も重要だと祐樹はしみじみと思った。引用した彼も多分分かっていて、満開の桜以外でもこんなに綺麗だと言いたいのだろう。
「ああ、なんだかお庭の(こけ)にも桜の花びらが散ってとても美しいな……」
 ペットボトルのお茶を飲んだ後に薄紅色の唇が笑うように綻んでいる。
「庭の(こけ)も緑色ですよね。濃い緑色と桜の花びらはよく似合います。富士山と月見草みたいな関係でしょうか?」
 理系だけれどもその程度の文学的知識は大学受験対策として知っていた。
「太宰治はそう思ったのだろうが、富士山にも桜の(ほう)が相応しいと思う……。それはそうと、また強風が吹かないかな……」
 三個目のおにぎりを――ちなみに祐樹が選んだのは「わかめごはん」で、こちらは海苔(のり)を巻く必要がないので単にビニールだかに入っている――大切そうに掌に載せて待ち焦がれた感じで呟く最愛の人の表情はいつも以上に煌めいている感じだった。
「そういえば、最近読んだ時代小説の中にも素敵な記述が有りましたよ。人里離れた山の中で満開の下で抹茶を点てて一人で喫すると桜の花びらがお茶の中に浮かぶという……。そういう贅沢な空間も羨ましいなと思いました。
 抹茶は好きでも嫌いでもないですが、桜を浮かべた抹茶はとてもきれいでしょうね、あの苔の上のようで……」
 コンビニで祐樹が選んだおにぎりはかろうじて及第点といったところだろうか?昆布も「おかか」も「わかめごはん」も最愛の人の口に合ったら良いなと思いながら次の強風が吹いて欲しいなと思ってしまう。
「抹茶の中に桜を浮かべると色彩的に美しいだろうな……。その登場人物は一人で居るのが好きな人なのだろうか?私なら絶対に祐樹と二人でそういう野点(のだて)を楽しみたいと思う……」
 二人でこうして花を待ち他愛ないことを話していると、仕事のことは忘れそうになる。それだけ心も身体もリフレッシュかつリラックスしている証拠だろうが。
「私は山奥で二人きりの野点(のだて)はどちらかと言えば反対ですね……」
 そう告げると最愛の人が不思議そうな眼差しで祐樹を見上げている。その瞳も艶やかな安寧さを放ってはいたけれども。




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気分は下剋上 お花見ランチ 3

 祐樹が最も気に入っているコンビニのロゴが付いたポリ袋に目を留めた人が満面の笑みを浮かべている。
 この神社はこんなに人が来ないのに、経営(?)が成り立っているのが不思議なくらいだ。祐樹にとっては、人が居ない点が気に入っているのだけれども。最愛の人の細い髪に桜の花びらが宿っていた。それはそれで風情があったけれども、指でそっと取った。これから小路とはいえ道を歩くので。
「祐樹、その桜の花びらを記念というか宝物(たからもの)に加えたいので呉れないか……?」
 桜色の笑みを浮かべて細やかな頼み事をする最愛の人が愛おし過ぎる。
 花びらなんてそこら中に散っているのに、髪の毛に宿って祐樹が取ったモノが特別だと言ってくれている人が。
「有難う。コンビニエンスストアの食事は久しぶりなのでとても嬉しい」
 自宅では凝った料理を作ってくれる人だけれども、それは祐樹のためにという最高に嬉しい心遣いで、彼自身はそれほど食にこだわりがあるわけではない。
 自炊はずっとして来たらしいけれども、例えばカレーを作ったら食べきるまで三食カレーを食べ続けても平気だったらしいので。
「そうです。ただ、貴方のお気に召す味だと考えるモノはちゃんと選びましたよ?ああ、こちらです」
 強い風が時折吹き付けて来て、祐樹の前髪とか二人のスーツの裾をはためかせている。因みに最愛の人は教授職に相応しい威厳をと考えたせいで前髪をムースで上げているのでこの強風も影響はないみたいだった。
 曲がりくねった小路(こうじ)を最愛の人と並んで歩くだけで執刀の疲れが()けていく。
「祐樹の執刀もかなり上達したな……。私としても、とても喜ばしい……」
 最愛の人は医局の責任者なので祐樹の執刀も管轄下だ。だから彼は自分の手術(オペ)が終わってからチェックしてくれていたのだろう。
「明石教授に国際公開手術の推薦状を書いて貰えるような執刀医を目指しているので当然です……。貴方に褒めて貰えるのも大変嬉しくて励みになるのですけれども……」
 明石教授は最愛の人をベルリンで行われた国際公開手術の推薦をしてくれた医学会の重鎮だ。
 出来れば同じ人からの推薦が欲しいと祐樹は思っている。明石教授は日本中の心臓外科医の手術を見ている人らしいので、競争率も高いだろうけれども。
「最近見つけた穴場なのですが、如何ですか?」
 最愛の人は周りをぐるりと見回した後に不思議そうに切れ長の涼し気な目を(みは)っている。
 ここも拝観料が取れそうにない小さな神社だった。京都には数えきれないほどの神社仏閣が有って、金閣寺などのように全国から観光客が来るような名刹(めいさつ)も有れば――ちなみに、そういう名だたるお寺の住職は斎藤病院長が好きな祇園のお茶屋などの常連さんだとか最愛の人から聞いた――こういう小さな神社も多数存在する。
「藤の花は綺麗だけれど……。祐樹が言っていた花見は藤の花を見ることなのだろうか……?」
 無垢な光を宿す眼差しで祐樹を見上げている。そういう表情も祐樹にしか見せない、いわば恋人の特権だ。
「取り敢えず、あそこの峠の茶店風のベンチに座ってお昼ご飯を食べませんか?そのうち分かります。『花』が桜を指すことくらい私だって知っていますので……」
 神主さんの――居るかどうも知らないが――趣味なのか何故か腰掛けめいた物は置いてある。その点も考慮してこの神社に決めた。
 穴場だけれども、開放されているのでお昼休憩を取りたい建設業の人とか仕事をさぼりたい営業マンが来ることも想定に入れてコンビニのポリ袋を真ん中に置いて座った。
 最愛の人は白いワイシャツから花芯のように伸びた長く細い首を傾げながら腰を下ろした。
「貴方の手作りの梅干しを一度食べたらコンビニのおにぎりの梅干し味は選べなくなりました。
 ただ、これだけはまだマシといったレベルです」
 袋の中から昆布入りのお握りを二つ取り出して一つは最愛の人に手渡した。消毒薬のせいで少しだけカサついた白く長い指と桜貝のような爪が海苔(のり)にも良く映えている。
「あ!『午後の紅茶』のミルクティまで有るのだな……」
 楽しそうな声がパタッと風の止んだ境内に(うら)らかに溶けていく。
「お好きでしょう?ちなみにウチの科の新人の林看護師に買いに行って貰ったのですが、お握り六個にお茶二つそして『午後の紅茶ミルクティ』と買い物メモに書いたら変な顔をされました」
 最愛の人が可笑しそうな笑みを浮かべながら最短かつ優雅な動きでおにぎりのシートを外している。
「林看護師は有能だと考えているけれども祐樹はどう思った?」
 最愛の人は医局の看護師だけではなくて他科の看護師もほとんど全てを記憶している。
「私もそう思います。マメですし几帳面でした。お釣りの小銭を綺麗に包んで置いてくれていましたし、レシートも折り目もなくてキチンと机上に直角に揃えてありましたので」
 祐樹も救急救命室では時々食べるけれども、外科医としてはかなりの潜在(ポテン)能力(シャル)を持っていると祐樹が密かに警戒している久米先生は海苔の大部分をシートの中に入れたままでちぎってしまう。手先が器用なのに多分大雑把な性格だからだろうと分析していた。
 その点最愛の人はシートの中に何も残らずに綺麗に外している。几帳面かつ真面目な性格だからなのかと思うと何だか可笑しい。
 もちろん、祐樹も――ただ最愛の人とは異なって単なる貧乏性だと自己分析している――海苔の部分はシートに残さずに剥がした。
「藤の花も綺麗だな……。桜と異なって、昼にこそ見たい花だ……」
 最愛の人と他愛のない会話を交わしながら食べるおにぎりの味は格別だった。
「鬼退治のマンガ……日光が当たると消滅するという設定の鬼が嫌う花でしたよね。作者が夜にも綺麗な桜ではなくて敢えて鬼が嫌う鼻を藤にしたのはそういう理由も有ったのでは……ああ、空中に注目して見ていて下さい」
 祐樹の密かに待ち望んでいた瞬間がやっと来てくれたのを肌で感じた。





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