今でこそ思ったことや感じたことを言葉で表現してくれる最愛の人だけれども、初めて結ばれた時には言葉が極端に少なかった。だから強引に身体を開いて我を忘れさせて本音を紡がせようと必死だった。
後で聞いたら、何を言えば全く分からなかったという不器用さのせいだったのだが。
「いや、最初の頃は祐樹が私に欲情してくれるだけで嬉しくて、それこそ有頂天になっていた……。そういう夜でもこうして優しく触れてくれたな……と思って……。それに祐樹は絶対に私を貶めるような抱き方はしなかったし……。例えばリッツのクラブラウンジのお手洗いで求められた時も絶対に他人に聞かせないように気を配ってくれていたのは途切れ途切れながらも記憶に残っている」
そうだったかな?とは思うものの否定しても意味がないような気もした。たしかに他人には聞かせたくないとは――存在を示唆して羞恥に我を忘れさせようとした覚えは有ったけれども、それは最愛の人が理性を飛ばした状態に零れる本音が聞きたかっただけだ――思っていたけれどもそれは祐樹の独占欲の発露だったと今ならハッキリと分かる。最愛の人の気持ちをずっと祐樹に向けて欲しいという強すぎる感情というか。
「そうですか?私に心を開かないならば、身体を開かせるというか、理性を奪って本音を聞き出したいと思っていましたね。今思えば更にいい方法を取るべきだったと反省しています。聡の過去の――今ではそんなことは全く思っていませんが――男性達に嫉妬したり、こんなに素晴らしい肢体の持ち主なので、何人くらいに抱かれたのかを聞き出そうと必死だったりしました。アメリカの人って日本人を好む傾向に有ると言うのは知っていたので聡のこの身体を好きに扱ったのがアメリカ人かどうかを確かめた記憶が有ります……。杉田弁護士の的確なアドバイスを受けてですけれど……」
こういう話は何度しても良いかと思った。
「アメリカ人?確かに私の初めての男性はアメリカ国籍だったけれども、日本に居て黙っていたら100人中100人が日本人だと思う人だったな。祐樹に少し似ていた……。もちろん祐樹ほど魅力的ではなかったけれども」
最愛の人の紅色の指が愛の交歓の余韻で震えながらも愛おしそうに祐樹の顔を確かめるように辿ってくれるのも気持ち良い。
「それが……お恥ずかしい話ですけれども。今思えば子供っぽい独占欲だったと思います。今夜、聡がどれだけ魅力的な存在として男性の目を強く惹くかはお分かりになったと思いますけれど……」
最愛の人の愛の行為の余韻で紅く染まった端整な顔がはにかんだような表情を浮かべている。
「あれだけのエビデンスが有ったので、そうなのだろうな……。努力して得たものではなくて親から貰ったモノなので全く重きを置いていなかったのだけれども……。ただ、誰に好ましく思われたとしても、私は祐樹以外の人間には『そういう』意味で反応を返す積りは全くない……」
紅色に染まった唇がキッパリとした言葉を紡いでくれた。
「それはとても嬉しいです。私も聡の本質を知るにつれて火遊びというか、刹那の衝動では肉体関係を持たない人だと分かりましたけれども」
胸の尖りをやんわりと撫でた。
「あっ……。今、そういうことをされると……また花園の中に祐樹の硬くて熱いモノが欲しくなってしまう……のでっ」
熱く甘く紡がれる小さな声も艶やかだった。
「私を求めて下さるのですよね。お付き合いしますよ……聡の花園は絶品ですので……。それはそうと、私の欲情の象徴を『硬い』と仰ってくださいましたよね?日本人は硬度という点では勝っていますけれど、アメリカ人というか白人種の場合は大きさというか長さが自慢なのはご存知でしたか?その点硬度はイマイチらしいですけれど」
性的なことに対しては無知無関心な最愛の人は、祐樹の愛の手管だけを絶対視してくれているのは知っている。ただ、医学的な統計とかは勿論職務の一環として知っている可能性が高い。
「え?それは知らなかった……。第一専門外だし……」
愛の行為の余韻が残る艶やかな目を瞠って祐樹の顔を見る最愛の人の眼差しには真摯な光が宿っている。
「興味がお有りなら調べて下さっても構いませんけれど、実際はそうなのです。勿論個人差は有ると思いますが。それに客観的に『も』魅力のある聡なら、アメリカ人は尚更好きになると思いまして。それで大きさのことを愛の行為の最中に聞いた覚えがあります。杉田弁護士からのアドバイス通りに、ね。聡の返事は『大きくなかった』でした。だから安心しました。嘘は仰っていないのだろうと」
紅色に咲いた尖りを指で挟んでやや弱い力で引っ張った。
「祐樹っ……それ以上された……らっ……また欲しくなるのでっ」
切羽詰まった天使が慌てているような声がホテルの豪華な部屋に艶めかしく小さく響く。
「聡が望むなら何回でも……。この尖りをルビーの煌めきに変えるのも私の特権ですよね、恋人として……」
戸惑いがちな瞳が揺れているのも最高に綺麗だった。
「……そういえば、森技官なっ……、ちらっと見ただけだったっ……のだけれど……男性にお酒をっ……奢りに行って……いたよなっ?あれって……」
最愛の人の紡ぐ言葉が途切れ途切れなのは勿論祐樹が尖りを愛しているからだった。
「『グレイス』でお酒を奢るのは求愛の印ですけれど、彼の場合は読めないですね。ただ、呉先生を悲しませるようなことはしないでしょう」
断定的に言ったものの、今頃はあの野の花の風情を漂わせている男性と一夜のお愉しみに耽っている可能性は充分に有る。本命が呉先生なのは間違いではないけれども、つまみ食いも多いに楽しむタイプなので。ただ、最愛の人はそういう割り切り方をしないので――というか出来ないというかそもそもそういう発想は皆無のような気がする――友人でもある呉先生のことを慮って悩みそうだ。だからここは敢えて否定した。
「そうかっ……。祐樹がっ……そう……言うならばっ……、そうなのだろうなっ」
尖りを指で弾き続けたせいでルビー色に染まっていて魅惑的な光を放っている。
「では、もう一度愛し合いましょうか……。誰もが魅力を認めた聡を独占出来るのは私だけですから……」
<了>
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やっと「了」の字が打ててホッとしています。
お読みくださった読者様には感謝しています。リアル生活でバタついていて、しかも体調がイマイチ(今も微熱出ています)苦肉の策で「雪遊び」を更新しましたが、これからは「探偵役?」と「雪遊び」頑張ります。ただ、更新時間と頻度は微妙です(泣)気長にお付き合い下されば嬉しいです。
こうやまみか拝
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