腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

気分は~「不本意ながら探偵役」<夏休み>の後

気分は下剋上 二人がどうして探偵役? 114

「電話をして確認しますね。えっと」
 スマホを出して資料の紙の束を探そうとしたら最愛の人の唇が仕事モードといった感じで知性的な怜悧な感じを漂わせている。
「番号なら覚えているので今から言う……」
 こういう点「も」祐樹が敵わないと思っている。
「お願いします。とても助かります……貴方と動いているとストレスが全く掛からない点も素敵ですよ」
 最愛の人に感謝の眼差しを向けると、白皙といった感じの肌がごく薄い紅色に染まってとても綺麗だった。卓越した記憶力はビデオカメラ並みなことも知っている。森技官に貰った資料よりも最愛の人に聞く方が断然早いし正確だ。彼の口が数字を祐樹の入力のペースに合わせて紡いでくれるのも、とても有難い。
「もしもし、長楽寺さんのお宅ですか?K大付属病院の田中です。昨日は有難うございました」
 電話に出るのは佳世さんか野上さんの二択だろうなと思ってそう告げた。
『まあ、田中先生。昨日は何のお構いもせずに申し訳ありませんでした。それに取り乱してしまったでしょう……反省しておりましたのよ』
 佳世さんの声が流れて来たので、応接スペースの紙が散乱しているテーブルにスマホを置いてスピーカー機能にした。
「いえいえ、とても有意義な時間を過ごさせていただきました。お手元に長楽寺氏と西ケ花桃子さんが養子縁組した日付が分かる物は有りますか?具体的には戸籍謄本なのですけれど?」
 電話の向こうで息を飲む気配が伝わってきた。
『あの女が怪しいのですか?』
 明るい声がさらに朗らかさを増している。まぁ、佳世さんは西ケ花桃子さんが犯人だったら都合が良いのでそういう声になるのは分かる。
「今の時点では断言は出来ないのですが、確認したい点が出て参りましたので」
 スマホの向こうで『野上さん、戸籍謄本を持ってきて』と鮮明に聞こえている。固定電話のマナーでは受話器を手で覆って会話を遮断するのが一般的なマナーだと祐樹は認識しているし、祐樹の母の世代もそうしている。佳世さんがその常識を知らないハズはなくて、単に動転しているとか慌てていてうっかり塞ぎ忘れているらしい。
『奥様、こちらの書類入れですよね?』
 昨日よりも何だか明るい感じの野上さんの声が聞こえて来て長楽寺氏との過去は水に流せたのだろうな……と思うと何だか嬉しい。多分、ハリーウィンスト〇の指輪ももう付けてはいないのでは?という感じだった。長楽寺氏が野上さんに酷いコトをしなければ、野上さんも佳世さんに(わだかま)りを持たない関係がもっと早く築けただろうにとしみじみ思う。
 書類を(めく)る音と共に佳世さんが告げた日付に二人して顔を見合わせてしまった。向かい側に座った最愛の人も切れ長な目を大きく瞠っている。ただ、祐樹も同じような表情を浮かべていてお互い様といった感じだった。
「……それって、二年前に入籍しているとことですよね?」
 手元に書類がないために確認のしようがない。だから佳世さんに確かめるように聞いた。
『はい。二年前ですね……?あら……野上さん大丈夫!?』
 スマホ越しに何か――多分人が何かにぶつかったような――大きな音が聞こえてきた。佳世さんは二年前と他意なく声に出していたのだろうけれども、野上さんにとっての二年前というのはある意味地雷だ。そのショックで立ち(くら)みでも起こしたのではないだろうか?
『田中先生、野上さんの様子がおかしいので……』
 動転した感じの佳世さんの声が響いている。「
「具体的には?出血とか頭を打ったとか有りますか?」
 相手方が軽いとはいえパニック状態になっている時に同じテンションで話すのは良くない。だから事務的かつ平淡なさを繕って聞いた。
『いえ、床に倒れ込んだだけです。頭は打っていないと思います。出血も大丈夫そうです……』
 幾分冷静さを取り戻した声がスマホから流れて来た。
「念のためにですけれど、頭を打っていた場合は容態の変化に注意した方が良いです。吐き気とか嘔吐が有ったり、意識がぼんやりしたりした場合は即座に救急車を呼んでください。それと身体を揺すったり叩いたりは絶対にしないで下さいね」
 思いつく限りの注意事項を冷静かつ的確に伝えた。
『具体的なアドバイス有難うございます。野上さん、大丈夫っ!?』
 最愛の人が堪り兼ねたような表情を浮かべて唇を固く引き結んでいたかと思うと口を開いた。
「大丈夫という言葉は使わない方が良いです。心理学的にも『大丈夫?』と聞かれると反射的に『大丈夫です』と反応しがちなのです。だから『どこが痛いの?』とか『傷口を見せて』など個別具体的に言葉を掛けた方が良いですよ」
 祐樹には思いもつかないアドバイスだった。確かに「大丈夫か?」と聞かれて「大丈夫ではない」的な反応を返すのは余程の時だろう。しかし、最愛の人の知識の抽斗(ひきだし)はビックリ箱みたいだ。良い意味で祐樹を驚かせてくれる。祐樹一人ではそこまでのアドバイスは出来ないので。
『奥様、腕から倒れ込んだので打ち身くらいだと思います。すみません、あのう生理中でして、貧血を起こしたみたいです。ご心配をお掛けして……』
 生理中というのは多分方便(ほうべん)だろうなとは思ったが、野上さんは未来に生きると決心してくれているので佳世さんとのトラブルは避けたいに違いない。
『田中先生、香川教授適切なアドバイス有難うございます。少し心配なので……』
 佳世さんの声も切実な響きだったのが救いといえる。
「はい。用件は既にお聞き致しましたので野上さんについていて上げてください」
 終了ボタンをタップした。
「養子縁組が二年前だったとは……。これは生命保険の加入日も同じだという可能性が高くなりました……」






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気分は下剋上 二人がどうして探偵役? 113

「コレステロールの二つの数値に注目して見てくれたら、分かると思う」
 最愛の人ほどの卓越した暗記力を持ち合わせていないため、応接用の机にプリントアウトした紙を並べて見比べた。
「えと、異常値が突出して多いのが奇数月ですね……。逆に偶数月は低くなっているという法則性が見られます」
 血中のコレステロールは検査時点でのものなので当然変動するモノではあるけれど、そういう法則性が見られる例は極めて低い。
 祐樹は年に一度の健康診断しか受けていない――勿論、どこも異常がないので再検査とかの必要はなかった――ただ、コレステロール値は一か月の食生活で大きく変化することは専門分野だけに常識として知っていた。
 高いコレステロール値だったとしても佳世さんや直哉さんのような家族性高脂血症でなかった場合、食生活に気を付ければストンと数値は落ちる。それこそ一か月後にはその成果が見事に反映される。長楽寺氏の場合は偶数月に高コレステロールの食事をしていたとの想定が成り立つ。
「偶数月に高コレステロールの摂取が有ったと考えるのが妥当ですね。ん?偶数月……それって……つまり……」
 西ケ花桃子さんの言葉が脳裏を(よぎ)った。あのマンションに長楽寺氏を招くのは偶数月と確かに聞いた覚えが有った。
「西ケ花桃子さんが住んでいるマンションに長楽寺氏を招くのが偶数月でしたよね?」
 疑問ではなくて確認だった。
「そうだ。それにあの部屋には調理用品も豊富に揃っていたし、祐樹と赴いた際にクッキーの焼いた形跡も確かに有った。クッキーが焼けるからといって、料理が出来ると断言出来ないけれども……」
 最愛の人もやや戸惑った口調だった。直哉さん夫婦の家で黙り込んで考えに耽っていたのはこの事実を思い至ったからに違いない。
「そこまで思いつくとは流石です。全然考えていませんでしたし、この検査結果の紙の束を見ていたとしても私には気付かなかったかと思います。相変わらずすごいですね。脱帽しました……」
 最愛の人の記憶力や分析力が卓越しているのは知っていたが、正直舌を巻いた。
「いや、それほどでもない。このデータを貰って数値は頭に入っていたけれども、祐樹が瑠璃子さんや佳世さんの医療関係の職歴が有れば、太田医院で何らかの操作をして死に至らしめられるとの推測から深く突っ込んで聞いていただろう?それで、他の関係者も同じではないかな?と思って頭の中をスキャンしてみた結果だ。だから今夜の祐樹の一連の言動のお蔭だと思う」
 最愛の人がはにかんだ感じの笑みを控えめに浮かべている。控えめなのは多分、西ケ花さんが怪しいなどのマイナスの情報だからなのだろう。
「私のお蔭と仰って下さって嬉しいです。確かに西ケ花さんの性格から考えて料理をしないとか出来ない場合――職歴めいたものを考えると別に出来なくても許される立場ですよね、普通の専業主婦を目指すならば料理は必須でしょうけれど――貴方が見事に揃えて有ったと仰っていましたよね?そんな『無駄なモノ』を揃えないでしょう。彼女の考える『女の格』とやらが高価なブランドのバッグや服で決まるのはほぼ確定ですから、無駄なモノは家に置かないと思います。偶数月に長楽寺氏を呼んで手料理を振る舞っていた可能性が高いです……。しかし、養子にまでなっておいて遺産相続、しかも生命保険金も受け取れるという『美味しい』境遇を捨ててまで高コレステロールの食事を振る舞ったのは一体……?」
 直哉さんのマンションで亡くなって最も得をする人間が犯人だという説を思い出していた。確かに直哉さんに次いで得をするのは西ケ花さんだったけれども。最愛の人が怜悧で端整な表情に深刻さを加えて祐樹を見ている。
「それと、コレステロール値が異常に高くなった月に注目だな……」
 何しろ祐樹がプリンターから取り出した紙の束は(かさ)(だか)い。そう促されて、紙を(めく)っていった。
「23カ月前からですね……。それまでは高止まりはしているものの、突出はしていない……。ん?約二年前から……ですか?」
 二年前に野上さんが受けた酷い行いを連想させる数字だった。
「そうだ……。それに思い至った時には呆然としてしまった。二年前に何かが有ったと仮定していただろう?だからそれが西ケ花さんの身というか心境の変化が起こったのだろうと……」
 直哉さん夫婦のマンションに居た時に最愛の人が沈思黙考をしていたのは何となく察していたけれども呆然としていたようには見えなかった。ただ、以前よりはマシになったとはいえ、表情から内心を読めないということも確かに有る。
「養子縁組の時期と生命保険の加入時期も調べてみましょう。それが仮に二年前だったとしたら、ほぼ確定で長楽寺氏と西ケ花さんとの間に何かが起こったということになります。そのエビデンスを元に西ケ花さんに聞きに行けます。その程度のことはしないと彼女が正直に口を開くとは限らないので……」
 養子縁組には二人の同意が必要らしいので西ケ花さんも知っていたハズなのに(とぼ)けられた。だからこのカルテの山だけでは二の舞を踏む結果にしかならないような気がする。
「森技官に何とかしてもらうしかないな……。その辺りは……」
 確かに他人の戸籍とか生命保険は閲覧するのが難しい。
「あ!戸籍謄本なら佳世さんも取り寄せているハズですよね?そこに日付とか書いていないですかね?」
 応接用の机の向かい側に座っている最愛の人が切れ長の涼し気な目を瞠って祐樹と視線を合わせた。
「祐樹の言う通り、確かに佳世さんの手元には戸籍謄本が全部揃っているし、養子縁組の日付も見たら分かる」
 まだ普通に生活をしている人に電話をしても失礼には当たらない時間だ。





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気分は下剋上 二人がどうして探偵役? 112

 赤字部門を埋めるために果たした通称香川外科の功績は大きい。それは病院の誰もが認めている事実だ。
 それだけでも次期病院長選挙では充分な票を集めることが出来ると踏んでいたけれど、付加価値としても充分にあるだろう。経費削減は必要だが医師や看護師に負担を強いる経営方法ではなくてもっと別の道を模索すべきだと考えていたので、最愛の人の知識は貴重だ。
「そうなのか……?単純に趣味というか時間潰しも兼ねた知識の吸収だったけれども、それが仕事でも役に立つと祐樹が判断したならそれはそれで嬉しいな……」
 最愛の人の博覧強記(はくらんきょうき)振りは知っていた積りだった。ただ、この人の頭の中には何個の抽斗(ひきだし)があるのか祐樹が確かめないといけないなと思ってしまう。
「貴方の場合、知識の博物館ですから。それも大英博物館とかエルミタージュ美術館レベルだと思っています。その知識を職場でもっと活かすべきだと思います。そういう知識を持っている上司とか同僚など居ないので貴重だと思いますよ。『知識は力なり』とか確かフランシス・ベーコンが書いていましたよね」
 もしかして違った人が書いていたのかも知れないけれど、間違った場合は最愛の人が指摘してくれるハズだ。
「ベーコンがそう書いていたな。ちなみに直哉さん宅で出たシェイクスピア別人説の候補者として候補に挙がる人だな」
 楽しそうな笑みをうっすらと浮かべているのが対向車のヘッドライトで分かった。直哉さんや瑠璃子さんが怪しければそういった表情を浮かべるかな?と思ってしまう。
「そうなのですか?具体的にどんな点が?」
 シェイクスピアの作品はそれほど読んだ覚えがない。ただ、祐樹も国際公開手術の術者に推薦される日を待っている状態で、もしその希望が叶った場合、日本人だけでなく他の国の外科医の人とも直接交流出来るわけで――以前、ベルリンで行われた最愛の人が術者になった時には矢も楯もたまらず駆け付けた。失敗すれば落伍者の刻印を押されるシビアなモノだと聞いていたので。最愛の人は大喝采の中手術を終わらせていた。その時の祐樹は完全に最愛の人のオマケ程度の扱いだった――話題として知っていた(ほう)が良い雑学(トリビア)だ。
「ウィリアム・シェイクスピアは英国の王室のこととかも具体的に書いているのだけれども、上流階級に属していたなら生涯もキチンと記録されているハズで、そういう記録も存在しないことから中流以下の階級だったのではないかと推測されている。そういう階級に属していながら王室のことを具体的に書けたのかという点が疑問視されているな。ベーコンは上流階級だったので見聞きしたことを書けばそれなりの説得力が生まれるだろう?」
 確かに、祐樹だって例えば皇室のことを小説に書けと言われると困ってしまうだろう。そういう執筆依頼などは来ないだろうけれども。ただ万が一そういうオファーが来たとしても大学病院を舞台にした話とか、百歩譲って恋愛小説とかでないと多分無理だ。祐樹が兼任しているAi(死亡時画像診断)センター長だけれども、この死因特定方法を世間に周知させたくて小説家デビューしたというのが詳しい経緯だと聞いている。どうやら医師と作家は相性が良いらしいけれど、目下のところ祐樹にはそんな余裕はないし、最愛の人とノンフィクションの共著が書けただけで充分だった。
 今はネットが有るので調べようとしたら色々と皇室についても出てくるだろうけれど、瑠璃子さんがシェイクスピアは徳川家康と同じ生没年と言っていたので、上流階級出身かそれとも上流階級の人に直接取材出来る人しか書けないような気がする。
「ただ、ベーコンよりも有力視されている候補者は何人も居るらしいのだけれども……」
 そんなことを話していると見覚えのある通りに出た。
 別人説はともかく教養の一環としてシェイクスピアの「現代語」版は読んでおいた方が良さそうだなと内心で思った。病院に行くと言っていたけれども、多分目指すのは執務室だろう。一体何を思い付いたのだろう?今までの最愛の人の反応として直哉さん夫婦ではなさそうだったけれども。
 定時を過ぎた教授執務階には人の気配もなかった。ただ、患者さんの容態で待機している教授とか論文などの執筆、そして他の人間には悟られたくないような教授同士の密談とかそういった理由でまだ帰っていない人も居るだろうから三歩下がって歩いた。
「祐樹、今からプリントアウトするのが太田医院の山田さんから届いた長楽寺氏のカルテと血液検査の一覧だ」執務用の椅子にしなやかな動作で座った最愛の人はパソコンを起動させてキーボードを白く長い指で操作している。その鮮やかな仕草に見惚れてしまった。
「月に一度は必ず検査は行っていたらしい。故長楽寺氏の希望なのか太田医院の経営方針なのかは分からないが……」
 常識的に考えて医師が「検査をしましょう」と言い出すことの方が多い。普通のお店だったら、選択権は客に有って買うか買わないかは客が決める。しかし、病院の場合は殆どの場合、医師の言う通りに物事が進む。ただ、太田医院は常識の範囲内には収まらないのでどちらなのかは分からない。
 プリンターから出て来た紙を取りに行った。
「どこが気になるのですか?」
 ざっと見た感じでは不審な点がなさそうだったのでそう聞いてみた。  




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気分は下剋上 二人がどうして探偵役? 111

 先ほどから最愛の人は自分の考えに沈んでいるという感じだったのは直哉さんと瑠璃子さんに何らかの不審な点でもあったのだろうか?
「お言葉に甘えて良いのでしょうか?」
 最愛の人の大好物なので貰う気は満々だったけれども、一応遠慮してしまう。
「どうぞ、ご遠慮なく。――家に置いてあると、直哉さんが食べないか心配ですから、無い(ほう)が良いのです」
 悪戯っぽく笑った瑠璃子さんを見て直哉さんも割と広い肩を竦めている。瑠璃子さんが家族性高脂血症のことをキチンと理解して食生活をコントロールしていることについて直哉さんも内心感謝しているのが分かる。
 普通の食事ではなくて低コレステロール・繊維質の多い食品・ポリフェノールなどを摂取していれば普通に天寿を全う出来る。そのことについて瑠璃子さんは義母の佳世さんや医師のアドバイスに忠実に従っているようだったし直哉さんも瑠璃子さんのために出来るだけ長生きしたいだろう。
 長楽寺氏のような良く言えば自由悪く言えば刹那の快楽主義な生き方を直哉さんは反面教師にしているのだろう。あれだけ奔放な女遊びをしていた父親を持って、母の佳世さんの辛さを身に染みて分かっているからこそ瑠璃子さん一人を大切にしているのだなと何となく察した。
「では遠慮なく頂きます。お土産までお心遣い頂き本当に有難うございました」
 祐樹が紙袋を受け取って一礼すると最愛の人も我に返った感じで頭を下げている。ただ、その動きは一見滑らかで上品な仕草だったけれども、祐樹には何だか心がこもっていないように見えた。
「どうかしましたか?直哉さん夫婦に何か不審な点でも?」
 マンションを出てタクシーの広いやすい大通りまで歩きながら尋ねてみた。
「ああ、祐樹が瑠璃子さんや佳世さんの学歴とか職歴を聞いていただろう?あの質問はどういう意図が有るのか?と最初は分からなかったのは事実だけれども……やっと思い至った。要は医師でなかったとしても看護師などのコメディカルの知識さえあればあの杜撰極まりない太田医院に入院中の長楽寺氏の命を縮められると考えているのだなと。私には患者を救ってこその専門知識や技術が医学の神髄(しんずい)だとずっと思って来たのでそういう発想は全くなかった」
 最愛の人は明敏過ぎる頭脳の持ち主だけれども、それを悪用して何かをするという発想が祐樹以上にないと思われるので考え付かなくても無理はない。
「いえ、それが真っ当な発想だと思いますよ。ただ、ああいう病院としては評価がゼロ点以下の医院ならば何をしても太田院長に気付かれる(おそ)れはないだろうなとふと思いついたものですから。ただ、太田医院に搬送してくれと要求したのが長楽寺氏ですからね。そこがネックです。
 ウチの病院とまでは行かなくても、一般の病院に搬送されたら犯行は不可能ですよね。千載一遇のチャンスと思って犯行に及んだという可能性も有りますけれど……佳世さんも瑠璃子さんも医療関係の経験がないので、このアイデアはボツですね……。あ、空車が来ましたので乗りましょうか?」
 最愛の人が頷いたので手を上げた。
「あ、そうそう、西ケ花さんの多額のブランド物の買い物を経費として落としているという話の時に、仕訳(しわけ)という言葉が出て来ましたが、あれは一体どういう意味ですか?」
 折角の機会なので疑問は解消したい。
「ああ、あの話か……。例えば経費は経費でも色々有って、例えばこのタクシーの運賃は交通費、祐樹が買ったボールペンは事務用品というふうに分けていく。経理というか簿記ではそういう細かく分類することを仕訳と言って、決算書類を作る基礎となる」
 最愛の人が事も無げに説明してくれたのを聞いて納得しかけたが、別の疑問が出てきた。
「祐樹、一度病院に寄ってからその後で帰宅するという段取りで良いか?」
 後部座席の隣に座った最愛の人が決然とした感じの瞳の光を宿して祐樹を見た。
 病院と自宅マンションは徒歩圏内なので、方向的には一緒だ。
 ただ、最愛の人は先ほどから何か思いついたことがあるみたいな感じなので頷いた。
「すみません。行先(いきさき)をK大付属病院に変更をお願いしても良いですか?」
 京都のタクシーは大阪などと異なって丁寧な物腰の人が多いような気がしていたのだけれど案の定愛想の良い返事が返って来た。
「もしかして、簿記まで良くご存知なのですか?」
 簿記というモノが有るのは知っていた。ただ、祐樹にとっては茶道とか華道とかと一緒で一生縁のないものだと思い込んでいたけれども最愛の人は違っていた可能性も有る。
「資格は持っていないけれど、決算の良い企業には投資価値も高いと担当者に聞いて決算書類を見ているうちに具体的にどう作るのか気になって簿記の本も読んだので。貸借(バラン)対照表(スシート)とか損益計算書は左右の数字が必ず一致するとか、とても面白かったせいもあって、ついつい自分でも計算していた。だからだいたいは分かると思う……」
 タクシーの運転手さんの耳も有るので長楽寺氏の件とは関係のない会話をしている方が無難だろう。
「そうなのですね。逆に言うと、(びょう)……勤務先の決算書類も見れば問題点も見つかりますか?」
 「病院」と言いかけて慌てて言い直した。壁に耳ありという感じなので、個別具体的な話は避けた方が無難だろう。
「100%ではないけれど、多分だいたいのことは分かると思うけれども?」
 病院を行先に指定した後に気持ちを切り替えたのだろう。普段の彼に戻って祐樹の問いに首を傾げながら答えてくれていた。
「その知識が有れば、あのムカつく人間にも対抗は出来ますよね?二言目には経費削減と鸚鵡(おうむ)のように言っているあの人にも。貴方のその知識は次のトップを選ぶ時に必ず有利になりますよ。大々的に広めて良いですか?」
 最愛の人が心の底から驚いたように切れ長の目を大きく(みは)っている。
「そんなに大層なモノではないと思うのだが……専門的に学んだわけでもないし、何の資格も持っていない」
 あの事務局長は確か名門のコロンビア大学の経営学(MB)修士(A)ホルダーだ。
「いえ、あれは一般的な会社とかだと役に立つ資格らしいですけれど……、我々の業界は少々特殊ですからね。それに直哉さんのような会社では赤字部門からの撤退はある意味仕方ないかと思うのですが、ウチのような職種では赤字でも存続させなければならないものと、そうでないものを区別する必要が有りますよね?そして現場の人間にはそのような経営とかの知識が皆無なのですから、大々的にアピールすべきだと思います」



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気分は下剋上 二人がどうして探偵役? 110

「そうですか。まあ、亡くなったからこそ美点も見えてくるかと思います」
 それにもう瑠璃子さんに対して酷いことも出来ないので直哉さんにとってはプライベートでも安心だろうし、会社の経営も思うようにリーダーシップが執れるようになるのだから良いコトなのだろう。しかし、そういう意味では長楽寺氏が亡くなったことに対して物凄くプラスになることばかりだ。
 何かの本で読んだ覚えが有るが、犯人とは被害者が死んで最も得をする人間であることが多いと。
 その説が正しいとするなら直哉さんが筆頭のような気がする。
 遺産に頼らなくても次期社長になって充分な報酬も得られるだろうし、父親の顔色を窺って動いていた経理課の人間も態度を改めるか辞めていくかの二択のような気がする。
 それに愛する瑠璃子さんを完璧に安全な場所に置いたことになるし。佳世さんも浮気に悩まされていたという恨みは依然として持っている。その点西ケ花さんは来月からの収入はない。いわば金の成る木、もしくは金の卵を産む(にわとり)を自ら殺すようなことはしないだろう。いよいよ分からなくなってしまった。
 祐樹は警察官ではないのでこの事件が所謂(いわゆる)迷宮入りになっても森技官からごちゃごちゃ言われるだけで――ただ、普段から仲の良い喧嘩友達なのでそれほど痛痒(つうよう)は感じないだろうけれども――世間的にどうこうと言われることがないのは救いだなと思ってしまう。
 週刊誌などでは「○○一家惨殺事件から4年、容疑者も特定できず……警察は何をしているのか?」みたいな報道がされることは祐樹や最愛の人に限ってはないわけで。
「香川教授、他に何か聞きたいことは有りますか?」
 何だか沈思黙考の表情で黙っている最愛の人に声を掛けた。祐樹としてはこれ以上聞きたいことはなかったので、そろそろ辞去を考えたのだけれども。
「いえ、お会い出来て良かったです。お二人とも末永くお幸せに暮らして下さい。――あと、思いついたことが有れば名刺の電話番号かメールアドレスにお知らせくださると幸いです」
 水も漏らさぬような丁寧な口調と柔らかな笑みを浮かべた表情だったけれども、最愛の人とずっと過ごして来た祐樹は微かな違和感に気付いた。
 一体直哉さんと瑠璃子さんの話の中で何が彼をそういう気持ちにさせたのだろうか?
「こちらこそこのような拙宅に香川教授と田中先生をお招き出来て光栄でした。また何か気付くことが有れば必ずお知らせいたしますので」
 最愛の人がしなやかな動作で立ちあがったのを見て祐樹もソファーから腰を上げた。
「何もお構い出来なくて申し訳ありません」
 瑠璃子さんもお育ちの良さそのままに礼儀正しい挨拶をしてくれている。
「いえいえ、とても美味しい紅茶とお菓子を振る舞って頂きまして有難うございます」
 最愛の人は手を付けていなかったお菓子に――因みに最愛の人がお気に入りの兵庫県芦屋市に有る洋菓子店のフィナンシェとクッキーだったが、直哉さんが手を伸ばそうとした時に瑠璃子さんがさり気なくその手を優しく制止していた。まあ、バターもたっぷり入っているお菓子なので直哉さんの身体のことを慮ったのだろう――未練がましい一瞥(いちべつ)を数秒だけ送ったことに気付いた瑠璃子さんは気付いたらしい。
「あの、五分だけお待ち頂けますか」
 それだけ言ってキッチンの方へと軽やかに去って行った。最愛の人はまた考えに沈んでいるような感じで佇んでいるし、五分の間は直哉さんと話をするのは祐樹の役目だろう。
「会社の発展方法について具体的なビジョンはお有りですか?」
 会話を捻り出そうと咄嗟(とっさ)に浮かんだ質問がこれだったのだが、最愛の人はともかく祐樹に経営のことなど全く分からないので単に拝聴するだけで、その良し悪しが分かったり具体的なコンサルが出来たりするわけはない。気まずい沈黙を避けることだけを目標にしているだけなので。
「地味なようですが経費節減をして今後伸びしろの高い部門に注力します。赤字部門とか、父が道楽でしていたような事業は撤退の方向で考えていますね」
 直哉さんの発言を受けてふと疑問が浮かんだ。
「道楽でしていた事業ですか……?例えばどんなことですか」
 直哉さんは育ちの良さそうな顔に苦々しそうな笑みを浮かべている。
「ウチは地元密着の企業なのに、例えば九州のホテルの買収とかそういった京都とは関係のないことまで手を広げようとしていました。度々視察などと称して豪遊の旅に出かけていましたし」
 そう言えば西ケ花さんもそういう「出張」の時にはご同伴をしていたと言っていたなと。彼女は男性にお金を遣わせることが「女の格」だと豪語する人なので、出張の際のホテルの部屋のグレードとか仮に新幹線で行くのならグリーン車は当たり前、最近は珍しくなったらしい個室が有るなら迷わずそちらを選ぶような女性だ。
 最愛の人は教授職なのでグリーン車のチケット代は病院側にも経費として認められるが、祐樹の場合厚労省からの招きの――つまり経費負担は厚労省――場合だけグリーン車だ。心臓外科医としては一介の医局員なのでその扱いも仕方ないと思っているけれども。ただ、差額は自腹で支払って隣の席を確保することの方が多いのも事実だったけれども。厚労省の招きは心臓外科の研究会などが多いのでAiセンター長という准教授並みの待遇の恩恵には浴してしない。
 これからAiセンター同士の交流が――普段はメールや電話が主だった――深くなればそちらはグリーン車のチケット代を請求出来そうだが。ただ、西ケ花さんは自分の魅力とか身体にはグリーン車とか飛行機ならファーストクラスの価値が有ると固く信じているような人なだけにお金は物凄くかかるだろうなと思ってしまう。
「確かに九州のホテルは京都と関係ないですからね。ああ、ノウハウもないのに新規事業に手を出すという一環にホテル経営というのも有ったのですね」
 直哉さんは苦々しい笑みを浮かべて頷いている。
「地に足が付いた経営が最も上手く行くと素人ながら考えます。いえ、こういうことを申すのは『孔子に論語、釈迦(しゃか)説法(せっぽう)』ですよね。すみません、出過ぎました」
 商社勤務の後に会社経営に関わるようになった直哉さんと大学病院の中でひたすら手技を磨いたり患者さんの対応をしたりしている――救急救命室では経費削減案も出したことは有るが、大局的な経営という視点を持ち合わせてもいないし、経済や経営の知識も絶対に負けている自信はある。
 直哉さんは何も言わず好意的な笑みを返してくれていたのが幸いだった。
「お待たせいたしまして申し訳ございません。これ、宜しければお持ち帰りください」
 瑠璃子さんが差し出した紙袋の中には綺麗に包装されたままの洋菓子が入っていた。しかも最愛の人が好きな洋菓子店のモノだったけれども、本当に厚意に甘えて良いかどうか躊躇いがちに最愛の人の表情を探るように見てしまう。普段なら喜びに満ちた表情をするか、それとも遠慮めいた笑みを浮かべるだろうなという予想に反して、心ここに有らずといった感じで内心(いぶか)しく思った。


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